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8。騒動

その後、何事もなかったかのように時は流れ、他の生徒たちも多く登校し始めた。僕は、ただ机に体を伏して、腕を枕に頭を落とし、先ほどの出来事を考えていた。

 キス・・・あれ・・・まじなのか・・・あれはそういうことだったのだろうか。いやいや、なにを考えている。彼女のいったようにあれはただの冗談だったのかもしれない。僕があまりに童貞すぎて痛い勘違いをしているだけかもしれない・・・・


•・・・・


・・・いやないだろ。

 冷静にあんなに顔を近づけてあんなことを言うなんて、常軌を逸している。今考えるだけでも・・・・

 僕は胸を押さえた。

 初めであった。あんなにも女子と近づいたのは。


 僕がまだ動揺していることは明らかだった。


 そして、朝のホームルームのチャイムが鳴った時、一同は一斉に席についた。そして、教室のドアがガラガラと開けられる。

 担任が出てきたと思えば、その後ろについていくように、彼女が・・・片木ミアがいた。

 やはり、あれは夢ではなかった。

 それに、改めて明るいところで見ると・・・可愛いな・・


 案の定、彼女の登場に、クラス内は騒然となった。

 

〈おい、見てみろあれ。可愛すぎだろ〉


〈あの子可愛いよ・・・それに赤毛って、どこかのハーフかしら・・・〉


〈〜〜・・〉


 そんな話し声があちらこちらから聞こえる。


「はい〜静かに〜」


 担任の静止により、クラスは徐々に秩序を再び取り戻していった。


「ええっと、見れば分かる通り、昨日、来れてなかったB組の子です。自己紹介をお願いね」


 そういうと、彼女ははい、と小さな声で返事をして。


「みなさん、おはようございます。先日アメリカから日本に来たばかりの片木ミアって言います。まだわからないことばかりですが、どうぞご贔屓によろしくお願いします」


 心なしか、最後の言葉の時、僕の方を見たかのように覚えた。


 しかし、そんなことに気づいていない周りの生徒は、彼女が言い終わるや否や、クラス中から昨日とはまるで異なる・・・特に男子において大きな拍手喝采が起こった。

「それでは、あそこの席へ・・・」


 そういわれると、俺の隣の席の方へ歩き出した。周りの生徒に、移動する片木さんに視線を浴びせられながら。

 そうして、席へとついた。完全に異常だ。


「よろしく」


 席に着くと、わざとらしくそう僕に片木さんは顔を近づけて小声で言った。

 

・・・気まずいな・・・


 そう言われるやいなや、同時に周りから物凄く僕に対して変な視線を向けられているように感じた。


・・・勘違いされたら面倒だぞ・・もしかするといきなりぼっち確定になっちゃうかもしれない・・


 その後、ホームルームが無事終わり、僕は右を気にしながらも、終わりの挨拶が終わると、すぐに席を立ち、トイレへと向かった。

 まずは落ち着くんだ。流石に落ち着かないと。

 正直、友達がしっかりとできるか、という不安が今までは多かったのだが、ここ直近の出来事があまりに鮮烈すぎて、もはやそれどころではなくなりつつある。


 僕はトイレの鏡付きの手洗い場に立って、顔を洗った。持っていたハンカチで顔を拭き、出ようとした。が、そこには・・・僕と同じクラスらしき三名の男子が立っていた・・


 おそらく、そういうことだろう。


 一人はいかにも野球部ですって感じな、イケメン男子、それに残りの男子も、ぶさいくってほどのものではない。むしろ爽やかそのものだ。

 しかし逆に言えば、彼らに反感を持たれれば・・僕の学校生活に後がないということ。

 

・・・人生終了ってやつかな・・?


 僕は、トイレの中なのに小便をちびりそうになってしまった。いや、もしかしたらちびったレベルに。

 この状況、完全にこの後ボコされるってオチのやつだ。くそ、トイレに来るべきじゃなかったか。

 僕は、腹で冷や汗が垂れるのを感じた。


 しかし、そんな僕の予想に反し、彼らは意外な言葉を僕にかけた。


「お前・・・あの新入生と付き合っているのか!!」


「なあ、そうなのか⁉︎」


「教えてくれよ!!」


 重々しい雰囲気とは裏腹に、そんな明るい声で僕に話しかけたのだ。

 僕は一旦は、ボコられる可能性は低いと判断し、ほっと胸を撫で下ろした。

 いやいや、いかんいかん。誤解は解いておく必要があるからな。


 僕は意外ながらも、話す。

「い、いや、そんなんじゃないよ。付き合っているなんて、あり得ないあり得ない・・・」


「そうか、ならなぜ彼女はお前だけにあんな親しそうにしていたんだ・・・?」


「いやいや、だけって。それはただの思い過ごしだよ。ただよろしく、って言っただけじゃないか。隣の席だし、多分そういうことだと思うけど」


「ふ〜ん」


 そう言うと、一人が片手を顎に当てて、未だ疑っているような挙動をする。


「本当にそれだけか・・・?」


 そういうと、後ろにいた男子もそう言う。

 やっぱり朝のことも言うべきか・・・うん言おう。でも、余計なことは言わない方がいいな。


「あ、あと、僕今日誰も来ていない朝早くに、一回彼女と話してたんだよ。色々とわからなそうだったから。それで少し話しかけやすかったんじゃないかな」


 すると、今度はその肌の焼けたイケメンが僕の顔面に顔を近づけ、凝視する。朝は美少女に顔を近づけられ、今度はイケメンに顔を近づけられる。いったいどう言う状況なんだ・・・?これ。

 しばらく僕の目を見た後、彼は顔を離して言う。


「わかった。俺たちが悪かった」


 そういうと、彼はその顔を俺の耳元に持っていき、こっそりとこういう。


「ぶっちゃけ、あんな美人は来るとは思わなかったんだよ。そんな彼女に彼氏がいたら、入学早々萎えるじゃん・・・?」


 確かにそれはそうだな。


 僕は頷いた。


「本当に変な疑いかけて悪かったな。俺・・・名前柏崎圭っていうんだ。それで、こいつは・・・」


 そういうと、彼は隣の男子を指差し、その男子が話す。


「俺の名前は木村涼」


「俺は若松啓介だ」


 先ほどとはさらに変わり、安心したのかとても表情が柔らかくなっているように見える。

 そして何より、これは、先ほどの忠告通り、僕も名乗らないとな。

 というか、今柏崎は「変な疑い」と言ったが、全然そんなものではない気がする。むしろ、それが本当だったらどんだけ嬉しいか・・いやいや、、待て。僕にはもっと昔から好きな人がいるじゃないか。時期尚早。

 僕は胸の中に思うことがありながらも、名を名乗った。 


「僕は佐久間久斗」


「おう、佐久間、よろしくな」


 そういうと、彼は、柏崎は僕に手を差し伸べた。

 出会いは少し特殊ではあったものの、なんとか友達はできた。よし、嬉しい。きっと、こいつらと一緒にこれからの青春生活を送ることになるんだ。

 僕は希望が込められた手で、彼らと握手をした。


「このお詫びはいつか必ずするからさ。奢ってもらいたい時はいつでも声をかけてくれよ」


「お、おう!」


 そのまま彼らはトイレを出て行った。

 怖かったけど、結果オーライってやつだ。

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