ドゥットルーズの危機
「はぁー」
「うん?どうしたミミ?」
一方、真がソラと離れ離れになっているころ、ドゥットルーズは地上へと歩き出していた、その途中、ミミが突然ため息をついたのである。
「あのね、ヨセフ…なんて言うか、私には出会いがないのよ」
ミミが何やら憧れるように、腕を組みながら言った。
「出会い?」
ヨセフが良くわからなそうに言った。
「そう、ヨセフは、私が伝説の勇者に関する話が好きだって分かっているでしょう?」
「ああ、ミミはそれを毎日読んでるからな」
「そう、そのお話の中で、何の関係もないとある平凡な女冒険者が勇者に惚れる場面が有るのよ」
「…ほう、どんなふうに惚れたんだ?」
ヨセフは恐らくその事を話したいのだろうと察し、気前良くそのことについて質問した。
「ふふっ、そう!そのとある女冒険者は、ダンジョンを冒険中に強力なモンスターに襲われ、危機に陥っちゃうの、勇敢果敢にその女冒険者は自らのパーティーと共に闘うんだけど、敗れてしまうの、仲間も瀕死の状態になり、このままではパーティー全滅まじかだと言う時!」
ミミはいったんそこで話を切り
「そこに彼女の目の前に、勇者が現れたの!」
ミミは腕を組みながらきゃーきゃー言い始めた、真に純粋な少女である。
「…なるほど、その勇者はそのとある女冒険者を助けて、で、その女冒険者はそれを気に勇者に惚れてしまったと…」
「そうなの、はぁっ!憧れるわ」
「…」
ヨセフはそのミミの様子を見て、なるほど、つまり、ミミは自らもそんな状況になり、勇者様に助けてもらいたいと、そういう願いが有ると言う事か…ヨセフは頭を抱えながらそう思った。
「…ミミよ、パーティーを引率する者として、現実知らせなくてはいけない義務があるからな、非情な事を言うが、そんなことはありえん、私は決してみんなが手に負えないようなモンスターが居る場所には行かせないし、例えそのような危機に陥ったとしても、パーティー総員で玉砕するだけだ、それに勇者なんて、一万年以上前の人物だぞ、居たのかも怪しい、そのような妄想にかかれて、パーティーを危機的な状態に落とすなよ」
ヨセフはミミに配慮しつつも、生粋なパーティーを率いる者として、とても現実的な事を言うのであった。
「…はぁ、分かっているよ」
ミミは、ヨセフのその話をきき、白けたようにため息をつきながらそう答えた。
「…なあ、ミミ、別に俺はお前の憧れを全否定しているわけじゃないんだ、俺にはパーティーを誰一人欠けさせてはいけない義務があるんだ、それに、お前にも出会いはあるさ、勇者なんかよりもずっと素晴らしい奴が」
「…確かに、それもそうね」
(ヨセフさんがそう言うのも無理ないしね…)
ミミは、ふとリーダーの顔を見て、何かを納得したように、そう思ったのであった。
「…そう言えばラテの奴は」
ヨセフが何故かラテの奴が見当たらないと言う感じに言った。
「ああ、ラテなら、確かトイレに行くってさ」
ラベルが言った。
「…そうか」
ヨセフはそう呟いた。
「…よし、ここらへんで良いな」
ラテはドゥットルーズが見えなくなったのを確認し、とある場所でそう言った。
「ソウ…ナウ…」
そして、突然ラテは呪文を言いだし始めた。
「我が、僕よ、我に仇なす敵を討て…上級召喚術…数多召喚!!」
ズゴゥ!
