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7話 闇の会談


 屋敷ではあるイベントが始まっていた。


 広い宴会のようにも見えるそれは、その場にいる人物の関係者の顔を見れば、ただのイベントだと思うかもしれない。


 しかし、あるものが見れば国の重要案件の飛び交う情報網の行き交いだった。


 そんなイベントが開催されている中。


 ある個室、豪華な装飾品が至る所に飾られ、如何にもな金色の椅子が用意されたその場所で、2人の要人が話し合っていた。


「そういえば聞きましたかなブッタ様。この前シャインスターがソラリス殿の策略に嵌り窮地に追いやられたらしいですぞ?」


 そう言ったのは、髪をカタツムリのようにクルクルと巻いた齢60ほどに見える初老の男だ。彼はコーヒーを飲みながら楽しそうに微笑んでいる。


「ほぉ、ソラリス様が…それは嬉しいご報告っタねぇ」


 そこにブタの顔をした出っ腹のブッタが反応した。


「あいつらが一ヶ月前このブッタ様を消し炭にしたことは絶対に許さないのだ。いつか必ず復讐するっタ」


「えぇえぇ、そうしましょう。そのためにわざわざあなたを逃しここまで招待させましたからなぁ」


「その節は感謝してるっタ」


 ブッタのニヤリとした顔に初老の男もフフッと笑った。


 ブッタは前屈みに体を押し出し眉を上げる。


「それで、このブッタ様を助けた光のスカイピアの住民がなんの用で俺を呼んだっタ?」


「こらこらブッタ様。ここではダーケンとお呼び下さい。今の私はそう呼ばれておりますゆえ」


「それは失礼っタ」


 ブッタは謝った。しかしその顔には特に反省の色は見えない。


「まあいいでしょう」


 白髪の要人は咳払いをし、話を進める。


「今回私があなた様を呼んだのは理由は二つあります。一つはある人物の捜索をしてもらいたいというもの、もう一つは近辺地域の総括者になってもらいたいというものです」


 指を立てながらその老人は説明した。


「人探しとドンっタ?」


「えぇえぇ。そうです」


 老人は頷く。


「我々は今、ある研究を進行中でして、そのためにある人物の力が必要なのです。ブッタ様には是非そちらの人物を誘い出してもらいたい」


「ほう。つまり闇の住人を攫ってくるということか。で、その人物ってのは誰っタ?」


「それは…」


 っとそこまで言って老人の顔がパァッと明るくなった。


「言いたいのは山々なんですが、実はまだここではいえない話なのでご勘弁」


「何だそりゃ…お前おちょくってるのか?」


「いえいえそんなことは。しかしまだその時ではないのです。私もまだその人物の詳細についてはよく知りませんので」


 老人の言葉にブッタは目を顰めるが、どうせ自分にとってはどうでもいい話かと背もたれによたれかかった。


「ですからブッタ様にして欲しいのは後者。最近ここいらのならず者達を排除しようと光の住民達が動き出しているのです。ですからこの地域をブッタ様が統一して指揮を取れるように取り計らってもらおうかと」


「それに何の意味があるっタ?」


「それだけでならずものの違反者が減るという話です。光の住民が怒っているのは、ならず者の中でも統制が取れていない違反者ですから」


 老人の話にブッタは興味なさげに返事をした。光の住民などどうでもいいという顔だ。


「だったら違反者は殺せばいい。それか首でも持って街を徘徊する。そうすれば違反者は減るっタ」


「そう!」


 っと、まさにその言葉を待っていたと言わんばかりに老人が立ち上がった。


「まさにそんなルールがここには必要なのですよ! ブッタ様、あなたがそのルールを作り、そしてこの地域の王になられるのです!! そうすればこの地域はもっと平和に、もっと強くなるはずなのです!」


「ふふんっ。なるほど、そういうことか」


 ブッタは醜悪な笑みを作った。


「そういうことならいいぞ。私にドンッと任せるっタ」


「流石はブッタ様! 未来の魔王様はあなたのようなお方にこそ相応しい!」


「そうねそうね! タッタッタッタ!」


 そうして陽気に、悪趣味に二人は笑い合った。


 その時。


 ドアが勢いよく開かれた。


「ダーケン様! 大変です!」


 一人の部下が跪く。


「何だこんな忙しい時に! 今いいところだぞ!」


「す、すみません。ですがどうしてもお耳に入れたいことがございまして」


 そう言って冷や汗を垂らす部下。


 その並々ならぬ様子にガーケンはフンっと鼻を鳴らした。


「まあいい。要件は何だ?」


「はい。どうやらこの屋敷に侵入者が入った模様です」


「っ! な、なに? 侵入者だと!?」


 ダーケンは驚いた様子で振り返る。


「数は!?」


「一人です!」


「ひ、ひとりぃ!? じゃあさっさと捕まえてばいいだろう! どうしてそんなことを一々私に伝えにきたんだ!」


「そ、それが…かなり手強く…私たちでは太刀打ちができそうにありません」


「ま、まさか」


 そこで何かを閃いた様子で目を剥くダーケン。彼には強い戦士に心当たりがあった。


「シャインスターか!」


「違います」


「違うんかい! じゃあ誰なのそいつは!?」


「わ、わかりません。フードを被っていてその顔までは……。しかし、シャインスターのような様相ではないので、おそらくならず者かダークエクスプレスの誰かかと思われます」


「ダークエクスプレスだと…なんでこんな時に……」


 ダーケンは恐る恐るブッタの方を見た。よりによってこのタイミングでダークエクスプレスが来たということは、ブッタが呼び寄せたのではないか、と密かにそう思考する。


 ただ、そんな訝しむ瞳に晒されたブッタは特に何も知らない様子で眉を顰めた。


「そんな筈はないっタ。本部とは連絡が取れていないが、ダークエクスプレスの奴らがこんなどうでもいい場所攻撃する筈ないっタ」


「そ、それはたしかに」


 ダーケンは考え直した。


 ここはスラム街だ。もし攻撃したところでならず者が大量死すれば、光のスカイピアはダメージがあるどころか平和になってしまう。そんなとこをわざわざダークエクスプレスがするはずがない。


「でもだとすると…一体誰が」


「さあな、俺様に言われてもわからん。だが、安心しろ。お前は気にする必要はないっタ」


 ブッタは眼前のカップを握りつぶした。ガリっという音を立てて粉々になった破片が机に広がっていく。


「それはどういう…」


 ブッタの言動の意味がダーケンには分からなかった。侵入者をほっとけとでもいうのだろうか。だとすると随分と無責任だが。


 そう思った矢先。


「誰であろうと変わらない。俺様がそいつをぶっ殺してやろう」


 ブッタはそうして数百キロほどありそうな重い腰を持ち上げた。


「っ! ブ、ブッタ様自らいかれるのですか!?」


「ああ。敵がどんなやつだろうとこのブッタ様にかかればすぐにでも倒せるっタ!」


 ブッタは自信満々にぺろっと舌を舐めた。その顔はいかにもな悪人顔で、一般人が見れば鳥肌がたつほどだ。


 しかし、今はその笑みが頼りになると思ったダーケンは口の端を緩めた。


「さ、流石ですブッタ様。では、そのように」


 そして彼は優雅に頭を下げる。


 敵がダークエクスプレスだろうとならず者だろうと、この様子ならどうにかしてくれるだろう。


「よし、それじゃあ行くぞ」


 ブッタはダーケンの横を通り過ぎ、騒ぎの方へと足を進めた。


「はっ。どこまでもついていきますぞ」


 その余裕な態度にダーケンも嗤った。

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