じゃない方とチート能力の欠点
いつも読みにきてくださってありがとうございます!
「おはようございます。」
未亜は、昨日言われたように裏口にあったドアから事務所の方に入って行った。異世界での初仕事に昨日は緊張してあまり眠れなかった。それでも緊張感の方が優っているのか、アドレナリンが出まくっているのか、未亜はあまり眠気を感じていなかった。
「おう!きたか、ミア。今日からよろしく頼むぜ!」
ディオゴが机の後ろから手招きをする。机の上にはたくさんの羊皮紙が丸まって置かれていた。
「ひとまずはこの書類整理をしながら俺たちの取引先や取引内容をざっくり覚えてくれればいいから。」
そう気さくに声をかけてくれるディオゴに申し訳なさを感じつつ、
「あのその前に...すみません。もっと初歩的な質問をいいでしょうか。」
おずおずと手を上げる。ディオゴがどうぞ、と促す。
「すみません。私、言語は読めるんですけど、単位の関係性が分かっていなくて...例えば昨日読んだ『日記帳』にあったバレとかクルスとか...クルスはお金の単位だとは思うんですけど、この国のお金に換算するとどれくらいになるか分からなくて...。バレに至っては、何の単位かも分かっていないという...」
申し訳なさすぎて尻すぼみになってしまう。これは昨日気づいたことだが読めると理解できるは別なのだ。クルスはクルスと読めるし文脈から見てお金の単位なのは分かるがその価値が全然分からないのだ。これは、未亜の能力の欠点とも言えた。
「取引内容を見ていくにしてもそこの知識がないとちょっと理解しにくいというか...。」
言い淀む未亜を見て、ディオゴはちょっと不思議そうな顔をした。そんなに他の言語に詳しいのに、単位の互換性には疎いの?と目が語っている。未亜も目でおっしゃる通りです、と伝えつつ、でも分からないんです!と懇願し続けた。ディオゴはそんな未亜の様子を見て、
「分からないのであれば、分かってもらうだけだから、あまり気にするなよ。」
と、自分の懐から手帳を取り出した。
「これを見るといいよ。いわゆる換算表だ。」
そこには一面びっしりに単位と言う単位が書き込まれていた。
「あの、これ後で写してもいいですか。」
携帯があれば、写真でばっと撮ってしまうところだが、ここにはない。自分で手書きで自分の手帳に書いていくしかないだろう。
「いいよ。じゃ、今日はひとまずそれも見ながらやっていこうか。」
「よろしくお願いします」
そうやってディオゴとの書類整理という名の研修が始まった。始めてから小一時間経ったところで、未亜はこれは大変な仕事を受けてしまったかもしれないと思い始めていた。とにかく取引先が多い。そして土地勘がない未亜にはどこからどこにものが流れていくのかが見えにくく、また輸送費などのコストも距離感が分からないので掴みにくいものだった。未亜は2時間ほどしてみた後で音をあげた。
「ディオゴさん。すみません。あの国内と国外の地図ってありますか。」
「ん?」
「すみません。ちょっとこの文字面を追うだけじゃ、頭に入らなくて。多分、私ビジュアルラーナーなので絵で分類したいです。」
「び、ビジュ...なんだって?...まぁ、地図ならあそこにあるけど...」
そうやって奥の方に丸まって置いてある大き目の羊皮紙を指した。
「ありがとうございます!」
未亜は早速それを空いている机の上に広げる。
「あ、なるほど。この国とこの国は隣合わせで、あぁ、ここがリュシエール王国の西に位置するのか。」
地図の上でやっと訳された文字が意味を持つようになる。
「それで、この国の単位はこれで、こっちがこれで、換算表を見るとこの単位はこっちではこうなる、と。」
(あぁ、ポストイットがあったら書き込んで貼っていきたい〜!)
そう思いながらも紙にメモを書いては地図の上に載せ、書類の内容理解に努める。輸出入の輸送費なども大体距離と値段が比例していることが分かった。また海からの輸出入品目は他のに比べて異常に高いことも分かる。
(そう言えばこの間、魔物がどうとか言ってたな..それに関する知識も後できちんと入れておかないと...)
