ジューコフの現実
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暗い、所々虚ろ下に光っている蝋燭が灯っている廊下でヤルトーは歩いていた、しかし、その時、何者かの影が見えた瞬間、その何者かの影が、ヤルトーに向かって声を変えた。
「どうですかヤルトーさん、ヨセフの奴は魔王のカケラのありかを暴きましたかね」
ヨセフに面会した後、結局魔王のカケラの場所を暴けずに戻ってきたヤルトーに向かって、一瞬暗くて影としか見えなかった、その男が言った。
男の容姿は、現代日本なら厨二病乙、だとか、なにそのコスプレ!と言われそうな衣装を着ていた。
全体としては灰色であるが、奇抜な衣装で、例えるとすれば、キリスト教の宣教師みたいな衣装、とでも言うべきか、しかし、キリスト教の宣教師みたいに素朴な白や黒を基準とせず、灰色の色に、赤、黄色、青の、三大原色が使われた、紋章が、裾、襟と、そこらじゅうに、ばら撒いたようであるが、何故か見事にマッチするように描かれていた、なによりも、その服の胸のあたりには、なにか架空上の生き物と思わしき生き物が金の色で描かれており、とても印象的であった。
髪の色は灰色を明るくしたような色で、目は何故か赤色だった。
「…ふん、貴方には関係ないことだ、それにただ問いただすだけであいつが言いふらすわけがないことぐらい、想定済みです、今回はただヨセフの懐かしい面を拝んだ、とでも言うべきですか」
ヤルトーはあまりその男に対していい印象を持っていないのだろうか、そっけない態度で、その男に向かってそういった。
「…まあ確かに関係ないですね、失礼しました、だが貴方が魔王のカケラを手に入れなければ、私にも不利益があります、それに、魔王候補さまは私たちに多大なる期待をかけております、貴方の利益、私の思想の達成のためにも…」
男がヤルトーに対してそう言った。
「…確かにそれもそうですな」
ヤルトーがその男の言葉を聞き、答えた。
「私もあなたとの関係がこじれるのはあまりよろしくないと思っていますしな…では、ヨセフの奴をしゃべらすにはどうすればいいのか、私はあの男が腕足の一本や二本切られたくらいじゃあ喋らない奴であることを嫌になるほど知っています、拷問しても効果は薄いでしょう、これ以外にどうしろと」
ヤルトーが男に対して、試すかのようにそういう。
「ええ大丈夫です、簡単なことです、人質を使えばいいのですよ」
「人質…ですか」
ヤルトーが男の言葉に疑問下に呟いた。
「しかし、それは難しいのでは、現状でヨセフの人質を連れ去るのは…確かにヨセフの交友関係は、そこらの農民よりかは広いでしょうが、しかし、ヨセフがうろたえる様な人質はとてつもなく少ないというのはすでに調査で分かっている、そうでなかったら、わざわざビョーシェ商人ギルドの助けをかりますか?」
ヤルトーはすでにそのことは調査で分かっていると言う事を言い、男の言葉に異議を唱えた。
「そうでしょう、ヨセフの奴がうろたえそうな人質は、仲間のパーティか…それくらいでしょう、私も無知ではありません、それくらいのことはハッキリとわかっています」
男はヤルトーの言葉など予想ずみであるように、軽々とヤルトーの異議にこたえるかのように言った。
「そうです、ヨセフがうろたえそうな人質は、パーティくらいしかおらん、しかし、今のヨセフのパーティは病院にいる、正直、もし隔離に失敗していたら、私の首も吹き飛ぶほどでした、この状態で彼らを攫うことは、私たちの兵力ではまず無理でしょう、無理やり干渉したら、現在ばれない様に必死で隔離しているビョーシェ商人ギルドの怒りを買うことになります、彼らを連れ去るのは不可能です」
ヤルトーは王手を打ったような気持ちで、男に対しそう言った。
「…そうです、私も初めはそのような考え方でした、しかし、ある情報を得た瞬間、話が変わったのです」
