じゃない方と通訳の初仕事(2)
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会長は未亜とディオゴがここ3日間資料室に詰めて可能な限り書き尽くした地図を示した。そこには、ここ数十年のサヘル国の魔鉱石の鉱山をxで示してある。そして、そのxを丸で囲ったものもいくつか見られる。
「これは...?」
少し不思議そうに、しかし警戒心を露わにしながらサリムは会長に聞く。
「これはうちの優秀な社員が見つけてくれた情報だ。xがサヘル国の魔鉱石の鉱山を指している」
この仕事は、本当に大変だったのだ。サヘル国と魔鉱石の取り引きをしている商会はリュシエール王国にはそれほど多くない。その人たちから話を、可能なら契約書を見せてもらい鉱山の場所を特定して行った。サヘル国との契約書は例の如く詩のようになっており、「月の翳りが見える時、神の祝福を得た自然の力が...」と続くような契約書をカレンダーや地図と睨めっこしながら埋めていかなければいけなかった。また、それだけでは情報が足りないので、ディオゴは町中の旅商人に話を聞き情報をかき集めた。未亜はその情報を基に1つ1つの場所を特定していき地図に書き込んで行った。
「そして丸がついているのがここ数年で閉山が決まった鉱山だ。」
そこにはあちらこちらにまるが付いていた。そして今回の議題の鉱山の周りにはたくさんの丸で囲われたxがあった。
「今回の鉱山の周りは閉山したものばかりだ。しかも、ここ数年で立て続けに閉鎖されている。そんな鉱山に囲まれた場所で、どれだけの利益が見込める?他の商会が手を出さなかったのは勝算が低いと見積もった結果だろうよ。」
サリムはむむむ...と唇を噛みながらも
「しかし、周りの鉱山が閉山しているからと言って、この鉱山もそうとは限りません。」
「それはそうなんだがなぁ...」
会長は頭をぽりぽりとかくと
「じゃあ、なんでこんなことした?」
先日サリムが持ってきた契約書を出し、ピンと指を指す。
「...鉱山の名前を示さなかったのはサヘル国の伝統に基づいて...」
「いや、俺たちが読める方ではない。そうだな?」
そう言って、会長はくいっと顎で未亜を促した。話せと言うことだろう。
未亜は大きく息を吸った。
「はい。書かれている文章もサヘル国にしては詩的表現が少ないとは思いますが、それ以外だと注目すべきは、この金の縁取りです。」
そう言って未亜は契約書の羊皮紙示し、契約書の周りの金色の飾りを指差した。そしてチラッと一度サリムを見る。サリムは未亜のことを睨み始めていた。そのようなサリムを見つめながら静かに、
「この金の縁飾りをよくご覧ください。縁取りに似せてありますが、これはサヘル国の古語ですね?」
その言葉を聞いた途端サリムの顔が硬直しみるみるうちに赤くなった。
「な!サヘル語の古語などと!何を言い出すかと思えば、出鱈目を!ヴィセンテ殿。あなたの通訳に関して私が何かを言う立場ではないのは重々承知しておりますが、この若いお嬢さんに通訳や翻訳は少々荷が重いのではないですか?ましてや、サヘル語の古語などと言う妄言...」
会長は厳しい目を向けながら
「ほう。それでは貴殿は、こちらの縁取りはただの模様だと?私でもじっくり見れば文字のように見えるのに?」
「そ、それはサヘル国独特の正式な契約書についてくる文様でして...」
サリムの態度は一変して萎んだ風船のようになる。
「ふむ。それは初耳だな。今まで多いとは言えないが何件かおたくの国の商人と契約を結ばせてもらっている。しかしこのような書式は初めて見るぜ。」
「そ、それはここまで重要な案件ではなかったからでございましょう。」
「鉱山の産出量のうち優先権のある分の7割をリオ・ソラルに3割引で売ろうって言う案件がそんなに重要案件なのか?」
「...」
目を逸らし始めるソリムを見て
「未亜!」
「はい!」
思いがけなく会長の檄が飛んで、反射的に返事をする。
「そちらの契約書の周りは、サヘル国の古語でこのように書かれています。『この文書に金の文字で書かれている文言以外は全て偽の言葉である。金の文字だけを信用しろ。この契約はバハール商会とリオ・ソラル商会双方の同意を得て締結したものである。本契約を以て、リオ・ソラル商会はバハール商会の傘下に入り、リュシエール王国での売買権をバハール商会に譲渡する。また、リオ・ソラル商会は、バハール商会が魔鉱石の採掘における損害またそれに伴う破産が起きた場合、速やかに補填し、バハール商会のために尽くすことをここに確認する。』と書かれています」
むちゃくちゃな内容だ。今回の交渉は始めからやる気がなかったのだ。こちらがどんなに条件を訂正するよう迫り、実際訂正してもらっても、金の文字で書かれない限り採用されないのだ。読めていたらこんなの絶対にサインなどし得ない。ただし、読めなかったら?そんなの条件さえ合えばサインしてしまう。理不尽すぎる内容だった。
「俺たちの中にサヘル語の古語がわかるやつがいないと思ったか。だから大手ではなくうちに声をかけたのか?」
ドスの聞いた声で会長が聞くとサリムは少し顔色を悪くしながらも
「滅相もございません。そもそもサヘル語の古語が分かると言うのは本当でしょうか。サヘル国の者でも古語を読めるのは学者ぐらいでしょう。それがそちらの若いお嬢さんに分かるとは到底思えません。このお若いお嬢さんが次の仕事を欲しいばかりに嘘をついているとは考えないのですか、ヴィセンテ殿は。」
意外にもしぶとく反論してくるサリム。ここまで行くと、本当にこれが古語でそう書かれているとは知らずに持ってきたか、何かしらの引き下がれない事情がありそうである。
「俺は自分の目で見たものを信じるたちでな。ここにいる未亜とぽっといきなり出てきて1発目の交渉から契約書を持ち出してきたあんた。信用度と言う意味では未亜に軍配が上がるぜ。」
フンっと腕組みをしながら会長は言う。
「俺の商会の人間だ。信じないでどうする」
「しかし、それではこの契約は無しということになりますよ」
サリムは少し引きつつもまだ押してくる。
「もし仮にだ。未亜の言うことが本当でなかった場合、それは俺の見る目が狂っていただけだ。それでダメになる商談なのであれば、そこまでと言うことさ。」
サリムは、
「今回を逃すと二度とチャンスが巡ってきませんよ。」
「いいさ。その分他で稼げばいいだけだからな。」
その言葉を聞くとサリムは契約書を持って立ち上がりそのままドアへ向かって進む。
バタン。とドアを大袈裟に開いた後、勢いよく閉めた。
未亜はディオゴと顔を合わせ、自分たちの勝利を確認していた。
遅くなってすみませんでした。読みに来てくださって本当にありがとうございます。励みになっています。
実はストックが切れたタイミングで本業の方が忙しくなってきてしまいました...ここからは週1で更新していきたいと思います!次の更新は来週の水曜日午後7時の予定です!




