『EP001:目標』Part.1/2
パチッ、パチッ――
燃え盛る炎の音が、崩壊した都市の中でこだまする。
かつて高くそびえ立っていたビル群は、今や玩具のように粉々に砕け、
立ち込める煙と砂塵が視界を完全に覆い隠していた。
焦げた空気を裂くように、
メイジの制服を着た三人の影が駆け込んでくる。
額から汗が流れ落ち、表情には緊張が張りつめていた。
「くそっ……!前の部隊、全滅だと!?」
短髪の青年が息を荒げながら叫ぶ。
彼の目の前には、十数体もの無残な死体が散乱していた。
ひとつとして同じ死に方はない。
焼け焦げた者、氷漬けになった者、
そして――身体を切り裂かれ、バラバラになった者。
「これ……ひとりの仕業じゃないわね」
女のメイジが唇を噛みしめる。
「まだ決めつけるな。冷静になれ」
先頭に立つ男が低く言い放つ。
黒髪に金の瞳――その眼光は、まるで獣のような圧を放っていた。
三人は瓦礫と焦げ跡をかき分け、さらに奥へと進む。
足を進めるたびに、異様な魔力の残滓が肌を刺した。
まるで百、いや千の戦いが同時に繰り広げられたかのような戦場。
炎、氷、石槍、水流――無数の属性が混ざり合っている。
「レンゾ……どう思う?」
女が振り向いた。
短髪の青年も立ち止まり、あたりを見回す。
三人は互いに頷き、慎重に散開した。
一歩一歩、緊張が高まり――
空気が、突然重くなる。
身体が地面に押しつけられるほどの圧。
「っ……なんだ、このプレッシャーは……!」
レンゾは思わず膝をついた。
滝のような汗が頬を伝い落ちる。
彼が顔を上げたとき、そこに“それ”がいた。
――炎の海の中、
黒い仮面をつけた影が、ゆらりと立っていた。
仮面に刻まれた文字が、不気味に歪んで光る。
まるで生きているかのように。
「レンゾ!! あのプレッシャー……やばい!」
「逃げろっ、二人とも!!」
レンゾが叫んだ瞬間、
仮面の男がこちらを見た。
その視線は――まるで狩人が獲物を見定めるような冷たさだった。
「こいつ……複数の魔法を使ってる!?」
足が震える。
けれど、仲間は逃げなかった。
「隊長を置いて逃げられるかよ……!」
「わたしたちは……一緒に戦う!」
燃え立つ決意に、レンゾの目が見開かれる。
「……バカ野郎ども……」
仮面の男が一歩、また一歩と近づく。
そして――
轟音が、世界を裂いた。
炎、雷、土、水、風。
五つの属性がぶつかり合い、
光と爆音が戦場を包み込んだ。
――しかし、戦いは一瞬で終わった。
仲間の悲鳴が、炎の中に消えていく。
血と煙の匂いが混ざり、世界が赤く染まった。
レンゾだけが、立っていた。
息は荒く、身体中が傷だらけだ。
「……クソッ!」
歪んだ腕で武器を構える。
仮面の男は、無言のまま。
手をひと振りすると、空間がねじれた。
背後に、黒い渦――吸い込まれるような闇が開く。
「逃げろ……っ!」
最後に聞こえたのは、
死んだ仲間たちの声だった。
そして、レンゾの姿は闇に消えた。
残ったのは――燃え続ける炎の音だけだった。
──────────────
昼下がりの風が木々を揺らす。
陽射しがまぶしく差し込む、穏やかな午後。
山と森に囲まれた都市――マディモンティス。
自然が豊かでありながら、技術も発展している。
巨大スクリーンや電車が街中を走り抜ける、大都市だ。
だがその日、郊外にある中学校から――
ドォンッ!と爆音が響いた。
校庭の中央には、チョークで描かれた巨大な魔法陣。
まるでサッカーグラウンドほどの広さだ。
一瞬、光が走り――爆発。
砂煙と焦げた臭いがあたりを包み込む。
観客の生徒たちは歓声を上げた。
「うおおおっ!」
中の様子が見えなくても、興奮は止まらない。
爆発の中から、黒髪の少年が弾き飛ばされた。
制服のボタンを外し、ヤンキーのような雰囲気。
その身体が防御バリアに叩きつけられる。
炎の海の中、静寂が訪れる。
熱気で息が苦しい。
――ピチ、ピチ、と火花の音だけが響く。
少年がゆっくりと目を開けた。
乾いた喉から咳が漏れる。
手には、半分溶けた杖の残骸。
「……チッ」
舌打ちし、壊れた杖を投げ捨てる。
代わりに、制服の内ポケットから杖を取り出す。
炎の中を、慎重に歩き出した。
「どこまで隠れるつもりだ、鬼島!」
返事はない。
空気は熱く、息をするたびに肺が焼けるようだ。
「出てこいよ、鬼島!無駄だっての!!」
だがその時、背後に気配――!
「ファイアボール!!」
炎の球が爆ぜた。
命中――と思った瞬間、それは人影ではなく、ただの制服だった。
「ガクラン……!?」
振り向いた瞬間、目の前に拳。
「っ!」
鈍い衝撃。
腹に一撃、体が吹き飛ぶ。
防御バリアに叩きつけられ――
ドンッ!!
「ぐっ……!」
反撃しようと詠唱する前に、
連続の拳。
四発、五発――壁に叩きつけられたまま、意識が遠のく。
「……勝った、な」
鬼島・アオが息を荒げながら呟いた。
全身が火傷と傷だらけ。
それでも、目だけはまだ死んでいなかった。
彼が立ち上がろうとしたその時――
ドンッ!!
巨体のオークが飛びかかり、アオを地面に押し倒す。
周囲の炎が消え、観客の姿が現れる。
そのすべての杖が、アオに向けられていた。
スラストがゆっくりと歩み寄る。
「よく頑張ったな、鬼島。――ファイアボール」
杖の先に炎が灯る。
アオの目が細められる。
「……ルールを破ってまで、まだやるのかよ」
「ルール?そんなのあったっけ?」
スラストが肩をすくめた。
「1対1だって言ったろうが!!」
ドンッ! さらに押し付けられる。
観客たちは――誰も止めない。
むしろ、声を上げて煽る。
「やっちまえスラスト!」
「燃やせ!」
「鬼島なんかいらねぇ!」
スラストは笑った。
「お前が消えれば、俺がこの学校のトップだ」
アオの唇が震える。
「……テメェ……」
炎が膨れ上がる。
空気が焦げる。
その瞬間――
「そこまでえええええ!!!」
鋭い女の声が、校庭全体を切り裂いた。