と…ラテの足元に、幾数学の魔法陣が生み出された。
「…ん?」
「どうしたの、ヨセフさん」
突然声を上げたヨセフに対して、ミミは疑問に思ったのか、戸惑いの声を上げた。
「…何か来る」
「え?」
ドゴォーン
と、突如ダンジョンの天井が崩れ、多数のモンスターが現れた。
「なっなに?」
天井が崩れる余波で、眼を開けてられなかったミミは、突然の事に混乱しながらそう言った。ミミ以外の者たちも、天井が崩れると同時に巻き起こる砂嵐に、眼をかばうように、腕を動かしていた。
「…あれは…ビックスライムに、人面オオカミだと…」
砂嵐がやんだ後、ヨセフの目の前に、崩れた天井と共に表れたのは、数十メートルはあろうかと言う巨大スライムと、胴体はオオカミで、首は人間の、オオカミであった。
「なぜ…ランクBとCのモンスターがここに…」
ビックスライムはランクBであり、人面オオカミはランクCである、とてもここで出てきて言いようなモンスターではない、と、ヨセフは思った、
「…しかも、大量にだと…ありえん」
そう、ヨセフの言う通り、見てみるだけでも ビックスライムは6匹、人面オオカミに至っては、30匹ぐらいいる…そして、これらのモンスターの姿に隠れてしまっているみたいだが、まだ他にもモンスターの気配が大量に感じるのであった。
「…ちっ何故このようなモンスター多数居るのかはわからんが、倒せない事はない」
そう言ってヨセフは自らが背負っている2メートルは有りそうな大剣を握る。
「覚悟し…ごほっ」
しかし、突然ヨセフは自らのはらわたに、まるで何十発もの殴るけるを受けるような、激痛が走った。
「なっなにが…何が一体」
その時、ヨセフは今までの冒険者としての長年の経験から、すぐさま思い至った。
「…まさか」
ヨセフは言った。
「遠隔操作で作動する、魔法毒薬でも仕込まれたとでも言うのか…」
ヨセフは、恐らく自分は気づかないうちに、朝食や夕食の際に、秘密裏に毒薬盛られていたのであろうと言う結論を出した。
「…」
ヨセフは周りを見てみた。
「がはっ」
「痛い…痛い…」
他の仲間にも同様の現象が起きているようだった。
「くっ…」
(そんな…一体だれかこんなことを…)
しかし、そんなことを考えている余裕など、なかった。
「「ブガッ!!」」
そんな絶対的に不利な状況下であるドゥットルーズの事情など、知らぬと言う感じに、モンスターたちが、ドゥットルーズに襲いかかった。
「ふふっ」
遠くから、聞こえるモンスターの鳴き声を聞きながら、ラテ…否、ジューコフは不敵に笑った。
「ふん、ただ殺すだけじゃつまらない、どうせなら意識が有る状態で、モンスターにかみちぎられろ、俺が手を出さずともな、それこそがお前らみたいな下衆に相応しい最期だ…、もっとも、今回の目的は殺しじゃなくて、捕縛だからな、今だけ、命だけは助けてやるよ」
ジューコフはそう不敵に笑った。
「死ね!!!」
ドバ!!
「「ギャぁ!」」
ヨセフが持っていた大剣より放たれた衝撃波は、彼らに襲いかかっていたモンスターたちを丸ごと焼き払った。
「よっヨセフさん…」
「みな、すぐさまダンジョンより離れろ、俺がこいつ等を…がっ…押さえておく…」
「しかし、ヨセフよ…」
「良いからさっさと行くんだ!俺を…俺をまた、パーティを全滅させてしまうと言う汚名を被せるつもりか!!」
ヨセフは怒鳴りながらそう言った。
「…」
「…わかったなら、すぐさま、俺を見捨ててこのダンジョンから即刻逃げろ!分かったか!!」
「…行きましょう、皆さん」
ラベルがそう言った。
「でも…ヨセフさんを…」
「今は…がはっ…そんなことを言っている場合ではありません、私もこの痛みでは治癒魔法や攻撃魔法を使えることはできません…邪魔になるだけです、それに大丈夫です、ヨセフなら、帰ってきてくれますって」
「…」
「ミミよ、行った方がいいと俺は思うでごわす」
ボルトもそう言った。
「…分かった」
ミミは、目の前で自分たちのために、痛みを持こらえて戦っているヨセフをみながら、力な下げに、そう言った。
「…ちっ」
ジューコフは悪態づいた。
「まさかヨセフの野郎があそこまでタフだったとな…やっぱりそのまま俺が捕まえた方が良かったか…時間がかかるな、しょうがない…逃げないようにそして、外からもしかしたら邪魔が入るかもしれない…ダンジョンを封鎖するか」
ジューコフはそう言った後、すぐさまジューコフは呪文を言いだし始めた。
「我が僕よ、我が敵を逃すな…」
ズゴゥ!
と…すぐさま、また、ジューコフの足元に、幾数学の魔法陣が生み出された。
「…あれ?」
真はふと、頭に湧きあがった疑問にそい、ふとそう呟いた。
「こんな所に壁なんてあったけ?」
真は自らの目の前にある壁を見ながらそう言った。
(ここは確か通路なんかが有ったはず、それとも、ついに俺にも認知症が進行してきたのか?)
