第1話:マジでミスする5秒前
時計の針は二時を少し超えたあたりを指し示している。そんなおやつの時間もそこそこな放課後、閑散とした学校の中庭のベンチに、一人の男子高校生が座っていた。校舎で囲まれたそこは、昼休みになると飲み物を買いに来る生徒でごったがしたりするが、放課後は基本的に静かのものだ。
そしてお昼を過ぎたそんな時間であるにもかかわらず、陽の光は今日も燦々と大地に降り注いでいる。未だに木の幹には、何匹かの蝉達が忙しなくミンミンと鳴いている。たまに本などでは蝉達が輪唱している、といったような比喩表現が用いられているが、これはただの騒音に他ならないだろう。風流とか感じる余裕もなく、誰もが迷惑がっていることだ。しかしそんな中でもそうでない人もいる。その蝉を虫カゴに捕まえて家に持ち帰る小学生ぐらいの子供だ。結局その捕まった蝉達は大人によって自然に還されるか、そのまま放置された挙句死んでしまうわけだが、僕は思う。なんでそんなものが存在するのかと。
高校生二年生になった僕はつくづく思った。
外にいればじわじわと汗が噴き出るような天気。なぜもう放課後なのかというと今日は何かの都合上学校が短縮授業だったためだ。そして早く訪れた下校の後、このベンチに座っている。帰宅しない理由はあると言えばあるんだが、ないと言えばない。まぁあれだ、家に帰ったところで暇に変わりはないからだ。 僕はそんな暇を軽減するためにヘッドフォンを耳にかけている。しかしヘッドフォンは今に限ってつけているという訳ではなく、基本的に着けられる時はほぼ常にかけている。もちろん常時装備しているヘッドフォンからは音楽が鳴っていて、耳元からは安っぽいロックンロールが洪水のように流れている。たしか今聴いているのはセックスピストルズというバンドだ。僕みたいな人間が言うのは失礼かもしれないが、僕にはどうもそのバンドの良さがわからなかった。時代を感じるような古臭いメロディで、なにより当時の録音環境も悪いせいか、音がとても安っぽく聴こえた。しかしそれを再生して耳を傾けている僕がいる。別段嫌いというわけではないのだ。
そんな感じで、僕は一人で静かな放課後を過ごしている。一度鞄から小説を取り出し読もうとしたが、暑さのせいか集中できず5,6ページ読んだ辺りで読むのを止めてしまった。皆室内に入って読めばいいと思うだろうが、屋内にはまだ生徒が割と残っていてそこらでたむろしている。残念なことに友達の少ない僕は、その輪に飛び込んでいくことはできない。それに元々望んでいない。さてどうだろう。もしそんなグループに、誰も知らない一人の男子生徒が加わろうとしたら。…まず間違いなくその全員が戸惑うであろう。そして僕は避けるであろう。僕の学校での位置付けなんてそんなものだ。一度張られたレッテルは二度と剥がせない。社会で言うところの階級制度みたいなものだろう。僕<オタクの生徒<普通の生徒<チャラい生徒。つまりこんな感じ。考えたのは僕だけど。
僕はよくこうやって時間を潰すべく放課後に一人でこうしていることが多いが、これといって寂しいというわけではない。元々一人でいることが好きだからだ。そしてあまり自覚はしていないが、この場所は僕には落ち着く空間だ。
たびたび訪れるこのベンチは、放課後においては僕の指定席になっていた。
…にしても暑い。外で気温が高いのはもちろんだが、なにより日差しがつらい。太陽光線は僕の肌を黒く焦がすべく、じりじりと音をたてるかのように照らしつけてくる。そして太陽がモロに当たっている頭は、黒い髪が熱を吸収しているのかとても熱くなっていた。少し頭がボーっとする。そしてヘッドフォンも悲惨なことになっていた。まずそれ自体が熱くなっているということもあるが、ヘッドフォンと耳とが密着している部分が蒸れていて少し気持ち悪い。このまま放っておくとあせもになることが予想されるが、まぁ外す気はないのでその事については頭の隅において気にしないことに決めた。
