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3.下僕の名はルディ

 

 ◆◆◆



 悪臭が鼻をついて瞼を開けると、目の前に獣人の顔があった。


「……痴れ者め、顔が近すぎるわ」


 睨むと獣人は明らかに狼狽し、また地面に座った。その手首には手錠はない。


 呪いは解除出来たのか。

 私はふぅっと息を吐き、自分の身体の状況を確認する。

 寝ているのは、ベッド。両手の全ての指には、包帯と添え木が巻かれている。全身包帯まみれで見覚えのない服を着ている。恐らくクロエの服だろう。


「答えろ。傷の手当てはお前がしたのか?」

「……はい」


 獣人はなかなかに耳障りのいい声をしている。


「そうか、的確な処置だ。褒められる行為をしたなら下を向く必要はない」


 動くと身体が痛い。

 寝たまま顔だけ横を向けば、獣人の三角耳がピクピクと動く。犬の獣人なのだろうか?


「私は王女エリザベス。だが、もう捨てた。私のことはただのエリと呼べ」


 前世はエリカだったので、エリの方がしっくりくる。


「……」

「何を黙っている。今度はお前の番だ。名乗れ」


 だが、獣人は名乗らず、黙ったままだ。顔を上げろと言っているのに上げもしない。

 反発しているようには見えないが、どうしたものかと黙っていれば、ぽつりと獣人は声を漏らす。


「話すことは長く……許されなかったので」


「話せ。なんのためにこの私が苦労したと思っている。主人に気まずさを感じさせるな。今後は私が話せば相槌をうて。分かったら、さっさと名乗れ。そのあと身体を清潔にし適当に服を着ろ。クロエは男好きだったから、上等な服が置いてあるだろう。主人の前に立つときはいつでも身なりを整えろ……」


 言葉を続けていると、獣人の顔から涙の雫が地面に落ちるのを見て、ぎょっとする。


「申し訳、ありません……」

「……」


 何に対する謝罪かと少し考えてから、一つ心当たりがあり聞いてみる。


「それは私の下僕になりたくない。という意味か? ならば嫌々仕えられても気分が悪い。一週間の食糧を山から調達してから、立ち去れ」

「……っ」


 獣人が息を呑み、そして涙が止まらないのか、ポト、ポト……と地面を濡らしていく。

 そんなに嫌なのか……

 すると、土下座の文化はこの国にはないが、獣人は頭を地面に付けた。


「何故……、貴女様が俺なんかの為に身を張ってくださったのか分かりません……」


「ほう──俺なんか、と申すか。その言葉はお前を選んだ私を蔑む言葉だ。お前は最強の私に選ばれたのだから何も恥じるべきではない。この先、堂々として生きろ」

「……」

「鬱陶しい、出て行け」



 もしかして城を壊した私の力に恐れをなして逃げられなかったのか。

 なら、ほら──どうぞお逃げ。


 そういう意図で部屋から追い出したのだが、ひと眠りしたあと、獣人がよく冷えた水と切ったリンゴを部屋に運んできた。




「ほう?」


 獣人の姿は先ほどとは違い、清潔に身なりを整えていた。

 ボサボサな長い銀髪をひとくくりにして、隠れていた顔がはっきり見える。痩せてはいるが、端正な顔立ちをしている。


「随分、見られるようになったじゃないか」


 声をかけると、獣人は姿勢を正し、深く頭を下げた。


「エリ様、申し遅れました。私の名はルディ」

「ふん、態度を改めたということは覚悟が出来たということか」


 ルディは、「はい」と頷き、私を見る。


「貴女様に忠誠を違います。私の命も何もかも、全て貴方様のものです」

「……」


 なんだ……?

 紅潮した頬、潤んだ瞳。

 向けられたことのない表情をしていたから、私は思わず間抜け面をしてしまった。

 うっとり、と見つめられている気がする……。


「……む、ごほん。……下僕ルディよ。命はいらん。大事にしろ」


「はぁ……、はい。これから私は、エリ様のことを考え、エリ様の為になるように行動します」

「そうか」



 ──そうか?

 なんとも言えない違和感を覚えるが、陰々とされるよりはずっといいから、考えないことにした。




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