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VSジューコフ (後半戦)

「…どうすればいいんだ…これ?」

いきなりそんな、自らの頭の中に浮かんだ言葉を吐き出すように真は、背中にミミを担ぎながら、途方に暮れた感じにそう言った、因みにミミは現在、恐らく真によって手当てされたのであろうか、包帯でぐるぐる巻きにされてながら、真の背中でスースーと寝ていた。


「…なんで俺はこうも、怪我をした人に会うのだろうか?」

そう、真の目の前には、ダンジョンに入る前に見たことのある人物が、血をだらだらと流しながら、ぐったりと倒れていたのであった。

(…確かこいつら、あのドゥットルーズの女魔術師と、大男だよな、にしても悲惨すぎるな、精神が弄られてなかったら吐いてたかも…)

そう、真の前の間には、血だらけになりながら、倒れているラベルとボルトが居た。


(…とりあえず、応急措置をするか)

真は、何故か持ってきた医療器具を、何故か自分たちには一切使う事もなく、他の人たちに使うはめになると言う可笑しさに苦笑いしながら、リュックから救急箱を取り出した。


(それにしても、ミミもドゥットルーズの一員だったよな…一体ドゥットルーズに何が起きてるんだ)

真は自らの頭の中で起きたそんな疑問を抱いた。

「…分かるわけないか」

現状において、真が今現在において、ドットルーズに起こっている事など、分かるはずもなく、真はそう呟くのであった。

「…はぁー」

(女魔術師さんは、右腕がなくなってるし、大男の方は、微かに息をしているだけで、もはや言葉通りの虫の息だぜ、対して俺が持っている医療器具は、自分の部屋にあった救急箱かよ…)

「正直無理じゃないか?」


真は消毒液と、包帯を持ちながら呟いた。

(…まあ、やらないよりかマシか?)

真はそう思いながら、とりあえず一番重傷そうなボルトに向かって、歩き始めた。









「…へー、結構速いね…お嬢ちゃん」

ジューコフは目の前を走る少女に対し、自らと同じくらいに速度を出せるその速さに歓喜しながら呟いた。

ゴッ!!とソラとジューコフは凄まじい速さでダンジョンを駆け抜ける、その速さは、もはや、人間の域を超えていた。


「でも、逃げるだけじゃ俺は倒せないよ?そのまま、ずるずると体力が尽きていって、追いつかれるのが関の山なんじゃない?もう、疲れてきているみたいだしね…ふふっ」

侮蔑するかのように、ジューコフはケラケラ笑う。

「…ふん、疲れて来たのは貴方なんじゃない?まあいいわ、目的は果たせたし」

「な…?」

ジューコフはその少女の言葉に、何かしらの疑問と、長年の経験が騒ぎ始め、すぐさま、ジューコフはそれを元に、何かこの先に罠が有るのではないかと思ったのか、対トラップ用の探索マジックを実行した、しかし、そのような物はなかった…


「へー、ふふっ、なに強がっちゃってんのかな?この先には別に君が有利になりそうな魔術的要素もなさそうだし、トラップもなさそうだよ…そうか…負け惜しみを言いながら死ぬのんだね!!可哀そうに、ふふっ」


「…そういう言葉は」

バ!!

ソラは自らの服の中に、多量にあるダイナマイトを取り出し、ジューコフに向かって大量にばらまいた。


「あ?なんだこの棒?」

ジューコフが自らの足元にばらまかれたダイナマイトにそのような疑問を浮かべる。


「死亡フラグよ」

ソラは火系統の呪文を唱えた。


ドゴーン!!

と、ジューコフに対してばらまかれたダイナマイトが、ソラの火の魔法によって着火、大爆発した。


「よっと」

ソラは爆発寸前に、そばにあった大岩の陰に隠れ、爆発をやり過ごした。轟音と主に、大岩に爆風が駆け巡った。


(…よし!本当はダイナマイトで普通に攻撃してかったけど、相手との距離が近距離すぎて、私まで巻き込まれちゃうから、こんな風に、あらかじめ爆発を凌げる岩陰がないと使えないのが難点なのよね、魔法で防ごうにも、私の実力じゃダイナマイトを防ぎきれるような魔法は使えない…だけど…上手くいったわ、それに、いくらあんなに魔力がある奴でも、魔防はともかく、防御面では貧弱なはず、その点ダイナマイトは魔法なんて一切使っていないから、いくら魔防が高くても、防御が高くなくては防げない…完璧ね)

ソラは岩陰に隠れながら、自らの作戦の成功に歓喜し、ガッツポーズをしながらそう思った。




「ふ…」

しかし、岩の向こうから、聞こえてはいけないはずの声が聞こえた。

「…え?」

ソラはその声に、おそるおそる、岩陰からその声が聞こえた方向を見る



「ふふっ」

そこには、服がボロボロになりながらも、無気味な笑顔を浮かべているジューコフが居た。

「…」

(嘘…なんで)

あり得ない、幾らなんでもあんなの直撃すれば、死は免れないはずなのに…そう思い、ソラは絶句した。


「ふふっ、すごいね、まさか俺の強力な魔防をも貫く攻撃をすることができるなんて…俺感激したよ…」


ジューコフは所々ダイナマイトによる爆発によるものだろうか、傷き、血を流している自らの腕を舐めながら、にやりと笑った。


「でも残念だったな、ホント残念だったよ…そうだ!俺を感激させてくれた礼に、何故お前の攻撃を生き延びたかを…教えてやろう」

にやり、ジューコフは笑いながら言った。

「俺にはなぁ、ビョーシェ商人ギルドの期待の星とか、そんな素晴らしい称号をもらえてんだよ、まあ、別にそれはどうでもいいとして、それで、ロウンの奴がな、万が一そんな素晴らしい存在が、奇襲でうけて死んでもらっては困るって言ってな…」

