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18 光の絆(洗脳)と闇の絆(洗脳)

「驚いた、本当に素手で戦うのだね」

「魔王に武器など不要。いや、この肉体そのものが世界最強の武器であり防具だ。……ふんっ!!!」

 俺は気合いをこめ、勇者エテルナの剣を手刀で押し返し、彼女の体ごとはじき返した。エテルナはくるくると回転しながら後ろに跳び、軽やかに着地する。


「魔物娘に頼りっきりと聞いたからね、弱いのかと思っていたよ」

「そもそも魔物娘に力を与えているのは俺だ。それなのに俺の方が魔物娘より弱かったら、とんだお笑い(ぐさ)だろう?」

「たしかにな」

 エテルナはクスリと笑った。そして不意に、天に向かって剣を掲げた。


「勇者スキル……“友情パワー”」

 彼女がつぶやくと同時に、四方からまた白い魔力が集まってきて、掲げた剣へと吸い寄せられていった。仲間が傷つけば傷つくほど力を増す――それだけ聞くと美しいが、実際に行うのは仲間の自我を奪っておいて生殺しにし、際限なくパワーアップするという外道コンボ。

 エテルナの剣に、エネルギーが集中していく。

 剣が、まるで太陽のように輝きはじめた!


「さあ、素手で防げるかな?」

 エテルナは地を蹴り、俺との間合いを一気に詰めてきた。俺は魔力をこめた左の手刀で迎撃する。勇者の剣と魔王の手刀が、再び正面から激突した!


 ズバッ


 今回の激突は互角ではなかった。一瞬の閃光が走り抜けたかと思うと、俺の左手首は見事に切断されていた。宙を舞う俺の左手。切断面から血が噴き出す頃には、俺とエテルナはすれ違い、距離を取って互いに向き直っていた。

「ほお」

 激しい血しぶきを上げる左腕を見て、俺は感心した。魔力で強化された俺の手刀を上回るとは。


「……だがこの程度の芸当なら、初代勇者リノワールはスキルなしでやってみせたぞ。勇者エテルナ、まだ魔王に挑むには鍛え方が足りないのではないか?」

「グラン! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 手当てしなきゃ!」

 木の陰に隠れたまま、アーティナが悲痛な叫びを上げた。血は噴水のごとく流れ出て、地面に血だまりを作っている。


 だが、俺はうろたえなかった。

「ライム、いるな?」

「ヒヒヒッ……はい、ここに……!」

 森の中から声がする。いや、土の下からだったかもしれないし、俺の耳元からだったようにも思える。どこにでもいるようで、どこにもいない――そんな不思議な声の響き方だった。勇者エテルナは警戒し、あたりを見回した。


 しかし、ライムがどこにいるかは問題ではない。

 地面に落ちた俺の左手、その切断面から、青緑色の炎が噴き出した。同時に、俺の左腕でも同じ色の炎が出血にとって代わる。青緑の炎が互いに引き合い、左手が地面から俺の腕めがけて飛んできた。

 そしてあっという間に、俺の左手は元通りくっついてしまった。傷口からはしばし、青緑色の炎が漏れ出していたが……やがてそれも消える。


 俺は左手を何度か握っては開いた。

 ライムが持つのと同じ、再生能力である。

 エテルナが目を見開いた。

「これは驚いた。まさか腕がくっついてしまうとは。どういう体の構造なんだい?」

「魔王スキル“王の暴食(ムシャムシャパクパク)”。俺も、魔物娘たちの力を借りて戦うことができるわけだ」

「どうですか? ヒヒヒ……これが人間を捨てさせてくださった……魔物娘として目覚めさせてくださった魔王様との絆ですよ」

 その声とともに、空気の中からにじみ出てくるように、ライムの姿が目に見えるようになった。彼女は俺の背後を浮遊しており、後ろから俺の首から胸のあたりへと腕を回していた。物体とエネルギー体の中間的存在である彼女の改造僧服の隙間からは、青緑色の炎が常に漏れ出ている。


「そういうことだ。俺たちの関係は王と家臣であり、友情とは違うが……それでも、お前たちの偽りの絆には決して負けぬ」

「……一瞬納得しそうになるけど、キミもライムのこと洗脳してるからね?」

 アーティナが後ろで何か言っている。ライムが笑って、俺の頭の上をふよふよと舞う。

「洗脳ではなく改心ですよ。私は魔王様に感謝しています。あんな世界の肥溜めみたいな生活から救い出してもらえたのですから」


「なるほど。さすがは魔王、簡単には倒せないか」

 勇者エテルナは剣をかまえなおした。その刀身はいまだにまばゆい光を放っている。

「では、心臓を貫いたらどうだろう? ……あるいは、そちらの女性を殺しても、まだ再生できるのかい!」

 そう言って、エテルナは剣を振るった。白く輝く斬撃が弧を描き、俺に……いや、俺の頭上にいるライムに向かって飛来する。ライムはぎょっとした。アーティナが大慌てで飛んできて、ライムの体を後ろに引っ張った。