「…なんでしょう」
「ビョーシェ商人ギルドの裏の者たちが、一週間後、病院に襲撃を掛けるそうです」
「ッ!!なに!!」
「ビョーシェ商人ギルドも、一番の証拠物件みたいな輩など、とにかく消したくて消したくてしたかないでしょう、ならばこの様な行動に出てしまっても可笑しくはない、どのように襲撃を掛けるかはよく分かりませんが、おそらくドゥットルーズに恨みを持った連中に見せかければ、よい手段といえます、しかし、これは逆にチャンスでもあります」
薄暗い、蝋燭しか明かりのない中で、男は喜びの笑みを浮かべながら言った。
「…チャンスだと」
ヤルトーは男の発言に、うろたえたような呟きを見せた。
「そうです、ならば此方も、襲撃と同時に、少数の襲撃部隊を仕向けるのです」
「…な」
ヤルトーは吃驚したかのように驚愕した。
「…確かに、少数の部隊を隠密に派遣すれば、襲撃の混乱に紛れて攫うことは可能でしょう、しかし、もしビョーシェ商人ギルドが放った奴らと出会ったら?もし、ビョーシェ商人ギルドが、私たちの動きを掴んだら?私は到底そんなことできませんよ」
ヤルトーは即座に、男が言った提案の不安な点を指摘した。
「ふふっ」
しかし、男は不敵に笑った。
「大丈夫です」
「資金提供をいただければ、私たちだけで、病院にいるドゥットルーズの奴らを連れ去ることが可能でしょうから」
男は何処から湧いて出てくるかも予想もできない声で、疑問下なヤルトーにそう答えた。
「みつからねーな、そのマコトとか言う男」
そんな風にまた新たな陰謀が巻き起こっているころ、此方はジューコフ達、かれこれ10分間くらいジューコフ達は真を探しているが、どれだけ探して結局はマコトらしき少年の姿は、確認できないでいた。
「…うん」
ジューコフのその言葉に、ソラは悲しげに、小さな声でうなずいた。
「…」
ジューコフはこっそりと、落ち込んでるソラを見た、未だ先ほど流していた涙が原因なのか、目を赤くしており、それに加えてこのありさまである、そんなソラの姿を見ていると、やはりというか、ジューコフはそんな姿のソラをただ見過ごせる事は出来ないでいた。
「ああっもう!ちっ、落ち込むなって!そいつはお前の相棒なんだろう、だったらそいつが生きているってつーことを思うほうが、そいつの相棒であるお前のすべき事だろうが、お前がそんなに落ち込んでちゃー、その相棒の顔が浮かばれないぜ」
ちょっとばかり荒々しげだが、ソラを励ますべく、現状の力を振り絞って、ジューコフがソラの肩を叩きながらそう言った。
「…うん…それもそうだね、ありがとう」
どうやら、ジューコフの言葉が功を奏したのだろうか、いまだにかすれたような声であるが、ソラがジューコフにそう答えた。
「よし…それでいい」
ジューコフはソラの肩をやさしげにポン!と叩きながら、そう言った。
「…」
「…」
その後、またもやソラとジューコフの間に沈黙が流れた、まあもともと、ジューコフとソラとの間にはあの時の戦い以外に接点は存在しておらず、このような展開になるのは予想済みの事であったが、やはり、気まずい気持ちに、ジューコフはなってしまう。
「…ねえ」
そして以外にも、その空気をぶち壊し、彼らの接点を築いたのは、以外にも悲しみに暮れていた、ソラであった。
「なんだ」
まさかソラが自分から話しかけてくるとは思わなかったのか、少々驚きながらも、ジューコフはソラの問いに答えた。
「なんていうか…その…こんな感じに黙りながらもくもくとマコトを探しているのって、なんだか、気分が落ち込む様な…気まずい雰囲気なる気がするのよ」
「おう…」
「だからさ」
ソラはジューコフに振り返りながら言った。
「なにか、貴方と話しながら真を探そうか」
「それでね、真の奴、私にババ抜きって言う遊びで、十連敗したのよ、ふふっ、自分で教えた遊びなのに」
