じゃない方と通訳の初仕事(3)
今日も読みにきてくださってありがとうございます!
「さて、今回の件だがどう思う?」
窓からサリムとその通訳が通りに出たのを確認すると会長は未亜とディオゴに向き直った。
「まぁ、はっきり言って変!違和感!何がしたかったんだ?って感じ?」
ディオゴは両手を頭の後ろに回して大きな伸びをする。そのまま続けて
「そもそも、交渉の初日から正式に書かれた契約書を持ってくるのも変だろう?文言は交渉によって変えていい、と言っていたとしても最初から本物の契約書をに書いて持ってくる意味が分からない。まぁ、金色の縁取りに本当の契約内容書いてあるから、それも読んだと見込んでと言う話なのかもしれないが、それにしちゃ、読める人がいるかもしれないって言う考慮がなさすぎるぜ。」
未亜はこの世界の契約の流れや仕組みを把握しているわけではなかったが、普通に考えて今回の契約の段取りはなんだかチグハグな気がしていた。
「それに他の商会の奴らが『サリム』って名前の商人がいるのを知っていたのに誰も会ったことがないと口を揃えて言うのも気にかかる。かと言ってあいつらが嘘を付いて得になるとも思えないんだよな〜」
ディオゴは「新しい鉱山」の聞き込みと同時にサリムのことも探っていた。それプラス未亜と一緒に鉱山の地図を作成してくれていたので、この3日間ほとんど寝ていなかったに違いなかった。未亜はディオゴの体力に舌を巻く。
ディオゴの話を聞きながら会長もゆっくりうなづく。概ね彼の考えに賛成なのだろう。
「未亜はどう思う?」
未亜は自分も意見が聞かれるなんて思ってもいなくてびっくりする。ここ1ヶ月で入った右も左も分からない新人だ。でも...
「そうですね...。サヘル語の古語が読める人がいるとは思わなかった、と言うのは本当だと思います。本国の学者しか読めない言語なら、他国で読める人はいないとタカを括っていたとも考えられます。それでも確実ではないとすると、それを確実にする方法を考えなければいけなくなります。それは...」
そう言って未亜は少し黙る。憶測でものを言うべきではない...と思う...けど...
「それは?」
会長が未亜の目をじっと見てくる。それに推し負け未亜はふーっとため息をついた後、
「これは私の想像の域を出ません、でも、確実にその部分を読ませない方法ならあると思います...。例えば通訳を買収してしまえばいいのです。」
正直、前回ここにいた通訳の人が買収されていたかどうかは分からない。でも、もし買収されていて都合の悪いことは訳さないと約束していたのであれば、ほぼ確実に金の模様に目を向ける人はいないだろう。未亜と言うイレギュラーが入ってきたことで向こうの思惑とは違う方向に話が転がったとは考えられないだろうか。今思えば、サリムが未亜のことを必要以上に気にしていた気もする。
「ふむ。さてそうなると未亜、お前が買収されていないとも限らないと言うことになるが?」
未亜はこくんとうなづきながら、
「そうですね。それは信じて頂くしかないかと。ディオゴさんと一緒に炭鉱の地図を作る仕事をさせたのもそれを見極めるためですか?」
ディオゴは一瞬バツの悪そうな顔をした。
(ディオゴさん疲れているせいかいつもより顔が雄弁)
その顔は美亜の指摘を肯定するものだった。そんなディオゴにちょっと非難めいた視線を向けつつ会長は
「まあな」
と肯定した。未亜は腹が立つとかは考えなかった。むしろこの状況で未亜のことを信じた方が驚きである。ぽっと出てきて何ヶ国語もわかります!なんて怪しいことこの上ない。
「でも、お前の行動に怪しいところはなかったし、むしろ積極的に色々調べてくれて助かったとディオゴは報告してきた。結果的に見ても未亜はあちらに不利な情報を堂々と目の前で出した。そして相手は交渉を放り投げて出て行った。それが答えだろうさ。もしここまでもが筋書き通りというのであれば俺らは完全に踊らされていることになるがな。」
そう言ってガハハと大きな声で笑った後
「まぁ、俺は俺自身の目とディオゴの目を信じている。これでお前が裏切り者でしたー!とかなれば俺らは商人を辞めた方がいいだろうよ。商人はものを扱うが結局は人と人とのやり取りなんだからよ。人を見極められないものは物の見極めもできるはずがないさ。」
そういう潔さはいいな、と未亜は心から思う。そんなことを思っていると、会長は両腕をそれぞれの膝に乗せて、
「ってなると、一つ大きな疑問だけが残る。」
そう言って未亜をじっと見つめると
「未亜、お前は何者だ?なんでそんなに色んな言語が分かる?サリムの言葉を借りればサヘル国の学者ぐらいしか読めない古語もスラスラ読める。そのくせ、常識には疎い。この国の単位すら怪しい。どんな世界に生きていればこうなる?」
じっと見つめられて、未亜はうっと困る。ここで言葉を濁してもきっと会長達は追求はしてこない。プライベートなことなので、と突っぱねてしまってもいい。でも、それではきっと、この二人からの心からの信頼は得られないのだろうな、とも思う。未亜は逡巡した後、
「ここだけの話にしてもらってもいいですか?」
そう言って、今までの境遇を語り始めた。元は違う世界から来たこと。聖女としてこの世界に来たこと。そして多分どんな国の言葉も元の世界の言葉に聞こえる能力を手に入れたこと。しかし聖女の力はなく、他の人が聖女になったこと。教会と王国それぞれに扱いに困られたこと。自立することを選んだこと。そしてこの町に来たこと。そんな話をかい摘みながら話す。話しながら
(私って結構濃い数ヶ月過ごしてるな...)
