17話 奥義と友達作り
シャインスターとの話は続く。
…そうだな。あいつについて聞くか。
「それで、まだ聞きたいことがあるんだけど聞いてもいいかな」
「はい、どうぞ」
「あの……憤怒の…シリウスだっけ。あの白髪の……あの人は倒せたの?」
「あ、そ、それは……」
僕が聞くと、みんなの目に哀しみの色が浮かんだ。とてももいい結果に終わったとは思えない顔だ。
それを見れば答えを聞かなくても何となくわかった。
「倒せなかったか」
「すみません。私が不甲斐ないばかりに」
ハートは顔を俯かせた。
…まあ予想はしてたことだし、シリウスが生きてるなら僕側としては良かったな。今後の作戦にも支障はなさそうだ。
僕は少し顔に影を落とした。
さて。
これで聞けることは聞いたし、そろそろ奥義を発動させよう。
僕は僕でシャインスターと仲良くなるという作戦がある。シリウスに関しては生きてれば問題ない。それだけで十分だ。
というわけで。
「はぁぁあああ」
僕は落胆した目をしながら大きなため息を吐いた。いかにも失望しましたって感じで。
「……あ…や、やっぱり不甲斐ないですよね。ゼシルくんがあれだけ言ってくれていたのに逃しちゃうなんて」
それを見てシャインスターはもっと落ち込んだ。
僕は慌てて首を振った。
「いや、そうじゃない。僕があの時人質になんてならなければもしかしたら倒せたかもしれないと思ったんだ。それを思うと凄く申し訳ないと思ってさ」
「そ、それは違います! あれはゼシルくんの運が悪かっただけです! どうしようもないですよ」
「それは言い訳だ。運が悪かったから許してくれなんて虫のいい話だし、僕はそんなこと言える立場じゃない。そこは反省しないと。ただ…」
そこで僕は顔を上げた。
「ありがとう。僕を助けてくれて。おかげでまたこうしてシャインスターと話をすることができた。凄く嬉しいよ」
ここで満遍な笑みを見せる僕。
「え、い、いえ! 私は当然のことをしたまでで……」
彼女は頬を赤らめながら俯いた。その顔は少し照れているように見えた。
うん、及第点かな。
これが僕の奥義『下げて上げる心弓術』。
最初にため息を吐くことで『お前らのせいでシリウスは倒せなかったんだぞ?』と勘違いさせつつ、実は少年が思ってるのは自分の不甲斐なさ。そのギャップと優しさによって心を打ち抜き、切実さと善性をアピールする作戦だ。
これによってシャインスターとの友情度アップ間違いなし。
もちろんこれだけじゃまだ足りないだろうが奥義はまだ49個ある。地道に積み重ねていこう。
ルミナはハートの顔を覗きながら言った。
「ハート、あんま惚けちゃダメですよ。分かっていると思いますが魔法少女は恋愛禁止です」
「そ、そんなんじゃないよ! ただちょっと…驚いたっていうか…」
「そうですか。まあなんでもいいです。それよりゼシル君、私たちにして欲しいことはありますか?」
「して欲しいこと?」
僕が聞き返すとルミナは頷いた。
「私たちは助けられた人にお返しをするという流儀があるんです。ですから何かして欲しいことがあれば私たちが叶えますよ」
「僕何もしてないけど」
「細かいことはいいんですよ。大事なのは私たちが何かしたいと思っているということです。それで、どうですか? 何かして欲しいことないですか? なんでもしますよ」
ルミナは胸をドンっと叩いた。
何かして欲しいこと、か。
急にそんなこと言われると迷うな。
もし難しいお願いをすると僕の純粋無垢な少年のイメージが崩れしまうし、逆に簡単すぎいるお願いももったいない気がする。ちょうどいい難易度のお願いを選ばないと。
うん、そうだな。
となれば、アレしかない。
「じゃあ、僕と友達になってくれるっていうのはありかな」
「友達ですか?」
僕は頷いた。
「僕は(光のスカイピアには)友達いないんだ。だからちょうどいいと思ってさ」
そう言うと場が静まり返った。みんな申し訳なさそうな顔をしていた。
難しいお願いだったか。
そう思い顔を少し曇らせると、ルミナがハッとした。
