12話 作戦開始!
行き着いた先は、予定通り平和公園市街地噴水前広場だった。
僕が着いた頃、目の前に広がっているのはエキストラがなんだの言っている場合ではないほどの地獄絵図だった。
周囲の建物は崩壊し、巻き込まれた一般市民の叫び声が聞こえてくる。まるで戦時真っ只中のようだ。
エキストラと思われる人相も悪い人たちもいるが、彼らはあらかた殺されたらしい。大量の血が都市を赤く彩っている。
そして。
至る所で砂煙のようなものが上がり、彼方此方で爆撃のような攻撃が飛び交っていた。
凄惨。
そう言う他ない。
しかし、人的被害はそれほど大きくはないようだ。
向こうもこっちの勢力に対し、光の騎士団があてがわれているおかげで被害は確実に最小限に抑えられていた。
おかげで一般市民はほとんど逃げ切れておりそれほどの被害はないように見える。もちろんゼロではないだろうが。
「お、いた」
僕はそんな戦場を見渡して、見つけた。
戦場の中央には闇のスカイピアの魔王幹部シリウスが浮いていた。
それと、遠方にある建物の屋根には同じく魔王幹部ソラリスの姿。
でもソラリスは戦闘に混じる事なく佇むだけで、実際に戦っているのはシリウスだけだ。
彼女が何しにきたのかはわからないが、僕を見つけるとどこか覚悟を決めた顔をしていた。どういうことだろう。まあいいか、彼女も何らかの任務を受けているのだろう。
ともあれ、問題のシリウスだが、彼は天空から爆撃弾を投下しつつ状況を見定めている。その姿はまるで爆弾を投下する戦闘機のようだ。
彼も中々酷いことをする……あれじゃあここら一帯が焼け野原になってしまう。
そう思っていた矢先、彼はこちらを一瞥してきた。
こちらに気づいたようだ。
『始めるぞ』
そう言っている気がした。
『了解』
僕は作戦を開始した。
◇◆◇◆◇
「くっ……シリウスのやつ、なんてことを!」
一方、シリウスと相対するのは三人の魔法少女だった。それぞれ、ハート、ルミナ、コメット。全員シャインスターである。
彼女らは3人がかりでシリウスに対峙していた。
「どうしようルミナ……! ここまま攻撃が止まるのを待つ!?」
ハートはシリウスの攻撃に失敗し振り落とされると地面に着地した。
「それだと時間がかかります! 私が突っ込むのでその隙に彼を叩き落として下さい!!」
そこに合流したのはルミナだ。青を基調とした派手な様相をしている。
「わ、分かりました!」
「了解!」
彼女の言葉に、ハートと、もう一人の魔法少女コミットは頷き行動を開始した。
「まずは全員死角へ! 私がタイミングを見計らいます!」
ルミナの声が戦場に轟いた。
それぞれが建物の間を駆け回りシリウスの死角に回り込む。
向こうは1人。
こっちは3人。
目が三つない限り自分たちを追うことは不可能だ。
隙を狙い、その時を待つ。
その時はすぐにやって来た。
「……ッ」
ルミナはシリウスに向けて建物を蹴り飛ばした。
星エネルギーのこもった拳がシリウスの顔面を捉える。
『はいる!』
声には出さず、ルミナは嗤った。
わずかにシリウスの頬を擦りルミナに鮮血が飛ぶ。
避けられた。
だが、問題ない。
もう一撃、今度はもっと強い一撃を……。
その瞬間、ルミナの首をシリウスが掴んだ。
「うっ…く…!」
ルミナは閉められる手に苦しそうに息吐く。
「単調だな。なんの工夫もない一撃だ。そんなもの私には通用しない」
シリウスがルミナに視線を送って言った。
っが、そんなシリウスの片腕を彼女は掴んだ。
そして苦し紛れに笑った。
「さて…それはどうでしょう。いいんですか…? 自分に片腕を使えば戦力半減ですよ」
「だから何だ。貴様一人葬れるなら問題はない」
シリウスは吐き捨てるようにそう言うと、もう片方の腕に闇エネルギーを溜めた。
まずい……自分の首が飛ぶ!
