ギルド炎上
パチッパチッパチッ
「…」
燃え広がっていく部屋の中を、一人の少女が10枚ほどの羊皮紙で作成された髪を右手に持ち、その炎が次々と燃え広がっている光景を、何にも感じていないような無表情の様な目で見ていた。
少女の名前はベアトリーチェ、とある商人ギルドに所属する、裏方の暗殺者とも言うべき存在であった、そしてそれこの故なかのか、この様な“放火”と言う行為に対しても、なんら拒絶ともおもわしき感情を示さなかったのだから。
「…終わり」
そう呟いたベアトリーチェの手には、右手に持っていた羊皮紙を強く握りしめた、恐らくその羊皮紙は、今回の目的の物である、ビョーシェ商人ギルドに関する推薦状か何かであろう、これでベアトリーチェは目的を果たしたと思い、静かにそう呟いたのである。
そして、恐らく放火も、もしもの取り残しを防ぐためであったのであろう。
「…」
ベアトリーチェは、最後の一確認として、燃え広がる部屋の中を隅々まで確認し、もはやようはないと感じたのであろうか、この炎に気づいた人間が来る前にこのギルドから離れなくてはと思い、下に居るジューコフと合流しようと、一階へ通じる階段へと足を忍ばせたその時!
ダンッ!!
「ッ!!」
突如、沈黙のみが支配していたシュートラス冒険者ギルド支店内に、聞いたこともない様な、謎の乾いた音が響き渡った。
「…ッ」
ベアトリーチェは予想外の出来事に、歯を噛みしめながら、急いで下へと向かって行った。
「…」
真は目の前の男にショットガンの銃口を向けながら、黙って見つめていた。今まで真は、なんだか物音がするな…何だろう?てな感じに眠りから覚めると、目の前には物々しい感じに屍のごとく倒れ伏せている皆がいた…なんじゃこりゃ!と思ったのも束の間、その瞬間この騒ぎを起こした元凶であろう二人の男女がギルド内に侵入、真はヤベッ!まともに戦ったら死ぬんじゃねこれ?そう思ったのか、今度は寝たふりを続行、ばれないように薄眼を開けていたら、目の前にアイツが居たのであった。
そう、ドットルーズ壊滅の元凶であろうアイツが、ラテが…
「…」
そして真はその事に驚きながらも、隙を窺っていた、と言ってもソラからこんなにもあれこれ強いよ!と言われていた真にとって戦うつもりは微塵もなかった、できるならこのままどっか行って欲しいな、と思っていたほどである。
「…」
しかし、そのラテが有る事をすると同時に、真は何故か、自分にも訳が分からないほどに強烈な怒りを感じた、そして銃を構え…目の前のラテが有る事をしていて油断している隙に、真は自分でも気づかない内に、銃を撃ってしたのであった。
そして現在に至ったのである。
「…」
いつまでも無限に感じられるほどの沈黙が、真達を包む、何故このような状況になっているのか…それは如何にも真らしいと言うか、まあ簡単なことである、真は一体こいつに何を言えばいいのか全くもって頭に思い浮かばないからである。
「…」
一方、目の前の男、ラテは真の放ったショットガンの直撃を受け、吹き飛んでしまった腕を構え、うずくまっていた、何故なのかは分からない、もしかしたらソラが言っていた強烈な竜巻を撃ってくるのかもしれない…真はそう考えると銃を向け居るのに、不安になってくるのであった。
「…」
真は沈黙の中、何をこいつに言えばいいのかを、頭をフル回転させながら考えていた、今のところ候補としては「何しに来たんだ!」とか「お前だれだ?」とか「両手を伏せろ!」
とか「武器を外せ!」位しか思いつかなかった、まあ高校生の真にそんな都合のよい言葉を思いつかせるのも酷であるが、因みに一番最後の「武器を外せ!」は、真は魔法に関する武器だなんてさっぱり分からないので、すぐさまこの言葉を対象から外したのであった。
「…お」
こうなったらもうヤケだ、真はそう思いながら適当に言う事にした。
「おい!おお前は何し来た!そして誰だ!両手を伏せろ!」
全部言っちまった…真は自分の行為の醜態さに、なんだか泣きそうになった。
「…」
一方、目の前のラテは真の言葉に対し、がん無視で答えていた。
「…」
真はなんだかどうすればいいのこれ?ともはや積んだ感じに心が折れ掛けていたその時。
「しゃべるな」
「え…」
救世主なのか、はたまた真の命をこれ以上に無いほど危機の陥れる存在なのかは分からないが、恐らく後者であろうか、とりあえず、そんな現在のどうしようもない空気をぶち壊してくれた言葉を、真でも目の前の男でもない何者かが、恐らく真に向かって叫んだ。
「…え?」
虚を突かれた感じに真はその声がした方向を向いてみた、そしてそこには案の定、あの時ラテと一緒に居た少女が居た、しかもその少女は真に向かって、明らかに魔術系の武器とおもわしき30センチ位の杖を構えており、いつでも攻撃できる体制であった。もっとも真にとっては本当に是が攻撃できる体制なのかは分からなかったが。