ジューコフは懐から何かを取り出した。

「そこで、ロウンの奴はこんなものを渡してきたんだよ」

ジューコフは驚愕の顔を浮かべるソラに向かって、何かを掲げた。

それは、黒っぽい、木の人形であった、しかし、なぜか首はなかった。

「ふふっ、これが何か分かるか?そう、これは伝説の闇魔法で作られる身代わりの人形、樹齢100年を超える、闇の樹木から作ってな、そこに、人畜無害な子供100人分の血を垂らして作られたものだ…この効果は魔術師である、お前さんでもわかるだろ?そう、この人形は、あらかじめ身代わりにすると決めた人物に一度きりだが、死を代行させていただくことができる道具なんだよ、ふふっ、今頃僕の身代わりになって死んでくれた人は、突然自分の体が爆発して、訳も分からず死んだだろうね、ふふっ、ちなみに、誰に代行させたかと言うと…面倒だからな…言わないでおこう、まあ一つだけ、沢山の子を抱える貧乏で苦労人な親、とでも言っておこうか、ふふっ、そうさ、お前はこの俺ではなく、罪もない人間を殺した!!最悪な人間だな、おまえ、ハハハハ!!」


「…」

ソラはジューコフの話を聞きながら、なんて最悪な奴だと認識しながら、ジューコフが使ったアイテムに絶句していた。

(うそ…身代わりの人形って、Sランク級の魔法具じゃない、どうしてそんなものを…だけど、今はそんなこと考えている暇じゃない、さっさと、逃げて、ダイナマイトが使えそうな場所へ…)


「え…」

しかし、ソラは、自らが逃げようとした方向に広がっている光景を見て、絶句した。


「…うそ」

(…なんで、さっきまではこの先にも通路が有ったのに、なんで行きどまりになってるの)


そう、ソラの目の前には、あるはずだった通路はなく、ただ冷たい壁が有る、行きどまりであった。


「ふふっ」

ジューコフはそのことに驚いているソラは見透かしながら、不敵に笑った。

「お嬢ちゃん、どうせあの攻撃、威力が有り過ぎて近距離では使えないんだろ…ははっ、だから、爆発をやり過ごせるような場所でないと使えない…そうだろうお嬢ちゃん」

ジューコフはずばりそう言った。


「てことは、こんな風に移動ができないように囲まれてちゃあ、あの攻撃は出来ないんだよな!自分まで巻き込まれて死んじゃあ意味ないしな!」

ジューコフはソラにとどめを指すがごとく、そう言った。

「…さて、説明が終わった所だし」


ジューコフは楽しそうに叫んだ。

「狩りの始まりだ!!俺を楽しませてくれよ!!」



次の瞬間、呪文を唱え、ジューコフはこう叫んだ

「エアーカッター!!」

刹那…ジューコフの足元に、光る魔法陣が浮かび上がり。

シュガ!!

と、巨大な風の刃ががソラが隠れていた大岩に迫る


「ひっ…」

すぐさま、ソラは大岩から全速力で離れた。

ゴガガガガ!!

ジューコフの放った巨大なエアーカッタ―は、大岩を粉々に粉砕した。


(え…ちょっと…なにあれ、あり得ないでしょ、エアーカッタ―であの威力…)

ソラもエアーカッタ―を出すことはできるが、当然あれほどの物ではない、要するに魔力が桁違いなのである。


(落ち着いて、落ち着いて、今ある道具は…)

そう言ってソラは今ある道具を確認した。

(…レイピア一本に、ダイナマイト十本…ってこれだけ…)

ソラは自分の持っている道具の少なさに愕然とした。

(…あっそういえば医療具とかみんな真のバックの中じゃない…ああもう、付いてないわ…)

ソラは自らの不運にそう嘆きながら思った。

「どうしたお嬢ちゃん?さっきの棒みたいな魔道具を利用した、俺の魔防すらも貫く魔法攻撃はしないのかな?…あっそう言えば、近すぎて使えないんだったな、残念だよすごく!!」

ジューコフがソラを挑発しながらそう言った。


「…」

ソラはあたりを見渡した。

後ろはもう壁である、そして、目の前には、ダイナマイトでも使わなくてはとても倒せそうにないジューコフが陣取っていた、そして、ダイナマイトは、使うには近すぎて自分も巻き込まれて死ぬ、無理やりジューコフの横を通り抜けようとしても、その間に、足をエアーカッタ―で切断されて終わりだろうと、ソラはすぐさま横から強行突破すると言う自分の考えを却下した。


(真!!…いや…いくらなんでもそこまで都合よく助けには来てくれないか…)

ソラはふと、自らの相棒が助けてくれると言う可能性も考えたが、やはり都合が良すぎた。


(…どうしよう、私の人生詰んだんだけど…)

ソラはまさしく四方八方、隙間なく、もはやどうしようもない状態に追い込まれたのであった。


「ふふっ、どうしたのお嬢ちゃん、泣きそうだね…俺、そんなお嬢ちゃんを慰めたくなっちゃうよ」

おそらく、ただ単にエアーカッターで、ソラを殺しても詰まらないと思ったのか、何かソラを追い詰める様な言葉を考えながら、ジューコフは両手を上げ、口を三日月のごとく、にやりと曲げながら、そう言った


「…そうだ、お嬢ちゃん、確か、あのラベルの奴を助ける為に、命を捨ててまで、俺に立ち向かったんだよな」

ジューコフはそう言い、薄気味笑いを浮かべながら、自らが思いついた最高の行為を…次の瞬間、言った。


「それじゃあ、お嬢ちゃんを泣かせないためにも、あいつを殺さなくちゃなあ」

ジューコフは目の前の少女が絶望に顔をゆがめることを想像しながら、無気味にそう言った。

「…は?何言って」

ソラが分からないと言う感じに言う。

「実はな、お嬢ちゃん、俺は君が助けた奴に、ある特殊な毒を仕込んだんだ…」

ジューコフは、自らを楽しめる為、自らの心を満たすため、ソラを追い詰めるように言った。

「その毒はな…俺の意志によって、自由に強弱を変えられるんだよ、それこそ、何の害もない毒から、一瞬で死んでしまう毒まで、幅広く、なあ…」

ジューコフは自慢げにそう言った。

「…だからどうしたのよ」

ソラはそう言ったが、ジューコフの狙いがなんであるかなんて、すでに想像できていた。

「ふふっ、つまりだ」

ジューコフは言った。

「今すぐ俺はあいつを殺すことができるんだってことだよ」

ジューコフはソラに向かって、爆弾を投下した。


「…そんな信じれるわけ」

「おいおい、お前もあいつ等がドゥットルーズだってことぐらいしてんだろ?と言う事はだ、俺が何もしないまま、一応はAランクのパーティに襲撃すると思うか?せめて何かしらの対策ぐらいはして置く筈なんだけどな…」

