じゃない方と仕事のオファー
今日も読みに来てくださってありがとうございます!
「ねぇ、うちの商会で働くのはどうかな?俺たちのリオ・ソラル商会でさ!」
仕事がもらえるのはありがたい。そして、どうやら未亜の能力を買ってのことらしい。でも、どんな人かもどんな仕事かも分からない。未亜はちょっと警戒しながら、じっとその人を見つめた。向こうは背が高いのでちょっと見上げる形になった。
「・・・興味はあります。でも、仕事内容やその他詳しいことを聞かない限りはなんとも・・・」
「いいね。そのすぐにうまい話に飛びつかない感じ、とてもいいよ!じゃあ、まずは、自己紹介からかな。」
そう言ってその人は、屈託なく笑う。この笑顔にやられてしまうマダムが数人はいそうな笑顔だった。
「俺は、リオ・ソラル商会の副会長のディオゴ。昨日、会長がマスカの親父さんのところでの一部始終を見ていたらしくてさ。でも、君、すぐにあの場からいなくなっただろう?あれから会長、周りの人に聞いて回ったみたいなんだけど、誰も知らなかったからさ。新しく町に来た人だろうってなって。『夜凪のおひいさん』を我が商会に!って昨日から燃えててさ。そんで、今日商談で歩き回れない会長の代わりに俺が午前中ずっと君を探して走り回っていたってわけ。」
汗をぬぐいながら「いやー、でも銀の匙のおかみさんのところに君が来て、仕事を探しているって聞いた時は、天使と悪魔がいっぺんに降ってきた気がしたよね〜」なんて明るく話を繋げる。
「俺達の商会はさ、香辛料とか一般的な輸入品も扱ってはいるんだけど、主に魔石を取り扱っててさ。」
「魔石・・・」
「そう。まぁ、仕入れるのも大変だし、仕入れ先も売り先もちょっと癖が強い相手が多いって言うのが難点かな。まぁ、だからこそ、これから大きくなる可能性を秘めている商材でもあるわけで...。時化のシーズンが迫っているから今、とてつもなく忙しくてさ。あ、と言っても食事処みたいに短期契約はするつもりないよ。君が働きたいと思ってくれればいつまででも働いて欲しい!」
矢継ぎ早にそう言って、グッと距離を詰められる。ちょっと圧が怖い・・・
「俺たちの商会はこの町では中堅ぐらいの位置付けだからさ、大商会と比べると給金とか見劣りするかもしれないけど・・・。君に主にして欲しい仕事は、通訳や翻訳だ。君、サヘル語が話せるんだろ?」
見られてしまっている以上、否定するのも変なので、こくんと首を縦にふる。
「じゃあ、週給で銀貨1枚と寮費免除っていうのはどうかな?」
ものすごい金額がきた!リック曰く、ホールとかで働く場合は週給銅貨45-50が相場らしい。言語能力を買われた特殊職ではあるけれど本当にこんなにもらっていいのだろうか...。それに、寮がついているというのは自活したい未亜にとっては魅力的ではある。一方で、始めたばかりのマーサとリックの生活をひとまず楽しんでみたいという思いもあった。
「・・・寮費免除は入りません。住む家があるので。その代わり週給銅貨50枚足してくれませんか。」
未亜は相手の目を見て言った。ディオゴはちょっと面食らった顔をした後、ニヤリと笑い、
「いいねぇ。そういう姿勢は、商人にとって一番大切だ。週給銀貨1枚+銅貨30枚で、交渉成立だ。」
「いいえ。」
ここで未亜はちょっと悪い顔をした。
「私、ノルディア語も分かります。」
なんだかちょっと楽しくなって、マーサがノルディア語は難解な言語と言っていたのを思い出し、もうちょっと給料交渉をしてみようと思ったのだ。ただし、あんまり期待はしていなかった。言ってしまった後に、若干後悔したまである。そんな未亜の心中は知らず、ディオゴは驚いた顔をして
「マジでか。それは、ますますうちに欲しくなったし、会長が手放さないだろうな・・・ふむ。でも、どうすっかな。俺は今、君がノルディア語が本当に理解できるか、話せるかを確認する手立てがない。」
それは、確かに。未亜もむむむという顔をする。
「それじゃ、こうしないか。ひとまず、現在の契約は週給銀貨1枚+銅貨30枚だ。しかし、ノルディア語が本当に理解でき、話せたら、銅貨を20枚上乗せするってのは。」
「それで君の希望給金だ」とにこりと笑う。さすが商人。結局、未亜の希望給金まで出すことにして話をまとめようとしてくる。一方で、未亜は正直、今、この契約に乗ってしまっていいのかちょっと悩んでいた。条件としてはとてもいい。ただし、この商会ことも知らなければ、自分の仕事内容もきちんと把握しているようわけではない。この提示されている給金も妥当なものかどうかの判断がつかないため、一度マーサやリックに相談する時間が欲しかった。
「...それでは、他の言語が話せると分かったら、その言語1つにつき週給銅貨20枚追加してくれますか?」
未亜はこの契約の話を引き延ばしにかかった。なるべく穏便に相手に不快感を与えない自然な形で。
「おい、おい。『夜凪のおひいさん』。西の大国と北の言語が分かるだけでもすごいのに、もっとできるっていうのかい?もしかして。」
未亜の発言にディオゴは、目を見開き本当に驚いたようだった。やはりリックの言うようにこの国には多言語を話せる人は希少らしい。
未亜は「さぁ?」とちょっと含み笑いをしておいた。未亜自身も本当にこの2つの言語以外が分かるかは検証していないので、未亜自身も実はなんとも言えないのだ。でも、なんとなくできるだろうなという自信はあった。ディオゴはしばらくじっと未亜を見て、考える素振りをし、
「はぁ...参った。これ以上の交渉は俺の手に余る。直接、会長と決めてくれ。」
本当はここで決めたかっただろうディオゴは一旦引くことを選び、お手上げのポーズをした。未亜はこくんとうなづく。
「会長は、今日の3:00以降なら商会の会長室にいるはずだ。これを持っていけば会長室まで通してもらえるはずだから、今日の3:00に会いに来てくれないか?」
そう言って、ディオゴは、腰につけていた皮でできたキーホルダーのようなものを渡してきた。そこにはリオ・ソラルと商会のロゴのようなものが描かれている。
「本当は俺が一緒に行ければいいんだが、あいにく午後は別件が入っていてな。話は通しておくからさ。…そういえば『夜凪のおひいさん』は、俺たちの商会の本部ってどこにあるか知っているか?」
首を横に振る未亜に
「そうだよな...この大通りをまっすぐ海側に下って行って海側から見て3本目の通りの左手にある建物だ。名前がデカデカと書いてあるから、多分わかると思うが、分からなければその辺の人に聞いてくれればいい。この町では結構知られているんだぜ、俺たち。」
そうやってにしし、と笑う。そして広間の時計を見た後
「やべっ。もうこんな時間だ。じゃあ、『夜凪のおひいさん』また後で!」
そう言って、ディオゴはまた走って去って行った。
未亜が広間の時計を見上げると1時になるところだった。約束の時間までは2時間ほどある。
(ひとまずマーサとリックに相談しに帰ろう!)
仕事をオファーしてもらえた高揚感と得体の知れない会社からと言う不安を両方抱えながら未亜は家路についた。
魚を買って帰ることなどすっかり忘れて...。
少しずつ未亜の異世界での仕事が始まっていきます!
次回更新は水曜の19時の予定です!




