秘密は守らなければ。しかし
『フラン?おい。フラン!』
いきなり名前を呼ばれ現実に戻る。
気付くと手付かずで冷めてしまった料理をみて呆れたような顔の友人がいた。
『ああ。ジョセフか。』
慌てて表情を引き締める。おそらくだいぶ呆けた顔をしていたのだろ。
『到着は遅かったし、来たと思ったら呆けてるし、遭難していたのか心配してたんだぞ。』
ジョセフ・ジャーニーは私と同じ商人で、今回は共同で店を出すと話が出ていた。
あちこちの町に寄り土地や人の出入りを見極めた結果、今日到着したこの町で店を開く話だったのだ。
『ジョセフすまない。実は森を通り抜けてこの町に行こうとしたら、しっかり道に迷ってね。』
『そうだったのか?よく無事だったな。あの森は獣も多いから、襲われてないかと心配だったんだぞ。』
『ああ。見知らぬ人に助けてもらってなんとかな。』
あの屋敷の話は婦人との約束がある。
私は無難な解答をした。
『そうか。それはついていたな?』
ジョセフは気に止めずに流してくれた。
私はホッとした。
『何はともあれ疲れただろう?しっかり食ってしっかり休め。商売の話は明日からでもしよう。』
彼に促され、私は食事を口にしながら
[あの出来事は誰にも言うまい]と誓ったのだ。
しかし、再度あの屋敷に向かわないとならない出来事が私に降りかかるとは。
この時はまだ知らなかった。