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聖女じゃなかったので、翻訳チートで商人通訳として生きていきます!  作者: 角まがり


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じゃない方と召喚の儀

お初にお目にかかります。楽しんでもらえると嬉しいです。

鉄の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。

——ガチャン。

最後に聞こえたのは、重たい金属が噛み合う、嫌な音だった。

それが「鍵の音」だと理解するまで、少し時間がかかった。

(……あ、これ)

未亜は、ゆっくりと部屋を見回した。

石造りの壁。小さな窓。簡素なベッドと机。

決して狭すぎるわけではない。けれど、どこを見ても「出入口」がない。

(幽閉、ってやつだ)

つい2日前まで、普通に会社で残業して、コンビニで自分へのご褒美!とか言ってスイーツを買って、「明日も仕事かぁ」なんてぼやいていたただの平々凡々な二十六歳の会社員が、どうして異世界っぽい場所で閉じ込められているのか...。

理由は、なんとなく分かっている。

——私は、「聖女じゃない方」だからだ。

「じゃない方」

その言葉を、あの側仕えだと言われていた少女は、吐き捨てるように言っていた。

(一体なんでこんなことに...。)

ポン。と体をベッドに投げ出す。簡素な作りではあるが、意外にも自宅のベッドよりふかふかしている。

あの石畳の床で同じように倒れていた彼女。オーブと呼ばれるガラス玉を瞬いまでに光らせた彼女こそ彼らが求める聖女なのだろう。

未亜は小さく息を吐いた。自分でも驚くくらい落ち着いていて、逆にびっくりする。

(とりあえず、生きてはいる。ご飯も出るっぽい。)

最悪なのは、殺されること。なかったことにされること。

(考えなくちゃ。どうやったらこの世界で生き残れるか。)

未亜は、ぎゅっと目を瞑りここ2日間のことを思い返した。


ーーーーーーーーー

「やった! 成功だ! 聖女様がいらっしゃったぞ!」

その叫びを合図に、「おぉー」という大きな歓声が広がった。未亜はその声に引き寄せられるように、ゆっくりとまぶたを開いた。

途端に、視界いっぱいにまばゆい光が飛び込んできた。

あまりの眩しさに、反射的に再び目を閉じる。しかし、目が使えなくても耳は動く。

耳に入ってくる興奮した声は、いっこうに収まる気配がなかった。

「聖女様が……」

「これで私たちは……」

「ああ、やはり間違っていなかった……」

「おぉ、神よ!」

頭がうまく働かないまま、未亜はその声の渦の中で、ただ光が弱まるのを待った。

やがて、恐る恐るもう一度目を開ける。

最初に目に映ったのは、灰色の石畳だった。

体がひどく冷えているのは、この上に直接倒れていたかららしい。

そう理解するのにも、少し時間がかかった。

「聖女様がお目覚めになられたぞ!」

右上の方から声が降ってきて、未亜はそちらへ顔を向けた。

白い装束を身にまとった人物が、やや身を屈め、彼女の顔を覗き込んでいる。

視線を巡らせると、同じ装束の者たちが何人も周囲を取り囲んでおり、再び歓声が上がった。

冷たい石畳に手をつき、ゆっくりと上半身を起こす。

その動作ひとつひとつに、まるで祝福するかのような声がついてきた。

「おお、聖女様が起き上がられた!

神よ! 私たちに聖女様をお与えくださったこと、心より感謝いたします!」

今度は左足の方にいた白装束の一人が膝をつき、両手を組んで深く頭を垂れた。

それに倣うように、周囲の者たちも次々と膝を下ろしていく。

突然の光景に、未亜は驚き、困惑を隠せなかった。

状況がまったく理解できないまま、恐怖だけがじわじわと広がっていく。

(え、ちょっと。これ、何?こわっ!)

彼女は座ったまま、後ずさるようにして周囲を見渡した。

白装束の者たちの向こうには、床と同じ石で作られた装飾的な柱が何本も立ち並び、右奥には重厚な扉が見える。

ここがどこなのか、なぜ自分がこんな場所にいるのか、見当もつかない。

(えっと、何をしていたんだっけ?確か仕事終わりで、やっと1つ案件が終わったから、今日はお祝いしようと思って、コンビニで、ちょっと奮発して極みシリーズのスイーツを買って・・・)

ズキズキする頭を抱えながら、今晩の出来事を反芻する。

「ああ、なんと美しい黒髪だ。このように流れるような真っ直ぐな髪は見たことがない!」

「身につけていらっしゃるものも素晴らしい。我々の世界にはない素材だ。まさしく天よりお越しになったのだ」

「ああ、なんと美しい瞳……」

次々と向けられる言葉に、一度思考が停止し、背筋に嫌な汗が伝うのがわかった。

ゆっくりと距離を取ろうとするが、すでに周囲は白装束集団に完全に囲まれており、逃げ道はない。

助けを呼ぼうと、未亜は慌ててポケットを探った。

しかし、今日仕事に履いて行ったスカートにはポケットがついていなかったことを思い出し絶望的な気分になる。

(カバン、カバン・・・・。カバンさえあれば、携帯がそこに・・・)

