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5話 運命神は微笑まない


 さて、なんやかんや忙しなくしていると気づけば一ヶ月くらいが経過した。長いようであっという間だ。


 入学式やらなんやらで忙しかったというのもあるだろう。行事が重なっていると毎日が一瞬で過ぎ去ってしまう気がする。

 

 一ヶ月経ったことで学校にも慣れた。一通りのイベントは終了したし、残るは授業を毎日受けるだけだ。


 だが。


「はあぁぁ…」


 落ち着いた学校生活とは裏腹に、僕は憂鬱だった。


「お疲れですねゼノン様」


「ノクターナか…そうだね。色々とあった」


 僕に話しかけてきたのはノクターナ。アルデバランが僕の助手としてこの学校に入学させた女子生徒だ。


 紫色の髪に紫紺の瞳で、スラリとしたスリム体型をしている。スーツとか似合いそうだ。


「しかし、この状況…分かってますよね? ゼノン様」


 彼女は訝しむような目で僕を見た。


「何が?」


 彼女に目を合わせないようにそっぽ向いて答える僕。


「惚けないでくださいよ。あれからもう一ヶ月。そろそろシャインスターとの交流が始まっていてもおかしくない時期なのにまったく進展がないじゃないですか。このままじゃあ魔王様に怒られます」