真はそんなわけのわからないことを思っていた。
「…まあ、いっか…こんなファンタジー感あふれる場所だし、こんなことが有っても不思議はないか…」
真はそんな感じに自らを納得させ、そして、ヘンリー銃を今一度担ぎなおした。
「それにしても、ソラ…何処にいるんだ?ちくしょめ、携帯でも使えればな…」
真はそんな不可能なことを言いながら、目の前の怪しい壁から、離れていくのであった。
「はぁっ…はぁっ、くうぅ…痛い」
「大丈夫?ミミ」
ラべスがお腹を押さえながら苦しむミミを見ながらそう言った。
「大丈夫…ラベスさんだって、私と同じような状況下なのに」
「そうね、ぐっ…だけど、我慢しなくちゃ、ボルトは大丈夫?」
「ガハハハハっ大丈夫だ!俺は慣れて来たぞ!ハハっ…げごは!!」
そのまま、ボルトは腹を押さえながら倒れこんだ。
「無理をするからよ…ほら…早く行く…」
「グルルルルル」
その時、彼女らの言葉を遮るように、何者かの鳴き声が響いた。
「…あれは…人面オオカミ…」
ラべスが忌々しそうに、現れたモンスターの名前を言った。
幸いにも人面オオカミはこちらの様子をうかがっているのか、今すぐ襲いかかる気配がないという事だけが救いだった。
「まずいな…」
しかし、危機が去ったわけではない、ボルトがそのことを思い出させるかのように言った。
「あ…どうしよう」
ミミが心配そうにそう言う
「…ラベルよ、魔術は使えそうでごわすか?」
ボルトが何かを思い付いたのかそう言った。
「…無理よ、こんな状態じゃ呪文に集中できない、悔しいけど魔法を使うのは困難だわ」
ラベルが悔しそうにそう言う。
「…ミミは、どうだ?弓矢を使えそうでごわすか?」
「…うん、頑張れば…なんとか」
「…そうか、じゃあ二手に分かれよう」
ボルトはそう提案した。
「え…それはどういう」
「二手に分かれて、少しでも俺たちが生き残る確率を上げるでごわす、一つになって逃げても、どの道終わるんだ、なら、二手に分かれた方がいいのではないかでごわす。」
「…」
「一番戦えそうな俺は、ラベルと一緒に逃げる、ミミ、おまえは一人で逃げるんだ、分かっでごわすか?」
「…分かった」
「ッ!でもボルト、この子が一番幼…」
「大丈夫、ラベルさん、私頑張れるから」
「でも…」
「来たぞ!!」
「「ガ!」」
人面オオカミはすぐさま、彼らに襲いかかった。
「行くぞ、ラベル」
「ミミ!ミミ!」
ボルトはミミの名前を呼んでいるラベルを強制的に抱え、逃走する。
「…くぅ…」
ミミも、痛むお腹を押さえながら、打ち合わせ通りに、ボルトたちから離れるべく、別の道を使って逃避する。
「「ガルルル!」」
人間の形をしている顔は、まるで無表情で、無気味な顔しており、そしてその無気味な顔にある口から、30センチはあろうかと言うどろどろの唾液をたれ流しにする舌を出しながら、人面オオカミはそう叫び、人面オオカミもまた、ミミ、ボルト、ラベルを追うべく、二手に分かれた。
「…う…10匹も…」
そして、ミミの方には、10匹もの人面オオカミが追って来たのであった。
「…もう…真どこいったのよ…」
ソラは不機嫌なのか、地面を足で蹴りながらそう言った。
「結局スライムには逃げられるし、真とははぐれるし、ああ、最悪…」
頭を抱えながら、ソラはなんとなく、後悔していた。
「…確かに、私もちょっと調子に乗っていたのかも…はぁ、ストレス発散のためとはいえ、後先のことも考えずに…いや、そもそも私のストレスがたまったのも、あいつのせい…」
しかし、ソラのその言葉を遮るように、何者かの声が聞こえた。
「…ちっ、なかなか、奴らしぶといな、めんどいが、俺が直接手をくだすか…」
「ん?」
ソラは、すぐさま気づかれないように、姿を隠した。
「確か…捕縛対象に、17歳くらいの少年少女もいたんだっけ…まあいい、そんな奴らくらいなら、放っておいても、ここから脱出もできないだろうし、後で簡単にけりがつく、先にドゥットルーズを片づけるとするか」
(…なんなのアイツ…17歳くらいの少年少女って、もしかして私と真の事?…その可能性は低いとしても、ドゥットルーズを片づけるって…)
「…おっ!ふふっ、ここからなら、ボルトの奴と、ラベルの奴が一番近いか…ふふっそうだ、どうせならヨセフだけ捕縛しよう、その仲間も捕まえなくてはいけないと言う命令などはない、面倒だし、ヨセフ以外のドゥットルーズは殺してしまおう、ハハッ、さて、自らが味方だと思った存在に殺されるがいい…ふふっ」
そういって、ジューコフは歩き出した。
