じゃない方と決心
いつもありがとうございます。今日も楽しんで読んでもらえると嬉しいです!
1ヶ月、王宮に滞在している間にリックは2回顔を見せた。きっちり2週間に1回である。2回ともマーサに連れられ、ものすごく申し訳なさそうに部屋に入ってくるので、話を聞かずとも結果は分かった。
そして今日も
「すみません。ミア様。手を尽くしてはいるのですが、手がかりらしいものが見つからず...。そもそも手自体が足りていないといいますか...皆様、聖女様の一挙手一投足を観察しないといけないと思っているようでして...その..本当に申し訳ございません」
体を180度折り曲げてリックは謝ってくれるが、未亜自身はそこまで期待していなかったので、逆に申し訳なくなった。
(最高司祭様の記憶には、元の世界に帰還した例がないんだもの...例がないならどんなに文献をひっくり返したところで出てきようがない。あまりこの件に関して、他の人が協力的でないのも分かる気がする...)
「リックさん、いつも報告ありがとうございます。これで踏ん切りがつきました。」
「と、申しますと?」
「王宮を出ようと思ってて...」
そう言うと未亜はマーサの方を見てこくりとうなづいた。マーサも頷き返してくれる。リックは大きな目をさらに大きくした。
「それはどういう...」
「実はここに来てからずっと考えてきたことなんです。もうなんだかんだでこの世界、この国に来てから2ヶ月ほどです。ここで一度元の世界に帰ることを横に置いておき、ここでの人生を固めていく必要があると思っていまして...」
リックはしゅんとして
「すみません。我々が至らないばかりに...」
「いえ、日本に帰るのを諦めたとかそういう訳ではないのです。もし、お願いできるのであればこれからも探し続けて頂きたいですし。ただ王国側もそろそろ私を囲っているこの終わりの見えない状況に苛立っているようでして。...」
「それはミア様がまた不当に扱われているということでしょうか...?」
今度はリックはちょっと眉を吊り上げて見せる。
(この子は色々な感情が表に出やすいタイプだなぁ。)
そんなことを思いながら慌てて言葉を重ねる。
「いやいや、もちろん王様達にはよくしていただいています。それはちゃんと聖光教会にお伝えしてくださいね。ただ王国側も一枚岩では無いようですし、私はいわゆる世の中の税金を使ってここで生かされているわけで、さすがにちょっと申し訳なく思ってきておりまして...」
そう言ってちょっと困った顔をしてマーサを見た。この話はマーサが持ってきたものでもある。王国といえど貴族の議会があり、そこで未亜の存在について会議が紛糾しているという。未亜としてもその状況は歓迎できるものではない。いつ何時誰かが未亜を亡き者にしようと思ってもおかしく無いからだ。死んだら、全てなかったことになると思っているのが怖い...
「というわけで、今回のリックさんからの報告で何も進展がないということが分かれば、私は王宮を出て自活していこうと思っていたんです。」
「自活って...何をされるおつもりですか。王宮内でも色々な仕事はありますし、わざわざ王宮を出なくてもいいのではないですか?」
「それはそうなのですが...」
そう言ってここ数日のメイド体験を思い浮かべた。手洗い、足洗いでの洗濯。箒や布での掃除。鉄のただひたすらに熱くて重いアイロン。重くて高いお皿やお茶運び。そしてなんと言ってもその量。現代社会の便利グッズに慣れきっている未亜にはどれもこれも本当に難しく、数日でギブアップしてしまった。
「せっかくなら外の世界でも暮らしてみたいと思っていて。」
「それは...そうですよね。」
リックは頭をしゅんと下げた。
「でも、その場合は私達教会側の支持も必要なはずです」
「はい、おっしゃる通りだと思います。そのためこれから私の意思を宰相様にお伝えしたいと思っています。そして宰相様経由から連絡が行くとは思いますが、リックさん、あなたからも枢機卿にお伝え頂けますか。王家が何か企んでいるとか邪推されるのは面倒なのです。今、私はここでこの決断をしたのですから。リックさんお願いできますか。」
リックはしばらく何かを考えていたようだったがやがて
「その伝言謹んでお受け致します。」
と恭しくお辞儀をした。
リックが帰った後、マーサにも宰相様宛の連絡を頼む。
さて、これが吉と出るか凶と出るか...。
(なんで私はこんなに死と隣り合わせの生活を送っているんだろう...)
未亜はそんなことを思いながら、教会がある方を眺めていた。
たくさんの人に読んでもらえていて、毎日飛び上がっています。本当にありがとうございます。
明日も午後7時に投稿予定です。