「はっ…確かに、自分で教えたくせして、教えた相手にいとも簡単に負けるっていうのは、ダメな奴だな」
「でしょ!真ちょっと抜けてる所が有るのよ、それにいま命を狙われているのだって、真がヘマをしちゃったっていう原因があるの」
「ちょ…ソイツ本当に大丈夫か」
「でしょ、まったく、真ならともかく、こっちにも飛び火しちゃうんだから、本当真は…」
「…」
かれこれ話し始めてから十分程度…ジューコフはソラの一言一言を、聞き逃すまいと、まるで戦闘時の敵情偵察のごとく耳を澄ましていた、それだけジューコフにとって、彼女の声、そして彼女の鈴のような笑い声がどれだけ素晴らしく、どれだけ自分にとってショックを受けるほどの出来事だったのか、その思いはその感情は、己であるジューコフですら手に余るほど物であった。
そんな彼が、自分でも気がつかない内に、ソラとの会話をこれ以上にないと言うほど楽しんでいたと言う事は、当たり前の話だったのかもしれない。
「だけどね」
しかし、そんなジューコフにとって至福とも言える時間も、始まりもあれば、終わりもある。
「そんな真だけど、とっても頼りになるの…真は」
「…」
ジューコフはそのソラの言葉を、黙って聞いていた。
「何故かって言うとね」
ソラはそんな風にソラの顔を見つめるジューコフ向かって、言った。
「嬉しかったの、あの時彼が言ってくれた言葉が…彼が私に初めて言ってくれた、あの言葉が」
ドクッン…
と、なぜかジューコフは、そのソラの言葉に、心臓が圧迫されるような痛みと、苦しみを覚えた。
まるで、心の深い場所の古傷を抉られたみたいに。
「う…」
ちょっとばかり胸をさすりながら、ソラに聞こえないようにジューコフ呻いた。
そんなジューコフの様子にソラはきづいていないのか、そのまま話を続ける。
「なぜだか、分かんないけどね…彼の言葉が、ものすごく…私の心に響いたの」
(なんだ…)
訳が分からない、なんでだ、さっきまで聞くたびに感じられたあの感情は何処へ行った、なんで、今…こいつの言葉を聞くたびに、こんなに苦しんだ…)
ジューコフは先ほどまで感じていた感情とは真逆のような…そんな感情に、先ほどよりも、混乱していた。
「いつか…まるで前に似たような言葉で、救われたかのように」
目の前でソラは嬉しそうな顔をしながら、そう呟いた。
(やめろ…)
ジューコフはソラの顔をもはや直視すらできないのか、地面を舐めるように見ながら、次にくるであろうソラの言葉を、心の中で、否定したい気分にかかわれた。
「だからね、私…」
(やめろ!!)
ジューコフの目の前が真っ黒になりそうな…その時。
「おーい!!ソラ!居るか?」
「ま…あ、真の声だ」
「はぁ…はぁ…」
ジューコフは自らの醜態に困惑していた、何故俺はこいつの言葉をこんなにも恐れたのかと、何でだ…何故なんだ、なんで苦しいのかと、ジューコフのそんな思いが、無限ループの様にいつまでも駆け巡っていた。
「大丈夫…ですか」
「はっ…」
ジューコフは気がつけば、自分の顔を心配そうに見つめてくるソラの顔が目の前に映った。
「ああっ…大丈夫だ、ちょっと眩暈がしただけだ」
「そう…良かった」
ソラはそう言い、ジューコフから離れる。
「短い間だったけど、ありがとう、悪愚痴だとかそんなの聞かせちゃって、それに、ちょっと私も貴方の事かんちがいしちゃった所もあったし」
「…」
ジューコフはいままでソラの顔を見ていて、そしてその中でも彼女の笑顔は自らに至福を感じさせていた、しかし今の彼女の笑顔は、今のジューコフにとって、至福ではなく、何か別の物、遠いものでも見ている様な感覚にジューコフは陥った。
「ここまで付き合ってくれたお礼に、何かして上げたいんだけど」
ソラはそう呟きながらポケットに手を入れた、どうやら財布を取り出すつもりだと、ジューコフはすぐさま直感で分かった。