迫りくるシリウスの手を見据えながら、ルミナは己の死を予感した。
両腕がふさがっているこの状況では、防ぐことも避けることも叶わない。
少し半身をそらそうとするが、それでも攻撃範囲の広いシリウスの攻撃を前にしては意味がない。
…間に合わない。
そう思った。
その時。
流星のような二つの星が、シリウスの元へと向かうのが見えた。
それを見てルミナが笑った。
「私は一人で戦ってるんじゃない。みんなで戦っているんです!!」
そんな魔法少女らしいセリフが自然と出てくる。
シリウスも遅れてではあるが、直前に人の存在に気づいた。
「チッ」
そして舌打ちをした。
だが、
「ハッ」
すぐに何かを思いついたようにニヤリと笑った。
「みんなで戦っている? じゃあこれはどうするんだ!?」
そう言ってシリウスが取った行動は、ルミナを盾にしてシリウスは彼女らの攻撃を防ぐことだった。
「え、うそ!? ちょ、ちょっと!? それは卑怯ですよ! 何やってるんですかバカ!」
「卑怯? 三人がかりで戦っている奴らがよく言う!」
シリウスの笑みは嘲笑へと変わっていく。
「どうした? みんなで戦うんだろう! ほら、文字通りみんなで戦うといい!」
「こんのっ!」
その悪趣味な顔にルミナは悔しそうに顔を歪ませた。
そしてその腕をガッと締めた。腕力でシリウスの腕を握り潰す。しかしシリウスは微動だにしない。
「いくら力を入れようが無駄だ。お前の力など所詮は借物。変身だかなんだか知らんがおままごとで得た力など口ほどにもない」
シリウスがそういった瞬間。ちょうど二人が飛んできた。
「ル、ルミナちゃん! どいてぇえええ!!」
「ど、どきなさいルミナ!」
「うわぁあああああちょいちょいちょいちょい!?」
ハートとコメットの二人はルミナと衝突した。
カン、と。
人がぶつかった音なのか疑わしい音が鳴る。
「いったーい!!」
痛みを訴えるルミナ。
「もう!」
っと、不満を上げるハート。
「こうなったら!」
だが、コメットは違った。
彼女はそこで諦めていなかった。
ルミナの服を掴むと、自分の体を持ち上げそのままシリウスの服を握る。
「チッ」
再びシリウスの舌打ち。
右腕にはルミナ、左腕にはハート。
彼女らは状況を察し腕を強く握っていた。
シリウスに防御手段はない。
避けるのは不可能。
「これでもまだ防げるっていうなら防いでみなさい!」
そうしてコメットはシリウスの顔面を殴り飛ばし、地面に叩きつける。
周囲に爆風が舞い、いくつかの衝撃により建物が倒壊した。
彼女等の攻撃は星エネルギーの篭った重い一撃だ。威力は十分だった。
シリウスは難なく立ち上がることはできたものの、その顔頬には青痣ができていた。
ただし、その傷はぶくぶくと泡を拭き治っていく。闇エネルギーを応用した回復術だ。
ダメージはない。
ただ、
「おのれッ。うざったい蛆虫どもが!!」
自分よりも格下と判断するの人間の攻撃を食らったことに腹を立てているのはたしかだ。
「あ、危なかったぁ! もう少しで死ぬところでしたよ!」
「ルミナちゃん無理しすぎだよ! ああいうのはダメっていつもいってるでしょ!?」
「あはは…いえ! 自分はみんなを信じていますから! 危ない橋も笑顔で渡りますよ!」
「…もう」
ルミナの元気溌剌な発言にハートがため息を吐く。
シャインスターは爆撃で所々血が出てはいるが、致命傷は負ってない。
傷が治る前のシリウスと比べれば少し軽いくらいだろう。
対しシリウスは未だ全快だ。
状況はそれほど変わっていない。それどころか悪化していると言っていい。
