じゃない方と中堅商会の会長の試験
見つけてくださってありがとうございます!
「行ってきまーす。」
そう言って、未亜は2:30ごろ家を出た。道は分かりやすいし、大通りにあると言う商会はすぐに見つかるとは思っていたが、万が一のために少しだけ早く家を出た。広間を抜け海の方に下っていくと光を反射した海がキラキラと光、潮の香りも強くなってくる。そして港に近づきに連れて人通りも多くなっているようだった。
(えーっと。海から3本目の通りだからここら辺だと思うのだけれど...)
未亜がキョロキョロしていると左手に「リオ・ソラル」と大きく掲げた看板が見えた。ディオゴが渡してくれたキーホルダーみたいなものと同じようなロゴも書いてある。太陽と錨をモチーフにしたようなロゴだ。
(...思ったより大きいな...)
みんなが中堅、中堅というから、なんとなく中小企業のイメージで、ビルの一画とかでやっているイメージだったがこのロゴの付け方を見る限り、ここ一棟全てがリオ・ソラルの持ち物なのだろう。中堅が未亜にそんなにいい給料払えるのか?と思っていたがその心配はほぼ無くなった。
中に入っていくと、1階はお店のようになっていた。しまった!もしかしたら事務所の入り口は別だったかもしれない!ちゃんと探すんだったと思いつつも、お店の人はすでに未亜に話しかけるために近づいてくる。未亜は腹を括った。
「あの、すみません。商会長さんにお会いしたいのですが...」そう言ってディオゴからもらったロゴを見せるとお店の人は、「おお!あなたが!」と言い、2階の応接室に通してくれた。未亜がこの世界に来てからそんなに時間は経っていないが、そこにある調度品はどれも質がいいもので構成されているのが分かった。早めに来てしまったので、しばらく待つ覚悟でいると扉ががばっと開き、日に焼けた肌で顎髭をはやし、後ろで焦茶の髪を括っている男の人が入ってきた。体つきもがっしりしており、商人というよりかは海賊とか冒険者とか言われた方が印象に近い。ディオゴが軽かったのでそんなに堅苦しくない人が出てくるかな?と思っていた未亜の想像より遥かに堅苦しくなさそうな人が出てきた。
「会いたかったぜ。『夜凪のおひいさん』」
ずんずんと部屋の中に入ってきて未亜の机を挟んで向こうに座る。にやっと笑うその目は狙った獲物は逃さないと言っていた。地声が大きいらしく、その声も威圧感の1つになっていた。
びくり!としながらもそれを見せないように
「ミアと言います。なんでも私の能力を買って雇ってくださるとか」
と早速本題に入った。
「ああ。ディオゴから報告は受けている。サヘル語が使えるのは、昨日俺がこの目で見ているからな。そこはいいとして、ノルディア語も使えるって?」
未亜は肯首した。
「じゃあ、これを読んでみな?」
未亜は目の前にぱっといくつかのまとまった書類を見せられた。潮の香りがする少しふやけた羊皮紙の束だった。
目線で「手に取っても?」と示すと、向こうからも「どーぞ。どーぞ。」と示される。
テストみたいなものだろう。未亜はそのうちの一部を手に取るとタイトルを見た。『日記帳』と書かれたそこには取引の日時や誰が何をいくらで買ったかが書かれていた。
「えっと...『5月23日フレンドルの商人のフレディックよりノルディア国の魔石12バレを受け取った。1バレあたり500クルス、計6000クルスを支払う約束である。支払いは次回の入港時(Próxima Chegada)とする。運搬費として港の荷役へ1銀貨を別途支払った。これらは商会の第1倉庫へ保管した。』?」
なんだか分かりにくいな...出納帳が欲しい...単位も違うし...クルスってどこの単位でここの国でいくらくらいなんだろう?