手元が暇な僕は先ほど読むのを止めた本を取り出すべく、スクールバックのチャックを開け手を突っ込んだ。ガサゴソと音をたてて見えない小説を探すと、ろくに教材も入っていない鞄なので容易に見つかった。鞄から手を引っ張り出すと、黒い背表紙の本がぬっと出てきた。世間一般で黒い文庫本はホラー小説と決まっている訳で、もちろん僕のそれもホラー小説だ。こんな熱い時には怖いものを見て涼もうということで、僕は栞の挟まっているページを開けて、先ほどの続きを目で追った。
まだ小説序盤なため怖いシーンはさほどない。主人公の身辺でなにか悪い噂が囁かれているような段階だ。ページを捲ろうとすると、自分の手の甲から汗がふきだしているのに気づく。肉眼でも普段より毛穴が広がっているのが分かる。たびたび汗をYシャツの袖で拭いながら僕は本のページを一定のスピードで捲り続けた。決して怖くて汗をかいている訳ではない。汗をかくほど怖い小説があるなら紹介してほしいものだ。単に暑いからである。
そして僕は、数十ページ読み進めた辺りで人の気配に気がついた。
先生かまだ残ってる生徒の誰かだろうと思いながら少し黄ばんだホラー小説から目を上げると、二十メートル先の自動販売機の前に車椅子の女生徒がいた。たしか一年生だった気がする。前に一学年の教室のある廊下を歩いている時に車椅子の生徒を見かけたことがあったからだ。この学校唯一の車椅子の生徒なため記憶力の乏しい僕にでも深く印象に残っていた。そういえば下校の際に何度か見た事があった気がする。たしかその時は友達が車椅子を押したりして付き添っていたようだが、今は何故か一人だった。改めて意識して見ると、彼女はとても小柄だった。動物に例えるのなら子リスが一番近いのではないだろうか。
そんな彼女は車椅子であまり運動をしていないためか、体全体が細く派手に倒れれば大怪我をするんじゃないかと思うほどだ。性格は大人しそうな印象。髪は黒い髪の毛でセミロングだろうか。僕にはセミロングの基準なんてもの良く分からないが、とりあえずそういうことにしておこう。制服は規定通りしっかりと着用されているため、見たところ真面目そうな生徒のようだ。とりあえず僕の簡潔な人間分析が終わる。
じっと観察していると、彼女は(おそらく)ポーチから白い長財布を取り出した。そして抜き出した千円札を自動販売機に入れていた。その手がどうもぎこちない。…すると一瞬間を空けて、野口英世がふてぶてしい顔をしながら自動販売機から帰還してきた。
その事に気付いた彼女は、ボタンに伸ばしていた手を戻しもう一度それを自動販売機に入れた。彼女が少し警戒していると、またそいつは戻ってきた。3回目も例の如く野口英世はお札投入口からぬるりと帰ってきた。
そして彼女はお札を入れることを諦めたのかそれを財布に戻した。そして小銭を入れていた。『小銭あるんかい!』と、えせ関西弁を使いつつ心の中で突っ込む僕がいた。
いつの間にかページを捲る手が止まっていて、彼女の行動を追うことに集中している事に気づく。彼女はほっそりとした腕をボタンに伸ばした。腕を上げた事に事によってYシャツの袖が捲れる。そこから白い二の腕が覗いた。別にドキリとはしてないぞ。もう一度言う、ドキリとはしてないぞ…おそらく。
やはり運動はほとんどしていないようで、こっから見た感じでもあまり肉がついてないことが分かる。元々細いのかもしれないが、どこかに思い切りぶつければ折れてしまいそうなそんな気がした。
ここで少し違和感。彼女はなにやら腕を思いっきり伸ばしていた。僕のいるベンチからでも分かるほどに、右手の指先がピーンとまっすぐ伸びているのだ。しかしその指は欲しいだろう飲み物のボタンにわずかに足りてないいなかった。というかあの飲み物はなんだ?…ん。甘酒?なんでそんなものがあるんだ。僕は初めてその存在をした。そもそもなんでそんな物があるのだろうか。まるで生徒に飲酒を推奨しているようではないか。いや…でも甘酒のアルコール度数なんて1%ぐらいなわけだし、たかが甘酒のわけだし…。色々想像した挙句、僕は考えることをやめた。
