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4.下僕には色々教えることがあるようだ

申し訳ありません! 

誤って投稿してしまいまして、三話と重複しています。大変申し訳ございません!!

 

 それから私とルディの生活ははじまった。


 ルディはなかなかの忠犬っぷりで、数日怪我で動けない私の為に何なりと動いてくれた。指示を出さなくとも新鮮な水を汲み、湯を沸かし、清潔な服にシーツに交換してくれる。

 だが、彼には出来ることが両極端だった。掃除や洗濯は出来るが、料理はできない。


 そこでルディは今までの暮らしを語った。

 ルディは7年ほど前に奴隷商人に捕まり、手錠を嵌められた状態で売り飛ばされた。以後、濡れ衣を着せられるまで、ずっと奴隷として過ごしてきた。

 長い奴隷生活で、一通りの雑用を覚えたそうだが、料理だけはしたことがないのだそう。

 ふむ──



「──根菜の切り方はそうではない。食材に添える左手も間違えている。指を切ったらどうする、愚鈍な奴め」

「はい……、グーでございますね」

「そうだ」


 だから、ケガが癒えたころに、私はルディに料理を教えはじめた。


 前世──エリカだったころ、母の死後に祖父に料理教室に連れていかれ、通うように言われた。祖父とは後にも先にもあれっきりだったけど、生きろと言われたように思えた。

 父は家事をろくすっぽしない仕事人間だったから、食事は私が担当していた。


「切り方に迷ったら、食べやすいサイズにしなさい」

「はい。エリ様のお口に合うサイズということですね。では、すべての食材は、その小さなお口に入りやすい形でなければなりませんね」

「私は固いものも大きく頬張るのも好きだ。顎が鍛えられる。だが、私のことを第一に考えることはよい心がけだ」

「かたくて、大きいも、の……」


 はぁ、はぁ、はぁ……


「? 私に息を吹きかけるな」


 犬獣人だからか、ルディは時折息が荒くなる。長いしっぽがぶんぶん左右に揺れている。

 犬獣人の気分というのは実に分かりやすい。


 犬を飼えば、こんな気分になるのだろうか。

  主人に飛びつく犬みたいなものか。もっぱら忠犬ルディは私に抱き着くなどはせず、直前で止まっているが。


 ただ、ルディは息を荒くしながらも手先を動かしている。綺麗に切り揃えられた食材を見て、あとは、炒めるだけだからと席を外したら──



 真っ黒な料理が出来上がっていた。


 初心者は目を離すことなかれ……

 一口食べれば、じゃりじゃりと音がする。卵の殻かしら。



「エリ様! こんな物を食べてはなりません!」


「たわけ。恥を知りなさい。食べものを捨てるなど神への冒涜。お前が私のために作ったのなら食べるのが筋だ」

「……これは自分用に取り分けたものです。エリ様の分は今から作り直します」

「既に十分な量があるではないか。ずっと立っていられては気が散る。お前も早くお食べ」


 主人と下僕が一緒の空間で食べるなど、王宮では天地が逆さになっても有り得ないが、ひとりでは味気ないので同席することを許していた。


「……今度は失敗しません。またチャンスをいただけますか」

「失敗をしない奴はいない。私を満たせるように励め」

「くうん」


 ──くうん?


 前に座ったエディに目を向けると、彼はうっとりとした表情でこちらを見て、そのあと喉奥から「くん、くぅ~ん」と鳴く。犬特有の何かか……?

 それは無意識だったようで、すぐに彼はハッとして、「すみません」と一言謝り、食事を摂りはじめた。





 ルディの「くぅん」は時折、無意識に出てくる。

 例えば、今日の朝食時だ。ふかし芋。いも本来の素朴な味わいが美味しかった。

「上出来だ」と褒めると、ルディの「くぅん」が出てきたのだ。


 どうやら、それは甘えたいときや嬉しいときに出るようだ。


 甘える年齢はとうに過ぎている。彼が顔を隠すことはなくなってから気づいたが、やせ細っていただけで、私よりも年上の可能性もある。

 ただ──奴隷生活、死刑直前までの経験から、心が救われたがっているのかもしれない。


 彼が鳴くときは黙って、そぅっと頭を撫でてやることにした。


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