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第五十六話 あたしはすでに死んでいる 最悪の再会・その三

 説明しよう。運命的な出会いとは、決して良い出会いだけを指す言葉ではない。悪運の行きつく先、ニュアンス的に言えば因縁と呼ぶような出会いも、時に運命と呼ばれる。

 しかし多くの場合、この言葉は良い意味で使われる。なぜなら、それはどちらか片方にとって非常に都合の良い出会いだからである。

 結局のところ、人間は互いを利用し、その利用に依存して生きている。友人や家族など人間関係を求めることも、自分に安心や安息という利益を求める動機が必ず付いて回る。純粋無垢なボランティア精神など、人間が人間である以上は存在し得ないのである。

 そしてここにもひとつ、運命的な再会が起ころうとしていた。


 時は遡り、ハリケーンの活動再開が確認される日の朝。ノゾミ消滅の件で科学衛生局に軟禁されていた牧谷が、さらに数日の静養を経てリーヴス特使と共に外出した。ふたりの目的地は宇宙開発局。牧谷は新しいゼツボーグとして対策本部に加入するため。リーヴスはハーディの遺体を確認、回収するためである。

 もうふたりを厳しく監視する必要はない。と言うか牧谷はリーヴスが監視する形にしておくのが合理的と判断したためか、局はふたりだけを車に乗せ、他の局員を同伴させることなくリーヴスに運転を任せた。

 簡単な朝食を済ませ、ひと通りの手続きや荷物整理をしてからの移動。国際事情ということもあり、当日に開封する書類や判を押すべき書類が多く、準備に少し時間がかかってしまった。結果、順調に行っても宇宙開発局のあるサガミハラへの到着は正午あたりとの予想になった。

 この時点でおおかた予想がついているだろうが、ハリケーン戦の後、ツクモに声をかけた少年こそまさに牧谷である。今回は、この戦いを牧谷も含めた視点から見ていくこととする。


 ネガトロン・ハリケーンの活動再開が報告されたのは、宇宙開発局と科学衛生局のどちらにもほぼ同時の出来事だった。当然、両局に深く関わるリーヴスの車にも連絡が入る。

 ゼツボーグの移動中に新たな出動要請が出ることはそう珍しくないが、今回はそれが少し特殊だった。同乗していた牧谷が、連絡のすべてを聞いていたのである。

 本来ゼツボーグの出動要請は、対策本部の連絡員が通報を受けた後、担当者が適任となる人員や戦術を選び、それらがひと通り整ったところでようやくゼツボーグに伝えられる。つまり、この間にある程度の情報整理が行われ、通報内容のすべてがゼツボーグに伝わることはほとんどない。

 今回のケースが特殊だったのは、牧谷にハリケーンの移動予測や経路までが丸聞こえだったこと。そしてそもそも、この連絡は牧谷への出動要請ではないということである。だいいち牧谷はまだ、ゼツボーグとして宇宙開発局に知られていない。

 だが、アツギ市民の避難施設が狙われていると聞いて、ついにヒーローの道を歩み出した少年が黙っていられるはずがなかった。

「父さ、リーヴスさん!」

 牧谷が言い直した時、リーヴスは確信した。

 これまで、リーヴスはノゾミと共に牧谷の家族として接してきた。しかしそれは、あくまでノゾミや牧谷の安定のため。ノゾミを失い、まさにこれからヒーローになろうとしている牧谷にはもうその必要はない。ゆえに、牧谷はリーヴスを父さんではなく、名前で呼び直したのだ。

 短い付き合いだが、牧谷は成長し、もう疑似家族の必要もなくなった。これからふたりが永遠に別れるわけではないが、リーヴスは彼の巣立ちを瞬時に受け入れた。

 シンジュク付近を通る幹線道路上。法定速度ぎりぎりのスピードを保ちながら、リーヴスは運転席から牧谷のいる後部座席の自動ドアを操作した。

「【スパイダー・ストレングス】!」

 ゆっくりとスライドする扉を、牧谷はウニのように展開したゼツボーグでこじ開けた。

 技名こそ付けたが、牧谷のゼツボーグは未定着で不定形なため【スパイダー・ストレングス】も必殺技とは言い難い。どちらかと言えば基本技と呼ぶ方がふさわしいだろうか。しかし、それゆえにこの技は自由度が高い。

 【スパイダー・ストレングス】には、主にふたつの使い方がある。ひとつはノゾミとの戦いで使った、針で刺した物を動かすというもの。これによって多くのものを鎧のように体に貼り付けたり、振り回して攻撃に使うこともできる。

