14話 茶番なのか!?いやマジだ!遊びじゃねえ!
そういうわけで、シリウスが戦闘の途中でブッ飛ばされるという建物で身を潜めていた僕だが、その時はやって来た。
シリウスは瓦礫を吹き飛ばし僕の胸元を乱暴に掴んだ。
そして持ち上げると今度はその手を僕の首にあてた。
シリウスは嗤っていた。口角がこれでもかと吊り上がりこらえられない様子だった。
それを見て少しだけ不安になる僕だったが、作戦は作戦。早速僕は予定通り被害者を演じ始める。
「ひ、ひぃぃいいいい!!???」
まず最初にやったのは『弱虫で怖がりの僕』という演技だ。
大切なのは僕がの弱い人間なのだとシャインスターに伝えること。そのためにはビビっている声を出さなければならない。
予行練習は何度もやった。
闇エネルギーを0、1くらい放出し、そこから0.01の量に抑え、また0.1放出し、0.01の量に抑える。そうすることで喉を振動させ、声を震わせることができる。さらには十数分前から息を止めていた僕はそろそろ限界を迎え目から涙を流す。そして極め付けは呼吸を荒げる。
たったそれだけで弱虫の僕の完成だ。実に簡単な作業である。
「……はっ」
シリウスはそんな僕を見て笑った。
「我慢大会ってところだな」
そして僕の首元に手を置き、その爪で僕の首を引っ掻いた。
向こうは向こうでちゃんと自分の役割通り仕事を全うしてくれているようだ。
僕の首からタラタラと血が垂れた。
もう少し深く爪が入れば、僕の頸動脈はいとも簡単に切れ、僕は命を散らすことになる。
「う…っ、うぅっ…ぃぃぃ」
そのタイミングで一筋の涙を垂らす僕。
涙と血が首元で入り混じり、悲壮感を醸し出すことに成功した。
「や、やめなさい!! その子は関係ないでしょう!?」
「そうです! 今すぐその子を離しなさい!」
「くっ…!」
僕の演技のおかげかシャインスターは焦った様子で声を張り上げた。
最初に顔をしかめたのがルミナ、それにハートが賛同し、最後にコメットが剣に手をかけた形だ。
うん、見たところ最初の掴みは悪くない。
僕は内心ちょっと微笑む。
しばしそこから静寂が続いた。
静寂を破ったのはハートだった。
「っ! あ、あの子っ!」
ハートが目を見開いた。
ルミナがハートの方に振り向く。
「もしかして知り合いですか!?」
「い、いや。そういうわけじゃないけど…でも、たしか私達と同じ学校で…この前私に本を譲ってくれた人です」
ハートは声に詰まらせながらも言った。
僕は内心歓喜した。
ナイスピンク!
今の言葉で僕が善人であることに深みが出てきた。これで僕の演技にも信憑性が出てくる。
「うちの学校の…!? で、でも学校はまだ授業中のはずじゃなかったかしら」
そこでコメットはいらんことを言った。
まずい。
たしかに放課後ならともかく今は昼だ。僕がいるのはおかしい。
「いえ、もう昼休憩です。多分何か忘れ物をして取りに帰ったのでしょう」
ルミナはすぐに答えた。
「たしかに、それもそうね」
っとコメット。
あ、危ない…。ナイスだ青髪。
僕は内心ルミナに感謝を述べておく。
「こいつがどうなってもいいのかシャインスター! お前らが動けばこいつは死ぬぞ!」
シリウスはそう言って自分の闇エネルギーを僕の首に少しずつ注入してきた。
予定よりは少し早いが、悪くないタイミングだ。
「…うぐっ…」
僕の全身に刺すような痛みが走った。
まるで全身をトンカチで殴られて、その後に釘を刺されたような痛みだ。
痛い。
死ぬほど痛い。
だが、僕は耐えた。
耐えて、耐えて。
視界が赤くなっていき、鼻から血が垂れていき、そして首から血管が浮き出たところで血を吹き出した。
「ブハッ」
っと。
「や、やめて下さい! 彼に手を出すのは禁止でしょう! ほら! 私は動いてないじゃないですか!」
両手を広げて無害を主張するルミナ。その手には何も握られている様子はなく、完全に無防備だった。
しかし、シリウスは言った。
「フンッ。私は貴様が1ミリでも動けば動いたって判定するんだよ阿婆擦れどもが!」
クソみたいな発言だ。僕がシャインスターだったらぶっ殺している。
