少女の正体
「…これはいったいどういう意味だ」
真はデータが損傷しているとか、訳の分からないことが書かれてあるこの少女のステータスを見ながら、
頭に?を浮かべていた。
(…あれか?この少女はラノベに有りがちな、謎の美少女とか、そんな感じな奴なのか?)
真は自分が今まで読んでいた本を元に、シャーロックホームズの劣化版みたいな感じにそう推理したのであった。
「…」
真はちょっとした沈黙の後、この少女の寝顔をもう一度食い見るような感じで見つめた。
(…だけどここはファンタジーな世界だから、他のパターンとして、この子が逃走中のお姫様とか、奴隷商人から逃げ出してきたとか、モンスターに襲われて逃げだしていたら、いつの間にか迷子になって、焚火の光と俺の声を聞きつけてやって来たとか、そういう展開もありそうだな)
そんなふうに一応、これから起こりそうなことをを予想するため、ファンタジーにありがちなパターンのことを考えながら、真は、少女が目覚めるのを待っているのだった。
「…起きねーな」
真がファンタジーにありがちなことを考えていた頃から、1時間くらいたったころ、真はたまらずそう呟いた。
現代日本なら暇つぶしにゲームやら、本などがあるため、これぐらいの時間ぐらい直ぐにたってしまうのだが、残念ながらここは異世界である、そんなものは存在しない、真もこの一時間、何度ゲームとかを本当に暇つぶしのために召喚しようかと思ったのだが、ようやく日の出とともに一気に回復した、3つしかない貴重な召喚数を無駄にはできないので、結局焚火に温まりながら、待っているしか、なかったのであった。
「…おーい、死んでるのか?」
息をしているのだから当然のごとく生きている少女に向かって、真は冗談げにそう言った。
「…おーいお姫様、起きてください」」
真は少女の寝顔の前で手を振りながら起きるように促してみた。
「…すぴー…すぴー」
相変わらずそんなかわいらしい寝息を発しながら、真の声などまったく聞こえていないように、少女はかわいらしく寝ていた。
「はぁ…おーい、起きろ!!」
しかしこれ以上待つのは、さすがに耐えきれない真は、仕方ないので少女の体をゆすり動かしながら起こすことにした。だが…
「…だめだこりゃ」
しかし、まったくうんともすんとも言わない、まるで死んでいるかのように、少女は眠っていた。
「…ねこだまし!!」
「ぱん!!」
「…」
これでも起きなかった。
「おきろー!!朝だぞー!!」
大声で、しかも耳元で、真は叫んでみた。
「…すぴー」
しかし、真のそんな苦労をあざ笑うかのように、変らずに寝ていたのであった。さながら、彼女を起こすのは、倒しても倒しても、何度でも湧いて出てくる敵を相手にしているかのようでもあった。
「…もしかして、わざとなのか?」
少女の反応を見ながら、普通、これ位したら直ぐ起きるはずであり、現に真は自らの母に猫だましを受け、目を覚ました経験もあってか、真がそう思ったのは無理なからぬことであった。
そしてこれが、のちの悲劇へと続く、フラグとも言うべきものであった。
「…にやり」
真は何か思いついたのか、近所の雷爺さん家にある柿の木から、柿をばれないようにとって盗むという、そんな今では絶滅した悪ガキのような笑みを浮かべ、すぐさま走って森の中へ行った。
数分後、少女の元へ戻ってきた真の手の中には、なにやら猫じゃらしみたいな物が握られていた。
「…ふふ、いいか、俺は悪くない、すべてはこの俺をあざ笑うかのように全く起きない貴女が悪いのである、よって、猫じゃらしの刑の処す」
真は小学生のころ、罰ゲームに猫じゃらしを鼻の中に突っ込み、くしゃみが出るまでくすぐっていたのを思い出し、子供心?的な感じにそれをすぐさま実行しようと思い、わざわざ森の中に生えていた猫じゃらしを持って来たのであった。
しかし、真はあることに気付かなかった、それはその植物が、見た目は確かに猫じゃらしみたいだが、中身は異世界独特のものだということに…
「…こちょこちょこちょこちょ」
そんなことなどつゆ知らずの真は、絶賛、心は少年時代に戻ってしまい、態々そんな擬音語を言いながら、如何にも悪ガキが浮かびそうな笑みで、一心不乱にかわいらしく寝ている少女の鼻の所を、擽ってみた。
「・・・・・・はぁ…はぁ…」
数分間そうしていると、突然、少女の息遣いに変化が訪れた。
(よっしゃ、これは、くしゃみの前兆だな、ふふふふ)
勿論そんな少女の反応を見て、真は勝ち誇ったような感じに、心の中にガッツポーズ浮かべていたのであった。
しかし、そんな余裕の笑みは、どんどん消えていくことになる。
「はぁはぁはぁはぁ」
「…」
「はぁは~はぁー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あれ?くしゃみしないナ…てかこの息遣い、どちらかと言うと興奮しているような…
真は明らかにおかしい息遣いに、ようやくそのことに気づいた。
「はぁはぁはぁ、うんはぁあ」
やはり少女は興奮(性的な意味で)しているのだろうか、体全体が何だか火照ったように赤くなり、なお且つその声もまるで、下り坂を転がるボールのように、急転直下で、とてつもなく色っぽくなっていったのであった。
「はぁはぁはぁはぁうん…あん…」
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいこれはやばい!!なんだか胸の中央あたりがとんがってきてるし、これ絶対に、アレだって、なんてエロゲ?的な、アッチの方向へ超音速の速さで突っ走ってるから!!…ってちくしょ!!こんな姿を見ても別にそこまでアレなことを何も感じないとか悲しいんだけど!!)
