じゃない方と王国からの使者
たくさんの人の目に留まっているのが本当に嬉しくて!ありがとうございます。
リックとの内緒話から数日。今まで会ったことがない人が、未亜の幽閉部屋に来ていた。
「ミア様。お初にお目にかかります。ヴィクトール・ド・モンレーヴと申します。この王国で宰相を務めている者です。突然ではございますが、御身を私ども王国側で預からせて頂くことになり、本日は一緒に王宮の方にご移動いただけないかと思っております。」
焦茶の髪に少しグレーがかった髪が混じり、メガネをかけたいかにもできる役人という男性がそう話しながら軽くお辞儀をした。
未亜も慌ててお辞儀を返しながら、リックは本当によくやってくれたと思った。未亜はリックに、1つ噂を流して欲しいと頼んだのだ。「この塔で幽閉されている『じゃない方』の存在に王家は気づいている。勝手に『いなくなる』のはまずいのではないか」と。
あの場に王がいたならば、未亜の動向を気にしないわけがないと踏んでいた。けれど、教会で保護していると言われれば、強くも出られないだろう。しかし、勝手に『いなくなる』のは話が違うだろうと思っていた。聞けば、聖光教会と王家はあまり仲が良いとは言えないらしい。聖光教会は、未亜のことを無かったことにしたいと思っている。王家にとっては、向こうが無かったことにしたいことをあることにすることで、弱みを握れることになる。だから、介入するなら今だ!と噂を通じて伝えたかったのだ。
純粋なリックは、この話をした時に心底驚いていた。まさか自分が信じている教会が人を殺めるなんて考えもしていなかったのだろう。申し訳ないなとは思いつつ、違っていたらそれはそれでいいし、噂を流すか流さないかはリック自身で決めていいから、と伝えていた。
(良かった。王家も私の殺すの賛成派だったら、どうしようかと思っていた...)
結構、危ない綱渡りをした自覚はあったので、皮の首一枚でなんとか命を繋げることに成功したことに、未亜はひとまず胸を撫で下ろした。
(そして思ったよりも、国が動くのが早かったな...)
国が未亜の動向を気にしているからと言って、噂がそう簡単に国に伝わるとは思っていなかった。リックは見習いの立場だし、もっとギリギリのところまで待たなければ国は動かないと思っていたのだ。
(ひとまず、これは嬉しい誤算だったと言うことにしておこう。)
未亜は宰相に頭を下げると
「成宮未亜と申します。来て下さり、感謝申し上げます。」
顔を上げると宰相の後ろに笑顔のリックがいるのに気づいた。
「リックさん。今までありがとうございました。この2週間ここでやってこれたのは間違いなくあなたのおかげです。本当にありがとうございます。」
言外に本の差し入れや噂を流してくれたことを含む。リックは少し照れくさそうにしながら
「いえ、ミア様。それにこれが今生の別れというわけではありません。私たちは、これからもミア様の帰還方法を探し続けますし、1週間に1回は現状をお伝えするよう申し使っております。」
そう言うとパチンとウィンクしてきた。司祭見習いのくせに世俗的である。その様子を横目に宰相は少し苦々しく
「それが条件だったのです。」
と付け加えた。何やら未亜を巡ってなんらかの交渉が行われたようであった。
「それはつまり、これからもリックさんと会えると?」
「はい。私が引き続き報告役をせよ、というお達しです。」
少し大袈裟にお辞儀をするリックを見て未亜は自分が思っているよりもその事実が嬉しいことの気がついた。リックは国教側の監視役と言ったところであろう。それでも、この国に、この世界に来てはじめて人として接してくれたリックには友情めいた気持ちを感じていたので、これっきりになるのは少し寂しかったのだ。どのような立場にせよ、リックはリックでいてくれるだろうというのはなんとなく想像がつく。なんせ聖女という期待を裏切って『じゃない方』と呼ばれるような人間だったのに普通に接してくれていたのだ。これからも未亜の前ではいつものように接してくれるだろう。その事実はちょっと未亜を高揚させた。
こうして未亜は晴れて国教に対する切り札という体でこの幽閉部屋から正式にでられることになったのである。リックというちょっと歪な関係の友人を得て。
未亜は教会を出る際、一度くるりと振り返ってお辞儀をした。
王宮ではどのような生活が待っているのだろう。
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