 ただし、この力は地面や建物など、牧谷の力が及ばない物に対しては逆の効果となる。これがふたつ目の使い方。この場合、ゼツボーグの針は対象に刺さりこそするが、動くのは対象物ではなく、牧谷本体の方になる。これを利用して、牧谷はターザンロープを乗り継ぐように高速移動する術を身につけた。

 だが、これらはどちらも付け焼き刃。科学衛生局に軟禁状態だった牧谷は、ゼツボーグの訓練を受けることなく今に至る。よって、彼は自分がどの程度の物まで動かせるのか、力加減もまだ定まっていない。

 しかし、この緊急事態。彼は思いついたことを試しながら、問題点はその場の感覚で補うしかなかった。

 そうして彼が車からほぼ直線距離でハリケーンの近くまでたどり着いたのは、那珂畑より少し後のことである。


 ハリケーンの実態、本体が細かく分散されているため、攻撃が通りにくいという情報は、すでに車内で聞いていた。このことから、牧谷は自力での討伐は初めから断念していた。

 攻撃が通りにくいということは、すでに誰かが攻撃を試したということ。ならば、今度はそれが通りやすいようにサポートするのが増援の役目。そもそも、牧谷のゼツボーグそれ自体に攻撃的な性能はほとんどない。ただ遠くのものを動かすだけの力は、ネガリアンとの直接戦闘には不向きである。彼は幼いながらも、自分の力量と立場を理解していた。

 そこで牧谷が実行したのが、周辺の瓦礫を集めてその中にハリケーンを封じ込めること。好都合なことに、ハリケーンは竜巻という性質上、様々な物を巻き上げている。本体を封じ込めるための箱に必要な材料は、周辺を探すまでもなくその中に集まっていた。

 だが、まだ問題が残っている。この封じ込め作戦に、既存のゼツボーグたちが気づいてくれるかという点である。牧谷は宇宙開発局と連絡できる物を持たず、現場で行動を起こしても周囲の人間と連携できない不安はぬぐいきれなかった。逆にネガトロンの新戦術と誤解され、距離を置かれてしまうかもしれない。

 それでも牧谷がこの作戦を実行に移したのは、彼がヒーローに憧れていたから。その憧れを信じていたからである。たとえ言葉がなくとも、見知らぬ相手でも、ヒーロー同士通じ合う何かがあると、彼は信じて託した。

 そして、その信頼はふたりの先輩ヒーローに届く。牧谷がハリケーンを封じ込めた瓦礫の箱は、ツクモの【ハンドメイド・ノヴァ】によって中身ごと焼き尽くされた。

 その後、居合わせたヒーローの黒い方(那珂畑)が討伐完了の旨を報告したのを見て、牧谷はゼツボーグを解除。ほっとひと息ついて胸を撫で下ろした。

 が、その安心もつかの間。牧谷の脳裏にある記憶が引っかかる。先ほど箱が焼き尽くされた際の叫び声に、彼は聞き覚えがあった。もしやと一瞬考えたが、もう片方のヒーローが叫び声の主を「ツクモ」と呼んでいたことから、その人物が自分の知る誰かではないと考え直す。そしてあらためてヒーローに挨拶するべく、煙がある程度晴れるのを待ってから彼らのいた方角へ歩き出した。その先で、牧谷は再びその疑念を呼び起こされる。いや、ほぼ確信と言えるだろう。煙の先にいた人物、ハリケーンの至近距離にいた、おそらく攻撃手だったであろうヒーロー。その姿を、牧谷はその場の誰よりもよく知っていた。

「マヤ、姉ちゃん……?」

 戸倉麻耶乃。かつて牧谷と共にアツギで暮らし、共にシネマの攻撃を受けた親友。先ほどの叫び声と今目の前にいる彼女の顔が、牧谷の記憶と完全に一致した。

 しかし、その戸倉らしき人物の反応は牧谷の予想とだいぶかけ離れていた。

「……っ!」

 牧谷に声をかけられたことに驚いたのか、その人物は声にならない声と同時に一瞬だけ熱風を発し、まったく違う姿に変身した。

 先ほど彼女がツクモと呼ばれていたことからも、この人物が戸倉なのか牧谷は次第に疑わしくなってきた。世の中には同じ顔の人が7人はいると言うが、彼女が戸倉にとってのそれなのだろうか。それにしても、声まで一致しているとなれば7人のそっくりさんどころか本人である可能性が高くなる。やはり、こればかりは直接確認するほかないらしい。

「マヤ姉ちゃん、です、か……?」

 自分でも目の前の状況を信じきれない牧谷は、思わず敬語になってしまった。しかし、戸倉っぽい彼女は何も言わず、牧谷から目を逸らしている。が、今度はその仕草が戸倉のそれと酷似していた。