と思う。そんな未亜の話を会長もディオゴも聞きながら、どんどん目が丸くなっていく。そんな様子を見て未亜はちょっと面白くなってきた。この二人をこんなに驚かせることができるのはなかなかないだろう。
「...というわけで、私は決して怪しいものではなく、本当に純粋に仕事をして自活したいだけなんです!能力はチートですけど、仕事はきっちりこなします!」
そう言って締めくくると、ディオゴが手を頭に持っていきながら、
「まじかー。なんかあるとは思ってたけど、まさかの異世界出身?まさかの聖女様?」
「あ、いえ。聖女じゃなかった方です」
「いや、それでもさ、誰がそんなこと想定するよ?俺たちだって未亜の能力知らなかったらこんな荒唐無稽な話誰が信じるかって話だろ、これ?」
そういうということは信じてくれたんだ!と思い未亜は思わず笑顔になる。
「なるほど?聖女...候補だったわけか。どおりで...」
そう言ってチラッと窓の方に視線を向けたあと、
「どんな言語も翻訳できるのか?」
会長は半信半疑という感じで聞いてくる。
「えっと...そうですね...まだ見たことも聞いたこともない言語がたくさんあると思うので、絶対にそうです。とは言い切れないんですが、多分そうだと思います。あ、でも、私の中では異世界の言葉をずっと読んでいるし、話している感じなので、正直、これがどの言語というのはちょっと分からなくて...」
正直に自分の能力の欠点も晒してしまう。ここまで来ると隠しごとをするよりも全てを明かして協力を仰いだ方がいい。
「じゃあ、今日はどうやって通訳していた?聞いている限り完璧に2つの言語を使いこなしていたが?」
「それはですね...相手の話した言語を聞くとその人の顔を見るとその言語というように設定されるようでして...なのでリュシエール語を話す時はしっかり会長を、サヘル語を話すときはしっかりサリムを見ていました。そうすることで言語が切り替わるようです。」
「...よく分からん力だな...」
「おっしゃる通りです!私も自分で何がなんだかわかってはいないのです。どんな仕組みになっているのかもさっぱりです!」
未亜がそう言い切ると、会長は吹き出した。
「聖女じゃない方か。ディオゴ、俺たちは思っていた以上に目利きらしいぞ!」
そうやって笑いながら
「どおりでおやっさんが、『面白いものを抱え込んだ』って言うわけだ。」
「おやっさん?」
知らない名前が出てきて思わず聞いてしまう。
「おやっさんって言うのは、この領を収めるモンテーロ伯爵のことだよ。」
「は、伯爵をおやっさん呼びって許されるんですか?」
貴族は貴族として敬わなければ怒られる(どころの騒ぎではない)イメージだったのでわたわたしているとディオゴは笑って
「いやーそうなるのもわかるんだけどね。おやっさんはおやっさんって言った方がしっくりくる感じなんだよね。もともとこの領を治める歴代の領主って国境の要だけあって、ザ貴族って感じよりも軍関係っぽい雰囲気のある人達なんだけど、今代のは、王国騎士団の団長を務めたことがある人でね。煌びやかな椅子に座っているよりも現場好きのおっさんなんだよ。」
伯爵だけど、現場好きのおっさん...未亜はうーんっと想像してみるがいまいち想像ができない。
「まあ、会えば分かるさ。どちらにしろ今回の件は、おやっさんに報告しておいた方がいいし、そのうち会う機会があるだろうさ。」
「その人は私のことを知っていたんですか?」
「まぁ、口ぶりからしてそうだろうな。でも、安心しろよ。伯爵はどこの貴族の派閥にも入っていなければ、信心深くもない。未亜にとっては比較的信頼できる人だと思うぞ。だからこそ、マルティナ行きが許されたのかもな。」
(なるほど。どこかの貴族に所属されて対立されたり、教会と近すぎる距離にいると取り込まれる可能性もある。そう言う意味で、ここはかなり中立な町なんだ...あんまり気にしていなかったけど。あ、でもマルティナの名前を出した時の戸惑った態度はここからか!)
未亜がそんなことを考えている間に会長は立ち上がり、
「さて、怪しかったとは言えおいしい話を逃したのは事実だ。ここから取り返すぞ!」
そう言って、未亜とディオゴは応接室から追い出されたのであった。
そして会長は二人の後ろがドアの向こうに消えると窓の方にもう一度目をやったのであった。
「さて...。」
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