 一瞬前までライムがいた場所を、光の斬撃が通過する。

「あぶな!?」

「ヒヒッ……こ、怖いですねえ。死ぬところでした」

「助かったぞ、アーティナ。ライム、お前は盗賊どもの相手をしていてくれ。“王の暴食”の効果範囲から出なければ、力は使えるからな」

「では、失礼しますねえ」

 そう言い残し、ライムは姿を消した。目に見えなくなっただけではなく、気配も遠のいていった。ただ、俺の中にはまだ彼女の再生能力が残っている。

 アーティナは再び、木の陰に戻っていった。


「さあ、二回戦だ。勇者エテルナよ、力を見せてみろ。この魔王に挑むにふさわしいかどうか、ここに示すがいい」

 俺はそう言って手招きした。しかし、わざわざ挑発されるまでもなく彼女は攻めてきた。輝く剣でもって、一直線に俺の心臓を狙う!

 それに対して、俺は。

 左拳を軽く引いただけの、シンプルな構えで対抗した。


「ふんっ!」

 エテルナの剣の一撃が放たれるタイミングに合わせ、俺は左拳を突き出した。瞬間、拳は巨大化する。岩のように硬い、ゴーレムの拳に変貌したのだ。

 巨大化した拳が、エテルナの剣と激突する!


 バキンッ


「っ……!」

 エテルナは剣をはじき返され、瞬時に防御姿勢を取った。しかし当然、彼女の細い体ではこの剛拳を受け止められない。ゆえに彼女は、巨大な左拳の一撃を食らいながらも、後ろに跳躍――その衝撃をなんとか逃がそうとした。


 ドウッ


 すさまじい突風が巻き起こり、血しぶきが赤い花びらへと変わって舞い散った。同時に、風を受けた地面に赤い花が咲き狂う。一瞬にして、俺を中心として血色の花畑が出来上がった。

 吹っ飛ばされたエテルナは、体を反転させて木の幹に着地。地面におりながら額の汗をぬぐった。


「フラワーゴーレムの能力だ。なかなかしゃれているだろう」

 俺はそう言って、自分の左拳を見た。剣との正面衝突によって血が流れていたが、それもすぐに止まった。

「この拳を受けたんだ。お前の剣も鎧も無事では済まないぞ」

「なんだって?」

 エテルナは少し慌てた様子で剣と鎧に目を向けた。かなり頑丈な武具であるのだろう、それらは破損してはいなかったものの……彼女の剣の柄、さらには鎧が、なんとかわいらしい花柄になっていた。


「な、なんだいこれは!?」

「これもフラワーゴーレムの力だ」

「私の趣味ではない、戻してくれないかい!?」

「戻すには俺を倒すしかないだろうな」

「くっ……!」

 エテルナの顔に、今日一番の焦りの色が浮かぶ。よほど嫌だったのだろう。余裕綽々(しゃくしゃく)だったその目に、怒りの炎が燃えていた。


「ここまでされたら、私も黙ってはいられない。どうやら切り札を出すしかないようだね」

「来るがいい。どんな切り札だろうと、魔王らしく正面から叩き潰してやる」

 すでに左拳の傷は完治している。エテルナがどんな攻撃を繰り出してくるかは知らないが、何が来ようが迎撃できる……。


 そう思っていたのだが。

 あいにく、敵は俺の想定よりも卑劣であった。


 エテルナは自身の左手のひらで左目を隠した。すると、なんと彼女の手の甲に目のような紋様があらわれたのだ。いや、それは紋様ではなく本物の目だった。俺と同じ、第三の目を彼女も持っていた。

「その目は……!?」

「君と同じ能力だ。別に驚くことはないだろう? そして狙いは……こちらだ!」

「っ……しまった……!」


 俺はエテルナの狙いを察して、とっさに彼女の視線を遮ろうとしたが……遅かった。彼女の金色の瞳が、右目の銀色と合わさり、魔力を放つ!

「白夜の瞳!」

「きゃあああああああああああああ!?!?!?!?!?」

「アーティナ!!」

 少し離れた木の陰に隠れていたアーティナに、エテルナの魔力が襲いかかった。魔力はアーティナの四肢に絡みつき、その肉体を支配しようとする。奴隷メイドや盗賊たち同様、勇者の人形へと変えようとする……!

年内に一区切りつく予定です!



稲下竹刀のTwitter

https://twitter.com/kkk111porepore

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