「いやいいんだ」
「え…でも」
ソラはジューコフのその言葉に戸惑いの声を上げながら呟いた。
「いいから…行け…とっとと、お前の相棒のもとによ」
その贈物を受け取るほど、俺はダメじゃねーよ、ジューコフはそう思いながらいった。
「ぁ…うん、分かった、ありがとう」
恐らくジューコフの気持ちを察したのであろうか、無理に渡そうとはせず、素直にジューコフの主張を受け入れた。
「だが…一つだけ聞かしてほしいものが有る」
しかし、ジューコフは一つだけ、聞きたい事が有ったのだろうか、ソラに向かってそう呟いた。
「その…マコトって奴が言った、お前の心に響いた言葉ってのを、教えてくれねーか」
ジューコフは控えめ気味に、そんな疑問を、ソラに浴びせた。
「…」
ソラはちょっとばかり考えた素振りを見せると…
「ふふっ」
ソラは思い出したかのように笑った。
「その言葉だけはね」
ソラは嬉しそうに言った。
「ひ み つってね」
ソラはそういい、笑いながら手を挙げ、ジューコフに向かってバイバイと手を振り、真の元へ、自らの相棒の元へと、去って行った。
「…」
聞きたかったな…去っていくソラの姿を見ながらジューコフは思った。
彼女を…あんなに美しく、可憐な彼女を、あんなにも虜にした、その言葉を…
ジューコフは心の底から生まれてくるやりきれない思いに切なさを感じながら、俯いていた。
「カツッ」
そんな事を思っていたその時、ジューコフの後ろから、正体不明の謎の足音が、シュートラス広場に響き渡った。
「ッ!!」
ジューコフは突然のその足音驚きながらも、すぐさま戦闘態勢を整えながら、ジューコフは後ろを振り返った。
「…ん?」
そこには、黒い服に、幾数学区な模様が描かれた、女性とも男性とも分からない何者かが、まるですり抜けた様な感じに、存在していた。
「てめ…だれだ」
ジューコフは今まで気づかれずに接近されていた事と、自らのその直感から、この何者かを警戒していた。
「…不憫ね」
ふと、その目の前の何者かが、女性の様な声を発し、そう呟いた。
「…あ?」
何言ってんだコイツ?ジューコフは警戒を最大限までに上げながら、謎の女とおもわしき者を食い見るよう見ながら言った。
「どういうとこだ、それ」
「そのままの意味よ」
女性は荒々しげなジューコフの口ようとは真反対な、静かな声で言った。
「…報われないわよ、そんな事をしていても」
女性はジューコフを諭すように言った。
「そんな思いを持っていても」
ジューコフを非難するように言った。
「そんな希望を思っていても」
ジューコフを痛めつけるように言った。
「そんなの、ただの片思いとして、貴方を苦しめるだけよ」
女性はまるで同じセリフを永遠と繰り返すまるでCPUのごとく、ジューコフに対して冷徹な言葉を繰り返し言った。
「は?」
何だコイツ、ジューコフは目の前の女性を見ながらそう思う。
「…なんで…てめーがそんな事を言うのかは知らねーが、どう思うのだろうが、どうしようだろうが、人の勝手だ、殺すぞ!!」
ジューコフは脅迫じみた言葉を女性に浴びせる。
「内心、分かっているんでしょ…」
しかし、女性はジューコフの脅迫など、何とも感じないかのように言う。
「あの手も…あの美しい瞳も…あの美しい鈴の様な声も…細かく白く雪の様な肌も、そして何よりも、あの至福の笑顔も…」
「真の意味で、貴方に向けられることなんてない、そうでしょう、ジューコフ」
女性はジューコフを追い詰めるためなのだろうかそう言う。
「…うるせ…」
おそらくその女性の言葉に耐えきれなくなったのだろうか、ジューコフは言う
「うせーんだよ!!分け分かんねー事言いやがって…人の気持ちを分かったように言いやがって!殺す!!」
ジューコフは叫び、すぐさま高速で呪文を唱える、そして…
「エアーカッター!!」
ブオッ!!