「…あ、いや…すみません。変な期待をさせてしまいました。実は、私達シャインスターは男性の方と友達になるのを上から禁じられてるんです。だからそのお願いは難しいかと」
「そうなんだ」
なんか振られたみたいで凄く恥ずかしい。
でも、そういうことなら仕方ないな。今回の作戦は失敗ってことが確定した。
アルデバランにはうまく報告しておこう。
「あ、でも…上から許可が取れれば問題はないと思いますよ。そうですよね、みんな?」
確定してなかった。
ハートは他二人に向かって呼びかけた。
「許可を取るって…まさかあなた、彼を本部に連れて行く気? それこそ無理よ。上が許してくれるはずないわ」
ふむ。
「そうですか? 私はやってみる価値はあると思いますよ。たしかにさっきはああ言いましたけど、彼が本気なら私は挑戦するべきだと思います」
「ルミナ…」
「今まで私たちに男友達がいなかったのは本部にまで行って直談判する人が殆どいなかったのと邪な考えの方が多かったからです。ですがゼシル君ならそのどちらでもありません」
ふむ。
「そんなの初対面じゃ分からないわよ。もしかしたら彼がダークエクスプレスだって可能性もないわけではないでしょう」
ふむ?
「それはないですよ。彼はそのダークエクスプレスに人質にされて死にかけていますし、シリウスの殺気も本物でした。彼が敵だとは思えません。それにもうみんなわかってるはずですよ。彼から溢れる生命エネルギーはとても真っ直ぐで、清らか。異常なほど澄んでいます。彼を信じる理由としてはそれで十分でしょう」
ふむ。
ルミナはそういうと何か確信がある様子でシャインスターと目を合わせた。
その目はまっすぐでとてもきれいだった。
自分の言葉は曲げない。責任は自分がとる。そんな固い意思を感じる。
コメットはルミナと見つめ合っていると、観念した様子でため息を吐いた。
「そう。なら私はもう何も言わないわ。どうせ何を言っても変わらないでしょう」
「ありがとうございます! コメットならそういってくれると思いました! 流石、超新星並みに器が大きいですね!」
「……まったく、都合がいいわね…」
コメットは世話が焼けるお姉さんのような役回りらしい。少し乗り気ではないものの受け入れてくれた。
その顔には呆れと嬉しさの両方の色が入り混じっている。
ルミナには感謝だ。
「じゃあ、みんなの了承も得たということで、後は君の意思を聞く番ですね。どうしますか? 試しに本部に来て頼んでみますか?」
「もちろん」
ルミナに聞かれて僕は迷わず頷いた。
何はともあれ、接触するチャンスはこの先そう多くない。これからのことも考えてこのチャンスはモノにすべきだ。
「やってダメなら僕も諦めるよ。でもそれまでは友人作りに精を出したい。迷惑がかからないなら、上とのコンタクトを頼んでもいいかな」
「わかりました。そういうことでしたら私もできることはしましょう」
「本部には私から連絡します。ゼシルくん、退院日が決まってるんですか?」
「三週間後かな。リハビリをしないといけないから」
僕がそう言って苦笑するとシャインスターは一瞬っ黙り込んだ。
「こ、この傷が」
「一ヶ月…?」
なんとも言えない顔だ。こんな反応をされるなら傷を治さなかったほうがよかったかもしれない。いや、せめて後遺症が残らないぎりぎりの状態にしておくべきだったか。
「あなた、スタリンが見えるのもそうだけどメンタルもどうかしてるわ。もしかして有名な貴族なのかしら?」
コメットは怪しい目で僕を見た。
もちろん違う。
「ただの一般人だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そう。じゃあ気をつけたほうがいいわ。貴族のような星エネルギーに適性のある家よりも、一般人のあなたの方が才能があるなんて知られればあなたを殺しにくる人もいるかもしれないから」
コメットは何か嫌な記憶でも思い出したのか物騒なことを言ってきた。
それは怖いな。変に荒事に巻き込まれるのは勘弁したいところだ。
まあでもその時は返り討ちにしよう。もちろん命はなしで。
僕は苦笑しながらその日は彼女らと話して過ごした。




