じゃない方と終わらない交渉
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未亜は、こほん。と咳払いをしつつ
「それでは、2つ目の希望として、住む町を私が選ばせてください。」
「ふむ。てっきり王都に住むのだと思っていたのですが・・・どこか住みたい町でも?」
「はい!港町のマルティナに!」
未亜が元気に答えると宰相様も枢機卿もピシッと固まった。枢機卿の後ろでリックが笑いを噛み殺したような顔をしていた。
ん?
「さ、参考までになぜマルティナに?」
宰相様が少し警戒したように聞いてきた。
「マーサに王宮の食事で出る魚はそこから来ている、と聞きました。私の食生活としては肉より魚の方が好きでして...ただ輸送費が高いので王都の庶民が食べられるものは主に塩漬けや干物など加工された食品だと聞きました。それなら、その町に住んでしまえば安くて新鮮な魚が手に入りやすいと思いまして...」
だんだん言っていて、自分がいかに食いしん坊かを告白しているような気持ちになってきて、さっきの余裕の表情からいっぺんして未亜はちょっと照れたような笑みを浮かべた。
「...なるほど...。」
ちょっとほっとしたような顔の後、思案し始めた宰相様に、未亜は畳み掛けるように
「そ、それから、宰相様はもうご存知かと思いますが、私は幾つかの言語がわかります。港町なら、外国人の出入りも多いでしょうし、外国語が分かる私なら食事処や宿泊施設などで雇ってもらいやすいかと...。」
そうなのだ。それも理由なのだ。慰謝料がこれから先の人生の生活費を全て補填してくれるわけではないため、自分で稼がなければならない。サーバーやホテルの受付のような仕事なら今の自分でもできるのではないか、と考えたのだ。
(理由の準備、逆にすべきだったかもしれない...)
思案していた宰相様は、今度はにっこりと未亜に笑いかけた。
「いいですね。マルティナ。いいと思います。枢機卿もそうは思いませんか。」
笑顔なのにちょっと黒い雰囲気を醸し出しながら、宰相様は枢機卿を見た。
「お主は、マルティナがどのようなところか知っておろう。私が賛成するとでも?」
「あなたもマルティナがどんなところか知っておいででしょう?王国側はそれでも賛成すると言っています。」
「そちらの入れ知恵ではなかろうな?」
「まさか!先ほども申し上げた通り私共としては王都に住むものだとばかり思っていましたし。」
何やらもめている二人に何か言うべきかどうか悩んだ末、未亜は小さく手を挙げた。
「あの、マルティナに決めたのは昨日ですし、そこに行きたいと口にしたのは今が初めてなので、宰相様は事前に知ることは出来なかったかと...」
恐る恐るという感じで告げると、枢機卿はふんっと鼻を鳴らした。どうやらマルティナには聖光宗教にとって何か不都合なことがあるらしい。
(不都合なことがあると言うのを知れたのは1つ良かったことかな。マルティナでなくてもいいと言えばいいし・・・お魚食べたいけど・・・)
暫く枢機卿は考え込んでいたが小さな声で、「いや、これを好機と取るべきか。」と呟いた後、未亜に向かって
「そなたの条件を呑むために1つ条件がある。」
と言ってきた。未亜は警戒しながら、安易に認めないよう慎重に
「条件にもよりますが...」
と伝えた。
「そのように構えなくてもよい。ここにいるリックを一緒に連れて行くと言うのが条件だ」
急に話題を振られたリックはピンと背筋を伸ばした後、「え?」と呟いた。本人にも知らせていなかったらしい。一方、未亜の方はやっとここで合点がいった、と思った。そもそもリックがこの場にいるのがおかしかったのだ。枢機卿や宰相様がいる部屋に見習いのリックがいることが。未亜が王都にいると言った場合でも対応は同じであっただろう。要はリックを教会側の監視としてつけたいという話なのだ。
「で、でもリックさんには私の帰還の方法を探して頂いているのですが...」
次の条件で、王家からも聖光宗教からも干渉は受けない。と言う条件をつけようと思っていた未亜は、完全に出鼻をくじかれてしまったため、なんとか反論を試みる。
「それはリック以外でも可能である。むしろ、これからより過去の文献にあたっていかねばなるまい。その場合、この者の知識は役に立たないだろう。見習いだからな。そなたもリックがいれば心強いだろう。」
(それはリックさん可哀想じゃないかなぁ。上司の都合でコロコロと配属場所変わらされて。果ては、ここから離れた町で私の見張りなんて...それこそ見習いがする仕事ではない気が...)
「私は構いません。ミア様にお許しいただけるのであれば。」
リックは、枢機卿に軽く一礼をした後、未亜の目をまっすぐ見た。リックは、ここに来てから初めて友達のようになれた人物である。単独で全く知らない町に行くのは確かに、分からないことだらけで、困ることも多いであろう。そこにリックのようにこの国を知っている人がいるのはありがたい。
うーん。と暫し悩んだ後、
「分かりました。それで、マルティナに住むことに同意いただけるのであれば」
未亜が承諾すると、すぐに宰相様が
「では、こちらからは、マーサをつけましょう。」
とにっこり笑顔で言った。確かに国教側からだけの監視要員がいるのは良くないのかも知れないが、まさかマーサなんて。
「あの、宰相様。マーサ・・・さんは、この宮中でもかなりベテランの方であるはず。そんな方をこの滞在中に私につけてくださっていただけでも恐れ多かったのに、私と一緒にマルティナに行くなんて。そんな簡単に決めていいはずはありません。マーサ・・・さんのキャリアを今一度考えてもらえませんか。」
宰相様は少し考えながら
「なるほど、そのような考えもありますね。では、マーサに了承してもらえれば、としましょう。ただし、マーサ以外の誰か一人はこちらからも出させてもらいます。マーサのレポートが正しければ、ミア様、あなたは一人ではかまどに火を灯すこともできませんね。」
痛いところをつかれた!と思った。そうなのだ。未亜が侍女見習いになれないか模索していた時に、この国の一般的な家事ができないことは、マーサに見られてしまっている。そして、それらの一般的なスキルがないと言うことは、マルティナでの生活もままならないと言うことだ。
(でも、声を大にして言いたい!私は日本では一人暮らしをしていたし、それなりの家事ができた。悪いのは、掃除機もガスコンロも洗濯機もないこの世界!)
「・・・はい。それではそのようによろしくお願いします。」
賠償金、住む町の交渉には勝てたものの、国教側のリックと王家側のマーサ(または他の侍女)が付いてくることになってしまい、これでは2勝2敗である。さて、あともう2つ未亜は交渉しておかなければならないことがある。残りの2つは勝ちたいところだが・・・
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