第13話
すき焼きを食べ、〆にうどんを入れることになり恵がうどんを準備しに行くと浩一が
「それで麗奈は消えてからどうしていたんだい?」
浩一が静かに口を開いた。
彼の瞳には深い感慨が宿り、まるで長い旅の終わりを迎えようとしているかのような安堵と期待が入り混じっている。
「そうね……。まずは、私が地球ではどういう扱いだったのか教えてほしいな」
私は先にこちらの事情を明らかにしたいと考えた。
この20年の間に、自分はどう位置づけられてきたのか……それがずっと気になっていたのだ。
「麗奈は……公式には行方不明ということになった。失踪宣告なんていう制度もありはするが、今回のような特別なケースだと法律が追いつかないことも多くてね。それに、校門前で忽然と消えたなんて話が広まれば混乱を招くおそれがあるということで、政府からも圧力がかかった部分もあったんだろう。とにかく、表向きには『消息不明』というのが一番正しい表現になるかな」
浩一が慎重に言葉を選んで告げる。
「そうか、消息不明になったんだ。……そりゃ、急に目の前から消えたんじゃ驚いただろうね」
私は苦笑交じりにうなずいた。
あの日、自分は確かに周囲の喧騒の中にいたはずなのに、気がついたときにはもう別の世界に飛ばされていた。
当時の人々にとってはまさに理解不能な現象であっただろう。
「それよりも、麗奈の方の話を聞きたいな。あれからどうやって生きてきたのか、聞かせてくれないか?」
浩一が促すように目を向け、私は一瞬考え込んだあと、ゆっくりと口を開いた。
「簡単に言うとね……地球に来て分かったんだけど。私は、220年前のラキナに飛ばされて、そこで長い間生きてきたんだ」
テーブルを囲む一同が、一瞬息を呑むのがわかる。
私はその反応に微笑みを浮かべながらも、淡々と続けていった。
「最初は本当に訳がわからなかった。気づけば周りは中世ファンタジーみたいな景色で信じられなかったよ。でも、魔法が使えることもすぐにわかって、それで……生き抜くために冒険者になって、ダンジョンを攻略したら地球に帰れるんじゃないかと思って頑張ってソロでS級ダンジョンを攻略したんだ。そしたらこんな見た目と不老の能力を手に入れることになっちゃった。その後は政略結婚の話や暗殺などがあって嫌になって国を飛び出して、最終的に今住んでる国に辿り着いて精霊たちや子供たちと楽しく暮らしてるの」
「え? S級ダンジョンをソロで……?」
颯斗の声が裏返った。
理依奈も目を丸くして口を開けたまま固まっている。
「ちょっと待ってください……学校で習った歴史だと、S級ダンジョンを完全攻略したのはまだ誰もいないって……」
「うん、地球でもラキナでも誰も到達できてないって先生が言ってたよ? 嘘でしょう?」
「嘘じゃないわ」
私は穏やかに笑った。
「ラキナに転移したばかりの頃、私は必死だったからね。元の世界に帰りたい一心でSSランクまで駆け上がったわ。そしてS級ダンジョンの一つをソロで突破したの。それ以来、誰もそれを超えることができていなかったみたい」
「でも……」
颯斗が椅子から立ち上がりかけた。
「だったらあなたは……世界初の……」
「まあそうなるわね」
私は肩をすくめた。
「今後も秘密にしておくつもりだけどね」
彼女は窓の外をちらりと見て続けた。
「だから政略結婚の話も山ほど来たし、命を狙われることも増えたわ。それで嫌になって国を出ちゃったの」
「なるほど……」
颯斗がぽつりと呟いた。
「どうりで……」
理依奈も深くうなずく。
「学校で教えてもらった英雄譚には載ってないわけだ……確かに200年以上前なら記録にも残ってないかもしれないし」
私はふっと笑い、コーヒーカップを揺らした。
「たぶん私が嫌がったのと、国から逃げたから記録にならなかっただけだと思うわ。」
「そうですか……」
颯斗と理依奈は目を合わせて感嘆の溜息をついた。
「やっぱりすごい人だったんですね……」
「しかも私たちの叔母さんが!」
「ふふふ」
私はカップを置き、天井を見上げた。
「今思うと全部昔のことよ。今はただの家庭的な叔母さんだけどね」
浩一がビールの入ったグラスを傾けて言った。
「そんなすごい人が娘なんて……家族としては鼻が高いぞ」
「ええほんとに」
恵も微笑んだ。