真はそんな少女の様子を見て、そして、それを見てもアレなことを何も感じない自分を恨みながら
とりあえず、真は持っていた猫じゃらしを捨て、もう、何をすればいいのか分からないので、とりあえず、少女の体をゆすり動かした。
「ちょっ大丈夫か、大丈夫か、おい、とりあえず大丈夫か?」
どうやら、補正である高い精神力は、この時ばかりは発動しないのか、焦った声で真がそう言った。
「うんはぁーもう、寝てなんかられにゃい!!」
がば!!と、まるで寝ぼけながら時計を見ると、やべ!!もう9時!!完全に遅刻じゃん、そんな感じに慌てて起きる学生みたいに、少女はその叫び声とともに、飛び起きた。
「…はぁ…はぁ…はぁ」
「…」
起きた後も、何だか未だに眠たそうな感じで、いまだにちょっとばかり漏れる色っぽい声をあげながら、呆然と立ちくしている真を少女は見つめた。
「…あんたなのね…」
「へ?」
少女が突然上げたその呟きに、真は反応しきれず、そんな間抜けな声を発した。
「この変態!!」
「ぱん!!」
そんなすっきりした音が、平手打ちされた真のほより、発せられたのであった。
「…すいませんでした」
ビンタがクリーンヒットし、真っ赤に腫れてしまった頬を、真は右手で抑えながら、まるで親の仇を見るかのような眼で見つめてくる少女に対し、真は謝罪した。
「…まさか、媚薬草をそんな使い方をするだなんて…あなたの頭可笑しいわね」
容姿に似合わず、少女はそんな強気な言葉を真に向かって言い放った。
「…いやだからさ、俺、まさかその草が媚薬草だなんて分からなくてさ、不可抗力と言うか、俺さ、その植物は猫じゃらしかと思って、その…すいませんでした!!」
少女の鋭い視線を感じた真は、もはや土下座しかない、そう思った真は、へなへなと土下座をしたのであった。
「…まあいいわ、貴方からは下心を感じないし、それに、この毛布見たいな物、私にかぶせてくれたのは貴方なんでしょ?それに必死に私を看病してくれたのは、体の回復具合から直ぐに分かるし、貴方が看病してくれなかったら私は死んでいたのも事実だし、私も寝起きが凄まじく悪いのは自覚している、だから今回だけは許してあげるわ…感謝しなさいよ」
少女は、ため息をつきながら、そして土下座しながら謝る真を見たあと、そう言った。
「…あっありがとう」
その言葉を聞いた真は、一旦そう言ったあと、土下座の体制から解放され、キチンと座った体制で、少女と向かい合った。
「…はぁー、もうこの話は忘れよう、思い出すのも恥ずかしいし…それと…余ってる服とかない?」
「…?」
真は、一瞬何でいきなり服を要求するんだろうと思ったが、少女の服装を見て、有ることを察した。
「ああ、服が破れたからか」
なるほど、服もボロボロだし、そのまんまじゃ恥ずかしいのだということを察し、真はそう言った。
「…俺のジャンバー、着るか?」
残念ながら、他に着るものなどないので、真は自分の着ていたジャンバーを差し出すことにした。
「…ありがとう」
そう言って、なぜか少女はちょっとばかり恥ずかしがりながら、真のジャンバーを受け取り、敗れたワンピースの上にかぶせるように着始めた。
「…おっ俺の名前は山崎真、苗字が山崎で、名が真だ、君の名前は?」
その様子を見ながら、真はとりあえず、自己紹介だろうと思い、そういった。
「…ねえねえ、この私の傷口に張ってある物体は何なの?」
見事にスルーされた。
「…ああ、それは絆創膏という医療具だよ、俺の国にある足からの出血や傷口が外のほかの物と触れるのを防止するための道具さ、傷が治るまではっ付けといたほうがいいよ、大丈夫、害はない」
真はスルーされたことに落胆しながらも、もしかしたら、あまり言いたくないのでは?と思い、ちょっと間をおいた後、したかない、また後で聞くことにしようと思い、ふと浮かんだ絆創膏の説明を、この少女にしてあげた。
「…へー、バンソウコウね」
少女は物珍しそうに、絆創膏を恐る恐る触ってみた。
「…見たことのない素材でできてる…それに、こんな医療具見たことがない、面白いわねこれ、ねえねえ、貴方どこの国から来たの?」
「…」
真は一瞬その回答に迷ったが、異世界と言ってもいらぬ混乱を招くだけだと思い、こういうことにした。
