じゃない方と港町マルティナ
いよいよマルティナ篇、本格スタートです!
少し各自が休憩した後、未亜とマーサは町に出かけることにした。リックはこの辺りの管轄の司祭様に会いに行くと言って、また前髪を下ろして(短くなっていたのでそれでも前と印象は変わっていたが)白い装束を着て出て行った。
馬車で来た道を逆に辿るとすぐに大通りに着いた。ここまでの道のりも白い壁に挟まれた細い石畳の道を歩き、未亜はとても浮かれていた。それを優しそうにマーサが見ている。大通りを海側に下って行くと屋台のようなお店がポツポツで始め、その店の並びは先にある円形広場に向かって多くなっているようだった。
未亜はその屋台のお店1つ1つを見ていく。お昼を過ぎた時間だからか、店じまいをすでにしているお店や今ちょうど店をしまい始めたお店もあった。未亜の好きな魚のお店は、昼前に閉まることが多いようで、魚の看板があるのに店に人がいないと言うところもちらほら見かけた。その代わり、お昼ごはんになりそうな軽食を売る店や果物のお店、雑貨のお店はまだ開いているところが多かった。食べ歩きできそうな屋台の食べ物の匂いが食欲をそそる。
「くぅー」
と未亜のお腹がなったのをマーサは聞き漏らさなかった。
「ミア様、今日は早めの夕飯にしようと思ってはいましたが、今少し食べたところで問題ありませんよ。」
そんな優しい言葉と笑顔を向けられて、未亜は俄然食べ物の屋台を真剣に見始めた。やはり港町と言うこともあり、お魚を使った軽食が多いようだ。また、おやつ用なのか甘めのお菓子のようなものも売られている。どれにしようか悩んでいると、
「これからここに住むのですから、そのうち全種類食べられますよ。」
とマーサは笑いながら、言う。よっぽど未亜が真剣な顔をしていたのであろう。
散々迷ったあげく、未亜は、魚のすり身が入った団子のような食べ物にすることにした。1つ1つが丸く形成された上、焼かれていて、銅貨2枚で5個入りだと書いてある。
「あの、すみません。」
未亜が近づいて声を書けると、店の人が
「あいよ。」
と答えた。
「すみません。これ1つください。」
そう言って、未亜は自分の財布から、銅貨を2枚指し出した。
「毎度あり。」
そう言って先ほどまでフライパンの中にあった団子のようなものを、ポンポンと手元の紙コップのような容器に入れていく。
「はい、どうぞ」
最後に、付属の爪楊枝をつけて渡された。これで指して食べろ!と言うことだろう。未亜はカップの1番上のものに、爪楊枝をさして口に運んでみた。噛むときちんと魚介の風味がし、もちもちした食感が癖になる。マーサにも勧めて1つ食べてもらう。マーサは食べた瞬間「これってどうやったら作れるのかしら?」と目が光った。
そして屋台のおじさんの方を振り向くと「すみません。こちらの料理はどのように作るか教えて頂けませんか。」未亜たちの家の料理長としてなんとしてでも調理法を学ぼうと、必死に店主に食い下がった。
そんな様子を見ながら未亜は紙コップに残った最後の団子をじっと見ていた。これが私がこの世界で初めて買ったもの!そうなのだ。ここまでの道中は全てマーサかリックが支払って来てくれた。今回は、賠償金でもらったお金を自分で使って無事に買い物ができたのだ。ちょっとうれしくなって最後の1つをぽいっと口の中に投げ入れた。
(今回は賠償金からだったけど、近い将来自分で稼いだお金で、買えるようになりたいな。そのためは、1にも2にも仕事探しが大切!)
よし!と気合いを入れ直しながら、紙コップを潰し、ゴミ箱を探していると、広場の方にゴミ箱のようなものがあることを発見した。未亜はちらっとマーサを見るとマーサはまだお店の人とレシピをもらえないか話し込んでいる。
(まぁ、すぐそこだし。ぱっと捨てて戻ってこよう!)
