車輪の下でも
夕立か降った
乾いた庭の土が潤い
明日にはまた、ひとつふたつと
花が咲いてくれるかもしれない
雨粒を浮かばせた紫陽花の合間を
悲しげな夜風が吹く
あなたのような夜風だ
朝の目覚ましはやっぱり苦手だからつけないけれど
列車の車輪の摩擦音
あなたに出逢ってから昔ほど嫌いではなくなった
街灯に映る木陰が、大きく揺れる
あなたとわたしの間に吹く夜風
どこまでも 波動する水面
夜明けはあなたのその
手にひかれながら目を覚ましたいのに
遠く遠くに車輪の音が耳に響く
大切な手紙を開くように
どこまでも やわらかな夜風で旅をしたいのに
夜のプラットフォーム
車輪の下から吹き上げてくる風に
あなたの髪が一瞬になびいて
わたしは何故だか とても嬉しかったのに
あなたの手を取って 列車に乗り
どこか遠くへ連れ出したいのに
ふたり向かい合って席に座り
車窓からの眺めを分かち合いたいのに
駅弁の売店のショーケースの明かりが消えても
コンビニの明かりが24時間慰めてくれる
落とし物の傘は増えていくばかりで持主は迎えに来ない
だから 歌はもう必要ないのか
いつまでも車輪の下
どこまでも 柔らかに吹く夜風
悲しげな夜風
どこにも 居場所がないなんていうあんたの声が
車輪の摩擦音みたいに心をひいていく
いつまでも はいつくばるな
車輪の下から 吹き上がれ
車輪の下でも 愛し合え