第26話
ギルド内のショップエリアに向かい、どんな物が売っているのか確認しながら歩いて行く。
途中、人だかりの中に見覚えのある姿を見つけた。
低い背丈と豊かな髭、ラキナの鍛冶工房でよく見るその特徴的な容姿、そして見覚えのある顔、私の義息子であるドワーフのクルトだった。
彼は熱心に陳列棚の商品を覗き込みながら独り言を呟いていた。
「……ふむぅ……やはりどれも大した代物ではないな……」
「品質も均一すぎる……量産品ばかりで手作りの温もりがない……」
「鉄製の刃物がほとんど……ミスリルどころか鋼さえ見当たらんとは……」
どうやらクルトは地球の武器防具を見に訪れているようだ。
私は近づいていき、背後から声をかけた。
「クルト、こんなところで何をしているの?」
クルトは驚いた様子で振り返り、私の顔を見るなり笑みを浮かべた。
「母上か!お久しぶりですな!まさかこんなところで出会えるとは思いませんでした」
クルトの声は低く落ち着いており、いかにも職人な風格が漂っていた。
私は微笑みながら答えた。
「えぇ、久しぶりね。クルトこそ元気そうで良かったわ」
クルトは嬉しそうに髭をなでながら聞いてきた。
「母上こそいつもと変わりませんな。こちらの世界には何をしに来たのですかな?」
クルトは好奇心いっぱいの目で私を見つめていた。
「実は……」
私はクルトに、ここが私の故郷であり、私が転移してからわずか20年しか経っていないことを説明した。
クルトは驚きで目を見開いた。
「まさか……母上が転移する前の世界がこの地だったとは!」
クルトは髭をなでながら感慨深そうに続ける。
「小さい頃、母上から異世界から来たという話を聞いたことはありましたが、ここがその場所だったのですか」
私は小さくうなずいた。
「えぇ、そしてこの地球の日本という国が私の出身地なの。今は実家に泊まっていて今日は甥っ子と姪っ子を連れてダンジョン探索をしていたところよ」
クルトは髭を触りながら思案顔になった。
「ふむ、母上がこちらの世界からやってきてまた戻ってこれたというのは……不思議な縁もありますな」
その瞳には敬意と共に嬉しさが宿っているようだった。
「それでクルト、あなたはどうしてここに?」
私が問いかけると、クルトは真剣な表情になった。
「実はリア姉さんが、我々の世界と地球という世界がつながったと聞きましてどんな鍛冶技術があるのかと思い来てみました」
そう言った後クルトは肩を落として言葉を続けた。
「しかし、ここに置いてある武器は量産品ばかりでがっかりしました」
クルトの言葉に私は少し申し訳なくなったので店員さんに聞いてみることにした。
「すみません、このお店に置いてある武器は初心者向けの量産品とダンジョンで見つけたものが多いのですか?」
店員さんは丁寧に答えてくれた。
「そうですね。ここには基本的には初心者用の量産品が多く並んでいます。中には稀に高価なアイテムも入荷しますが、ほとんどの場合中古品ですね。もし高度な武器をお探しでしたら、専門の鍛冶屋を訪れるか、大きなダンジョングッズ専門店をご利用いただくことをお勧めします」
クルトはそれを聞きながら眉間に皺を寄せていた。
「なるほど……ここは初心者用の大量生産品中心の販売所ということですな。まあ予想通りでしたが……」
私は少し考え込んだ後、提案することにした。
「クルト、今日は時間が無いからダメだけど明日なら銀行に行って通帳を作った後は時間があるわ。よかったら一緒に街を歩いてみない?この辺りの鍛冶屋やダンジョングッズ専門店を巡ってみましょう」
クルトは目を輝かせた。
「それは嬉しい提案です。母上!ぜひお願いいたします!」
彼の熱意に応えるように、私は微笑んだ。
「それじゃあ、明日の昼前にここに集合ということでどう?」
クルトは大きくうなずいた。
「わかりました。楽しみにしています!」
会話が一段落したところで、私はふと疑問が湧いた。
「そういえば、クルトはどこに泊まってるの?このあたりのホテル事情なんて詳しくないでしょう?」
彼は髭をなでながら答えた。
「母上、実はここ渋谷ダンジョンはアルタニヤ王国首都ラティオン近くのダンジョンと繋がっているのですよ」
彼は渋谷ダンジョンを指差した。
「ですから帰りたい時はゲートを通ってすぐにラティオンの工房まで帰ることができるのですよ」
なるほど、このダンジョンはラティオン近くと繋がっているというわけか。
実は昨日調べた感じだと、日本の各ダンジョンはアルタニヤ王国の各ダンジョンと繋がっているようだ。
地球の他の国もラキナの他の国とダンジョンが繋がっているようなので不思議なものだ。
ちなみにアメリカの繋がっている国の名はサグナ帝国という。
「なるほどね、それなら行き来は簡単そうね」
私は渋谷ダンジョンを見つめた。
ここからラティオンに行き家まで飛んで帰るのもありかもしれない。
「そういえば母上はここに何か買いにきたのですか?」
クルトが尋ねてきた。
「ああ、そうだったわ。武器が入るカバンを探していたのだけれど……」
カバン売り場へ向かい色々と見てまわってみたが良いものが見当たらなかった。
「フォノンの家に帰って、自分で作ればいいかしら」
私がそう呟くと、クルトが振り向いた。
「母上は収納魔法を使われるから、バッグなんて要らないと思っていましたよ」
彼は笑みを浮かべながらそう言った。
「地球では収納魔法を使うと目立っちゃうから目立たないように武器を持ち運べるバッグが欲しかったのよ」
私が苦笑いを浮かべつつ説明すると、クルトは大きくうなずいた。
「なるほど、確かに母上は昔から目立ちたくないと言っていましたからな」
クルトはしばらく考え込むように髭をなでた後、明るい口調で言った。
「それならば、ラティオンの儂の店ならば母上にぴったりのバッグがあるはずです。探して明日持ってきますよ」
私はその提案に感謝し、うなずいた。
「ありがとう、クルト。助かるわ」
「任せてください!母上のために特別なものを選んできます!」
クルトは自信に満ちた声で嬉しそうに言い、笑みを浮かべた。




