じゃない方と王宮暮らし
毎日たくさんの人に読んでもらえていて本当に嬉しいです!7話目も楽しんでいってください。
馬車に乗ってついた王宮は未亜が想像していたよりも荘厳で大きなものだった。未亜が案内されたのは、もちろん王族が住まうエリアではなく、別棟と呼ばれる建物だった。
ゲストが来るとここに泊まることが多いらしく、未亜も王家のゲストとして扱うように指示が出されていた。そのため未亜についた侍女達に教会の時のように無視されたり嫌がられたりはしなかった。そのことで、ほっとした自分に気付き、案外2週間の教会での生活に堪えていたことを自覚した。
(まぁ、自分が何も悪いことしていないのに悪意だけ向けられるのはね...。)
だからと言ってカリナ達を責める気にはなれなかった。彼女達だって自分の人生がかかっている。聖女付きになれるかどうかは一生に一度訪れるかどうかというチャンスであろう。それがなんの力もない未亜の側仕えになってしまうかもしれなければ、自分が同じ立場でもがっかりするし、憤りも感じる。
(...さて、気分転換に、今日も図書室に行こうかな。)
朝ごはんを食べて、ちょっと一休みした後、未亜はくっと背伸びをした。王宮に来てから1ヶ月が経っていた。ここでの生活はまさに快適そのものだった。教会との違いを明確にしたいのか、未亜は部屋に幽閉されたりはしなかった。護衛という名の監視がついていれば、王宮内のある程度の場所は歩き回っても良いとされた。もちろん軟禁状態には変わりはないが、外の空気を吸ったり、手入れが行き届いた庭を歩きまわることができるのは本当にありがたかった。
また、さすが王宮と思ったのは料理の美味しさである。教会の料理も美味しかったが、王宮のものは格別である。シェフの腕がいいのは間違いないだろうが、素材からして違っているように感じた。特に未亜は魚料理が好きで聞くと、マルティナという王国一の港町の漁港から仕入れているらしい。料理は西洋風のものが多く、それも美味しいのだが、「この魚に醤油を垂らして食べたい!」と思ってしまうのは日本人の性なのだろうか。
もう1つこちらに移って来て良かったことは、図書室の利用が認められたことである。こちらに居を移す際に、ダメ元で宰相様にお願いしてみたのだ。自分でも帰還方法を探したい。また、帰れなかった時のためにこの国の知識もつけておきたい、と。もちろんその場ですぐに返事はもらえなかったが、数日後、侍女同席で使用可能区間を決めて、という条件付きで認められたのである。図書室と言っても王家が使っているものではなく、下級職員がよく使う書庫のようなところで、歴史的な写本や地方の記録などが多いところだった。そのため聖女の話は民間伝承ぐらいでしか見つからなく、帰還方法を探すのにはあまり役に立たなかったが、この国の歴史や他国のこと、地理的位置などを把握するのには大いに役立った。
基本的にやることがない未亜は、この図書室に入り浸ることが多かった。今日も、本棚の周りをうろうろしながら、その日読む本を探していると『海路交易日誌』というものがあったので、手を伸ばしてみた。その場でペラペラとページを捲ると、各国の国の特徴が書かれていて面白い。これを地図と見比べながら読むと面白いんじゃないかな?そう思った未亜は、今日読む本をそれに決めて、読書スペースである机の方に向かおうとする。すると、
「本日の読み物が決まりましたか、ミア様」
と侍女のマーサが声をかけて来た。マーサは、未亜の専属侍女になってくれた女性で、色々な業務を卒なくこなすことができる人だ。年齢は50代半ばと言ったところだろうか。少し赤毛が混じった茶髪の髪を後ろで束ね、丈が長いメイド服を着こなす少し恰幅のいい女性である。なんだかお母さんと言ってしまいたくなる風貌だ。今も未亜の様子を見て向こうにお茶の準備をするべきかどうか尋ねてくれている。
「今日はどのような本をお読みになる予定ですか?」
紅茶を入れながらマーサは自然な会話の流れの一部として質問してくる。しかし、未亜はこれも監視の一部なのだろうと思っている。未亜が何を知り、何を知らないかを把握するのは未亜を管理する上で必要なことだろう。未亜自身もこのことについては割り切って考えている。
「今日のはこれにしようと思っています」
淹れてくれた紅茶を飲みながら先ほど取ってきた本をタイトルが分かるようにマーサに見せる。マーサは一瞬虚をつかれた顔をした。
(あれ?どうしたんだろう?)
そう思っていると、マーサがおずおずと、
「あの、ミア様。ミア様はノルディア語がお分かりになるのですか。」
(?どういう意味だろう?)
「あのすみません。言っている意味が、よくわからないのですが...」
「いえ、あの、ですが...その本はノルディア語で書かれていますよね?お読みになるのですか。」
「え?」
「え?」
未亜はもう一度本のタイトルを見た。そこに書かれているのはやはり『海路交易日記』。間違いなく『海路交易日記』と未亜は認識していた。
なんとなくやらかしたことに気づいた未亜は
「あの、これリュシエール王国の言葉じゃないんですか。」
「はい。それはノルディア語です。我が国の北にあり、魔物が出る森を挟んで反対側にあるのがノルディア王国で、そこの公用語がそのノルディア語です。その複雑さから、学ぶのが非常に難しい言語とされています。」
不思議そうに答えるマーサに、未亜はなるほど⁉︎と思った。どうやら未亜(とたぶん聖女の女子高生ちゃん)のチート「翻訳・通訳」は︎言語に関わらず発動するらしい。
「あの、どうやらノルディア語も分かるみたいです、私」
ここで誤魔化しても後からボロが出る可能性が否めないため、未亜は正直に認めることにした。自分でそれが何語か分からないのに意味が認識できてしまっている以上、この先も同じことをやらかす可能性が高い。ここは正直に白状しておいた方がいいだろう。
「まぁ!」
いつも穏やかなマーサの目の奥がキラッと光った気がした。
ちょっとだけ通訳の片鱗が見えた回です。続きが気になると思って頂けたら、ブックマークをして頂けると本当に励みになります!明日も午後7時に投稿予定です!




