BATMAN PARABELLUM 【2】
ディック少年がゴッサムの夜を駆けだしたころブルースはバットスーツを身にまとっていた。
「アルフレッド、ディックはどこに行った?」
「先ほど外に出られましたよ。」
「想定よりも遅いな。」
トニー・ズッコ……ディック・グレイソンの両親のジョン・グレイソン、メアリ・グレイソンを殺害したと思われる人物。ブルースはトニー・ズッコの資料を横目で見ながらコーヒー片手にガジェットを体中につける。
「トニー・ズッコで間違いないな……。そろそろディックと接触させなくては。」
ディックはコウモリをかたどった光を追って夜のゴッサムを走り回っていた。光はどこから出ているのだろうか?光の出所に向かえば彼に会えるかもしれない。世界一の探偵バットマンに……
ドスン!
「いって!」
「てめぇなにしやがる!」
空の光を注視しすぎて前を見てなかった。ディック正面から来た歩行人に思いっきりぶつかった。ディックは急いで立ち上がりしりもちをついた歩行人の男に手を刺し伸ばす。
「すみません!前見てなくて……え……?」
「どけっ!前見て歩けこの馬鹿野郎!」
男はディックの手を振り払って立ち上がり、逃げるように走り去った。今の歩行人……あの時の男だ……。ディックの両親のパフォーマンス用のワイヤーに細工をして二人を殺したあの男だ……。
ディックは彼の顔を見た瞬間すべてがフラッシュバックした。心の奥底に押さえ込んでいた怒りの炎がまた喉元焼いて脳を血を昇らせた。青白く燃えるディックの目には大きなコウモリの影が地を這いまわっても気づくことはなかった。
「マフィアの動きがおかしい……。ゴードン、見えてるか?」
なぜか、通信の具合が悪いのかゴーッどんの声がかすれてバットマンに届く。
「あぁ、警察二十人と一緒にな……。なぜか、署内が大騒ぎなんだ。バットマンと通信してるからかもな。」
「……もう、見えてるなら何でもいい……。」
バットマンが抑えたマフィアと売人が薬の取引をする現場には、拳銃を携え、あたりに緊張の糸を張ったマローニ一派のマフィア達がいた。
構成員が4……5……6人か。サルバトーレ・マローニの姿も見えるが明らかに様子がおかしい……。なぜマローニはあんなにもイラついてるのだ?
バットマンは腕についたタブッレトを操作し、マローニが率いるマフィアの声を盗聴する。
『おい!本当にここで合ってるんだろうな!?』
マローニが声を荒げて部下に問う。
『間違いないです……!ここで合ってるはずです!』
『ここで合ってるはずならなぜズッコは来ない!?』
ズッコ……?なぜマローニが敵対組織であるズッコの組織と会う?今日は麻薬の取引ではないのか?
「どうしたバットマン?署内が騒がしくてマローニの声が聞こえなかった。」
「今日は取引はないらしい……。俺は引き続き街のパトロールをする……。」
「おい待てバットマン!まだ話があ────」
バチッ
バットマンとの通話が切れた瞬間パソコン本体が嫌な音と煙を出した。
「抜かりないな……。」
「おい、ここさっきも通らなかったか……。」
ディックは現在ズッコを尾行して何度も裏路地と呼ばれる小道を歩いて2時間は立った。いや、もしかしたら3時間はたったかもしれない。
「クソ、さすがに疲れてきたぞ……。あの野郎、何急いでやがる。」
生まれて初めて尾行なんてやったものだから2時間から3時間ズッコにばれずに尾行できてるのが奇跡だ。
ズッコはやっとあの人にもばれてない隠れ家についた。辺りを見回した。何度も何度も。誰もいないことを十分すぎるほど確認し、あえて鍵をかけていない扉を押し開いて扉の奥に進む。
全部見ていた。あの野郎が気色悪いほど周りを確認し、なぜか鍵をかけていない扉に入っていくのを。
「人殺しのくせにビビりかよ。笑いもんだぜ。」
ディックは全部見ていたうえに、アルフレッドがくれたスマホで今までの経路を写真でとっていたため自分に部屋にはスムーズに帰れるし、明日からここに何度でも調査できる。バットマンの真似事の探偵ごっこだが、自身の復讐の刃は自分で研ぐ、バットマンには頼らない。今日はここまでだ。これ以上はアルフレッドにばれる。
「明日の昼にでももう一度ここに来よう。明るい内ならあいつを貶める何かが見つか……おい、マジかよ……。」
誰だってこうも言いたくなる。振り返ったら目の前にバットマンがいるのだから。