「…」

ソラは沈黙していた。当然である、確かにそのような事をしていても可笑しくはないからである。


「さて…お嬢ちゃん」

ジューコフは言った。

「君の命なんて結局は、何にも価値なんてなかった事を、今証明してやるよ」

そう言って、ジューコフはすぐさま、ラベル、そして、ミミの毒を、即死に上げようとした。


「…うそ…やめ」

ソラは魔術師として、何かを感じ取ったのか、そう呟いた。

「残念」

ジューコフはそう言って、自らが思うだけで操作できる、自作性の毒を、なんの躊躇もなく、即死レベルまでに上げた、しかし…





「…あ?」

ジューコフは突如、そんなのんきな声を上げた。

「…」

「…」

ソラも何が起こったのか良く分からなかったためか、誰もしゃべらず、ただいたずらに、ダンジョン内に、沈黙が走った。

(は?何故だ?なぜ手ごたえを感じだない)

ジューコフは一応、前にこの毒を使い、人を殺した事が有るが、その時は何かしらの、人を殺したと言う、手ごたえみたいなのもの感じた。そのため、今この瞬間にでも、その手ごたえを感じてれるはずなのだが…


「…てっ手ごたえを感じないだと…」

ジューコフはあまりにもの予想外さに、呆然とそう呟いた。

(…まさか、あいつら毒を自力で浄化したとでも言うのか?)

ジューコフは、自らの毒のレベルを上げても死なないのなら、それしかあり得ないと思った。

「…どうしたの?手ごたえを感じないって、もしかして、失敗したの?」

ソラはこの危機的状況の中でも、一応自らを奮い立たせるため、そのようにジューコフを挑発した。

「…ちっ、小娘が、ふん、ああ、確かに毒は失敗したさ、認めてやるよ、だが…」

ジューコフはこう言った。

「だが、俺には毒以外にも、あいつを殺すことができるんだよ!」

そう言って、ジューコフは自らの足元に、魔法陣を生み出した。


「我が僕よ、我に仇なす敵を撃て!召喚!!」

ゴ!!と、ジューコフがそう言った後、足元にあった魔法陣は飛び散るように消え去った。


「ふふっ、お前も魔術師なら、この召喚術は知っているよな…そう、これは上級召喚術、モンスター召喚だ、さらに、ただモンスターを召喚するだけじゃあない、召喚したモンスターは、召喚主の僕となりうるのだ!このように俺は、予め自らの僕であるモンスターを召喚する媒体を設置しているこのダンジョン内なら、何処にでも俺の僕であるモンスターを召喚できる!ちなみに、あいつ等のもとに召喚したのは、ランクBのビックスライムだ、今頃、あいつ等溶かされて食われているだろうな…ふふっ」

ジューコフはそこまでして、ソラを絶望にたたき落としたいのか、上級召喚術でビックスライムを召喚した後、そう言った。


「…」

しかし、ソラにはある考えが頭に浮かんでいた、それは、ジューコフの毒殺が失敗したことである。そして、相棒の事を。

「残念だけど、そんなの召喚しても、あの人たちを殺すことはできないわ」

「…なんだと?」

ジューコフは言った。

「だって、貴方、さっきの毒殺に失敗したじゃない、と言う事はね…」

ソラは言った

「あの人たちの所には、きっと凄い人が、居るのよ、貴方の毒を打ち破り、ビックスライムを灰燼にする奴」

(そう、おそらく、真がね…)

ソラはそう思った。





(よし、痛み止めの薬飲ませたし、これでしばらくは安泰だ)

真の目の前には、包帯でぐるぐる巻きにされたボルトとラベルが居た。

ちなみにこの瞬間に、ジューコフが毒を即死レベルまでに上げるが、痛み止めの薬と言う、この世界にとっては未知の物質によって、まさしく、科学と魔術が合わさったような化学反応モドキを起こし、完全に解毒されてしまった、なんてこと、真は1ミリたりとも自覚などしていなかったのであった。

因みに、真は、ラベルの治療途中、どうしても治療のため、見なければならなかったラベルのパンツを見るてしまう時、なぜか、ラベルのパンツが濡れていたのを目撃したとかしなかったとか、そして、その事に何も感じなかった自分に悲しみを覚えていたり覚えていなかったりだとか…

まあそんなことは置いておいて、真はとりあえず、ボルトとラベルの治療を終えたのであった。


「…とりあえず、どうやって運ぶか」

真はすでに背中にミミを抱えている、正直言って、これ以上は無理である。これ以上背負えるほど、真の背中は万能ではないし、3人も背負える力もないからである。誰にでも分かることであるが。

「…」

真は、頭を抱えながら、この問題に取り組むしか方法はなかったのであった。


(なにかを召喚するしかないよな…)

因みに、現在の召喚数は1である、一応、1つ位は何か緊急事態のために取っておこうと言う、一応の備えとして、とっておいた物である。


「…リアカーでも召喚するか?」

真はこの人たちを効率よく運ぶためには、リアカーみたいなものを召喚するのが一番だと思い、そう呟いた。


「…」

真は勿体ないと思ったが、ではこの人たちを見捨てていくのか?と言われれば、NOなので、結局、超貴重な召喚数を割いて、リアカーを召喚することにしたのであった。

「山崎真が命ず、祖父の家にあった、リアカーを召喚せよ!!」

シュン!!と、真の目の前に、四角い箱型のリアカーが召喚された。


「…よいしょっと」

真は怪我を悪化させないように、ラベルたちを乗せて行った。


「よし、これいいか」

リアカーには、右にラベル、真ん中にミミ、左にボルトと、キチンと並べられていた。


「…はぁ、でも、脱出する前にソラ探さなくちゃいけないんだよな…どうすっかな…」

真がそう言ったその時!!