「その男から離れなさい、はやく…」
「…」
真は警戒しながらも、おそらくこの雰囲気では撃ってこないと思ったのだろうか、ささっと目の前で屈んでいるラテから、真は銃を構えつつ離れた。
「…」
コツコツ…と真の様子を窺いながらも目の前の少女はラテに近づく、正直相手の実力が未知数なのと、まるで平和な世界に居た真では対処方法が全くと言っていいほど思いつかなかったためなのと、それらが合わさったためか、真は銃を構えながらも、黙ってその様子を見ていることしかできなかったのであった。
「…おい」
少女は小声で目の前のラテに対し、何かを小声で言った。
「…」
しかし、ラテはまるで反応を示す様子はない、ひょっとして死んだのか?と思ってしまうほどだ。
「…ッ」
少女はこれ以上ラテに話しかけても無駄だと思ったのであろうか、腕を押さえながら屈みこんでいるラテを無理やり背負い込んだ、因みにラテは不思議なほどに抵抗する様子は見られなかった
「…」
杖を構えつつ、それと同時進行的にラテを抱えながらも、目の前の少女は、真を冷徹な目で見つめた。
「…おまえ」
目の前の少女は言った。
「もう二度と私たちに合わない事を祈るんだな」
さっ…と、まるでゴキブリどころか相手を生き物として認めていないような感じの目で、その言葉を真に向かってそう言った後、少女は何の音も起さない位に、静かに、そして素早くギルド支店から去って行った。
「…」
真は自らとは大違いの余りにも早い手際良さに、言葉を発することすらできなかった。
「…ッ」
とりあえず、真は辺りを見渡した。
まわりには正しくマンガである様な、催眠ガスで眠らされているがごとく、眠っている人たちが居るだけであった、勿論その中にはギブソン、エカーナ、そして、ソラもいたのであった。
「…とりあえずどうすればいいだこれ?」
真はのんきにそんなことを思った。
「…」
ベアトリーチェは背中にジューコフを抱えながら、まるでマラソンランナーの様なスピードで走っていた。これほどの小柄な少女が自らより大きい男を運べるのは、恐らく魔法の恩恵なのだと、否でも推測できる。
「…はぁ」
これくらいでいいかしら、ベアトリーチェは人気が全くなくなった場所で、自らの足を止めながら、そう思った。
「…ジューコフ」
ベアトリーチェは自らの背中にまるで子供の様にすがるジューコフを、冷徹な目で見つめながら言う。
「貴方何をしていたの?あんな弱そうな奴に無様な格好をさらけ出して…本当にダメね、私が居なかったら死んでいたわよ」
「…」
しかし、ジューコフはそのベアトリーチェの言葉を聞いておらず、ただ、自らの失った腕を見つめているだけであった。
「…チッ」
どさっと、ベアトリーチェはジューコフを自らの背中より叩き落とす。
「黙ってないで言いなさいよ、それでも貴方はあのお方の期待の星?本当に落ちぶれたわね、さっさと言え…」
その言葉を言うのと同時に、ベアトリーチェがジューコフの顔を覗き込んだその時、ベアトリーチェは初めてジューコフの顔が、何故か濡れているのに気がついた。
「…」
ベアトリーチェの顔に、一瞬であるが、初めて、無表情以外の何かが映った。
「…よくわかんないやつね、ジューコフ貴方は」
そしていつの間にか無表情の顔に戻ったベアトリーチェは、相変わらずの冷徹な声で、ジューコフに向かってそう言った。
「なんだと!!ラテの奴が俺が眠ってしまっているうちに襲撃しただと!!本当かそれは!!」
「…い…耳がぴりぴりする」
一方此方はギルド支店内の真の様子、
何故にこの様な状況になったのかと言うと、まあとりあえず、あらすじ風に言うとならば、ギルド支店内で眠ってしまった人々はラテ達が去ってから五分程度目を覚まし始めており、真が何か行動を起さなくては彼らは起きない、と言う事態も起きず、普通にむにゃむにゃ?と言う感じに起き上ったのであった、そして、その中には勿論ギブソンもいて、起きたギブソンは必然的に自分より先に起きていた真にむかって、何が起きていたんだ?と問い、そして真がラテに襲撃された事を語り、見事にギブソンに怒鳴られ、この様な状況になってしまったのであった。
「ほ…本当だって、そう、ラテに襲撃されて、何とか攻撃を加えたんだけど、敵は二人居てな、もう一人は少女だったけど、隙を突かれたせいで何もできなかったんだ、そして逃げた」
真は自らに起こった事を耳なりがする耳を押さえながら、たんてきに言った。
「くそが!!何故逃がした!俺なら八つ裂きにしてやるのに!そいつの皮はがした上で肉ごを剥がし潰したのに!!クソが!クソがクソが!!」
ドンドン!!