「やっぱり姉ちゃんだ! マヤ姉ちゃんだよね!?」

「うるさい!」

 もうほとんど戸倉と言える彼女は、指からレーザー糸を放ち牧谷の足元をえぐるように焼いた。

 だが、死力を尽くした戦闘の直後。感情のままに放った一撃が、彼女の体力を限界に追い詰めた。ゼツボーグはその形を維持できなくなり、強制的に解除。ツクモの、戸倉麻耶乃の姿がついに露わになったのである。

「姉ちゃん……!」

 戸倉はシネマの攻撃を受けた後死亡したと、世間には公表されていた。むろん、科学衛生局に拾われる前の牧谷もその情報を信じ、落胆していた。しかし、現実はそうではなかった。なんという感動の再会だろうか。家族に、運命に、あらゆるものに阻まれていたふたりが、ここに再会した。この運命的な出来事に感動し、牧谷は戸倉に抱きつかんと駆け寄った。

 しかし、その小さな体を戸倉は両手で突き飛ばした。疲弊していたふたりは互いに押し飛ばされ、尻もちをつく。そして、唖然とする牧谷をよそに、戸倉が先に立ち上がった。

「戸倉麻耶乃は死んだ。あたしはツクモ。あんたの知らないゼツボーグ99号、ツクモ。間違えないで」

 ツクモと名乗った彼女はそのまま足を引きずるようにゆっくりと立ち去った。しばらくしてからリーヴスの車が牧谷を拾いに来るまで、彼はその背中に何も言うことはできなかった。


「……というわけで色々とイレギュラーだが、彼がゼツボーグ100号、牧谷樹里央君だ」

 宇宙開発局地下5階、司令本部。小堀はリーヴスや局員たちを集めて牧谷を紹介した。この時、那珂畑とツクモは休養のため別室にいたが、牧谷たちの様子は映像を通してふたりのスマホに伝えられている。

 電気椅子を使わず自力でゼツボーグを発現させた例は少なく、また未定着の状態を維持するということを含めるとゼツボーグ史上初めてのことなので、羽崎や鳴島も牧谷にかなり興味を示している様子だった。ただ、羽崎が「樹里央ちゃん」と呼んだのにならって牧谷が鳴島のことを「ニコ姉ちゃん」と呼んだ時だけは、周囲の空気が凍りついた。当然、牧谷としては悪意はなく、また鳴島と良い関係を作りたいと思っての行動だったため、最終的には「ナル姉ちゃん」と呼ぶことに落ち着いた。

 そして、同僚の呼び名という話でもうひとつ。牧谷が戸倉のことを気にしていることに気づいた小堀は、彼に戸倉のことをあくまでもツクモとして扱うように念を押した。牧谷は初めこそ理由がわからず不満そうな態度を示したが、この曲でヒーローとして生きていくために、首を縦に振らざるを得なかった。


 牧谷の加入は、ゼツボーグたちに大きな影響をもたらした。

 まず鳴島。不安定な状態でのゼツボーグ制御という技術を牧谷から学ぶことで、91号、およびクロスボーグの実用化に大きく近づいた。

 次にツクモ。彼女にとって自殺する前の自分を知る人物との再会は、ある意味で死よりも厳しい仕打ちだった。それも、最も守りたいと考えていた牧谷を戦いに巻き込むと聞いて、彼女の精神は限界を迎えつつあった。牧谷が訓練を続ける現在、ツクモは彼を戦場から逃がさない限り、自分は戦いに協力しないと再び引きこもりを続けてしまった。

 そして那珂畑。彼だけが、牧谷に何の影響も受けなかった。

 いや、別の影響がじわじわと彼を変えているのかもしれない。

 自分が死ぬため、ついでに人類を救うため、ネガリアンはすべて殺す。もう同情の余地はない。仮にジュニアのような感情移入しやすい敵が現れたとしても、今度は迷わず殺すという確信があった。彼はヒーローとしてより純粋に、同時に人の道を外れるように変化を続けていた。


 これが最後になるかもしれないので、あらためて説明しておこう。この物語は、那珂畑逸がヒーローとなり、死地を求めて魑魅魍魎渦巻く戦場に飛び込む物語である。

 最後、と言ったことには明確な理由がある。この時すでに、ある場所でイヴが成功作と呼んだネガリアンが目覚めていたからである。その力がどちらに傾くのか、人類とネガリアン、どちらが生き残るにせよ、決着の時は近いとだけ宣言し、ここまでを第三章としておこう。

豆知識 小堀誠は、毎日何かしらの芋を食べるというこだわりがある。

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