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Episode 1 人工心臓と禁じられた箱
「これが……あたしの持ってきた遺物です」
詩織は、重たい鞄から小さな木箱を取り出した。
手のひらほどのサイズ、黒檀の箱には銀線の装飾が施されている。蓋の継ぎ目には、魔術封印を示す幾何学模様が彫り込まれていた。
「数年前、ある患者が亡くなったときに、彼の身体から摘出された“人工心臓”です」
レンの目がすっと細くなる。
詩織はそれを見逃さなかった。
「……何か、わかるの?」
「うん。これは、ただの医療器具じゃないわ」
レンは机の上に箱を置き、棚の奥から紙とペンを取り出した。まるで手品のような滑らかさで、複雑な数式を紙の上に描き始める。
円、螺旋、対数、虚数、そしてベクトル。
それは“詠唱”ではなく、“設計図”だった。