第18話
駐車場へ戻る頃には陽が傾きかけていた。
「たくさん買ったね」
トランクルームにぎっしり積まれた袋を見やって私がつぶやく。
「当たり前でしょう!」
助手席に乗り込みながら恵が嬉しそうに返した。
「久々のお買い物なんだから! しかも異世界帰りの麗奈と一緒なんだから特別なのよ」
キーを差し込みエンジンをかけた浩一が尋ねる。
「晩ご飯どうする?」
「家で作るわよ」
助手席から振り向いた恵が宣言した。
「でもその前に」
信号待ちで止まった隙にルート設定を行う。
「ちょっとスーパーに寄って行くわ。材料買っていかないとね」
「了解」
車は静かに再発進した。
サイドウィンドウに映る流れる景色をぼんやり眺めていたとき、唐突に理依奈が隣の私にぐいっと身を寄せた。
「ねえねえ麗奈お姉ちゃん」
「何?」
「異世界の食材ってどういう感じなの? 例えばドラゴンとかいるの?」
唐突すぎる問いかけに思わず吹き出しそうになる。
「ドラゴンは普通にいるわね」
「ほんとに!?」
理依奈の目が丸くなる。
「尻尾とか牙とか角とか素材になって流通してるしね」
「すごーい!」
旭が歓声を上げた。
「ねえマンガとかみたいにそのドラゴンの肉って食べられるの?」
前のめりで聞く理依奈にうなずく。
「もちろん。さすがにドラゴンは市場とかにはあまり売ってなかったけど私は狩って来てたからね」
「「おお~!」」
理依奈と旭が楽しそうに声を上げた。
「私の収納魔法の中にもドラゴンの肉はあるわよ。今夜は尻尾の一部をステーキにしましょうか」
「やったぁ!」
「じゃあスーパーで付け合わせの材料とお酒でも買いましょう」
助手席から恵が提案してきた。
スーパーの駐車場で停車するなり、理依奈が飛び出して行く。
「キノコとか玉ねぎとか付け合わせの材料探してくる!」
旭を引き連れ店内へと走り込んで行った。
「まったく落ち着きのない娘ね」
恵が呆れた様子でつぶやきながらカートを押して後を追う。
私も後ろ姿を見送りつつ陳列棚の奥へ。
飲み物コーナーに並んだ多種多様なお酒が目に入る。
アルコール類は異世界でも嗜んでいたが、日本のお酒は未経験だ。
「異世界転移した時は16歳だったから日本のお酒は全く飲めなかったんだけど……」
手に取ったのは山陰地方産の吟醸酒。
香り豊かな辛口とパッケージに謳われている。
きっとドラゴン肉とよく合いそうだと思い籠に入れた。
買い物が終わり家にたどり着いたところで両手に大きなビニール袋を提げて玄関に向かう、既に居間に灯りがついているので誰か帰って来ているのだろう。
「ただいま~」
玄関ドアを開ければリビングから話し声が聞こえてくる。
予想通り誰か先に帰宅しているようだ。
リビングに入るとソファーで寛いでいる二人の姿を見つけた。
「おかえり」
啓介がこちらを見て手を挙げる。
晴奈も振り返り笑みを浮かべ聞いてくる。
「おかえり~。色々買ってきた?」
「たくさん買っちゃいました!」
理依奈が嬉しそうに袋を掲げる。
浩一がリビングを覗き込みながら確認する。
「颯斗は帰ってきてるのか?」
「帰ってきて部屋でゲームしてるよ」
と晴奈が答えた。
早速購入品を整理するため各自部屋へ散っていく。
私は恵と晴奈と共にキッチンへ向かう。
恵が冷蔵庫に食材をしまいながら告げた。
「今日は麗奈の持ってきてくれたドラゴンのお肉を使ってステーキにするそうよ」
「ええ!?」
驚いた表情で晴奈がこちらを見つめる。
「ドラゴンって……本物?」
私が小さくうなずくと同時に収納魔法からドラゴンの尻尾を半分出し、大きいので必要な分だけ取り分けた。
恵と晴奈が目を輝かせている。
「おおーすごい!」
ふたりの驚嘆を受け止めつつ、まな板に置く。
上に乗せたドラゴンの肉に対して、慣れた手つきでまず筋繊維に対して垂直に包丁を入れていく。
厚さは3センチ程度。
表面には薄く塩を振り、しばらく放置して馴染ませる。
「こうすると余分な水分が抜けて旨味が凝縮するし柔らかくもなるんだよ」
「へえ~詳しいわね」
「異世界では素材の扱いにも慣れましたから」
恵が興味深そうに眺めながらもサラダ作りを進めている。
一方で晴奈が手際よく玉ねぎや椎茸などの野菜を準備している。
彼女がふと問いかけてきた。
「このあと焼き方教えてもらってもいい? ドラゴンの肉なんて見たことないから」
「もちろん、まぁ普通のステーキと焼き方は変わらないけどね」
微笑みながら答えると恵が感心したように首を振る。
「本当に料理上手になったのねぇ。昔から手伝ってたとはいえここまでとは思わなかったわ」
「異世界での生活が長かったからね」
魔導ホットプレートを用意する。
そこにオークのラードを塗り始める。
一気に枚数を作る為フライパン代わりに使うことにしたのだ。
ドラゴンの肉と野菜を順に並べて強火で両面と側面を焼き上げたら、弱火にして蓋を被せる。
しばらく待つと部屋中に美味しそうな香りが広がった。
匂いを嗅ぎつけたのか理依奈がパタパタと足音を立てながらやって来た。
「いい匂い~!」
蓋を開けると中から湯気とともに凄い匂いがあふれ出た。
鮮やかな色合いのミディアムレア状態だ。
熱々の肉をまな板の上に載せると、晴奈が切り分けはじめた。
「わあ~すごい! 焼き加減完璧なんじゃないの?断面がきれい!」
「ありがとう」
私が礼を言うと、理依奈は満面の笑みを浮かべた。
「いい匂いだね~。これもうすぐ完成?」
「あとは切って盛り付けるだけかな」
晴奈が残りの肉を切り始めるところだった。




