プロローグ
そこは青く広がる空と、白い雲海に囲まれた幻想的な島だった。島の中央には街が栄え、星や天体をモチーフにした建物が並んでいた。
見渡せば、星の形をした塔や、星座の形を描く街路。星が天井についた時計塔。さらには星の宮殿と呼ばれる大きな建物が見える。
見渡す限り美しい景観だった。
そんな世界に一人。
僕はいた。
名前はゼシル・ノントラード。16歳。黒髪黒目のどこにでもいる男子高校生。そして、転生者である。
前世の名前はもう覚えていない。だけど、日本という国で普通の生活を送っていた記憶だけは覚えている。
特にこれと言った特別な人生を送っていたわけではない、よくある人生だ。覚えていても意味があるかと問われればなんとも言えない。
しかし一つ言っておくことがあるとすれば、僕は別に死んで転生したわけじゃないということだろう。
ある日家のドアを開けたら眩い光に覆われ、気づけばこの世界に転生していたのだ。
驚きはあった。どうして急にこんなことに、と当たり前だが思った。しかしその気持ちはすぐに消えた。
どうせ転生したって生活自体はこれと言って変わらないのだ。ただ普通に以前と同じような人生を送るだけ。だからまぁ、なんでもいいやとつつ思い普通に暮らしていた。
それが変わったのはちょうど13歳になった頃。あれはたしか中学に入学した頃だったか。
僕がいつも通り街を歩いていると、闇の結社ダークエクリプスと名乗る厨二病チックな奴らに拉致された。
そして気づけば奴らの拠点である闇のスカイピアの王城へ連れていかれ、僕はそこの一番偉い人にこう言われた。
『貴様、我の部下にならないか?』
っと。
そいつは頭にツノが2本生えて、肩も肩パットにマントをつけたような、いかにもな悪役姿をしたやつだった。
名前はアルデバランというらしく、この世界の魔王とのことだ。
そんな彼がどうして僕をわざわざ拉致ったのか最初は分からなかった。別に僕を拉致したところで僕はどっかの御曹司とかではないし、僕を部下にするよりもっと使えそうなやつを部下にした方がマシだ。拉致する人が僕である必要はない。
そう思っていた。
だが違うらしい。
彼の話によるとどうやら僕には闇エネルギーという魔法少女が扱う星エネルギーとは相反するエネルギーに対する適性があるため、その力をもって魔法少女討伐に助力してくれという話だった。
魔法少女。そう、この世界には魔法少女が存在する。
僕もこの世界に来て何度か見かけたことがある。テレビでもよくやっている。
彼女らは僕の住む光のスカイピアのヒーローだ。
悪を倒し光のスカイピアの平和を守ってくれる英雄。島の人にとってはもちろん、僕にとってもありがたい存在だ。
だが彼はそんなすごい人たちの敵になってくれというのだ。
そんなの、彼女に守られてきた僕が了承すると思っているのだろうか。
『もし、僕が君の仲間にならなかったらどうするの?』
『殺す』
『いやそうじゃなくて。僕以外の人たち。家族とかどうなるのかっていう話』
『誰であろうと答えは同じだ。全員殺す』
『見逃してくれるとかは…』
『あり得ぬ』
『闇の結社入りまーす』
ということで、僕は闇の結社ダークエクリプスの従業員になった。
なんなら、あとで福利厚生とかも聞た上で納得して入った。思いの外満足だ。
ん?なに?薄情だって?
そんなことは僕の知ったことじゃない。別に僕は魔法少女の敵だろうがなんだろうが、生きるためには悪事にだって手を染めるし、家族の命がかかってるなら気兼ねなく彼女等と戦える。
なんたって僕には適性があるわけだしね。力を得たものには、それ相応の義務というのが発生するのだ。僕はそれに従うのみである。
ともあれそういうこともあって僕はそれから2年間、闇の結社で働くこととなった。
まずは掃除洗濯や料理担当などの雑用業務から入った。偶に上司に胡麻を擦って、いつの間にか上司に認められて、そこの秘書になって、上司に作戦の助言をしているうちにその功績が認められ、作戦会議に参加させてもらうようになった。
それで最終的に魔王直属の五人の幹部の一人となり、今に至るというわけだ。
我ながら特にこれと言って何かしたつもりはないが。うん、流石闇のスカイピア。
周囲の奴らがみんな凶暴的で暴力的な奴ばかりなお陰で、ちょっと真面目に仕事してりゃ褒められるし役職もとんとん拍子で上がりやがる。それに伴って金もガンガンもらえるようになったし、気づけば幹部まで上り詰めてしまった。
困ったものだ。
僕が手を出したばっかりに闇のスカイピアもかなり強くなってきて、最近は偶に「あれ、これ勝てるんじゃね!?」て思うことも増えてきた。
もちろんそれでも魔法少女は、「みんなの想いを一つに!」とか言って星エネルギーを蓄えて進化し続けるので最後には負けるんだけど。
まあいい。とりあえず現状はそんな感じである。