轟音めいた音と共に、風の刃が現れ、それと同時に女性の体を引き裂こうと迫った、そして…
女性は消えた…
「…あ?」
可笑しい、幾らなんでも消滅はあり得ない、精々、体が四足バラバラになるくらいの威力のはずなのだが、ジューコフは目の前で起きた現象に戸惑いながらそう思う。
「無駄よ…」
その時、ジューコフの後ろから、微笑みかえるように、あの女の声が聞こえた。
「な!!」
ジューコフは驚きながら振り返った。
「貴方があの子をお求め、あがく様に、貴方がどんなにあがいても、私を倒すことはできない」
「ちっ」
ジューコフは舌打ちを打ちながら、今度こそ目の前の女を抹殺するべく、再び呪文を唱える。
「エアーカッター!!」
ブオ!!
女性はまたもや消えた。
「無駄…」
今度は上から声が聞こえた。
「くっ…」
ジューコフは上を見上げた。
そこにはふわりと、5メートルほどの高さで浮いている、女が居た。
「無駄よ、貴方のあの子に対する思いも…」
「クソッ!!トルネードカッター!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ!!
ジューコフが唱えたトルネードカッターは、まるで巻き起こる風のすべてが刃の様に、周りの物体を切り裂きながら、上を待っていた女を巻き込んだ。
スッ
「な!!」
今度は目の前に突如現れた。
「無駄よそんな抵抗しても」
女性は至近距離から、淡々とジューコフを追い詰める言葉を放つ
「エアーソード!!」
ブオ!!っとジューコフの手に風の刃が握られる。
「死ね!!」
ジューコフはその言葉と共に、女性を切り裂いた。
だがまた…女性の姿は掻き消えた。
「無駄よその言葉も…」
「ひっ」
今度は耳元でささやかれた。
「あ…あああ!!」
ブン!!とジューコフは叫びながらエアーソードを力づよく振るう。
「無駄よ、彼女の思いは永遠に貴方には向かない」
「クソ!」
ジューコフはまた声が下方向に向かって、エアーソードを振りかざす。
「無駄よ、貴方みたいな人殺しでしかない奴が、彼女を思う事なんて」
「くそ…」
ジューコフはがむしゃらにエアーソードを振り回す。
「無駄よ、貴方と彼女に関係するすべてが…」
「やめろ…」
ジューコフはいつの間にかエアーソードを振るうのをやめ、頭を押さえながら、虚ろめいた声で呟いていた。
(なんなんだコイツ…なんで俺のこの気持ちを否定しようとする、こいつはいったい何者なんだ…誰なんだよコイツ…)
「だからね…」
次の瞬間、ジューコフの首に、鈍く、冷たいものが突き付けられた。
それは…短剣であった。
「これ以上…貴方を苦しませないように、殺してあげる」
ツーと、短剣が突き付けられたジューコフの首筋から一筋の血が流れ始めた。
「さよなら…あわれなあわれな男…ジューコフ」
「…」
ジューコフはもう何も考える事が出来なかった。
「エレクトロスパニッシュ!!」
スゴゴゴゴ!!
