2話 幹部たちの仲はあまりよろしくない
とりあえず会議が終わったので僕は会議室を出て廊下を歩く。
今日やることはすでに終わった。あとは家に帰ってゆっくりするだけだ。そう思い僕は足早に光のスカイピアにある家に帰る。
「待てゼノン」
ことができなかった。
後ろからシリウスが話しかけてきた。
「何か用?」
「話がある。今からツラを貸せ」
シリウスはそう言って顔をプイッと向ける。
「今から? 僕そろそろ帰りたいんだけど。ここじゃダメな話?」
僕がそう聞いた瞬間、彼は僕の胸ぐらを掴み壁にぶつけてきた。
ドンっと僕の背中に痛みが走る。シリウスはなぜか怒っていた。
「私はツラを貸せと言ったんだ。お前は黙って言うことを聞け」
ふむ。何かストレスの溜まることがあったらしい。相当頭に血が上っている。
「話ならここでしてよ。僕もそんなに暇じゃないんだ」
しかし、僕もそれでハイという人間じゃない。これでも一応は幹部だ。
あんまり弱々しい感じを出しているとパシリみたいな対応をされてしまうかもしれないし、断らせてもらった。
「チッ」
シリウスは舌打ちすると何か諦めたように胸ぐら手を離した。
てっきり蹴りの一発でもお見舞いしてくるのかと思ったが許されたらしい。
「では手短に言おう。お前、どうしてあの時トドメを刺さなかったんだ?」
「あのとき?」
はて。何の話だろう。
「惚けるな。昨日の襲撃だ。お前はシャインスターを後一歩まで追い詰めた。だがトドメを刺さずに帰った。いつでも殺せたのにも拘わらずだ。一体アレはどういうことかと聞いているんだ……!」
「あぁ、それか」
昨日のことでシリウスが物申したい、ということだ。
たしかに彼の言う通り僕は昨日シャインスターに勝った。トドメを刺すこともできたかもしれない。
だが僕は見逃した。
「言っとくが下手な答えは無用だぞ。もし返答に納得がいかなければ貴様の失態は魔王様に報告する」
シリウスはそんな脅し文句を言ってきた。
報告するとか言ってるが、どうせアルデバランにはすでに報告は済ませたのだろう。シリウスは真面目だ。何かあればすぐにでも魔王にチクる。
先生に言うが脅し文句だからなこいつ…。
「残念だけど、アルデバランが昨日のことを知ってるのは僕も知ってる。あいつ千里眼を持ってるし。僕の戦いもここから見てただろうしね」
「ふざけるな! それを知っているならどうして貴様は……!」
シリウスの怒りメーターがグングン上がっているのを感じながら僕は毅然とした態度を見せた。
その時。
「喧嘩はそこまでにしたらどうかしら。仲間割れは禁止よ」
シリウスの背後から声が聞こえてきた。
見てみると、茶髪長髪美女幹部ソラリスがいた。
「ソラリス。貴様は口を挟むな! 私はこいつと話をしているんだ!」
「嘘はよくないわシリウス。あなたがやってるのは会話じゃなくて尋問。彼の口を割りたいならそれ相応の誠意を見せないと。まぁそれでも、ゼノンは最初から口を割るつもりはないでしょうけど」
「…くっ」
ソラリスの言葉にシリウスは苦渋を飲まされた顔をした。
やめてくれソラリス……こいつを怒らせるな。殴られる。
僕はゆっくり目を瞑った。一応殴られる準備はしておこう。それでチャラだ。
「勝手にしろ」
そう思っていたが、彼は殴ることなくどこかへ歩いていった。
大丈夫だった。アイツも大人になったってことかな。
「まったく。彼はいつも怒っているわね。子供みたい」
ソラリスはどこかつまらない様子でそう吐き捨てた。
「あなたもそう。シリウスに絡まれて可哀想だわ」
そして、シリウスの背中を見送ると、ため息混じりに言った。
「いつも通りだけどね」
それに対し呆れたように言う僕。
「そう」
ソラリスはそっけない反応だ。
「それで、僕に何か用?」
服のシワを直しつつ彼女に聞く。わざわざ話しかけてきたってことはそれだけの用があるのだろう。
「別に用はないわ。ただシリウスの怒鳴り声が聞こえてきたから助け舟を出そうと思っただけ」
「わざわざ?」
「ええ、可哀想だったもの。虎に震える仔羊みたいで」
そう言うソラリスはなかなかに性格の悪い顔をしていた。
相変わらず何を考えているのかわからない。幹部の中じゃ仲がいい方ではあるんだけど。
「なんにしても助かったよ。おかげで命拾いした。ありがとう、王女様」
僕がそう言うと彼女は少し憎々しく嗤った。
「あら、なに? 助けてあげたのに私に嫌味かしら」
「そんなつもりはないよ」
嘘だ。完全に嫌味である。
「ま、いいわ。それより私と話さない? ここじゃなくて外で」
「外?」
ソラリスは少し微笑みながら提案してきた。
でも天気が…と思いながら僕は外を見る。
星はご生憎様顔色が悪い。
この島は雲の上のはずなんだけどな。何度見ても不思議だ。
「この天気で外に出たらべしょ濡れになるよ」
「ええ。だから近くの花園で話しましょう」
「花園…。森の箱庭のこと?」
「そう。あそこなら外ではあるけど屋外でしょう? 私も濡れなくて済むし周りも欲情しなくて安心だもの」
彼女はそう言うと歩き出した。
まぁ助けてももらったのは事実だしここで帰るわけにもいかないか。
僕はそうして彼女の後ろをついて行った。