ズゴゴゴゴ!!!

と、突然天井が崩れ、それと同時に、砂嵐が巻き起こったのである。

「うおッ!なんだ?」

真はあまりにもの突然の事に、悲鳴をながら、襲い来る砂嵐から眼を守るべく、腕で眼を隠しながら、そう言った。


「…」

真は砂嵐が収まったのを確認し、恐る恐る腕を眼から放してみた、そこには…

「…スライム…ってデカ!!」

数十メートルはあろうかと言うスライムが居たのであった。

(…きもすぎるだろこれ)

真がそう思ったのも無理はない、なにしろ、数十メートルものなにか気味の悪い濁った青色の液体がうごめいているのである。恐らく普通では足がすくむほどのもである。

「…」

しかし、驚いてなんかいられない、真はとりあえず、このモンスターのステータスを見てみた。


ビックスライム

上級モンスター ランクB


HP 400

MP 40

魔力 0

攻撃 135

防御 27

魔防御 56

精神力 22

称号  なし

武術技 ?

現在地 シュートラスのダンジョン1F

装備  なし

道具  なし


「…ランクBだと…」

(おいおい、人面オオカミだって、ランクCのモンスターで、本来ここにいちゃいけないモンスターなんだろ、ランクBだなんて…なんだ?俺ってそんなに嫌われているのか?モンスターに)

真は何故か目の前に現れたランクBと言う格の高いモンスターの出現に戸惑いのついで言う感じに、訳の分からないことを思っていた。


ズズズズズズズ

しかし、相手は驚いている真の事なんて気にもせず、のっそりと、真に向かって疾走?してきた。


「…とりあえず、どうする?」

一瞬、ヘンリー銃で攻撃するか?と思ったが、幾らなんでもデカすぎるし、それに、スライムを倒すには、核を破壊する必要がある、なのだが、真はこのビックスライムから、核を探しきれないでいた、あまりにもでかすぎるからである。


「…とてもヘンリー銃じゃ手に負えねーな、それなら」

真はいままで、救急箱を取り出すことしかなかったリュックから、ある導火線がついた棒を取り出した。


「ダイナマイトの出番だぜ」

真はそれと同時に、ライターも取り出した。


「…よし、これくらい離れていれば、爆風を食らう心配なしと」

真は、自らの近代兵器操作術により、すぐさま、自らも爆風をくらってお陀仏と言う展開を避けるため、真が居るこの場所まで、爆発したダイナマイトの凄まじい爆風は届かないか、キチンと確認し。

「ボシュッ」

ライターを付け。

「ジュ~」

導火線に火を付けた。

「…」

真はスライムを観察する

ズズズズズズズ

と、迫ってくるその姿はなんだか水の壁の様であった、例えるのなら、津波をスローモーションで見ているみたいであった。

「…」

まあとりあえず、こんだけデカければ外すのが難しいくらいである、真はそう思った。


「…」

いまだ!!真はそう思ったその瞬間、その津波みたいなビックスライムに向けて、真は大きく振りかぶった。


「喰らえファンタジー!!これが科学の力だーーーー!!」

真はそんな、いつか言ってみたかった言葉で、そう叫びながらダイナマイトをビックスライムにスパーキングした。







「…」

(あれ…私…)

ミミは自分が寝かされたリヤカーの上で、薄っすらと、意識を取り戻した。


(あ…私、意識を失って…)

ミミは薄っすらと蘇る意識と共に、段々と、今までのことも思い出して行った。


(そうだ…私、ラベルさんたちと別れて)

ソラがそこまで思い出した時、ふと、ミミの右左両方の腕に、何かが当たった。


(…ああ、ラベルさん)

何にあたったのか、そう疑問を感じたミミは、動きにくい体に鞭を撃ち、とりあえずミミは左の方向を向いてみた、そこには、なにか長細い、布みたいな物で、ぐるぐる巻きにされたラベルさんが居た。


(あっ)

その時、ミミはラベルの体の異常に気付いた。


(う…腕がない)

そう、ラベルの右腕が、まさしくバッサリと切りとられていたのであった、幸いにも、長細い布のおかげなのか、そこまで出血はしていないみたいである。


(息は…しているみたいだね)

はぁ~と、心の中で、ミミはそんな感じに、一安心したように思った。


(次、右…)

ミミはラベルの安全を確認した後、今度は、右の方向を見てみた。


(…ボルトさん)

そして、右の方向には、案の定、ラベルの様に、体中長細い布でぐるぐる巻きにされていたボルトが居た。


「…」

(大丈夫みたいね…息も絶え絶えだけど、生きてる)

ミミは心の底から、ボルトとラベルの生存に、歓喜していた。


そして、同時に、ミミは今まで蝕んでいた腹の痛みが消えていた事に気づいた、そして、それを治療してくれた人の事も…


(ああ、もしかして、ボルトさんやラベルさんを助けてくれた人て…)

ミミはその人に見おぼえがあった。


そして、直ぐに、ミミのすぐ傍に人の気配を感じ、ミミは動くことが難しい体をフルに使い、自分どころか、仲間まで助けてた者の姿を見ようとした。


(ああ、私の勇者様)

そこには案の定、迷彩柄の88式鉄帽を被り、ボディーアーマーを来て、ヘンリー銃を担いでいる、真の姿が有ったのであった。

勇者がそんな恰好をしていると言うのは、実にシュールな光景だと思うのは作者だけなのだろうか。


と、その時


ズゴゴゴゴ!!!

突如、前にあるダンジョンの天井が崩れて来たのである。

(うっ嘘…もしかして)

ミミはこの現象をすでに見覚えがあった。

(くる!!)