(…あやしい…つけてみますか…)
ソラはそう思い、ジューコフに気づかれないように、そっと、後をつけて行くのであった。
ヒュン
「ギャイン!」
人面オオカミの顔面に矢がヒットし、その瞬間絶命する。
「はっは…ぐっ」
ミミは走りながら、自らの得意分野である、弓矢を放った、体を蝕む痛みに耐え、見事矢を命中させるとは…ミミの凄さがうかがえる。
「ぐッ…えい!」
ミミはもう一度痛みに耐え、矢を放った。
ヒュン
「…ガゥ!」
カンッ
しかし、そうそう上手くは行かない、今度は外れ、空しく地面に突き刺さっただけであった。
「くぅ…次…」
ミミはすぐさま、次の矢を弓に掛けようとする。
だが、すでにミミと人面オオカミとの距離は、もはや絶望的と言っていいほど近かったのであった。
「ガブ!」
「きゃ!…」
ついに、一番近くにいた人面オオカミがミミのすぐそばに接近することに成功し、ミミの右足に噛みついた。
カンッカン…
ミミはあまりにもの痛みに、持っていた弓と矢を地面に落としてしまい、弓と矢は空しく地面に転がった。
「くぅ…」
ミミは、自らに噛みついている人面オオカミの顔を見た。
無表情のその顔には、なにか恐ろしい物がうかがえる、そして、その口元には、ミミの血だらけになった足が有った、そして、血だけではなく、噛む力が異常なのか、生々しいピンク色の内側の肉も…
「あああ!!痛い!痛い!」
ミミは襲い来る痛みに耐えながら、懐より短剣を取り出し、人面オオカミの頭にぶち指した。
ぐちぇ…
「ギャイン!!」
頭に短剣を刺された人面オオカミは、噛んでいたミミの足を手放し、狂ったようにのたうちまわった。
「はぁ…はぁ…」
「「グルルルルル」」
しかし、まだ人面オオカミは8匹もいたのであった、今は様子見なのか、人面オオカミたちはミミを四方八方を囲むようにして対峙していた。
「…うぅぅ…どうしよう…」
先ほどかまれた右足から、生々しい傷跡と、そして、大量に流れ出る血…そして何よりも襲い来る焼きつくような激痛、そしていまだに残る、腹からの激痛…あまりにもの痛みに、ミミは痛む足を押さえながら、いつの間にか意識が遠のき始めていた。
(う…意識が…)
ミミは自らの意識が遠のいていくことに気づいた。
(ああ…死んじゃうのかな…)
ミミは朦朧とする意識の中、そう思っていた、人面オオカミの牙には、なにか精神的な毒でも有るのだろうか、喋る事さえままならなかった。
ミミも今までに、モンスターに襲われ、無残な姿態となって発見された冒険者の遺体を沢山見たことが有る、中には下半身より上は、なかった遺体もあった。
(私も…あんな風に死んじゃうのかな…)
ミミはその、下半身より上はなかった死体の事を思い出し、恐怖を覚えていた。
「あうぅ…」
いつの間にかミミの眼元から、涙がこぼれ始めていた。
(嫌だよ…死にたくないよ…)
「グルルルル」
人面オオカミたちはもはや戦闘が不可能な所までミミが弱ったのを見切ったのか、徐々に包囲の輪を縮ませて行った。
(助けてよ…)
ミミは涙をたれ流しにしながら思った。
(助けてよ…勇者様…)
「グルルルル…ガッ」
ついに、一匹の人面オオカミが、そのミミの命を奪うべく、人間の形をしているはずの口を、もはや原型をとどめないほどに大きく開きながら、襲いかかった瞬間!!!!!
ダン!
と、突然、ダンジョン内に、そんな聞いたこともない、乾いた音が響いた。
「ギャイン!!」
ドサッ…ザザザザ
そして、そのダンジョン内に響いた乾いた音とともに、突然頭を撃ち抜かれ、瞬時に絶命した人面オオカミは、襲いかかろうとした顔のまま、地面に転がり、そのまま、動かなくなった。
「え…え…」
(え…一体どうして…)
目の前でミミを襲うとした顔のまま、死んでいる人面オオカミを見ながら、ミミは虚ろ下に、一体何が起こったのか、理解できなかった。
(…なに…え?)
他の人面オオカミも突然の攻撃に、戸惑った様子で、一体どこからの攻撃なのか、ミミを襲うことすら忘れ、混乱していた。
ダン!
「ギャイン!」
またもや乾いた音とともに、人面オオカミの頭に穴があき、一瞬で絶命する
(もしかして…)
ミミは、何とか今でも残っている思考能力をなし崩し的に、全力で使って、今起こった現状と、そして、その現象は何なのかを理解した。
「だれかが…助けに来てくれた…」
ミミはそう言った。
そして、ミミは遠くに、眼から涙が流れているせいか、ぼけていて良く見えないが、誰かの姿を見つけて、こういった。
「勇者様が…」