おそらくだが、彼女らの言葉に理解を示してしまうと僕を痛めつけられなくなるから無理やりなことを言っているのだ。とんだ詐欺師である。
「なっ。それは卑怯でしょう!」
「そうです! そんなのズルですよ!」
「ズルかどうかは私が決める。こいつの生死も、お前らの死に際も、全部だ! それ以外は認めない。それこそが! この憤怒のシリウスが決めた世界のルールなんだよ!」
シリウスは普段と別人だった。
怒っているのはいつも通りだが、言葉に知性が感じられない。
そんなに僕を痛めつけたいのだろうか。いや、予定通りだからいいんだけどね。文句はないんだけどね。
まあ、あとは戦闘中とあって闇エネルギーが不安定になっているのも理由の一つだろう。そのせいでかなり気持ちが昂っているのだ。
これは闇エネルギーを使う人にはよくあることだ。闇エネルギーは制御できなければ欲望が剥き出しになり情緒もおかしくなる。
だからこそ闇のスカイピアの住民は素行が荒いものが多い傾向にある。
「そんなの…」
ルミナは何もできない現状に唇を噛んだ。
悔しい。
口にはしていないがそう言っている気がした。
そろそろか。
このタイミングがベストだと判断した僕は、第二段階へ移行することにした。
「シ……シャ…」
僕は口を開く。
出てきたのは掠れた声だった。
「シャ…イン…スター」
先ほど同様、体を震わせ、血を吐き、彼女らに言った。
「僕は…大丈夫。大丈…夫……だから…」
咳き込む僕。
シリウスの爪がもっと食い込んだ。
しかし、僕はそれでも笑って見せた。
「し、少年!!」
ルミナが僕に向かって声を張った。
だが一歩も動かない。
今すぐに助ける。そう言いたいのかもしれないが、それはできない。動けばシリウスが僕を殺す。シリウスにはその残忍さがある。
僕は構わず言葉を続けた。
「シャイン…スター。僕に構わず…戦って…くれ…」
「な、何を…」
「いい……死んで…いいんだ…僕は別に…死んでも…構わない…から…」
僕は説明する。
自分の身なんてどうでもいい。だからこいつを倒してくれと。
「な…何を…言っているんですか……?」
しかし、ルミナはその言葉が受け入れられない様子だった。
「し、死んでいいなんて言っちゃダメです!」
っとハート。
その顔は悲しみに歪んでいた。凄く悲しそうだった。
それを見て僕は演技が効いていることに感涙した。
あぁこれだ。これが僕の作戦だ。
善人とはまさにこれ。
この自己犠牲の精神なのだ。
俺を置いて先に行け!
その先にあるものが、置いて行かれた男の善性なのだ。
僕はそれを利用する。
「元々…僕は…家族がいない…友人もいない……全員…ダークエクスプレスに…殺されたんだ…」
「……」
「でも僕は…生き延びた。…僕だけ…シャインスターに…救われた…」
「…元々…あってないような…命だった。…だから…いい…」
そこで僕は瞳の光を下げた。
ちょうど視界も少しづつぼやけていたのでちょうどいい演出だ。
シャインスターは僕のことをじっと見ていた。悲しい目で。憐れむような目で僕を見ていた。
そこでハートに向かって僕は弱々しく指を差す。
「……僕は…シャインスターに会えただけで…十分嬉しかった……僕を救ってくれたのは…君達だったから…。……少しの間だけだけど…話すこともできた……」
「それだけで僕は…救われた。……生きててよかったと…そう思えた…たった1分もない時間だったけれど…」
「そ、そんなこと……!!」
ハートはそれを聞いて一雫の涙を垂らした。
いい反応だ。
でも、まだだ。
最後に一言締めくくらなきゃいけない。
そう思い僕は最後に言った。
「未練はない。ありがとう…シャインスター」
そこまで言うと僕は気絶したように全身の力を抜いた。
目を瞑ったせいで彼女らの顔はよく見えなかった。
だけども、彼女らの星エネルギーがかつてないほどに光り輝いているのは、見なくても分かった。
注意:本作の主人公はゼシル。
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