ミミがそう思った案の定、あの時の様に、数十メートルはあるスライム、ビックスライムの姿が見えた、人面オオカミの姿は見えないが。

しかし、それだけでも、ミミは絶望した。



(うそ…よりにもよって、ビックスライムなんて…)

そう、人面オオカミ程度なら、体調が健全なミミでも倒せなくはない、しかし、ビックスライムとなると話は違う、ビックスライムの核は、ビックスライムの大きさに反して、とても小さく、それを特定して、集中的に破壊するの不可能と言っていいほど難しく、実質こいつを倒すには、高威力な技で、まるごと消滅させる、と言うのが一般的である、そのため現状のミミの強さでは、一気にこんなにも大きなビックスライムを、一撃で消滅させることなど不可能であり、自分ひとりだけで襲われたら逃げるしかないのである。


(どうしよう…幾らなんでもビックスライム相手に勇者様でも…)

そのため、ミミは幾ら自らの勇者的存在である真であっても、恐らくビックスライムには勝てない…そう思ったのであった。


しかし、勇者様はそのミミがどんなに頑張っても倒せそうにないビックスライム相手に、一ミリたりともひるむ様子もなく、それどころか、自らが背負っているリュックより、何かを取り出した。

(…あれは?先端に糸がついた棒?)

ミミは勇者様がとりだした物を見ながら、そう思った。


その時、勇者様はそれを取り出した後、次に何か良く分からない小さな透明な容器を取り出した。

そして、その小さな透明な容器の上の部分についている、なにか歯車みたいなものを指で回した、すると…

ボォ!!

と、透明な容器の上の部分に火がともった。

(…え…なんで?何で呪文を唱えていないのに、そして、魔力を全く使った形跡もないのに火がともったの?)

ミミはその自らの常識を根底から覆すような非現実的な現象に、そう思った。


だが、ミミがそんなことを思っていても、勇者様がミミのその疑問に気づいて答えてくれるはずもなく、テキパキと次の行動を起こしていた。


(…っ?糸の先端に火を付けた?)

ミミは真のその行為に頭に?を浮かべながら観察していた、どうやら、さっきの魔法の気配を全く使っていない勇者様の行為の事など、勇者様を見守ると言う行為の方が、優先順位が上なのか、すでに、頭のはるかかなたへと追いやっていたようである。


「…」

そして、勇者様はその、糸の先端に火を付けた棒を、大きくビックスライムに向かって振りかぶりながら叫んだ。


「喰らえファンタジー!!これが科学の力だーーーー!!」


「…」

ミミはその意味は良く分からなかったが、恐らく何かの魔術を使う呪文なのだと、ソラは認識した、そして…


勇者様がその糸の先端に火のついた棒を、ビックスライムに向かって凄まじい勢いで投げつけて、ビックスライムに衝突するかしないかと言う瞬間!!


ドゴーン

と、凄まじい暴風が、ミミを襲った。



「なぁっ!!」

ミミはあまりにもの突然の出来事に、悲鳴じみた声を上げながら、その砂ぼこり交じりの暴風から自らの目を守るべく、痛む手を酷使して眼を守った。


ぱらぱら…と、あの爆風により削られたと思わしき、ダンジョンの崩れやすい部分が、崩れている中、爆風の音がやみ、また、あの暴風も止んだみたいだと、ミミは思い、そっと手をどけ、眼を開けてみた。


(…え…うそ…)

そう、さっきまでそこにいた、ビックスライムは、跡形もなく、消し飛んでいたのであった。


(…)

ミミはその余りにもの凄まじい出来事に感銘していた。


そして、そのミミの目は、その出来事を起こさせた張本人である、勇者様へと注がれた。


(ああ、勇者様…ああ…)

そしてそのまま、ありがちな感じに、ミミはそのまままたもや意識を失ってしまったのであった。勇者真、罪な男である。リア充死ね!!




「よっしゃ!!」

みごとビックスライムを倒し、真は勝利に湧いていたのであった、まあそれは当然のことかもしれない、いままで、自らより大きな生き物戦闘など、おこなった事などなく、また、倒した相手が血の通っていない生き物であるビックスライムだと言う事もあり、初戦闘の時の様に、グロイことになり、自らの心と意志の違いによるテンションダウンも起こっていないため、今までと違い、勢いよくそう叫んだのである。


「さすがダイナマイト、最強、マジ最強!ダイナマイト万歳!!ノーベル万歳!!」

あまりにもの嬉しさに、そんなことを呟いていた真であった。















「…ふん、負け惜しみが…なにがそこまでお前を信じさせるのかはわからんが、どうせお前はここで死ぬ、そうだろう?お嬢ちゃん?それだけは変わらない」

話は戻って、ソラとジューコフの対決場面、彼らのトークは白熱していた。


「…それはどうかしら」

ソラは、この状況を打破するための時間稼ぎのため、ジューコフの性格を利用し、このトークを長引かせようとした。


「へー、具体的にはどのように?」

しかし、そんなことなどジューコフに浮かされたのか、ジューコフがそいった。

「…」

ソラは苦虫を噛むようにしながら、そんなことまだ考えてもいないので、沈黙していた。


「ふふっ、そうか、それはそうだよな、こんな状況下で逆転は無理だよな!」

ジューコフは沈黙しているソラに向かって、侮蔑じみた声でそう言った。


「それじゃあ…」

ジューコフは呪文を唱え始めた…


「たっぷりといたぶるか…」

ジューコフはその声と同時に、こう言った。

「エアーカッター!!」

ジュガ!!


「…ッ!!」

どうやらそのエアーカッターは元から当てる気もないのか、ソラが素早く避けるだけで、簡単に避ける事が出来た。


ドガガガガガ!!

と、巨大な魔力で作られた強靭なエアーカッターは、ダンジョンの壁に当たり、凄まじい音を立てながら、ダンジョンの壁を破壊し、自らも消滅した。


「…なんなの?どうして当てないの?」

ソラは、明らかに外す目的で放たれたエアーカッターに、疑問下にそう呟いた。


「ふふっ、良いかい、雑魚相手の戦いを楽しむためにはね、相手をいたぶる以外に方法がないんだよ」

ジューコフはまるでソラを諭すかのようにそう言う。


「だからね、俺は大体、雑魚相手にいたぶるために、ある事をするんだよ」

ジューコフは言った。


「まずな、こんな風に、狭い場所に追い込んで、逃げ道をなくす、そして、相手の体力をじわじわと削りながら、もはやあの様な、簡単に避けられそうな攻撃でさえ避けられなくなり、じわじわと殺していく…ふふっ、このいたぶり方の醍醐味はな…相手は最初こんなの簡単だ…と言う感じに避けて行って、そしてじょじょに体力が下がり始め…そして、ついに体力を限界にまで減し、もはやへとへとになるまで、これは続くのだよ…相手がもはや歩けなくなり、地面を張るその瞬間まで…その間の顔はな…本当に素晴らしいんだよ、まあ、別にお前にそんなこと分かるはずもないがな」


ジューコフはまるで、それこそが自らの至福の時であるかのように自慢げにソラにそう言った。そして、ジューコフの頭の中では、すでに、捕縛と言う言葉は消えていた…


「さて、地面にはいくつ張り…エアーカッターに手足を切除され、痛みにももがきながら死ぬがいい」


「エアーカッター!!」

ジュガ!!