彼女は勢いをつけボタンを押そうとしていたが、その手は中空を彷徨っているだけでボタン下の何もないところを押していた。彼女の必死さは後ろ姿からでも窺えた。なんだかさっきの野口リターンズといい、今のこの状況といい、だんだん彼女がかわいそうに思えてきた。もう少し見ていたいという気持ちもあったが、そうもいかないみたいだ。僕の良心が痛む、始めからそんなものなんて無いのだけれど。
僕は読んでいるページのところに栞を挟んでベンチの空いているところに本を置いた。さっきまで本を曲げて読んでいたためか、表紙がピロンとなっていた。言って意味が分かるだろうか。そして今まで座っていたベンチから、僕は重い腰を上げた。
ポケットに音楽プレイヤーをしまいながら彼女の元に歩み寄った。中庭は変わらず閑散としており、僕たち二人しかいなかった。さっきまでヘッドフォンごしでも聴こえていた蝉の鳴き声は僕の耳には入っていなかった。
カツン。カツン。_________いつからだろう?僕がこうやって独りになる事を好むようになったのは…。
カツン。カツン。_________初めからだったかもしれないし、そうでないかもしれない。
カツン。カツン。_________なぜ僕が自分から足を踏み出して、この車椅子の女生徒に歩み寄っているのかはよく分からない。それを聞かれれば「なんとなく」と答えるだろう。その程度の気まぐれだ。
…でもそうじゃないのかもしれない。
彼女は足音で気づいたのか、僕が後ろまで来た辺りで首を勢いよくぐるっと回した。後ろを向いたと同時に彼女が一瞬何かを口走ったような気がしたが、僕はとりあえず先程彼女が手を伸ばして押そうとしていたボタンを押した。直後、ガコンという音と共に、取り出し口に甘酒と書かれたスチール製の飲み物が出現した。今気付いたがHOTだった。季節的に需要があるのか?と疑問に思いつつ、それを腰を屈めて手に取った。僕はそれをキョトンとした表情の彼女に差し出した。それを受け取った彼女の口がまた動いたが、読唇術など心得ていない僕にはなんて言ったのか分からなかった。少し彼女は困惑気味な感じがしたが、役目を終えたとばかりに僕は体の向きを180度反転させた。あまり関わるのもあれだと思い、僕は何も言わずその場を後にしてベンチに戻ろうとした。
_______が、体が何かの引力に引っ張られた。後ろを見ると車椅子の彼女が僕のYシャツの裾を、ちょんと引っ張っていた。そして残ったほうの手を口元に添えて軽く俯いている。その仕草がなんというか、とても可愛かった。…いや決して勃ってないですよ。息子とか反応しませんから。ただこういう状況初めてなもんで。
僕はヘッドフォンを耳から外して首にかけた。すると彼女のたどたどしい声が耳に入った。
「あ…あの、買おうと思ってたのそれじゃなくて…こっち…です」
点
点
点
まる
『ですよね〜』という言葉が僕の頭の中で反芻する。そりゃこんな暑い中、こんな可愛らしい女子高生が放課後に一人でHOTな甘酒なんて買いませんもんね。目の前では彼女が申し訳なさそうに別の飲み物を指差しているが、目から入ったその情報が頭でうまく処理されていない。今頭の中では人生で最大の罪悪感が現在進行形で増大中だ。良いことをして何事もなく立ち去るという、漫画の主人公のような事をするつもりが、とんだ失態を犯してしまった。僕はこの瞬間現実は本とかのようにうまくいかないことを悟った。今の僕は人様のお金を無駄に使ってしまったとか、罵声を浴びさせられていないだけマシ、とかそういったことを考えられないでいた。完全に冷静さを失ってしまっている状態だ、こうなってしまうと発する日本語すら危うい。
「…ごめん」…って違うだろ。もっとしっかりと謝るべきだろ。あ、え、うん?何を喋ればイインダ?