そう思って辺りを見回すが、どこにも見当たらない。どこかに落としてきたのだろうか。

どうしよう、このままじゃ・・・そう思ったとき――

「おい! こちらにも聖女様が倒れていらっしゃるぞ!」

一斉に白装束の者たちが声のした方へ振り返る。

未亜もその隙間から視線を向けると、少し離れた場所に、高校の制服を着たもう一人の少女が倒れているのが見えた。

(あ、あの子は)

やっと自分の記憶が途切れた瞬間を思い出した。

今まさに、あそこに横たわっているあの子が白い子猫を追いかけて道路に飛び出したのだ。

「あ、危ない!」

そう思ったものの、咄嗟には動けなかった。そこにもう一匹の黒猫が出てくるまでは。

最初の子猫より少し大きな黒猫が子猫目がけて一目散に走っていく。その猫を止めようとして未亜自身もついに飛び出した。トラックのライトが目の前に迫っている・・・

そこまで思い出して、そこから先の記憶がないことを確認する。

(あの子も無事だったんだ。良かった...)

ほっとしている未亜とその高校生を白装束の何人かが交互に見比べる。

「せ、聖女様が二人もいらっしゃったぞ!」

女子高生の子も気がついたのか、体をゆっくりと起こした瞬間、白装束の一人の声が響き渡り、一瞬の静寂の後、また、「わー」という歓声に包まれた。白装束のお祭り騒ぎである。未亜はそれをぽかんと眺めるしかなかったし、未亜の目に映る女子高生も同じように狼狽しているように見えた。

一方で、

「なぜ今回に限って二人も?」

「そのようなことは文献には・・・・」

とちょっと不安げな囁き声も聞こえる。

喜びと不安その2つが混じり合う中、未亜の左側から、「カン」っと何かが当たる音がした。音の方向を見ると、2段ほど高くなった祭壇のような箇所があり、そこに周りにいる白装束と同じような服装の人が立っていた。同じようなと言ったのは、白装束の襟周りや裾に金の刺繍がしてあり、帽子を身につけていると言った違いがあったからだ。年齢は大体60代くらいだろうか。どうやら、この人が持っている司教杖のような杖で床を叩いたらしい。その司教杖の上には大きな丸いガラスのボールのようなものが嵌め込まれていた。

その場の注意は一気に、その人物に向き、場が一瞬にして静まり返った。

「聖女様の御前であるぞ。」

その一言で周りの空気がピリッとする。この場を取り仕切っているのは間違いなくこの人であることがわかる。白装束の人たちは、未亜ともう一人の少女を残して、部屋の左右にさっと分かれた。

「私たちは、先代の誰もが成し遂げなかった偉業を成し遂げたのだ。初の聖女様お二人の召喚に我々は成功したのだ。この偉業は、後世まで語り継がれることだろう」

おぉ!という感嘆の言葉が壁側に寄った白装束から聞かれ、壇上の人物が手をあげるとまた静寂が戻る。

「最後に聖女認定の儀を行う。」

そういうと、その人が壇上からゆっくり降りてくる。

「お初にお目にかかります、聖女様方。よく我らが王国、リュシエールにお越しくださいました。」

そうやって、ゆっくりと膝をおり、頭を下げた。

未亜はその様子を見た後、ちらっと向こうの少女の方を見た。少女も困惑したようにその人と未亜を見比べている。

その人はゆっくりとまた頭をあげると未亜と少女それぞれに向かって

「お疲れのことと思います。また多少混乱もされていることでしょう。本日の儀式は、最後にこちらのオーブに触れて頂くことで終わりになります。さぁ。」

そう言って、彼は、近くにいた少女の方に先ほどの錫杖の上についたガラス球を向ける。戸惑った顔をした少女はそのガラス球を見、未亜の顔を見た。

未亜もどうすれば良いかわからないまま困惑した表情を少女に向けた。少女は戸惑ったままそっとそのガラス球に触れる。彼女が触れた瞬間、そのガラス球から眩い光が溢れ出た。

「ああ、聖女様。どうか我らをお救いください。」

もう一度恭しくお辞儀をすると、今度は、その人は未亜の方に近づいてくる。

「さぁ、聖女様。」

未亜も少し躊躇いながらガラス球に手を伸ばした。しかし、何も起こらない。光もでなければ、音も鳴らない。うんともすんとも言わない。

(あ、あれ?)

先ほどまでこんなにこやかな人は見たことがないと思っていたその人の眉間にシワが寄っていく。

「こ、これは・・・」

その一言で、静寂だった空間がざわめき出す。

「反応がない?」

「どういうことだ?」

「つまり魔力がない、と?」

「聖女様ではなかったのか?」

そのざわめきを抑えるかのように、司教杖を持った人は高らかに宣言する。

「・・・・一度、儀式を中止する。聖女様方もお疲れでしょう。さぁ、聖女様方、側仕えのものを待機させておりますので、本日はゆっくりお休みください。」

そうやって、未亜と少女は、修道服のような服を着た女性たちに連れられて、それぞれその部屋をでた。その時、未亜は段の上の端の方に、白装束とは全く異なる、赤と青を基調とした煌びやかな衣装を着た5、60代の金髪の男性がいるのに気が付いた。しかし、ついぞそれが誰かと尋ねることはできなかった。



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