またもやギルドの床に凹みを作りながらギブソンが怒鳴る、真はもうどうすればいいんだ是?と思ってしまっていた。
「…うるさいと思って、目を覚ましてみたら…またギブソンだったの?本当に威勢がいいわね…少し黙りなさい!!」
ドガッ
「ガハッ」
「…」
真はギブソンにとび蹴りをくらわせるエカーナを見ながら、更に途方に暮れていた。
「はぁ…」
真はため息を付きながら、先ほどまでに自分が寝ていた椅子の横の床に、ドスンと座り込んだのであった。
「…」
因みに横にある椅子は先ほどまで真が眠っていたり、真がラテに向かってショットガンを撃った場所でもあった例の椅子であった。
「す…す…」
そして、その椅子の上で眠っているのは案の定、未だに眠りから覚めていない、ソラであった。
「…」
真はそっとなんだかふとした感じにソラの寝顔をみた。
「…」
なんだか吸い込まれそうなほどの水色の髪…そしてきめ細やかな肌…うん美少女だ、ソラの寝顔をまるで食いつく様に見つめた真そんな感じに再認識したのであった。
しかし、そんなソラの寝顔をうっとりと見つめていた真に水を差す様に、恐らくギルド支店の職員の仕業なのであろうか、次のような声が上がった。
「火事だ!二階から火の手が上がってるぞ!!」
「あわわ…き…キーマさん、ギルドが燃えてる…燃えてるよぉ…」
怯えているのだろうか?涙ぐみ気味にキーマの肩をがっちりと固定するように、ソーシャはキーマの肩を掴みならそう言った。
「…本当に燃えてるわね」
キーマ達は外から見える煙と火の手に、半ば呆然としながら見つめていた。
「う…なんでこんな事が起きたのかな?私分かんないよぉ…」
ソーシャがキーマの注意を引こうと、ガッチリと掴んでいるソーシャの腕を、ブンブンと振り回しながら、またもや涙ぐみ気味にそう言う。
「もう…ソーシャったら、私だった分からないわよ、突然眠くなって、そんでもって起きたら火事だ!の連呼、私だってこんな状況、把握できずに混乱するわ」
本来はソーシャに言っているはずだった言葉が、いつの間にかこの騒動を起した何者かに対して言う愚痴なってしまったキーマであった。
「ゥ…本当に何が起こったのかな?ギルド支店長さんも帰ってこないし、ギルドは燃えるし…ゥ…」
ブンブン…またもやキーマの腕を涙ぐみながら振り回すソーシャ。
「ああもう、いい加減にしてよソーシャ、貴方だって子供じゃないんだから私の腕を振り回さないでよ!いいから話しなさい」
余りにもウザすぎたのだろうか、キーマがついに怒ってソーシャに怒鳴りかける。
「あぅ!!ごごごめんなさい」
急いでキーマの腕を離すソーシャ、なんだか切ない感じである。
「ああもう!誰に聞けばこの状況を把握できるのよ!もう本当に混乱してきたは、頭の中がぐっしゃぐしゃ、気分が悪くなってくるわ…」
キーマは頭の髪の毛を手でくしゃくしゃにしながら言う。
「ああぅぅ…キーマそんなことしたら髪が乱れるよぉ…」
「ソーシャ…私もう疲れて来たわ」
ソーシャの言葉に何故だか息絶え絶えにいうキーマであった。
「…あれ」
その時、ソーシャが何かを見つけたのだろうか、きょとんとした声でそう言う。
「ん?どうしたのソーシャ」
自らの行為によって乱れてしまった髪を整えながら、キーマがそんな声出したソーシャにそう言った。
「…マミラ…さん?」
「…」
真は未だに所々から煙が出ているシュートラス冒険者ギルド支店2階部分を見上げていた。
真は一応と言うか何と言うか、火事と言う物遭遇した事は、一度だけならある、しかしかなり前の話であるためか記憶は薄れており、そのためか、こうして火事と言う物をもう一度マジマジと見て、なんだか圧倒されている真であった。
