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『EP001:目標』Part.2/2

群衆の中から、鋭くも落ち着いた女性の声が響いた。

その瞬間、ざわついていた生徒たちはまるで時間が止まったように静まり返る。

ざくっ、ざくっ――

女教師が人混みをかき分けながら前へ進む。

瓦礫に足を取られそうになりながらも、ついにスラストの目の前で立ち止まった。

燃え盛っていた炎の魔力が、ゆっくりと消えていく。

それと同時に、スラストの中の自信も薄れていき、彼は深くため息を吐いた。

「……はぁ。めんどくさいことになっちまったな。何の用ですか、無櫓(むやぐら)先生?」

黒いスーツに身を包み、ストッキングを履いたその女性。

エメラルドのような瞳は怒りに燃え、

オレンジがかった金髪が光を反射して揺れる。

若く美しい容姿とは裏腹に、

その動きの一つひとつから抑えきれない怒気が滲み出ていた。

「ム、無櫓(むやぐら)……せんせい……」

アオの掠れた声が漏れる。

それに気づいたドワーフ・オークが、慌ててアオを押さえていた手を離した。

「アンタたち、殺し合いでもするつもり!?」

無櫓(むやぐら)の怒声が響き渡る。

「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ。ちょっとした遊びですよ」

スラストが軽い口調で言う。

だがその軽薄な笑みが、彼女の怒りに油を注いだ。

「遊び?あの魔法、殺す気だったでしょうが!!」

「チッ……やっかいなことになったな……」

スラストが小声で呟く。

「何ですって?」

「い、いえ!何でもありません先生!」

「そいつ……試合に割り込んできたんだ」

アオの低い声がその場を切り裂いた。

「何ですって!? 本当なの、スラスト君!?」

無櫓(むやぐら)が詰め寄る。

「俺はルールを決めたんです。一対一だって。

でもあいつが気を失った瞬間、オークの野郎が後ろから襲ってきたんですよ」

「ルールを破ったってことね!?スラスト!!」

怒気が増す無櫓(むやぐら)

「まぁまぁ、引き分けでいいじゃないっすか」

「ふざけるな!! お前、気絶してたじゃないか!勝者は俺だ!!」

「はぁ?気絶なんかしてねぇよ」

「みんな見ただろ!!」

アオが叫ぶが、誰も答えない。

一瞬の沈黙のあと、ざわざわと囁きが広がる。

「スラスト、倒れてたよな……」

「うん、確かに……」

「結構強く殴られてたし、絶対気絶してたと思う」

無櫓(むやぐら)の視線が鋭くスラストに突き刺さる。

「わ、分かりましたよ!俺の負けです!これでいいでしょ!?」

「よろしい!じゃあルールを破ったこと、謝りなさい!!」

スラストは重い足取りでアオの前に立ち、

わざとらしく頭を下げた。

「……ルールを破ってすみませんでした。もうしません」

その偽りの声色に、アオの表情が歪む。

彼は大きくため息を吐いた。

「はいはい、もういいですよ。顔上げて」

スラストはニヤリと笑う。

その薄ら笑いを見た瞬間、アオの拳が再びうずいた。

「次からはルール守れよ。以上だ」

「それだけ?罰はないの?」

「そのムカつく顔、見てるだけで腹立つわ。さっさと消えろ」

その言葉を最後に、生徒たちは散り散りになり、

いつもの昼休みの静けさが戻った。

だが――結局二人は、

保健室で並んで治療を受ける羽目になったのだった。

──────────────

時間が流れ、放課後。

夕陽が校舎をオレンジ色に染める。

教室3-Bは静まり返り、風が窓を揺らす音だけが響いていた。

アオは一人机に向かい、ノートを開いていた。

久々の静かな時間――そう思っていた、その時。

背筋を冷たいものが走る。

扉の方へ視線を向けると、そこに――無櫓(むやぐら)先生の姿があった。

昼間の鬼のような表情はどこかへ消え、

今は柔らかな笑みを浮かべていた。

「ねぇ……鬼島(おにしま)君」

彼女はゆっくりと教室に入り、

何かを背中に隠しながら近づいてくる。

だがアオはすぐに気づき、鞄を手に立ち上がった。

「待って!どこ行くの!?」

無櫓(むやぐら)が腕を掴む。

「すみません。これからバイトなんで」

落ち着いた声。だが、その冷静さが逆に不自然だった。

「嘘ね。今日シフト入ってないの知ってるわよ」

アオの瞳が冷たく光る。

彼はその腕を乱暴に振りほどいた。

「……その話ですか、無櫓(むやぐら)先生」

二人は教室の前の机に座り、

その間に置かれた一枚の紙。

――アスピダ魔術学院 入学申請書。

鬼島(おにしま)君……本気でアスピダを受けるつもりなの?」

アオは沈黙したまま拳を強く握る。

「無理なの、分かってるでしょう?

お願いだからやめて……。危険すぎるのよ。

私、誰も死なせたくないの。特に――あなたを」

沈黙。

アオの目に、暗い炎が灯る。

「アスピダは“四大魔術学院”のひとつよ。

地方の学院でさえ入るのが難しいのに……。

戦闘では優秀でも、あなたには魔力が――」

その瞬間、空気が凍った。

アオの声が低く響く。

「この話で……先生は何か得るつもりですか?」

時計の針の音だけが響く。

「私は……ただ諦めてほしいのよ、アスピダを」

「俺がそんな簡単に諦める人間だと思ってるんですか?」

彼の目が射抜くように光る。

無櫓(むやぐら)は息を飲んだ。

「ち、違うの……私はただ、考え直してほしくて――」

「先生」

アオの声が低く震えた。

「メイジになりたい。それだけじゃダメなんですか?」

「……っ!」

無櫓(むやぐら)の喉が詰まる。

「無理なのよ……あなたには魔力が――」

「知ってるよ!!そんなこと!!分かってるって言ってんだろ!!」

怒号が教室に響く。

「分かってるなら、なぜ諦めないの!?

無理なんだよ、だって――あなたには魔法が使えない!!」

その言葉が、すべてを壊した。

アオの瞳が闇に沈む。

握りしめた拳が震え――次の瞬間、振り上げられた。

無櫓(むやぐら)は反射的に腕を構え、目を閉じる。

机が倒れ、椅子が跳ねる音が響いた――そして静寂。

そっと目を開けると、アオの拳は彼女の顔のすぐ前で止まっていた。

その視線に射抜かれ、無櫓(むやぐら)の頬に涙が伝う。

「魔法がねぇからって……それがどうしたよ……」

ドンッ!!

机を蹴り飛ばし、アオは教室を出て行った。

その場に残された無櫓(むやぐら)は、

崩れ落ちるように床に座り込む。

「……ごめんね、鬼島(おにしま)君……」

──────────────

廊下を歩くアオ。

顔を伏せたまま、誰かにぶつかっても気にもしない。

一見、後悔しているようで――その瞳は燃えていた。

『アスピダ……世界最高の学院。

あそこに行けば、俺はもっと強くなれる。

そして――あいつを殴り飛ばす。

母さんを泣かせた、あの最低な男を。

――鬼島(おにしま)・レンゾ。』

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