「くッ」

ソラはすぐさまそれをかわした。



(…どうする、あいつに攻撃しても、私の魔法じゃすぐさま防御されて届くはずもない、なにか…なにか…あいつを食らわせれるような攻撃はないの?)


しかし、現状の所、ジューコフの防御を打ち破るような攻撃は、ダイナマイトしか思いつかず、結局のところ、なにも、なさないでいた。


ジュガ!!


(どうする…)

またもや、高い国力ならぬ、高い魔力を生かし、連続で撃ってくるエアーカッターを交わしながら、ソラは必至になって考えた。


(…そうだ!!相手を利用する、と言うのは?)

ソラは、ジューコフのあの凄まじいほどの残虐で、相手を侮蔑するようなかなり特殊な性格を思い浮かべ、そう思った。おそらく、あまりにも彼の性格が個性的過ぎたので、攻撃が無理だと判断したソラはすぐさまその事に注目したのである。


(でも…どう利用する)

その時、ソラの頭に、ある考えが浮かんだ…


「…ふふ」

にやりと、その自らの考えた計画によって生み出された、この状況下でも見事なまでの逆転劇に、ソラは笑った。





さっ

と、ソラはその計画を実行するべく、すぐさま、今までの相手のエアーカッターを避ける体制をくずし、眼を閉じ、姿勢を正しながら、自らの足元に、青白く光る魔法陣を生み出し、呪文を唱え始めた、それも長い呪文を…当然のことながら、そんなことをすれば、現在進行形で唱えられ、放たれているエアーカッターによって、次の瞬間体が真っ二つになっている可能性もあるが、ソラはその心配はないだろうと、すでに考えていた、なぜなら…


「…ほう」

ジューコフ言った

「なんだ?その呪文は?もしかして、俺に攻撃する為の呪文か?」

ソラを攻撃する為のエアーカッタ―の呪文を唱えるのをやめ、ジューコフがそう言った。


「ふっ…ふふっいいぜ、このままエアーカッタ―で殺してもつまらん、どうせならお前の最強の攻撃をこの俺に食らわせ、そして、その最強の魔法を、この俺様が完璧に防ぎ、それを見て絶望し、そしてそのまま、またエアーカッタ―から逃れる行為を続けることになるんだしな…ふふっ」


想定通り

ソラは呪文を唱えながらそう思った。


「さあ、来いよ!!」

ジューコフはそう言った。


「お前の希望を粉々にぶち壊し、絶望に陥れるためにも…」

ジューコフは言った。


「俺の心を満たすためにもよ!!」











ジューコフは目の前で足元に巨大な魔法陣を浮かべ、一生懸命になにか長い呪文を唱えている少女を見ていた。


「…チッ」

ジューコフはその少女の姿を見ながら舌打ちをついた。


(美しい…)


まるで川のように流れる青色のロングヘアー、空の様に美しく透き通る瞳、雪の様に白い肌…それを見ながら、ジューコフはその様に思ったのであった。


(だが…それ以上に)

ジューコフはその美しい少女を見ながらこう思った。


(憎々しい…)

と…


(…俺は…お前みたいなやつが嫌いだ…)

ジューコフの目にはその美しい姿は、何故か、黒々如く、憎らしく見えた。


 いままでジューコフは、基本的に別に女に対して、それほど特別な感情を抱いて等いなかった、そして、普通ならジューコフの様な年ごろには、必ずあるはずの、女に対する興味もなかった、興味あるのは殺す事だけ、ジューコフはいつもそのことでしか、自分は満たされるはずがないと思っていた。

だが、いつの間にか、それを根底から覆すものが有った、それは…恐らく人間としての性なのか、このように凄まじいほどに美しい少女だと、どうして無意識的に、何かを思ってしまう。


心の中に、自らも思っていないような、温かい何かを…殺す事以外で、自らが満たされてしまうような何かを…


その温かいものは、ジューコフが成長していくにつれて、大きくなっていった…


ジューコフはその自らの心の底から思い浮かぶその温かい何かに、憎々しさを感じていた、何故かと言われれば、それは、なぜか意識的に、自分には決して必要のない感情だと、ジューコフ自らが、自己防衛的に思っているからである。殺す事以外で自分が満たされてしまう事など、あってはならない、認めてはいけないからである。

しかし、それでも襲い来るこの温かさ…ゆえに、その温かさを生み出す少女が憎々しかった、それは、恐らく、ラベルにも言えたことであったのだろう…そして、自らと違い、この状況下でも希望を失はず、その希望を元に、一生懸命に呪文を唱えている姿が、より一層、ジューコフを憎々しく思わせていた。


ジューコフはこの、温かい何かを殺すためにも、目の前の少女を絶望に突き落とし、拷問じみた殺し方をしなくてはならなかった、それを怠れば、自らの何かが壊れてしまうと…自らは戦い以外で満たされてしまうと、そう思うからである、ジューコフはそのことをとても強く恐れていた。


(こんな、良く分からない物など…検証する必要もない)