未亜はそっとその場を離れ、ゴミ箱の方へと歩いて行った。そんな時、
「だーかーら、このマスカはどこ産かって聞いているんだよ。」
ちょっと苛立った男の人の声が未亜の耳に入り、未亜は思わずそちらの方を向いた。そこには、りんごのようなものを売っているお店があり、その前に立っているちょっと褐色肌で長い髪を後で無造作に束ねた男の人が、そのりんごのようなものを1つ手にとって店主に詰め寄っている。
店主の方は困った顔をしながら、
「ですから、1つでは売れなくて・・・・3つで銅貨1枚なんです。」
と言っている。
「いや、だから俺は、このマスカが欲しいんじゃなくて、いや、買うんだけれども。仕入れ先はどこかって聞いていて。」
「どうすっかなー。」なんて頭をかきながら髪の毛ポニーテールのお兄さんは、周りをキョロキョロとしている。見た目は、粗暴で怖そうだが、悪い人ではなさそうだ。
そんなやり取りを見ていた未亜はこの二人の会話がなぜにこんなにすれ違っているのかがよく分からなかった。
(あの店主さん、耳が遠いとかそう言うことかしら?それならちょっと手助けしてあげるのもいいかもしれない。)
未亜はあまり深く考えずに、そのお店の方に歩いて行った。歩いて行ったものの、声をかけるのにはやはり勇気がいるものだ。心の中で「よし」と一回気合いを入れる。
「あ、あのー、店主さん。そちらのお兄さん、その果物?の産地が知りたいと言っているんですが・・・教えてあげることは可能でしょうか。」
ちょっといつもより大きな声を意識して店主に話しかける。いきなり会話に入ってきた未亜に驚いたのか店主とポニーテールのお兄さんは二人の視線が一気に未亜に集まった。
(あ、い、いや...そんなにじっと見つめないで...緊張するから...)
未亜がその視線に恥じらいを感じていると、さっき未亜が言ったことがようやく理解できたのか店主は「おお!」と言って、
「これは、リュシエール王国の北の大地ヴァルネのものだよ。あそこは、寒冷地だから、おいしいマスカが作られるんだ。今はシーズンだし、おいしいよ。試してみるといい。今日は銅貨1枚で3個だ。」
とにこやかに買い物客の男の人に言った。「よかった。」伝わった。そう思ったのも束の間、ポニーテールのお兄さんは困惑した顔をしている。
「バ、バルン?れーち?聞いたことがない」
未亜はなるほど!と納得した。きっとこのお兄さんも耳が遠いのだ。広間は人通りも多く、騒々しい。店主の声をうまく聞き取れないのだろう。
(だから二人の会話が成り立っていなかったのか!)
余計なお世話かな?と思いつつ、乗りかかった船である。
「あ、あの、店主さんによると、こちらのマスカ?は、この国の北のヴァルネ地方のものだそうです。今、シーズンだからおいしいらしいですよ。あ、銅貨1枚で3個買えるそうです。」
と、お兄さんにもちょっと大きめな声で伝えてみた。すると、今度は店主もお兄さんも未亜をきょとんとした顔で見た。
(ん? その反応は、何?)
しばし、3人がそのまま固まる。その中で、未亜の頭の中はオーバーヒートしそうなぐらいぐるぐると回っていた。
(ん?ちょっと待って。もしかして、あんなに話が噛み合ってなかったのって、お互いの耳が遠かったからではなく・・・・?)
なんだか嫌な予感がして、背中から嫌な汗が流れる。
「...お前、サヘル語が話せるのか?」
ポニーテールのお兄さんが目を見開き、驚いた顔をして未亜を見る。
(あぁ。これは、やってしまったのでは・・・?)
「えっと、あの、その・・・」
しどろもどろにになり、未亜は
「店主さん、この人3個マスカが欲しいそうですよ!」
早口でそう言って店主さんの気をその男の人に向け、店主さんが「おや、そうかい。毎度。」と言ってマスカを袋に詰めている間に、未亜は一目散にその場から離れた。
「お、おい!」
とその場から離れられなくなったお兄さんを残して。
「今のは・・・」
そんなやり取りを他の人も見ていたにも関わらず・・・
新しい登場人物が...
今週も月水金で投稿予定です!次の投稿は水曜日の午後7時を予定しています。