そんなことを思いながら作業を進めていた未亜だったが、一方でディオゴは未亜の処理スピードがいきなり上がったことに驚きを隠せなかった。
未亜が読んでいるのは『日記帳』だったが、色々な言語が入り混じっている上に、記録を残した人の字の癖があって読みにくく、副会長のディオゴだと1時間に5ページの確認をするぐらいのペースだ。未亜も最初はそのくらいかそれより少し遅いペースで読み進めていた。それでも早い方だと思っていたが、地図を引っ張り出してきてからどんどんスピードが上がり、今ではディオゴですらできないくらい読み進めている。
(す、すごいな「夜凪のおひいさん」。会長の勘はハズレねぇ、と思ってここまでついてきたが、こりゃまたとんでもない拾いもんだぜ。昨日駆けずり回って、見つけた甲斐があったってもんだ。)
そんなことを思いながら、黙々と作業を続ける未亜を見守っていた。
そんな時、ふと未亜の手が止まる。
「ん?どうした?」
「ディオゴさん、すみません。よく分からないところがあるみたいで...聞いてもいいですか。」
「え?どこ?」
未亜に訳しきれないというのはどういうことだろうか?訝しんで『日記帳』を覗きこみ、未亜が指差している部分を見る。
「ここなんですけど、日付的にも取引内容的にも同じ『織物』を指していると思うんですが、こちらには『上級織物』と書かれていて買い値はこれだと思うのですが...次の日それを『中級織物』?と書いていて、売り値がかなり安くなっているんです。多分長さが同じなので同じものではないかと思うのですが、これは、わざとそうしたんですか?」
「ん?」
ディオゴは、じっくりその部分を読み込んでいく。読みながら顔が険しくなっていくので、未亜は答えを聞かずとも状況が飲み込めた。
「...こ、これは完全にやらかしているね...ほら、ここのミアが『上級織物』と訳した部分、これは現地語のフレディー語で書かれているけど、こっちはリュシエール語で書かれているだろう?担当者が訳し間違えたか、間違えて覚えていたんだよ...たまにあるんだ。こういう損失...」
そう言って「あちゃー、これは痛いなぁ。」と落ち込んで呟いている。一方で、未亜は
(なるほど、1つはフレディー語で書かれていて、1つはリュシエール語だったのか...チート能力で、理解はできるけれど、言語の違いが認識できないのはやはりトラブルの元になるな...これは早急に見分け方を見つけないと...)
そんなことを考えていると気を取り直したディオゴが
「でも、すごいよ。昨日の今日でまたミスを見つけるなんて。ミアは俺たちの女神かもしれないな。」
「いえいえ。大げさです。」
未亜は即座に思い切り首と手を振る。聖女の次は女神とかもう何かに祭り上げられるのはたまったもんじゃない。
「昨日も大活躍だったって聞いたよ?ヴィセンテに内部不正の疑いがあるって伝えたんだろ?あの後、うちは大騒ぎさ!」
(え?なんか話が大きくなってる!?)
「ひー!」と心の中で叫びながら
「い、いえ。私は不思議に思った箇所を伝えたまでで。不正とかそんなことはつゆにも思わず...」
「謙遜しなくてもいいよ。ミアが帰った後、あの日記帳を書いた奴を捕まえてね、事情を聞いたらやっぱり、お金ちょろまかしてたんだよ。ヴィセンテ、相当ブチ切れてたから、先に帰って正解だったよ!」
親指でいいね!とサインを出してくるディオゴ。
(よくない〜!!)
「あ、あの、その不正をしていた人は結局...?」
「ん?それはミアは気にしなくていいよ〜!」
ひらひらと手をふり、「ま、もう会うことはないから。」とサラッという。
(ひー!それはどちらの意味ででしょうか⁉︎会社を辞めさせたって受け取ってもいいでしょうか!)
引き攣ったミアの顔を面白そうに眺めながらディオゴは笑う。笑うだけでその後何も言わないのが逆に怖い...
「そ、そうですか。」
やっとの思いで色々な思いを飲み込む未亜。それを見て
「うん。やっぱり商人向きだよね。言うべきことと言わないべきことの区別がきちんとついている。」
そうやってにっこり笑うディオゴに、もう未亜は乾いた笑いしか返せなかった。
(だ、大丈夫かな?私、本当にここでやっていけるかなぁ。)
先日、総文字数が5万字を超えて、自分でもびっくりしました。書き続けられているのは読みにきてくださる方がいるからです。未亜の挑戦はまだまだ続くので、また読みにきてもらえるとうれしいです!
次回の更新は水曜日の午後7時の予定です!