「みんな油断しないで。まだ勝負は終わってないわ」
コメットのその言葉に二人も頷く。コメットは唯一状況を完全に理解していた。
このままでは勝機はない。シリウスを倒すにはもっと強力な一撃が必要だ。せめて必殺技でも当てないと。
「……クソが。あんなわかりやすい攻撃をなぜ私が受けなきゃならんのだ」
シリウスがボソッとシャインスターには聞こえない声でつぶやいた。
かなり怒っている、というのはその場にいる人物なら誰でも分かるだろう。
しかし、防ぐことも避けることも出来ずとも、あの攻撃を食らわないようにする手段がシリウスにはあった。今回の作戦さえなければそれをやっていたはずだ。
それができないのがもどかしい。
「まあいい」
彼は口の中の血を吐き捨て、建物の壁、その僅か前にいる『それ』を見て冷静になった。
「どうせお楽しみはこれからだ」
禍々しい殺気を爆発させるシリウス。
「……くっ。このエネルギー…! みんな、分かってるわね!?」
「はい!」
「ここからが本番ということですね!」
その殺気にシャインスターも気を引き締めて構えをとった。
いつでもかかってこいと言わんばかりの覇気が辺りを支配する。
未だ周囲には剣と剣が重なる音や誰かの雄叫びが聞こえ、敵の殺気もまた増え続けていた。油断はできない。
そう、油断は。
しばらく睨み合ったシリウスとシャインスター。
その時、
闇と光のエネルギーが衝突する戦場で、それは唐突に、そして残酷に起きた。
「だ、誰かぁああ…! 誰か助けて下さいぃぃいいいい!!」
幼くも弱々しく情けない声がその場に響いた。
「誰か!!」
その声は一際大きく、この戦場でもはっきりと声が聞こえてきた。
「こ、この声…!」
彼女等は全員目を見開いた。
少年の声。それは敵でもなく、味方の兵士でもなく、一般市民の声だった。
「ル、ルミナちゃん!」
ハートの焦る声がルミナへと注がれる。
その声を聞きつつ前を向くとシリウスの背後にそれはいた。
少年だ。
年のころは16歳前後で、黒髪黒目をしている。
彼は建物の瓦礫に埋もれ辛そうにこちらに助けを求めていた。
「だ、だれがぁぁぁああ! だずげぇでぇええええぉおおおおおおおおお!」
手をシャインスターに伸ばしながら精一杯のダミ声で懇願する少年。それはどこからどう見ても生にしがみつく一般市民だ。
「ま、まずい! そこの少年! 早く逃げて下さい! そこは危険です!!」
そんな少年にルミナは手でジェスチャーしながら叫んだ。早くそこから避難しろと。
しかし少年は動かなかった。
いや動けないのだ。
その足には血こそ見えないものの瓦礫が敷かれており、悪戦苦闘していた。瓦礫のはまり具合からして簡単に抜けられないのはみれば分かる。
その瞬間、シャインスターに焦燥がかけた。
このままでは少年が危険にさらされる。
すぐにでも避難させなければ……
「…ほう」
そんな彼女等の様子にシリウスが嗤った。
悪趣味に、それでいて勝ったと言わんばかりに口の端を緩めた。
「どうやら運命神は私に微笑んでくれたようだな」
そう言ってシリウスは少年に乗った瓦礫を吹き飛ばすと彼を人質にとり、その体に触れた。
「ひ、ひぃいいいい!!???」
「「「!!!」」」
少年の情けない声が響く。
そしてシリウスは言った。
「シャインスターども! 貴様等が動けばこいつは死ぬ! 殺されたくなければその場から動くな!」
先ほどまでの苛立ちなどなかったかのように、陽気な様子で、高らかに言った。
その声にシャインスターは拳を握った。