「分かってるよ」


 僕は話半分に返事をする。


 そんなことはわかっている。


 あれから一ヶ月。僕はシャインスターと接触を図れていない。


 まともに話したのは、一ヶ月前の図書館の時だけだ。


 それも、あの時はほとんど会話をしていない。つまりシャインスターとの関係は、完全に知り合い以前のモブA。近くに立つことも叶わないミジンコのフンみたいな感じだ。


 僕は屋上に転がっている石ころ手で転がし、最後にギュッと握った。


「それにしても、まさかここまで彼女等と話す機会がないとは……正直舐めてたよ」


「シャインスターは人気ですからね。星エネルギーの強い彼女たちは変身してなくともそのオーラで不思議と人々に好かれる性質があります」


「それであの人だかりか」


 この一ヶ月、僕もサボっていたわけじゃない。


 彼女らには何度も接触しようとあの手この手を試した。


 例えば、彼女らの前に財布を落としてみたり、曲がり角でぶつかろうとしたり、知り合いを演じて近づこうとしたり。


 けど全部ダメだった。彼女等の近くには常に人が沢山いて気付いてすらもらえなかったのだ。


「あれだけ人がいると流石の僕も近づきようがないよ。しかも全員女子だし」


「そ、その節は申し訳ありません。私も取り入ろうと思ったのですが」


 ノクターナは申し訳なさそうに頭を下げた。


 作戦の一つにはシャインスターの取り巻きの一人になってもらうというものがあった。それを思い出したのだろう。


「別にノクターナのせいじゃないよ。元々彼女等の取り巻きになるって作戦はダメ元だったしね。作戦を思いついたのだってつい一週間前だ。実行するのが遅すぎた」


「それは…そうかもしれませんが…」


 顔色がまだ優れない様子のノクターナ。


「まあなんにせよだ。とりあえず本腰入れよう。じゃないとそろそろアルデバランに怒られそうだ」


「そ、そうですね。私からもお願いします。最近シリウス様から毎日のようにちくちく言われますから」


 彼女は苦い顔をしていた。


 たしかにシリウスは色々と言ってきそうだ。


「でもどうするか。何かいい策があればいいんだけど」


「私にできることは力ずくで無理矢理従わすことくらいですからね。それができないとなるとあまり頼りにはならないかと」


 さらっと無能が露見したノクターナを尻目に僕は唸る。


 暴力禁止での接触となれば運命的な出会いをしなければいけない、ということだろうか。しかし僕のようなダークエクスプレスの幹部に運命神が微笑んでくれるとは思えない。


 何か、なんでもいいから彼女らと関わるきっかけでも作れればいいんだけど。


「…あ」


 っと、そこで僕の天才的な頭脳が閃いた。


「……そっか…別に力ずくでじゃダメってことはないのか。寧ろ力があるならそれを利用すれば可能性は…」


「何かいい策でも思いつきました?」


「うん。成功するかやってみないとわからないけどね。やってみる価値はあるよ」


 結構自信がある。


 幹部のやる気と僕の技量次第で結果が変わる作戦ではあるが、まぁそこは大丈夫だろう。


 僕は強いしこの作戦で死ぬことはないはずだ。


「流石ですゼノン様! 今の一瞬で作戦を思いつくなんて!」


「まあね」


 部下にも褒められてちょっと嬉しい。


 僕はゆっくり立ち上がった。


「そうと決まれば早速行動だ。今から簡単な作戦を紙に書いて渡すからそれをアルデバランに渡してくれ。僕はその間準備を進めておく」


「了解しました」


 彼女は僕から紙を受け取るとその場から消えた。


 紙には僕の魔力を流しているのでアルデバランには僕が書いたものであることは伝わるだろう。


 あとは返事を待つだけだ。


「じゃあ僕も行くか」


 僕も準備を進めた。



 ◇◆◇◆◇



 そんわけでやってきたのは光のトロピカルの市外地区。光のトロピカル唯一の治安の悪い第四事象地区の端っこにある地域で、言い換えればスラム街である。


 ここで住んでいる人は大きく二つに分けられる。


 荒くれ者か、貧乏人かだ。


 見分け方は簡単。手に武器を持っていたり服が小綺麗だったりするとそいつは荒くれ者。逆に何も持っていなかったり服が汚いやつが貧乏人だ。


 大体見ればすぐにわかる。全然違うからね。


 ともあれ、ここで問題。どうしてそんな危ない場所に僕が来たのでしょうか。


 考える時間は1秒。


 はい、スタート。


 チクタクチクタク…チチチッ。


 はい、終了。


 正解はこれから行う作戦のエキストラを集めるためである。


 というのも、彼らは僕の作戦、『ダークエクスプレスに襲われ、巻き添いをくらった僕! しかもそれはシャインスターが不甲斐ないせいだった!?』に必要なのである。


 概要としてはまず、僕含めたくさんの人が住む活気のある街にダークエクスプレスが襲撃をかける。そこに、シャインスターが遅れて登場。住民はチンピラ共なので殺しまくっても全然オーケー。途中僕が逃げ遅れてピンチになった。シャインスターの足が止まる。お前が動けばこいつは死ぬ! さてどうするシャインスター! 迷うシャインスター。そんなシャインスターに、ふんッバカめ! とダークエクスプレス。それを見て、や、やめてぇええ!と悲痛に叫ぶシャインスター。時すでに遅し。即入院レベルの大怪我を負う僕。その後どうにかシャインスターはダークエクスプレスを追い払うことに成功した。しかし負い目が残った。大怪我した僕は病院送り。はぁ、っとため息が出る。しかしそこでドアが開いた。見舞いにきたのは…まさかのシャインスター!


 これが僕の作戦だ。


 今のはアルデバランに向けた紙の概要だが、しかし、アルデバランによって少し変更が入るかもしれない。


 それが『このチンピラが』という部分。


 多分僕がすぐに人員(チンピラ)を集めれなかった場合、彼は「なぜわざわざチンピラを集めるのだ? 光のトロピカルの住民など全員殺せばいいだろう」とか言い始めるだろう。


 だからこうして、チンピラの多い場所に来て早々人員集めをしようとしているのだ。


 説明は以上である。

 

 街にはゾロゾロと人相の悪い人たちが歩いていた。


 向かう先はみんな同じ方向だ。


 その方向には大きな屋敷があった。


 チンピラどもの屋敷だ。


 見ると、まるでアリの巣のように中へチンピラが入っているのが見えた。


 中にはさぞ多くのチンピラがいることだろう。今回の作戦にちょうどいい。


「募集人数は50人ってとこかな。それ以外は全員殺すか」


 僕は建物の屋根から飛び降りると、屋敷へゆっくりと歩いて行った。


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