9。ぐちゃぐちゃ
その後、今日は授業は特に行わず、ただ学校書類の記入や、学校のことについての詳細を先生から聞くということで時はどんどん進んでいった。今日は何より午前授業。僕は家に帰ってからやらなければならないことがあるんだ。
僕はどこか心の中が熱くなっていくのを感じながら、ついに帰りのホームルームにまで来た。
帰りの挨拶が終わるや否や、僕は勢いよく席を立ち、教室を早歩きで出た。早く家に帰ろう。僕はそう決心し、靴を履いた。
玄関口に僕は立ったものの。
「げ、雨かよ・・・」
案の定雨が降り出した。あんなに早く家を出たのに傘の準備はしていなかった。あの時、家に戻って傘を撮りに行っておけばよかった。
その雨の勢いは、次第に強くなり、大雨になった。奥の方は、雨の白さによって見えず、地面に跳ね返った雨水がここまで届くほどの勢い。そして、あたりいったい激しい雨音に支配される。廊下もすっかり薄暗くなっていた。くそ、これ、帰ろうにも帰れない・・・
あ、でも待てよ。確か、裏口があったんだっけ。そこなら、屋根があったし、もしかしたら誰かの傘が傘立ての中に入っているかも。
確かにここにある誰かの傘を取れば良いものの、正門玄関からそれを取るのはどこか気が引ける。
僕は、履いていた靴を脱いで、その裏口がある場所まで、靴を持って移動した。
「確かこのあたりなはずだが・・・あ!発見!」
裏口を見つけた。案の定そこには傘立てがあり、それどころかかなり古く見える傘もあった。
これなら、今日持っこられたものではないし、迷惑はかけまい。
僕はそれをとり、再び靴を履いて、屋根のあるところまで外にでた。裏口は、本当に物寂しく感じる。外に出ても、名前通り建物の裏の方で、先生などの人影は見えやしない。それでも、僕は屋根のあるところまでは、濡れないように歩いた。
よし、ここから学校外へ出れる・・
僕はようやく、裏の先生たちが車で出入りするような入り口を見つけた。先生に見つかったら、表から帰れと言われそうだが、今更引くわけにはいかない。僕は周りを確認して、そこまで走ろうと思った。その時だった。
雨が激しく地面を叩きつける音が、僕の鼓膜を嫌なほど震わせていたが、そんな音は今となってはただの背景にしかすぎなくなった。
僕はその光景を見て、思わず絶句した。
「う・・・・・」
その声が、雨音をものともせず僕の耳に直接聞こえる。
雨の音が、こんなにも近いのに遠くなる感覚が、僕の胸の中をぐるぐると回る。頭がおかしくなりそうだ。
その建物裏には、男女の生徒がいた。しかし、それはただの男女ではなかった。むしろ、ただその男女がそこで楽しそうに話していたら、僕はどんなに嬉しかったか。しかし、現実はそううまくはいかない。
僕の目には、女子が、その男子と体を密着している姿が映った。それもまた、ただの密着では決してなかった。
女子が男子のズボンの中に手を入れていたのだ。
もちろん、その行為が一体なにを指しているのか、すぐに僕は理解した。
僕は物陰に隠れた。そして、僕はそのまま帰ることなんてできず、ただそれを見ていた。
その女子は、男子とそのままキスをした。次第に、ただそれは激しさを増すだけだった。
彼らが何をしていたのか、その「決定的瞬間」は決して僕の目には入っていない。しかしながら、その決定的瞬間がないにも関わらず、その決定的なものが確実に僕の首を絞めている。
「何?もう・・・?」
そんな色香に溢れる声も、雨音の中に確かに響く。
僕は全身の力が何かに吸い込まれていくように弱くなっていくのを肌で感じる。その目の前の光景に僕の全てを持っていかれる。
そして、傘を握っていた手の力が弱くなるのを感じた瞬間、もう遅かった。
バタンッ
はっ・・・!
その音が、落下音が、この路地に、今まで聞いてきた様々な音の中で最も大きな音を立てて響いた。僕は心臓が一瞬にして収縮するのを感じる。
僕は、その瞬間何も考えず、その場を走り逃げた。一瞬彼らが、こちらの方を見ているようにも見えた。それでも、僕は何も考えず、ただ雨に打たれながら、その場を駆け出した。
やばい・・・
やばい・・・
ただ、僕の心の中で浮かんだ言葉はそれだった。
とんでもないものを、僕は見てしまったんだ。言い逃れできないような、決定的な瞬間を。あの光景、考えていないにも関わらず、はっきりと、鮮明に、鮮やかに、音も、場の雰囲気も正確に僕の頭の中で再現されている。
「あああ!」
僕は、全身を雨に打たれながら、ただその雨の通りを走り抜ける。
「あああ!」