「…真…真」
「ん?」
そしてそんな事を黒こげになったギルド支店を見ながら思っていた真に、先ほど起きたソラが話しかけたのであった。
ちなみにソラが起きた時に、なにやらファンタジーにありがちな、感動的な展開などこれっぽっちもなく、普通に「大丈夫だったか?」「…大丈夫だけど」て言う感じの簡単な会話で終わったのであった、気にするな真。
「さっき、ギルドの人が言ってたんだけど、どうやら、ギルド支店長さんが何者かに殺されたんだって」
「ッ!!」
この事に幾らなんでも鈍感な真でもこの事の重大さに気づいた。
「え…つまり、この前一体俺たちを襲ったのが誰かなのかが、この一件の事件で完全と言っていいほど分からなくなったってこと?」
真がソラに向かって確かめるように言った。
支店長さんが死んでしまっては聞けに聞けないし、もしかしたらあるかも知れない決定的な資料も、今回の火災で恐らく焼失してしまっただろうと、真は思ったのであった。
「うん…そう」
ソラが悲しげにそう言った…
「…」
真は次に何を言えばいいのか分からず、黙っているしかなかった。
「…ギブソンたち、どうするのかな?」
「ああ…」
確かにそうだなと真は思った、ギブソンたちの目的はこのギルド支店で支店長さんの話を聞く事にあった、しかしその話を聞く相手が死んでしまっては本末転倒である、そして恐らくギルド内にあるであろう資料も完全に消失してしまった、どうするのかな…と真は思った。
「…」
「…」
真とソラは、なんだか居た堪れない気持ちになったのであった。
「なあソラ」
「なに?真?」
ソラが真を気遣うようにソラに言う。
「俺…もしかしたらあいつ等を捕まえて、この事件を解決できたのかもしれないと思うとさ…なんだか、罪悪感でいっぱいになると言うか…」
真はそんな、自分の中で溜まってしまった気持ちを、ソラに向かって行った。
「どうすればいいかなソラ…俺…もしかしたらギブソンに殺されるかな」
腕をだらーんと下げながら、真が下を向きながら言う。
「…はぁ…」
ソラが何故かため息を付いた。
「そんな事…大丈夫だって、私はそんな事全く持って気にしてないから」
「…え?」
「だって、相手は強かったんでしょ?現にギルドに居る冒険者たちが全員気づけずに眠らされてしまう位にね、だから、真のその…なんて言うか真がそんな事気にする必要はないと思うよ、それに、もし真が無理してそいつらを倒そうとして…」
ソラは一瞬、なぜか沈黙しながら言う。
「し…死んじゃったら、ギブソンはもっと怒ると思うよ、それこそ地獄の果てまで付いてきて無理やり生き返らせてる位に、ね!真、ギブソンがそんなことで真を責める人じゃないことぐらい分かるでしょ?」
なぜかギブソンの性格を知り尽くしているかのように言うソラ…一見して見れば、まあなんだか説得力がありそうでなさそうな言葉でもあった。
「…あ…ありがとうソラ、ははっ、なんだか俺考え過ぎだったみたいだな」
しかし、どうやらソラのそんな言葉でも、真の悩みを吹き飛ばす威力は十二分にもあったと言う事は、間違いないであろう。
「…んじゃソラ」
真は言った。
「とりあえずはまあ、火事の土壇場で逸れたギブソンたちを探して、話を窺っおか?」
「うん、そうだね」
「そんでもって」
「ん?」
「忘れてしまうほどの疲労を回復すべく、直ぐにホテルに帰ろう」
へなへな、真は地べたに座り込みながら、情けない感じに言った。
「ぷっ、ふふっ…ははっ」
その言葉に、ソラは吹いてしまったのであった。
「真らしいわね、本当…」
ジューコフ関連はここら辺で少々途切れる予定