突如、雷鳴の様な音が、シュートラス広場に響き渡った。
ズギューン
「ッ!!!!!」
その音と同時に、ジューコフの頭をかすめるように、所々髪を燃やしながら、黄色い閃光…電撃が走った。
当然、その電撃と共に、ジューコフの後ろにいた女は、暗闇に溶け込むように、また…掻き消えた。
「ジューコフ」
しかし、何処から聞こえるのかは分からないが、女性の言葉はつづく。
「あきらめなさい、貴方のあの子に対する思いを…そうしなければ」
女性は決断づけるように言う
「貴方はまともな目にあわないですよ」
その言葉と共に、その声も、そしてその女性の気配も、完全に消え失せた。
「はぁ…はぁ…」
ジューコフは解放されてからも、未だ血が垂れている首筋を押さえながら、屈みこんだ。
「ちくしょ…」
ジューコフは悔しがるように言った。
「なんなんだよ…クソが…」
悪態づきながら、ジューコフは呻いていた。
コツッ…コツッ…
そしてまたもや、ジューコフの前から、足跡が聞こえて来た。
「…」
しかし、ジューコフが警戒するそぶりは全くなく、おそらく、すでにこの足音の正体など、とっくに分かっているようであった。
ジューコフは顔を上げた。
「…やっぱりお前か、ベアトリーチェ」
そこにはジューコフの目の前に壁の様にたつ、金髪の髪をツインテールにいた少女が居た。
「…ジューコフ、貴方は一体何をしているの?」
ちょっと間をおいた後、屈んでいるジューコフを見下ろしながら、ベアトリーチェは無機質のような声でそう言った。
「…なんでもねーよ、ただ変な女に絡まられて、負けそうになった…それだけだ、これ以上説明する必要ない、そうだろうベアトリーチェ」
ジューコフはすぐさま話を切り上げたいのか、にらみ返しながらそう言う。
「…そうね、確かにそうかも知れないわね」
ベアトリーチェは瞳を全く動かさずに、ジューコフに向かって機械的に呟いた。
「じゃあもういいだろう、この件をこれ以上掘り上げても何の利益もない、俺も、お前も、あの女の攻撃によって、何の被害もなかった、そうだろう」
やはりジューコフはすぐさまこの件を忘れたいのだろうか、攻撃的に言い放った。
「…いいや、ちょっとばかり不利益になりそうなことがあった」
「あ!?」
ジューコフはベアトリーチェから早くたち去りたいのであろう、いらいらしげに、ジューコフは叫ぶ。
「なんだよ、言って見ろよ!」
「…ジューコフ」
ベアトリーチェは言った。
「貴方…恋をしているのね」
冷徹で冷たい目で…ジューコフを見つめながら、ジューコフにとって一番知られたくなった言葉を、ベアトリーチェは言い放った。
「な…」
ジューコフはあまりにも予想外だった言葉だったのか、一歩一歩と、後ずさりながらたじろいた。
「…いいか、ベアトリーチェ、あの青髪の女は何の関係もない、ただ一緒にいただけだ、だから…」
ジューコフは叫ぶように言った。
「…別に」
ベアトリーチェは断るように言った。
「貴方の思い人とおもわしき人を襲おうなんて、体力の無駄遣いなんてしないわ」
ベアトリーチェは後ずさったジューコフに迫りながら言う。
「ただね…貴方がそんな…恋…なんて感情を持ってもらっちゃ、これから先、私まで不安になるでしょう、それこそ私にまで不利益な事が起きそう」
ベアトリーチェはジューコフを凝視しながら言う。
「何故かって言うとね、そんな、やさしい感情を持ってしまうと、もしかしたら敵に同情を覚えると言うバカな考えを持ってしまい、ヨセフ様の依頼を満足に遂行することができなっちゃうかもしれないから…これが其の1」
「…」
ジューコフは黙ってベアトリーチェを見つめていた。
「そして…可笑しいと思わないジューコフ」
ベアトリーチェは言う。
「どんな経緯であの女が好きなったのかは知らないけど、貴方の異常な彼女に対する行動、今までの貴方とは正反対すぎる行動…なにかに仕掛けられたみたいじゃない」
「な…」
意味が分からない、何言ってんだコイツ…ジューコフはそう思った。
「…昔から貴方は感情見たいなものをもってた…私たちと同じようにあれを受けていたのにもかかわらずね…貴方は可笑しかった、まるで一億回やって一回出るかでないかの不良品みたいにね…」
ベアトリーチェは言う。
「いい、ジューコフ、私今回の件で、ちょっと考えてみた、通常私たち超古代魔法開発を受けた人間って言うのは、誰もが感情を失っているのよ、100パーセントに近い確率で」