頭はまったく使い物になっていないが、唯一正常である体で弁解を試みる。とりあえず手をバタバタと横に動かす。ついでに首も横に振ってみる。結果意味が分からない。一瞬思考が回復した僕は、とりあえずお金を返すべく後ろポケットに入れてある財布を手をを突っ込んで取り出した。それに気付いた彼女があわてて言う。
「えっ、あ、いや、お金とかいいですから。大したことありませんし。そんな気にしなくていいんで。でも私、急に甘酒飲みたくなってきたなぁ〜」
最後のほうが完全に棒読みだったような気がした。
「いや、でも120円だってがお金はお金でしょ。ほんとごめんなさい」
「ほんとに大丈夫ですんで!」彼女が手をブンブン振った。僕も相変わらず手を振っているため、傍から見れば奇妙な光景であろう。
そんな事を数回繰り返したが状況は変わらなかった。もはや彼女の方は拒絶に近いものになってきている。このままだとずっと無限ループを繰り返しかねない気がしたので、僕はとりあえず会話を途切れさせた。そして半ば彼女の制止を振り切るような形で、先程彼女が指差した飲み物を購入した。さっき買った時と同様に、またガコンという音をたて飲み物が現れた。
飲料名:ドクターペッパー。一部から絶大な支持を受けているが、あまり好きな人はいない。ほんとにこの学校の自動販売機はどうなってるんだ。改めて見ると、需要のなさそうな飲み物ばかりだった。
「じゃあこうしないかな? その間違えて買った飲み物とこのドクターペッパーを交換って事で…」我ながらまともの事を喋った気がした。
「交換ですか…。まぁそれなら」
彼女は納得したような顔で頷き、甘酒とドクターペッパーを交換した。分かり切ったことだが甘酒はやっぱり温かかった。
この時僕の心臓は今までにないぐらい全身に向けて大きく脈打っていた。理由は分かり切っている。女の子とこうやって会話をすることが滅多にないからだ。もしかしたら高校に入って初めてかもしれない。否、中学校からだっただろうか。僕は罪悪感ととともに彼女に対して恐怖のようなものを少し感じていた。
「あの〜…大丈夫ですか?私あんまり気にしていないんで、そう落ち込まないで下さいよ」
彼女が不意に話かけてきた。甘酒を握りしめた手がピンクと跳ねる。
「すいません…」
居心地の悪くなった僕は逃げるようにしてその場を去ろうと、体の向きを反転させた。するとまた彼女がYシャツの袖を軽く引っ張った。
「迷惑じゃなかったら、ちょっとそこでお話しませんか?」ベンチを指差した。
「え?…あ、うん」
僕は流されるようにして首を縦に振った。この時まだ脳の機能停止中。そしてそのまま ベンチに向かう。後ろには赤ラベルのペットボトルを膝に置いた彼女が、両手で器用に車椅子を動かしてついてきた。 なぜかとても不思議な気持ちだった。僕がベンチに腰をかけると、彼女はベンチの横にピタッと車椅子をつけた。
「なんか悪いですね。結果的に買って貰っちゃいましたし」
「いいよ。いいよ。間違えたのは僕だし…」
学校のベンチとはいえ、高校生の男女が二人っきりでお話をしているという状況が、僕にはいささかきつかった。もしこの場所を誰かに見られたら変な噂をされるんじゃないか、とかいった妄想を繰り返していた。相手のことを考えてというわけでない。僕は保身的で、結局自分のことしか考えていなかった。
「でも、あれですよね…。私がボタンに届かなかったから、それを見て押してくれたんですよね?」
彼女は続ける。
「それってとってもすごいことですよね。今時そういう優しさっていうか…なんていうか、そういうことしてくれる人とかっていな______」
「違う」
彼女の言葉を遮り、僕は鋭く言った。それはとても短く発せられ、一瞬空気を固まらせたかのように思えた。
「違くないですよ。だって」
「だってとかそういうのじゃなくて違うんだよ。僕の優しいなんてものはまやかし、気のせい。例えを出すとすれば、もし君がどこかのお店に入ったとする。そしてそこで探しているものが見つからない時に、それを察した店員さんが優しくその場所を教えてくれる。…僕のやってる事はそんなことなんだよ。ましてや僕何か、その教える場所すら間違ってるわけだけど」
こういう時に限ってすらすらと言葉が紡げる。考えてもいないのに、口が勝手にそう動いた。暑さで僕の頭はおかしくなったのだろうか?違う。僕の頭は元々おかしいんだ。こんなどう見ても人畜無害そうな可愛らしい女の子に対しても、拒絶の言葉を投げかける。もはや逆ギレに近い。
「私はただ、優しいって思ったからそう言っただけです。自分をそんな風に言わないで下さいよ…」
