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『EP002:学校』

数日が過ぎ――中学校の朝。

通学路は学生たちでごった返していた。

笑い声やおしゃべりがあちこちから響き、まるで春祭りのような賑やかさだった。

友と出会い、日常を楽しむ。

そんな“普通”の光景が、そこにはあった。

だが――その中に一人、空気を変える存在がいた。

鬼島(おにしま)アオ。

白い髪の先が黒く染まった、不思議な髪色の少年。

常に不機嫌そうな顔で、目つきは鋭く、人を寄せつけない。

彼が通りかかるだけで、笑い声がぴたりと止まる。

その場の空気が凍りつき、誰もが視線をそらした。

彼の歩む道は、まるで見えない壁に押し広げられるかのように、自然と開いていく。

誰も話しかけず、誰も近づこうとしない。

――だが、その日の彼は少し様子が違った。

歩きながら空を見上げ、顎に手を当て、何かを考えているようだった。

『……やっべ、今日肉のセール日だったの忘れてた……。

 金、足りねぇな……。誰か貸してくれるやつ、いるか……?』

アオは周囲を見回すが、皆すぐに目を逸らす。

『……だよな、いるわけねぇか……』

そのとき、彼の目が“獲物”をとらえた。

人混みの中に、一人の気弱そうな少年――丸い眼鏡に猫背、誰とも話さず歩く姿。

アオの口元に、自然と笑みが浮かんだ。

ぱしっ。

肩に手が置かれた瞬間、少年はビクリと震えた。

重い気配を感じて振り返ると――そこには、あの鬼島(おにしま)アオが立っていた。

「なぁ……メガネ。」

「ひ、ひぃ……な、なんですか……」

少年の声は震え、今にも泣き出しそうだ。

「ちょっと裏の校舎まで来いよ。話がある。」

周囲から、同情と恐怖の混ざったざわめきが広がる。

________________________________________

校舎の裏――。

人気のない場所に、二人の足音だけが響く。

少年は肩を落とし、心の中で神に祈りながらアオの後をついて行った。

「……で、話って……なんですか……?」

「そんなにビビんなって。」

アオはいつも通りの無愛想な声で言った。

それが余計に、少年の恐怖を煽る。

「おい、ちょっと金貸してくれねぇか。

 二、三百シルでいい。財布、家に忘れたんだ。」

「も、もちろんです……!」

少年は慌てて財布を取り出しながら心の中で叫んでいた。

『くそっ、最悪の日だ……!

 あいつに目ぇ付けられるなんて……!

 “二三百”で済むわけねぇ……! 全部取られるに決まってる!

 逃げなきゃ……今すぐ逃げ――』

「そんなに焦んなって。」

アオはニヤリと笑いながら言う。

少年は震える手で金を取り出そうとしたが――その瞬間、ぐっと自分の手を止めた。

「……?」

「…… 鬼島(おにしま)さん。」

「は? なんだよ、急に。」

「もう……あなたみたいな人に頭を下げるのは、やめます。」

アオの表情が一瞬で変わる。

少年の目には、恐怖よりも決意が宿っていた。

『俺は毎日、メイジになるために努力してきた。

 授業が終われば魔法の練習、身体の鍛錬、アルバイト。

 夢を掴むためにここまで頑張ってきたのに――

 なんで、そんな奴に怯えなきゃいけないんだ!!』

「……何言ってんだ、てめぇ。」

「あなたの“王座”なんて、もう通用しません。

 次は僕が、あなたを倒します。」

「はぁ? 勝負でもすんのかよ。」

「ええ。」

「……ったく。もうすぐ一時間目始まるってのに。」

「怖いんですか? 負けるのが。」

「――あぁ?」

挑発の一言で、アオの眉がピクリと動く。

「……いいだろう。やってやる。」

「武器も杖も禁止です。

 もし僕が勝ったら、もう二度と他の生徒をいじめないこと。」

「誰がいじめてんだよ……まぁいい。

 もし俺が勝ったら、お前の財布、全部もらうからな。」

「いいですよ。どうせ負けませんから。」

「ふん……始めようぜ。」

________________________________________

少年が地面から小石を拾い、空に放る。

石が地面に落ちた瞬間――。

「ウォーターバレット!!」

少年の手のひらから、水の球が飛び出す。

激しい圧力とともに放たれたそれは、一直線にアオへ向かった。

「ほぉ……やるじゃねぇか。」

アオが小さく笑い、避ける体勢を取る。

「これが、僕の全力だッ!!」

ドンッ――!

水弾が地面に炸裂し、飛沫が舞う。

次の瞬間、少年の体が吹き飛ばされた。

「悪ぃな。俺も、少しは鍛えてんだよ。」

アオの拳が少年の頬に突き刺さり、彼はそのまま地面に沈む。

「よっと。……お、2500シル。悪くねぇな。」

アオは財布を拾い、口笛を吹きながらその場を立ち去った。

________________________________________

教室に戻る途中、すれ違ったのは担任の女教師――

無櫓(むやくら)先生だった。

互いに視線を合わせず、すれ違う。

アオの手がポケットの中で強く握られる。

あの日から、二人は言葉を交わしていない。

胸の奥に残るのは――怒りでも、恨みでもない。

――罪悪感、だった。

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