「…」
ジューコフは寒さで冷え切った地面を見ながら、ベアトリーチェの話を聞いているしかなかった。
「だからね、もし、そんな本来感情を持つべきものではない物が、何かしらの不具合で、感情をもってしまったらどうなるか…それはね…」
ベアトリーチェは間を一瞬の居た後、言った。
「コントロールでなくなってしまう…自分の感情を、今まで狂ったように相手を拷問してきたように、今みたいに突然あの青髪の女を好きになってしまったり…だから、もしかしたらその感情が今度また別の何処かへと言ってしまうのが、私の困る理由、其の2かな」
ベアトリーチェは自らのジューコフの感情に関する考察を、ジューコフに言い放った。
「は…意味分かんねーよ、俺が不良品だ?感情をコントロールできないだ…一体…」
ジューコフは戸惑い、呻きながらベアトリーチェに言った。
「一体ベアトリーチェ、お前は一体何を言いたいんだ?」
ジューコフはそのベアトリーチェの考えに、何か恐ろしい物の影が潜んでるような気がしていた、だが、同時に知らなくてはならない、知りたい、ジューコフはそう思っていたためなのだろうか、そう言った。
「別に…ただ、貴方がこれ以上あの女と関わらないようにした方が、私として利益になりそうだと言う事…それと…もしかしたら、あの女の言う通りなのかもしれないかもね」
ベアトリーチェはついでにと言う感じに言った。
「今の考え方が正しいとすれば、貴方の彼女に対する思いは、貴方の感情の暴走…それによって無理やり生み出された至福の時間…つまり、偽物の感情…だったと言う事よ」
「…」
ジューコフはその言葉に息を忘れてしまうほどの驚愕を…感じた。
「だからね、ジューコフ」
そんな硬直したジューコフに向かってベアトリーチェは何の感情も抱かずに呟いた。
「あきらめなさい、これはもう私たちの運命、定めなのよ…だから、早く元の…人を殺すことで満足できる、そんな人間に戻った方が、幸せだと思うよ…ジューコフ」
ベアトリーチェが何も灯っていないような眼で、ジューコフに問いかけるように言った。
「あ…」
ジューコフは両手で頭を押さえ、呻くしかなかった。
「…ねえ、真」
「ん…なんだ?」
一方此方はようやく合流を果たしたソラと真達、二人の間には、やはりと言うか何というか、気まずい雰囲気が流れていたのであった。
「その…」
ソラは言いづらそうに言った。
「…ごめん」
やはり言いづらかったのだろうか、小さな声でソラはそう呟いた。
「え?」
しかし、余りにも小さかったためか、真は再び聞いた。
「ぅ…ごめんって言ってるのよ!!」
ソラは顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。
「え!…え?」
突然のソラのその発言に、真は困惑しながら、ただただ驚いているしかなかった。
「私…今まで自分勝手だったのかも知れない…こんな寒い季節なのに、真を追い出したり、命の危険にさらしたりしちゃったから…」
ソラは真に頭を下げながら言った。
「だから、ごめんなさい」
「…」
「…」
ソラと真の間に、ちょっとばかりの沈黙が流れた。
「…はぁ…」
真はちょっとばかりため息をつきながら言った。
「いいってソラ、別に俺は気にしてないし、それに、いつまでもこの事を気にしてたら、ギクシャクしそうだし」
真は髪をいじりながら、何故か恥ずかしそうに言う。
「だから…そんなに落ち込まなくたっていいよ…ソラ」
真はソラの肩をさすりながら言った。
「ほうとう…」
ソラは真の顔を直視できないのか、下を向きながら言った。
「うーん…本当だよ、それに、元の世界にはお前と同じような奴もいたしな、だから…扱いなれてるっつーか、だから、そんなに気にしなくていいって、まあ、とりあえず、そんな事水に流すか、教訓にして、これからも一緒に旅をしようぜ、ソラ」
真はソラを諭すように言った。
「…ありがとう…真」
ソラは俯きながらであるが、今度は真を直視し、お礼の言葉を言った。
…いまだに作者の家のパソコンはインターネットに繋がっていない、お陰でまだまだ不定期更新になる昨今…
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