「僕から言わせてみれば君のほうが十分優しいよ。放課後に一人でボーッとしているような気持ち悪い奴と一緒に話してくれてさ」
また僕は自分を蔑む。考えれば考えるほど自分を卑下することしか思いつかない。長い事こうやって人と会話をしていなかったせいなのか、僕の感情は濁流のように流れ続けていた。
「だからそうやって自分を悪く言わないでくださいよ。あ、さっきの事とか気にしてるんですか?それなら私は全然大丈夫なんで。ほんと」
少しオーバーリアクション気味に彼女は体を使い言い表す。
そして何を思ったか、彼女は膝に置いてあるドクターペッパーの蓋を開け、口に付けた後にそれをぐいっと傾けた。その角度ほぼ90度。ペットボトル内にボコボコと気泡が流れ込む。そして一気に半分ほど飲み干した。とても喉が渇いていたんだろうか。しかし何故このタイミングなのだろうか。
「とりあえず、そういうことは置いといて」
見えないなにかを右から左へ移動させる動作をした。そして一息ついた後、彼女から突拍子もない言葉がでた。
「えっと…お趣味は?」
何かの気遣いだろうか?急に話のトーンが変わり、お見合いのような雰囲気に早変わりした。
「趣味ですか?なんだろうな…」
一応真面目に考えてみる。さっきまではすらすらと言葉が出たのに、こういうの時は頭をフル回転させない限り会話が続かない。
「読書を少々…」
「そうですか。本の方は特にどういったものを?」
「もっぱらホラー小説ですね。特にそういった短編ものが好きです。あ、でもたまにミステリー系も読んだりするのかな」
好きな事の話のせいかまともに喋れた。というか間髪入れずに答えてしまった。さっきまでの負の感情を抱いていた僕がいつの間にか影を潜め始めている。
「私は小説とかってあんまり読まないんですよね。ホラーとか怖いのもちょっと苦手で。そういえば音楽も好きなんですか?」
「音楽?」
「はい。ヘッドフォンとかしてるし、よっぽど好きなのかなぁ、と」
僕は首にかかっているヘッドフォンに手をかけた。さっきまでまるで気にしていなかったが、ずっと音楽鳴り続けている事に気づく。
「音楽は好きですよ。けど最近の曲とかはあんまり分かんないかな」
「そうなんですか。私も最近の曲とか分かりませんよ。ちなみにどんな曲とか聞いてるんですか?」
彼女の顔がぱあっと明るくなった。遠くで眺めていたより近くの方がなお一層可愛かった。そのためか少し緊張する。
「70年代ロックとかそういうやつを…」
「へぇ…それって何年前ですか?」
そりゃ70年に決まってるだろ。ってあれ?違うか。今2010年だから40年ぐらいか。この娘は天然さんなのか?
「…そっちってどういうの聞くかな?」
彼女の質問を華麗にスル―しつつ質問を質問で返す僕。
「石川さゆりさんとかかな。あれですよ、津軽海峡とかの」
「へ、へぇ…」
何故演歌?古いとかそういう問題じゃないぞ。そりゃ国民を代表する演歌歌手だし、そりゃ分かるけどさ。話せば話すほど彼女のキャラが掴めなくなってくる。
このままだと話がずっと噛み合いそうにないため僕は話をすりかえた。
「そういえばなんでこんな放課後に飲み物なんか買ってたの?」
「ちょっと喉が渇いたんで」
たしかに喉が乾いたら飲み物を買うだろう。正論だ。
「あと、今日ってひとり?いつも友達と一緒だった気がしたけど」
彼女の表情が一瞬固まる。さっきまでの笑顔が3割ほど減少したような気がした。僕に至ってはほとんど笑顔なんて作れてない訳だけど。
「その…色々あって。…あ、そうだ」
なにかを思いついたようだ。ついでに手をぽんと叩いている。動作が少し昭和チックだったが、可愛いからよしとしよう。
「もしよかったら…一緒に帰りませんか?」
皆さん。この気持ちがお分かりになられるだろうか?某古本屋で本を購入する際、経済面を考えて100円で何冊か本を買おうとした。レジで会計をしようとした時に、その事実に気づいてしまう。100円の値段の本の中に1冊250円が混じっているということに。そういう事態を経験した事の無い方でもこういう時に咄嗟に出る言葉って大概決まってますよね。
では、手短に言ってみましょう。さんはい。
「は?」
数話程度書き溜めているので、しばらくは安定して投稿出来るかと思います。
第1話もそうですが、一話分の長さが安定しない事が多いかもしれません。
もしかすると誤字や脱字があるやもしれませんので、発見した際はコメントして頂くと助かります。
では、スローペースながら話を少しずつ盛り上げていこうと思います。
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