ジューコフはまるで貝の様に、または駄々をこねる赤ん坊の様に、すでにそれはそれであると、決めつけている感じに、そう思っていた。



「さあ来いよ!!その憎々しい希望を、壊してやるからよ…」







「ラルイ…ソイジェレンド…」

ソラは呪文を唱えていた、その呪文は、この状況を打破する為の呪文であった、その呪文、と言うか魔法の名は、トルネード、竜巻である。


 ソラはもともと風系統の魔法が得意であったため、敵を吹き飛ばすくらいの風ぐらいはすることができた、だが、ソラが風系統の魔法が得意であったと言っても、トルネードと言う魔法は使う事が出来なかった、理由としては、単純に彼女の魔力が少ないと言う事と、具体的にどのように想像すれば、竜巻を生み出すことができるのか、全くと言っていほどに分からなかったからである、しかし、今のソラは違っていた…それは、異世界の科学的知識に基づく、竜巻の仕組みを想像することによって、みごと、竜巻を生み出す事に必要な想像力をカバーすることができ、なお且つ、その知識は、本来、ソラ程度の魔力では量的に到底生み出すこともかなわないはずの、竜巻を、この世界では考えられないほど効率よく、より複雑に想像したため、ソラ程度の少ない魔力で竜巻を生み出すことに成功するのである。


「…イル…」

ソラは呪文と共に、真や理科の教科書から学んだ、竜巻の仕組みを思い浮かべる。


「ソン…サブセクシェント…」

上昇気流、下降気流、空気の流れ、温度の差、それら異世界の科学的知識を、自らが放つ、トルネードという魔術に組み込める。


「…」

ソラは、ついに、呪文を唱えるのを終え、眼を開けた。


「トルネード」

ソラは淡々と、自らが作り出した魔術の名前を呟き、自らの足元に浮かんだ魔法陣がまるで、水滴が地面に落ちた時の様に、弾けた瞬間、トルネードを行使した。




「…おお」

ジューコフは驚きに満ちた様な顔でそう呟いた。


「すげーな、お前みたいなちっぽけな魔力で、トルネードを生み出すとは、予想外だな、それとも、何か特別な魔法具でも持ってんのか?」

ジューコフは、ソラの足元の魔法陣が飛び散るとともに生み出された、ダンジョン全体を覆うような、風の渦、トルネードを見ながら、歓喜じみた声でそう言った。


「確かに、お前の希望は凄いよ!なにせ、俺の感じるお前の魔力じゃあ、絶対に生み出せるはずのないトルネードを作りだすんだからな!」





「だが…」

ジューコフは言った。


「それ位のトルネードじゃ、俺を傷一つつけることはできない…」

ジューコフはにやりと笑った。

「俺の、得意系統は、風系統だ、これ以上のトルネードを生み出すことくらい造作もないし、さっきも言った通り、俺にかすり傷一つつけることですらかなわない」

ジューコフは、目の前に、迫りくる竜巻を見ながら行った。


「それどころかな…」

ジューコフは言った、それこそ、極上の獲物を見つけた、獣じみた笑みで。


「これ位の、トルネードなら」

ジューコフは少女にとどめを刺すがごとく言った。


「寧ろ、乗っ取ることだって可能なんだよ!!」


ジューコフは、いつの間にか自分の目の前にある竜巻を避けようともせず、そのまま、中心部に飲み込まれた。






ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


中心部で、ジューコフは顔つき一つ変えずに、竜巻の中心部に立っていた、普通ならそのまま、吹き飛んで行っても可笑しくないが、自らの高度な風魔法によって、それを阻止していた。


「それじゃあ」

ジューコフは竜巻の中心部分で、自らを傷つけようともがく様にジューコフに迫る竜巻を押しのけながら言った。


「自分が生み出した、最高の魔法を、更に強化された上で、くらうが良い!!」

その瞬間、ソラが生み出したトルネードが、ジューコフの膨大な魔力を生かした呪文により、次々と、自らの物となるように、上書きされていった…





「…」

ソラは竜巻の外から、竜巻の中心部分にとじ込まれたジューコフを見つめていた。


(来た…)

ソラはすぐさま、何かを感じ取った。

(私のトルネードが、次々と上書きされていく)

ソラはやはり、このトルネードを生み出した本人だからか、すぐさま、自らのトルネードが上書きされていくのを感じ取った。

 もちろん、その余りにもの、強烈な上書き力に、ソラのトルネードは次々と、ジューコフの物となっていく。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


そして、ソラのトルネードが、ジューコフに上書きされていけばいくほど、恐らく、ジューコフが竜巻を強めているのだろうか、どんどん強大になって行った、もはや、風の壁である。


(…よし)

しかし、ソラはその事を悔しがっていたり、混乱したり、あまりにもの出来ごとに取り乱したりもしていなかった。


(まさか、ここまで上手くいくだなんて…)

ソラは、一応、幾らなんでももしかしたら、この作戦は上手くいかないのではないか?とも思っていた時もあった。だが、勝つためにも、そのことを頭の隅に追いやり、この作戦を決行した。


(…もうそろそろね…)

ソラは、もはや自分が生み出した時より、倍以上は巨大になったトルネードを見ながら、心の中でそう呟いた。






「ふふっ…どうだい?自分の最高の魔術を乗っ取られ、更に、強化された気持は?自らの、希望が、自分に牙をむくその気持ちは!?なに?最悪?もう、生きてはいけない?絶望の淵に立たされた?何か言えよ、お嬢ちゃん!!」

ジューコフは、もはや完全と言っていいほど乗っ取ったトルネードの中心部分で、自らの憎々しい敵である少女の希望を壊すことができる事に、そして、自らの心が満たされることに、最高の歓喜を浮かべていた。



「言えよ!!お嬢ちゃん!!もう、お前は何もできない!己の最高の魔術であるトルーネードですら防がれ、自らが命を捨ててまで救ったラベルまでもが殺され、結局何も、することも、出来ることも、行動する事もできず、絶望のあまりに言えよ!!絶望に落ちた悲鳴を!!うろたえる様なその声を!俺は聞きたいんだよ!この憎らしい温かさを生み出すお前の、心の底から絶望の声が!ふふっ、言えよ!お嬢ちゃん!!」


ジューコフは、心の底から歓喜するように、そう叫んだ、すでに、彼の心の中に浮かんでいた、何かしらの温かいものは冷え切っていた。




「残念だけど」

しかし、その心を再び温めるかのごとく、希望に満ちた声が響いた。


「私は別に絶望になんて落ちていないし、これからも落ちることはないし、たとえ落ちたとしても、駆け上がれる、あいつが居る限り、私の心を支えてくれる、あいつが居る限り・・・」




