入学式、期待のエリート新入生現る?
体育館の中はすでに多くの人が集まっていた。固まって談笑する生徒、進行の確認でせわしなく動き回る先生たち。
思ったよりざわざわしてるなあ。
体育館の中なら落ち着いて喋れると思ってたんだけど、案外そうでもなかった。
休み明けで久しぶりに友達と、学校であったんだから、そりゃあお喋りしちゃうよね。私もラミイと会えてうれしかったし。
しばらくすると、何人かの先生が、生徒の固まってるほうにやって来た。自分たちの席に座って静かにしていろということらしい。
蜘蛛の子を散らすように生徒たちは散り散りになった。各々静かに自分の席に向かっていく。
それは私たちも同じだった。怒られる前に早くすわっとこー。
「それで私たちってどこに座ればいいの?」
聞くとラミイは人差し指を唇の下に当て、ええっと、と思い出すしぐさを見せる。
「在校生は自分のクラスの列だったら自由に座ってよかった気がします。私たちは2年1組だから一番前の列から三つ目の列ですね。」
「えっ、自由でいいの? やった、じゃあ隣同士に座ろうよ」
「はい、そうしたいです」
まさか自由席だなんて。意外と緩いみたい。これだとお喋りしてくれって言ってるようなものだよ。
端っこの席が空いていたので私たちは端っこの席に座ることにした。それから式が始まるまでの間喋っていた。
そして式の開会が近くなる。
「結局ティオの姿は見えなかったね」
「そうですね、まあティオさんの場合来たほうが珍しいですから、ああでも」
朗らかな笑みを浮かべていたラミイだったが、何かに気づいたみたいな反応をする。
「ん? どうかした?」
「えっと、今日入学してくる子の中にですね、早坂やよいって子がいて、新入生代表でスピーチするらしいんですけど」
「その子がどうかしたの」
まさか入学してくる子の名前も知ってるなんて、ラミイちゃんすごいなあ。私正直、新入生については興味なかったよ。
「最上級生、高等部三年生に早坂あおいって方がいらっしゃるじゃないですか」
「……あー、いるね。校内ナンバー2の超すごい人だ」
学年で下から5番目の私とは天と地の差もある人だ。去年模擬戦を見たけど、技術も戦術も圧倒的で、とっても強かった。
「そう、その早坂さんの妹さんらしいですよ」
「ええ、そうなんだ。それはすごい子が入って来たね。でもそれがティオと何か関係あるの?」
ラミイはまあそうなんですけど、みたいな顔をするが、
「でもティオさんって、魔法関係の話にはかなり食いつくじゃないですか。評判になってる人に関しては、どんな人かこの目で見てみたいみたいな。実際、去年はいろんな上級生に会いに行ってましたし」
「あー、なるほど」
たしかにそれなら来ててもおかしくないかもしれない。
私たちが端っこの席に座っちゃったからなあ。ティオが私たちを見つけられなかったのかも。
「しかもそのやよいって子なんですけど、高等部と模擬戦上位者だけが参加できるチームアップマッチに特例で参加できるようになってるそうなんですよ」
「ええー!うそでしょ、すごすぎない?」
そんなことあるんだ、いくらなんでもすごすぎない?
ええっと、チームアップマッチっていうのは、名前の通りチーム戦で、3~4人でチームを組んで実践的な魔法対戦をする。この学校の超目玉イベントだよ。
これに参加できるのは基本的に高等部の生徒だけなんだ。中等部の子が参加しようと思ったら、模擬戦で学年三位内に入らないといけない。つまり相当優秀な子、勉強だけじゃなくて魔法の扱いにたけた子だけが参加できるの。
そんなチームアップマッチに入学した瞬間から参加権があるなんて。
「それはティオが食いつきそうな子だね」
「特例中の特例らしいですよ。ていうかティオさんじゃなくても興味のある人はたくさんいると思います」
そういえばティオも去年模擬戦で3位だったから、参加自体はできたんだけど一緒にチームを組む人が見つからなくて諦めてたんだっけ。
いくら模擬戦上位とはいっても、一年生なのには変わりないからね。中等部一年生が高等部の生徒とチームを組む例はほとんどない。
それにティオには問題行動も多かったから。チームを組んでくれる人がいなかったみたい。
まあ私には関係のない話だ。とりあえずチームアップマッチに関しては高等部になるまでは縁がないでしょう。
そんなことを話しているうちに入学式が始まった。
基本的にただ黙って座るだけ。やっぱりこういう式はたいくつだなあ。
私がぐたっと背もたれを使ってるのに対して、ラミイは椅子に浅く座り背筋をピンと伸ばしている。ほんとすごいよラミイちゃんは。
入場、校長先生の祝辞、来賓挨拶、在校生代表挨拶、長い待ち時間の後、新入生代表のスピーチが始まった。
ああ、あの子がやよいちゃんか。背は低いが、一歩一歩自信を持って歩き登壇する姿勢が、凛としてかっこよかった。
見た目は小っちゃくてかわいいんだけど。優秀な姉の妹、期待の新入生、特例中の特例、そんなみんなの視線を一身に受けても動じていないようだった。
すっごいなあ、当たり前だけど私なんかとは全然違う。もし私があの場にいたら緊張でふにゃふにゃってなっちゃうよ。
スピーチの内容は、特に変なところはなく一般的な新入生挨拶と変わらなかった。頑張りますとか入れてうれしいですとかそんな感じ。
でもこの新入生の存在感は抜群に光っていた。
「いいなあ、私もあの子くらいさいのがあったらなあ。神魔法使いにだってなれるかもしれないのになあ」
「あんまりそんなこと言ったらだめですよ、いおりさん。あの子だってたくさん努力してるはずです。大丈夫、私たちだって努力次第ですよ」
「はは、ありがとう、そうだよねえ」
そうはいってもなあ、持って生まれた才能が違うと思うんだよ。私下から5番目だからね。うう……。
はあ、言ってもしょうがないよね。魔法の練習と勉強いっぱいして、今年こそは順位を少しでも上げるぞ。
いおりの決心とともに入学式も、新入生スピーチが終わり閉会し、新入生が退場していった