「…ここから東にものすごく遠く離れた、日本と言う国から来た」
わざわざ出身地を偽るため、仮想の国を作るよりか、この世界には存在しないが、本当に自らの出身地である国名を、真は言うことにした。
「…ニホン…聞いたこともないわね…よっぽど遠くにあるのかしら…」
彼女はそんなことを考えながらそう呟いていた。
「…まあいっか、それより、ねえねえ」
「…はい?」
「お腹が空いたから…その…食べ物くれない?」
ぐ~と少女のお腹が鳴り響いた。
「…何この食べ物?ラーベッチ…ではないね…良い匂いだけど、なんて言う食べ物なの?これ?」
カップラーメンの中身を無気味げに、少女は見つめた。
「…それは、カップラーメンと言う、俺の国の食べ物だ、口に合うかどうかは分からないけど、今のところ食料はそれしかないし、我慢してね」
ガーベッチという、謎の食べ物はおそらくラーメンに近い物だろうと思いながら、真は段ボールの中にあるはずの箸を探していた。
「あったあた、これを使って」
そう言って、真は箸を渡した。
「…これは、東の国が使っているとか言う2本棒…ごめんなさい…わたし、二本の棒は使えないのよ」
渡された箸を見ながら、少女はそう言った。
「そうか…それなら別に良いよ」
まあ、偶然転移した場所が、箸が使える地域だとは限らないし、そう思い、真はまた段ボールをあさり、中にあったキャンプの時よく使うプラスチックでできたフォークを手渡した。
「じゃあ、フォークは?」
これならどうだ、そう思いながら真は言った。
「ありがとう、これなら使えるわ…ところで、このかっぷらーめんだっけ?とりあえず麺から先に食べればいいの?」
少女はフォークで麺を突きながら、そう言った。
「…まあ、ふつうはそうやって食べるかな、まあとりあえず、麺から食べてみてよ」
「…」
少女は麺を箸でくるくる巻いた後、よくテレビとかで、ラーメンを食べたことのない外国人が、麺を日本人見たいに吸うことができず、巻いた麺をそのまま口に運んで噛み切ったように、少女もそのようにして食べたのであった。
「…っ!!おいしい」
少女はそう言った後、すぐさま、また麺をくるくる巻きつけると、何故か震えた手つきで食べ始めた。
「…おいしい、何これ美味しすぎる、魔法を使った形跡もないのに、こんなに美味しいだなんて…」
そんなことをいいながら、よほど腹が減っているのか、それともあまりにもの美味しさのせいなのか、少女はがむしゃらに、カップラーメンを食べていた。
「…」
とりあえずどうしようか、真はがむしゃらにカップラーメンを食べている少女を見ながら、そう思った。
(…とりあえず、今まで少女のペースで流されてしまった感のある自己紹介をすべきだろう)
如何思った真は、とりあえず少女が食べ終わるのを待ち、その後自己紹介しようと思ったのであった。
「ああっ美味しかった、貴方の国ってどうかしてるわ、魔法なしでこんな美味しいものを食べれるだなんて、ねえねえ、おかわりある?」
いつの間にか、食いしん坊キャラとなってしまっている少女を見ながら、真はとりあえず、先ほど考えた自己紹介をすることにした。
「…なあ、とりあえず自己紹介ぐらいはしようぜ、未だに俺さっき紹介したまんま君の名前も分からないしさ、とりあえず、俺の名前は山崎真、苗字が山崎で、名が真だ」
真は一応、もう一度自分の名前を言いながら、少女に自らの名を言うように目線で促した。
「…自己紹介ね…」
少女はなんだか暗い顔をし始めた。
「…なんだ?言えない名前なのか?」
逃げ出した、王女様ならそんなこともあり得ると、真はいつの間にかそれが前提と言う中二的な思考になりながら、そんなことを言ったのであった。
「…いや、そういうわけじゃないのよ…」
「…じゃあ、なんなんだよ」
違うのか、じゃあ他の、奴隷商人から逃げ出したとかそういうのなのか、と真はそんなありがちな展開をまたもや思っていた。
「…その…」
その言葉の後…少女は予想外の爆弾発言をした。
「自分が誰だか…分からないのよ…名前も、今までのことも」
空になったカップラーメンの用器をフォークで突っつきながら、名のない少女は、そう呟いた。