表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《歯車仕掛けの小公女》――魔法と機械と、永遠の少女  作者: 混沌のきのこ
第二章 数式魔術と“封じられた心臓”
5/10

Episode 3 歯車の刻む予兆

レンは指先で封印の符号をなぞると、小さく微笑んだ。

 そして、その箱に軽く息を吹きかけると、まるで眠りから呼び覚まされたように、封印術式が微かに輝きを帯びて揺らめき始めた。


 ――カチッ。


 鈍い音とともに、箱の錠が外れる。その瞬間、部屋の空気が一変した。


 まるで見えない誰かが息を詰め、部屋そのものが緊張を孕んだかのように、沈黙が重くのしかかる。


 レンはそっと蓋を開ける。


 中にあったのは、一片の精巧な機械だった。

 掌ほどのサイズで、歯車と石英、金の線材と漆黒の核から成る小さな“心臓”――それはまるで、機械でありながら生きているように、ゆっくりと回転を始めていた。


 ――カチリ。


 ひとつ、歯車が回る。

 それが、ただの物理現象ではないことは、詩織にも直感でわかった。


 ――カタリ。

 ――キィィ……


 機構の内部で、複数の小さな歯車が音もなく組み合わされ、まるで遠い過去から何かを呼び起こすように、静かに動き出す。


 「レン……これは……」


 「目覚めたのよ。この“記憶”が。誰かが近くに来たのかもしれないし、あるいは、わたしたちがこれを“思い出してしまった”から」


 レンの目が、不思議な光を宿していた。


 「これはね、ただの装置じゃないの。魔法を数式で記述する時代――“理論魔術”が誕生する直前、最後の“直観魔術”を結晶化したもの。

 魂を写し、記憶を模倣し、人の心そのものを演算する――“感情演算核”。」


 「……まさか、それって――」


 「ええ。人間の意識を模倣し、時に上書きする。そういうものが、かつて造られたの」


 レンが手にしたその核は、静かに脈動していた。

 どくん。どくん。まるで生きているかのように。


 そして――

 その脈動に呼応するように、屋根裏の壁の奥、石造りの天井裏から、かすかな機械音が聞こえてきた。


 ――チチチッ……カリ……カタリ……カタリ。


 「……!」


 詩織が振り返ると、誰もいないはずの壁が、まるでそれ自体が歯車仕掛けであったかのように、ゆっくりとずれていた。


 ギィィィ……


 その奥には、隠された通路のような空洞。

 中から漂う空気は冷たく、だがどこか“懐かしい”。いや、“思い出したくない”と言うべきだろうか。


 レンが目を細める。


 「……やっぱり、動き始めたみたいね。封じられていた“過去”が」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