会長はそのまま目で続きを促した。
「うーんと『この商人から魔石を輸入したのは初めてだが、』うーん『最近、ノルディア王国では魔物が多く出現し、それに伴い純度が高く品質が良い魔石が多くでている、とのことである』?」
すごいな。これ、本当に日記帳だ。同じような記述が取引ごとに書かれている。最初のページからいくつか読んでいくと3ページ目の終わりの右横に走り書きのように
「『原価割れ、2度目はない?』」
「もういい。」
ぱっと羊皮紙を取り上げられ、「あっ!」と見上げたら、にやっとした顔の会長と目が合った。
「この王国の言葉だけでなく、サヘル語、ノルディア語、フレディー語も分かるとは恐れいった。しかもこんな走り書きみたいな文字がよく読めたもんだぜ。」
そうやって『日記帳』の方を見た後、観察するように未亜を見た。未亜は内心冷や汗ものである。何気に「フレディー語」を読んでいたのだから。どれがフレディー語だったかすら分かっていない。
「ディオゴが言った通り1言語につき週給20銅貨出す。銀貨1枚と銅貨70枚だ。これでうちで働いてくれねぇか。」
ぺこりと頭を下げる会長に未亜は
「はい。よろしくお願いします。」
と頭を下げた。と同時にこの力を使って仕事をするならもう少しちゃんと使えるようにならなきゃな、と心に誓う。
(自分が読んでいる言語が何語か認識できないのは後々まずい気がする...)
「あ、名乗り忘れてたいたな。俺がこのリオ・ソラル商会会長のヴィセンテだ。これから頼りにしているぜ、ミア」
手を差し出されたのでミアは握り返した。そしてふと思い出したように
「そういえば、先ほどの日記帳にちょっと不思議な点がありまして...」
「ん?」
ヴィセンテ会長は眉間に皺を寄せた。明らかに不満げな様子だ。
(どうしようかな...でもここまで言っちゃったしな...)
ここで何も言わない方が信用を失う気がした未亜は恐る恐る口を開いた。
「間違っていたらすみません。えっと..ここの5月30日の記録なんですけど、魔石を10バレ仕入れていますよね?」
そうやってさっきの羊皮紙をめくる。
「で、ここで5バレ売っているんですが、その残りが3バレと記入してあるのが気になりまして...それまでの在庫とかもあるでしょうし、この記録だけではなんとも言えないんですが、これだけみると2バレがどこかに行っている気がして...」
がばっと羊皮紙を取られ、会長が素早く目を通す。
「助かった。これは、こっちの仕事だ。」
そう言って、廊下に出て行き別の部屋で「ディオゴを呼んでこい!」と叫んでいるのが聞こえた。
応接室に帰ってくると
「悪かったな。仕事は明日からでいいか?」
「はい。何時にくればいいでしょうか。」
「ひとまず取引先とかを覚えてもらわなきゃならねぇから、9時に1階の事務所に来てくれるか。今日は店の方から入ってきたそうだが裏手にもう一つドアがあるからそこから入ってきてくれ。そこにディオゴを待機させとくから、詳しい話しはディオゴに聞け。」
「はい。それでは明日からよろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀しドアに向かった未亜だったが、何を思い立ったかドアノブの前でくるりと振り返った。
「なんだ?」
「あの、こちらも私の勘違いかもしれませんが。6月3日の取引の金額が間違っていると思います。布12反仕入れて、1反15銀貨なら150銀貨ではなく、180銀貨かと。あ、でも間違っていたらすみません。」
そうやってもう一度ぺこりと頭を下げると未亜は脱兎の如く応接室から出ていった。ヴィセンテは自分の手にあるひしゃげた羊皮紙をもう一度広げて6月3日の取引を見た。
そこには未亜が指摘した通り150銀貨となっており、未亜が指摘した通り間違いであった。12こを1まとまりとして考えてしまう商人にはよくありがちなミスではあったが、あの短時間で翻訳ばかりでなく、記述の矛盾点や計算間違いに気づくなど考えても見なかった。そして4言語を瞬時に翻訳してみせる力。
「こりゃ、すぐに昇給も考えなくちゃならねぇか?」
窓から帰宅の途につく未亜を見ながら、それでもいい見つけものをしたとヴィセンテは上機嫌で酒の蓋を開けるのだった。
とうとう未亜の異世界でのお仕事が始まります!続きが気になる!と思って頂けたらブックマーク、リアクションして頂けると嬉しいです。
次回は月曜日の午後7時更新予定です!