次の瞬間、竜巻の中から、ダイナマイトが、内側にいるジューコフの足元に転がり込んだ。



「な…」

刹那…ダイナマイトはジューコフを巻き込みながら、大爆発を起こした…



「…」

走馬灯だろうか、すべての動きがゆっくりと動く光景を目にしながら、ジューコフ思っていた。

(…ああ、なるほど…こいつ、予め竜巻の中にこの良く分からん爆発する棒を仕込み、俺を閉じ込めた竜巻の中で爆発させることで、竜巻自体が壁となり、自らへのダメージを少しでも少なくしようとした上に、命中率まで向上させようとした、しかし、自分の竜巻では、壁が薄く、到底あの爆発を防ぐことはできない、ならば、自分より上の竜巻を相手に出させればいいじゃないか…てことか…まんまと引っ掛かったな…)

ジューコフは、何とか自らが覚えている防御魔法を総動員し、ダメージを防いでいた、しかし、それでも駄目なのか、腕は引きちぎられ、体中引きちぎられていった…


「…」

ふと、爆風の切れ目から、あの少女の顔が、ジューコフの目に映った、その顔は、終始笑顔だった、希望に満ちていた。


(なんでだ…なぜ、こいつはこんなにも希望に満ちあふれてんだ…今まで、俺が相手をしてきた奴なら、普通なら泣き叫んでるはずだろう?現に今までだってそうだったじゃないか、男だろうが女だろうが、最終的には泣き叫んで、死んでいった…なのに…なんで…)

ジューコフは自分を問い詰めていた…

(…一体…俺は何に敗れたんだ…こいつにか?それとも、油断しすぎた自分なのか…それとも、俺の心か?)

ジューコフは初めて経験する敗北に、少しでも、原因を探るべく、振り返るように今までの自らの行動を思い出していた、そして、ジューコフの考えは、今まで自分の中で、否定し続けていた、何かに、たどり着いた。



そう言えば…自分は拷問する時、一番長く時間をかけたのは、美人な女だったと言う事に…


(…なんだ?なんで、俺は美人な女ばかり、長々と拷問してたんだ…ラベルの時もそうだったしよ…もしかして、俺の潜在意識が、生かそうとしたのか?殺すのは惜しいと思っていたのか?心の中の温かい何かを求めてなんかいたのか?)


ボトリ…と、ジューコフの右腕が落ちる。


(…まさか)


ジューコフは思った。


(憎々しいとか、拷問したいとか…そんなの自分を維持する為の建前で…本当の俺は心中に宿る、温かいものを残そうとしていたのか?)

ジューコフは、自分より隠したの奴である少女に負けた事により、いままで否定するだけであった、自分の心の中になる温かい何かを検証する事が出来ていた。



(…ははっ)

ジューコフはそれを悟った瞬間、自分の心の中の温かい何かが、はち切れるがごとく、暴れ出した。爆風の切れ目から見える、少女の顔を見るたびに…



(…もしかして、俺はこいつに)


ジューコフは心の中でこう呟いた。


(恋を…しているとでもいうのか?)

ジューコフは、自らの頭の中にある、もっともいらないはずだった言葉を思い浮かべたのだった。





ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ…

「…」

いつの間にか暴風も止み、ソラは自らの敵が居た場所を見つめていた、そこには、焦げ付いた地面以外に何もなかった、肉の一片どころか、骨すらも…


「…はぁっ!!」

ソラは勢いよくため息をつきながら、たち崩れた。


「疲れた」

ぐったりと、ダンジョンの地面にそのまま寝っ転がりながら、ソラはそう呟いた。

















「…」

ジューコフは全身血を垂らしながら、少女から逃げるべく、ダンジョンの壁にもたれかけながら、逃走していた、防御魔術によって、なんとかこらえたのである。しかし、その格好は散々で、右目は裂け、右腕はなくなっており、右足の太ももの肉がすべてえぐり取られ、骨すら見えていた、立っていられるのが不思議なくらいである。



(…俺はここで死ぬのか)

防御魔術にすべてのMPを消費し、魔術は一切使えず、スライム等のモンスターに襲われれば、すぐさま、終わりと言うありさまである、ジューコフがそう思うのも無理はなかった。



(…ふふっ、俺らしくない末路だな…)


ジューコフはそう思いながら、立っていられなくなり、血だらけの手をダンジョンの地面に付けた。



「…ぅ…なんだこれ」

ジューコフは自らの目から流れ出る液体に気づいた。



「…そうか…俺にも、涙なんてあったのか…可笑しいな…」

ドサ…と、ジューコフは倒れ伏せた。















「…ドットルーズの男魔術師」



真は絶賛、3名の重症者を乗せたリヤカーを引きながら、自らの目の前で、凄まじい重傷を負っている男魔術師の姿を目撃していたのであった。


(…たく…いったい本当にドットルーズに何が有ったんだ?本当に)


真は目の前で倒れている男魔術師を見ながらそう思った。



「…分かるはずがないか、とりあえず、もはやパターン化した、治療を開始しますか」

と言うわけで、真は男魔術師を消毒液やら、痛みどめやらで、治療し、全身、包帯でぐるぐる巻きにした、勿論、顔も。


「…よし、乗れ!」

真はそう呟きながら、男魔術師をリヤカーに乗せた。

ドサッと、その音と共に、全身を包帯巻きにされた男魔術師がリヤカーに乗せられる。

「…さて、ソラを探すとしますか」


真はそう呟き、自らの相棒であるソラの元へと、ジューコフである事が分からないほどに包帯でぐるぐる巻きにされたジューコフをリヤカーに乗せ、また歩き出した。



余談だが、ソラがもはや話すのが面倒な程疲れていたためか、自らの身の上に起きた事を、ダンジョンを脱出し、4名の重症者を病院送りにした後、ホテルに到着するまで話さなかったらしい。そして、リヤカーの上でぐるぐる巻きにされたジューコフにも気づかなかったとか。





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