第17話
「さて行くか」
時計を確認した浩一が立ち上がる。
食後の団欒もそこそこに、一家は玄関へ向かった。
晴奈と啓介と颯斗は予定があるとの事なので、残り5人で出かけることになった。
私はブラウスとスカート姿に加え、サングラスと帽子を目深にかぶった。
「これで大丈夫かな」
鏡越しにチェックする姿を理依奈がまじまじと眺める。
「完璧! むしろファッション誌から飛び出してきたみたい!」
「ありがとう」
浩一の運転する車に乗り込む。
運転席には浩一、助手席には恵。後部座席中央に私が陣取り、両脇を旭と理依奈が挟む形となった。
「ショッピングモールに向かうぞ」
エンジンがかかり車体が滑り出した。
車内は賑やかだった。
理依奈がアプリでBGMを選曲し、旭が、
「この曲知ってる!」
と大声で合いの手を入れる。
バックミラーに映る浩一の横顔には穏やかな微笑が浮かんでいた。
モール到着後、真っ先に携帯ショップへ向かった。
「とりあえずスマホは必須だからなぁ」
浩一が陳列棚を眺めながら呟く。
「麗奈、どんなのがいい?」
「どんなのでも問題ないよ」
簡潔に答えると、理依奈が待ってましたとばかりに割り込んだ。
「だったら最新のフルスペック端末がいいんじゃない? だって魔導通信にも対応してるし」
「魔導通信?」
聞き慣れない単語に首をかしげると、理依奈が得意げに解説を始める。
「ほら、今のスマホって魔力で動くの。そして魔導通信はダンジョンやラキナでも通じるのがウリなんだよ!」
「へぇ……便利だね」
「あとダンジョンのネット配信とかライブビューイングの映像技術にも同じ技術が使われてるの」
店内を見渡すと、確かに展示パネルにはダンジョン攻略生配信のイメージ図が大きく描かれていた。
なるほどこれが現代の通信技術か、と妙に感慨深い気持ちになる。
会話の途中、旭が軽く袖を引っ張ってきた。
「麗奈お姉ちゃん……どれ買うの?」
「そうだな~」
展示台を順に見ていき、最終的にシンプルなデザインの最新モデルを選ぶことにした。
「これを下さい」
店員が手続きを開始すると、傍らで私は財布を取り出した。
中から大量の紙幣が覗き、理依奈がびっくりするのが面白かった。
「現金で支払いできますか?」
「はい、もちろんです」
店員が契約処理を終えるまでの間、旭が好奇心満載の目で札束を覗き込んでいる。
「すごい量……」
「異世界で稼いだお金だからね」
さらりと答えれば、理依奈が疑問を口にした。
「そういえば銀行口座とか持ってないよね?」
「持っていないわね~」
「だったら作ったら? 平日に来ないとダメだけど」
スマホで検索してくれる理依奈によると、探索者カードがあれば日本の銀行口座を開設可能らしい。
しかも本人確認書類不要とのことだ。
「ありがとう。後で平日に銀行に行って作ろうかな」
「うん!」
理依奈がスマホ画面を見せながら笑顔を向ける。
その後、一行は昼食タイムへ突入した。
フードコートの一角で各々好みの品を選び、共有テーブルに腰掛ける。
私のトレイには湯気の立つラーメンが乗っている。
透明な醤油スープを啜り、麺をずずっと口に吸い込む姿に周囲が釘付けになっていることに気づくのは、既に三分の一を食べ終えた頃だった。
「……なんか、すごい光景ね」
箸を持つ手を止めた恵がぽつりと言う。
「外国の方みたいな見た目の麗奈が、熱々のラーメンを上手に啜ってるのって……ちょっとシュールね」
その言葉に一同が頷く。
「しかもすごい美味しそうに食べてるし」
旭が麺をちゅるちゅると口に運びながらつぶやく。
「まあ日本人ですから」
「でも見た目がねぇ……」
理依奈が箸先を口元に当てながら首をひねる。
浩一が思い出したように言った。
「そう言えば昔、ドラマで外国人俳優がラーメン食べるシーンがあってな。あの時の違和感といい勝負かもしれん」
「それ分かるわ!」
恵が膝を打つ。
「まるで欧米映画のセットで麺を啜ってる感じよね」
麗奈は苦笑しながら箸を置いた。
確かに周囲の反応を見る限り、どうやら自分が一般的な日本人像から逸脱しているらしいことを思い知らされる。
「でも美味しいからしょうがないですよね」
言い訳のようにそう述べれば、理依奈がにっこり笑う。
「だよね! ラーメンは文化だもん!」
「そうそう」
浩一が同意しながらスマホを机上に置く。
「連絡先交換しとこう」
「私も私も!」
理依奈が嬉しそうに身を乗り出す。
私のスマホに新規登録用コードが表示されると、皆が次々と読み取っていく。
「これでいつでもメッセージ送れるね!」
「うん」
食事を終え、一行は次の目的地へと足を向けた。
まずは帽子コーナーへ。
「これどう?」
理依奈が手に取ったのは黒いつば広のハットだった。
「似合うかも」
「じゃあ試着してみて!」
促されて麗奈が帽子をかぶる。
鏡に映る自分を見ると、確かに髪色との相性もいいようだ。
次に眼鏡店へ立ち寄る。
理依奈がカラーコンタクトを勧めてくれたが、魔力による変色効果のせいでうまく馴染まないかもしれないという懸念もあり、青い色付き眼鏡を選ぶことにした。
「これで少し目立たなくなるかな」
「完璧! 知的度が増した気がする!」
理依奈のオーバーな表現に思わず噴き出す。
最後は服飾エリア。
恵が腕を絡めてくる。
「娘と孫を連れて買い物できるなんて夢みたい」
「私も麗奈お姉ちゃんと一緒に服選び楽しみ!」
理依奈がスキップしながら洋服を物色し始めた。
「あ、これ可愛い!」
彼女が手にしたのは淡いブルーのワンピース。
丈が膝上で動きやすそうなデザインだ。
「試着してみたら?」
私が薦めると、理依奈は早速更衣室へ駆け込んでいった。
しばらくして出てきた姿に家族が歓声を上げる。
「似合う!」
「可愛い!」
拍手が巻き起こる中、理依奈は照れ笑いを浮かべている。
「どうかな? 麗奈お姉ちゃん」
「すごく素敵」
素直な賛辞に彼女の頬が桜色に染まる。
購入を決めたその場で他のアイテムも選び始めると、恵が楽しげにアドバイスしていた。
数着の服と靴とアクセサリーの他に、下着売り場で恵と理依奈に推されるままブラジャー数枚とショーツも数点購入し終え、駐車場に向かった。




