3話 仕事の流儀
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どうぞよろしくお願いいたします。
そういうわけでやってきた森の箱庭。
箱庭といってもただの庭園みたいなところだ。花や草木が生い茂り、そこを虫たちが飛んでいるだけである。
僕はそこで近くのベンチに座り、ソラリスと話をすることにした。
「それで、話って?」
「昨日のことよ」
「お前もか」
ソラリスの言葉に僕は顔には出さずとも呆れた様子でつぶやいた。
「どうしてもわからないのよ。あなたがあの子たちを倒さない理由が。もしそれが私に気を遣っているというのならその必要はないわ。私はここに来たあの日、既に覚悟は決めたんだから」
ソラリスの目がひどく沈んだ。何か嫌な記憶でも思い出したような目だ。
「別に関係ないよ。ただ僕が殺したくないと思っただけ」
「どうして?」
「不快だからさ。僕は自分の手で誰かを殺したくはない」
「でもあなたこの前の襲撃では沢山殺してたじゃない」
「この前って?」
「昨日もそうだけどその前もよ」
彼女に言われ僕は前のことを思い出す。
ん〜あんま記憶にないけど…
少し考えていると思い出した。
「あぁあれか」
たしかに、考えてみれば僕は結構人殺しをしている。
「あなたは偶に人を殺す。それもこちらの住人ではなく光のスカイピアの人々を。なのに殺したくないって言うのは矛盾しているわ」
「そりゃ、たしかにそうかもしれないけど。でも僕にとってあの殺しは違う」
「何が?」
「アレは光のスカイピアの中でも悪人だ。僕の中ではそういう人は殺してもオッケーなんだ」
それはごく普通のことである。ここダークエクスプレスが住む闇のスカイピアと向かい側にあるシャインスターが住む光のスカイピア。どちらも善人もいれば悪人がいる。
もちろん、闇のスカイピアの方が暗黒期だ。クズは多いし、人攫いなんてザラにある。しかし、光のスカイピアもまたそういう人間は少なからず存在する。
所詮、平和と言っても毎日事件は起きるものだ。あれだけ平和だった日本でも毎日殺人事件やら強盗事件やらが起きていたんだから。
つまり、僕が殺すのはそういう輩。
「つまり殺していい人物と殺してはいけない人物がいる、と」
「そう言うこと」
極端な話だが間違いない。
クズは殺す。けどそれ以外は割とどうでもいい。それが僕だ。
「そう。でもその割には随分ギリギリまで追い詰めていたわね」
「それがアルデバランとの契約だからね。正直善人については殺せないというよりどうでもいいっていうのが僕の感想だよ。だからほったらかしにしてるんだ」
「なるほど。よく分かったわ……なら」
っとそこでソラリスは僕を見た。その目には殺意が宿っていた。
「もし私があなたが瀕死にした人を全員を皆殺しにしても何も文句は言わないということかしら」
その声は異様に低かった。
今日はそれを聞くために僕に話しかけたんだろうか。ソラリスにしては意外な言葉だ。
「言ったでしょ。僕はそこに関与しない。もしソラリスがシャインスターを殺したいなら勝手にすればいい。僕は邪魔するつもりないから」
「……分かったわ。あなたの性格が、少しだけ」
ソラリスを細めると少し顔を落とした。
彼女から見た僕がどう映っているのかはわからない。けど、もしかしたら生粋の善人だとでも思っていたのかもしれない。
だとすると大違いだ。
僕は基本的に自分以外の人間はどうでもいいと思っている。強いていえば家族とか友人とかそこら辺は気になるのはそれだけだ。
あとは無視である。
「当然と言えば当然の主観だと思うんだけどね。僕の価値観って」
「そうかしら。私は異常に見えるわ」
「そう? でも、もし今光のスカイピアにいる老人が一人死ぬとして君はどう思う? 悲しい?」
「いいえ、何も思わないわ」
「じゃあそう言うことだ。ちなみに、そこで悲しむことができるのがシャインスター。っで、何も思わないのがダークエクスプレス。両極力を持っているのは同じだけどその信念に違いがある。そういう意味では僕とシャインスターは真逆の存在だ」
あくまで僕の持論ではあるが。しかし間違った話ではないだろう。正義のために行動する魔法少女と、悪の信念のために行動する僕達。
互いに相反することはあれど仲良くなることは不可能。そういうものだと僕は思っている。
「なるほどね。あなたの話はよく分かったわ。ありがとう。いい話を聞けて満足よ」
「どうも。それじゃあ僕はこの辺で」
別にそんな深い話をした覚えはないが、彼女が聞きたい言葉が聞けたならそれでいい。
そう思い僕はその場を後にした。
「あ、そうそう。最後に一ついいかしら?」
止められた。僕は足を止めて彼女に振り返った。
「何?」
「私がこの前あなたに告白した返事。まだ聞かせてもらってないわ」
「…」
彼女に言われて僕は顔を顰めた。
そう言えば一週間前に告白されたまま返事を待たせている状態だ。
僕はだれかと付き合うつもりはない。けど、断ったら断ったで彼女の部下がうるさそうだ。でもオッケーを出すのも嫌。
「…ふふっ。冗談よ、今は保留ってことで許してあげる」
彼女はそう言って笑った。その笑みには少し切なさが垣間見えた。
「けど忘れないで。私がここにきた理由には、あなたがいるということを」
「うん、知ってる」
僕はそっけない返事をすると闇の箱庭を後にした。
後ろから、刺々しい視線が刺さるのを感じた。