第5話
トンネルのような空間を抜けた先は変わらずダンジョンだった。
しかしそこにいる人々は黒髪が多く装備もラキナとは違っていた。
多くの人は金属製の防具やナイフを持っているが明らかに戦闘慣れしていない雰囲気が漂っている。
さらに驚いたのは壁際にある施設だ。
自動販売機と思われる機器が並び、電子掲示板には『ようこそ!兼六園ダンジョン探索者ギルドへ』と表示されている。
周囲の視線が自然と集まり始める。
地球人スタッフが慌ただしく対応に追われる中、明らかに只者ではない雰囲気を持つ私たちに好奇の目が向けられていた。
「あれ、あの服どこのものだろう?」
「すごい美男美女じゃない?ラキナの人達?」
「お姉さんたち超綺麗……モデルさんかな」
ひそひそとした会話が聞こえてくる。
「これが……地球のダンジョン……」
マリが呆然と呟いた。
カイトが眉根を寄せ、目を凝らして看板を読む。
「兼六園……ダンジョン探索者ギルド……って書いてあるけど。一体どこなんだ?」
私は二人の肩に手を添えた。
懐かしいはずなのにどこか違和感を覚える光景だ。
「私がいた場所とは地域が違うけど……確かに日本っぽいわね」
掲示板の上部に貼られたポスターを見る。
『石川県金沢市 兼六園ダンジョン探索者ギルド:開設14周年記念イベント開催中!』
「兼六園って……確か金沢市の有名な庭園よね?」
私の記憶がゆっくりと蘇ってくる。
中学の修学旅行で訪れたことがある。
大きな池に映る松の枝と四季折々の美しい情景が瞼に浮かんだ。
カイトとマリは壁一面に貼られたポスターを眺めていた。
「ママ、あれ読んで」
マリが指さす掲示板には、
【ラキナとの交流促進プログラム始動】
・相互文化交流イベント開催予定
・ラキナ出身者の探索者カード特別入国査証制度制定
「私たちも入国できるって事かな?」
マリが自信なさげに言う。
カイトは冷静に続けた。
「つまり母さんが日本に戻っても合法的に入れるってことだな」
私はそれを聞いて頷く。
「うん、そうだね。不法滞在にならなくてよかったわ」
私たちは再び歩き出す。
ダンジョンを出てギルド内へと向かった。
兼六園ダンジョンの出口を出て探索者ギルドの建物に入った瞬間。
私は突然、奇妙な違和感を覚えた。
何かがおかしい。
懐かしいけれど、どこか不自然な感じ。
探索者ギルドに張られたポスターを見ると、
〈北陸新型魔道列車開通!金沢~東京間 1時間30分〉
日付を見ると『2055年3月』と書かれている。
「2055年……?」
私が異世界転移したのは2035年のはず。
それから地球では20年しか経過していないことになる。
「どういうことなの……まさか……時間がズレている?」
「どうしたんですか、母さん?」
カイトが訝しそうに尋ねた。
私は言葉に詰まりながら、推理を口にする。
「私が……220年前に地球からラキナへ転移したとして、それが本当なら地球は今、2255年のはず……。だけどここはまだ2055年。しかも時間の流れはラキナも地球も同じ……つまり……」
私は今ある情報を元に結論を出した。
「私が飛ばされたのは過去のラキナなのかもしれないわね」
「なるほど……」
カイトがゆっくりとうなずいた。
「つまり地球から200年以上前のラキナに飛ばされたってことですか」
「そうなるわね」
私は少し感慨深げに目を細めた。
「でも逆に言えば、私の実家や友達がまだ生きている可能性が高いってこと。それはちょっと嬉しいかも」
マリも興奮したように手を叩く。
「じゃあ私達のおじいちゃんおばあちゃんが居るかもしれないってことだね!」
「うん、そんな感じ」
私は優しく微笑んだ。
「明日はまず実家があるかどうか確認してみるつもりよ。その後のことは様子を見て決めましょう」
しばらく探索者ギルド内を散策しギルドでラキナのお金と日本のお金の両替を出来ることが分かり両替していると、お腹が減って来たので私たちは探索者ギルド内の食堂へ行くことにした。
メニューには和洋折衷の料理が並び懐かしい香りが鼻をくすぐる。
「お昼は何を食べようかな」
カイトが掲示されたメニューを熱心に眺めている。
「私はお蕎麦が食べてみたい」
マリが期待に目を輝かせながら答えた。
私も賛同しながら言った。
「そうね。天ぷら蕎麦なんてどうかしら」
カイトは少し迷いながらも決断した。
「じゃあ俺は……豚生姜焼き定食にしてみる」
席について注文を終えると三人は窓際の席に腰かけた。
しばらくして運ばれてきた料理を見て私は懐かしさで胸がいっぱいになった。
「いただきます」
三人揃って箸を取る。
まずは温かい蕎麦から口に運ぶ。
喉越しの良さと出汁の風味が絶妙だ。
次に海老の天ぷらに箸を伸ばす。
衣はサクサクで身はプリプリとしている。
私は一口食べて目を閉じて味わった。
「やっぱりおいしい……」
マリも小さな口で一生懸命食べている。
「すごくおいしい!」
一方でカイトは勢いよく定食を平らげていた。
米の一粒まで大切に噛みしめているのが見て取れる。
「豚の脂身と生姜のバランスが絶妙だな」
食事を食べ終わったタイミングで私は提案した。
「スーパーで食材を買って帰りましょう」
近くのスーパーマーケットへ向かった。
店内はラキナの市場と違って整然と商品が並べられていて私は新鮮な気持ちになった。
「醤油やみりんやお砂糖もあるわね」
棚を確認しながらカートを押す。
マリは嬉しそうに手を振る。
「お菓子コーナー!行ってみたい!」
「お酒も買いませんか?」
カイトが提案する。
買い物を済ませて大量の袋を持ち店を出ると人通りの少ない路地に入った。
そこで私は周囲を確認したあと収納魔法を使い買った品々を全て仕舞う。
「これでよし」
満足げに言う。
「さてと……今日のところは一旦ラキナに戻りましょう」
「そうですね」
マリが同意した。
「お母さんの手料理が食べたい!」
「そうだな」
カイトも賛成した。
「家に帰ったら作ってあげるからね。それにしても地球に繋がってるなんて夢みたい」
三人は転移門を通ってラキナへと戻っていった。




