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プロローグ

2001年2月。

フランス南部、中央高地の奥深く。


深い森と雪山に抱かれた村、サン・ヴァレール。

「聖なる谷」を意味するその名の通り、美しい渓谷を誇る村だが、今は曇天に覆われ、不穏な影を落としていた。


山の天気は変わりやすい。いつ吹雪に襲われてもおかしくはない。

「嫌な予感しかしないな……」

マルク・デュボワは深く息を吐いた。


彼はフランス国家警察の特別介入部隊――通称RAIDの部隊長である。

その彼のもとに届いたのは、まだ夜が明けきらぬ時間の報だった。


――サン・ヴァレール奥地の施設に、カルト教団が立てこもり、女たちを人質にしている。


そのカルトの存在は、実は1年前から当局に把握されていた。

だが派手な活動はなく、被害届もなかったため「監視対象」にとどめられていたのだ。

そんな矢先の通報。しかも内部情報が一切ないままの人質事件は、警察にとって最悪の状況だった。


マルク率いるRAIDが現地に到着してすでに二時間。

だが建物は不気味なほど静まり返り、交渉班が呼びかけても一切の応答がない。


「……こう着状態か」


マルクが上層部に指示を仰ごうとした、その時。


――ドン!


乾いた銃声が山あいに響いた。続けざまにもう一発。

張り詰めた空気の中、マルクは即座に決断を下す。


「総員、突入!」


怒号とともに扉が破られる。

暗い廊下を駆け抜け、一室一室を制圧し、ついに大広間の扉を押し開けた。


そこで彼らが目にしたのは――地獄だった。


床一面に倒れた十数人の女たち。口から血を流し、既に息絶えている。

毒物による集団自殺だろうか。


そして中央。

十字架に磔にされた男の死体が吊るされていた。

教祖と思われるその身体には、獣の爪痕のような傷跡が深々と刻まれている。


「……なんだ、これは」


マルクが思わず息を呑んだその時。


「……っう、ん……」


かすかな声が聞こえた。

十字架の下、血に濡れて倒れていた一人の少女が、かろうじて息をしていたのだ。


マルクは駆け寄り、その身体を抱き上げる。まだ脈はある。


「生存者一名! 急げ!」


少女を救急隊に託し、現場検証に取りかかろうとした。

だが外は雪が激しさを増し、やむなくその夜は撤収を決断する。


翌日。

再び現場に戻った捜査班を待っていたのは、さらなる謎だった。


――女たちの遺体が、忽然と消えていたのである。


そして煤けた壁に、爪で引っかいたような震える文字が残されていた。                      

「まだ、終わらない」それは誰が残したものなのか。 


生存した少女か、それとも――他の「何者」か。



後にこの事件は、フランス国内で語り継がれる不可解な惨劇として記録されることになる。


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