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四話「振動」

長くなってすみません

僕は、メルとバディーを組むことになった。なんでだろうと考えていたが、それはこれから説明されるらしい。ちゃんとした姿勢で聞こう。


「バディーを組む理由は、人と息を揃えて、意思疎通することはいきていくことで重要なの。だから、バディーを組むことでその力を育んでもらいたい。これが理由よ」


「その力はどんな時に使いますか?」


メルは人を疑っているような口調で医者に質問をした。


「それは………」


医者は答える素振りをしたが、何か気まずい事情があるのだろうか。咄嗟に口をつむぎ、


「時間みたい、あとはこれでも読みなさい」


とベッドの上に薄い冊子を置いた。医者は時間が来たと言ってる割には、妙に落ち着いた感じで歩いていた。


僕は何故か、脳裏に焼き付けられたのか、常にその光景が思い返されていた。特段、印象的な出来事はなかったはずだ。


その不思議なことに思考回路が奪われていたからか、普段はあまり見ないこの部屋の入口をぼんやりと眺めていた。


「ユキくん?」


ぼやけて曖昧な輪郭の景色が、メルの一声ではっきりとした。夢から現実に引き戻されたような感覚だった。


「あんまりあの人たち信用できないよね」


「うん」


僕は相槌を何となく打った。


思い出したかのように、不意に、突然と疑問が浮かび上がった。

これは重要なことなのに、なぜ聞かなかったんだ。


「そういえば、ここはどこ?」


メルは、う〜んと考えこんだ。しかし答えを出すまでの時間は短かった。


「わからない」


「この冊子を読めばわかるんじゃないかなぁ?」


冊子を掴み、ヒラヒラと意味もなく扇いでいる。いや、これは冊子を読めという合図なのかもしれない。


「ちょっと貸してくれないか?」


「はい」


本の表紙は“冒険者教本特別版”


めくってみて左に目次、右は白紙。

そして1ページ目。このページにはこう記されていた。


“新しく冒険者として加入する貴方二人には、適正試験を受けてもらいます。


試験場については次のページに書かれています。


試験時間は、この冊子が配られた日の明日の10時とします。”


「らしい」


「めんどくさいね………」


「とりあえず、明日になったら行くか」


「うん」


***


明日になった。寝ようとした時、メルが色々邪魔してきて、あまり眠れなかった。


それからというもの、僕達は冊子に書かれてある通りに試験場までの道のりを辿っていった。


そうすると、大きな威厳のあるドアの前に辿り着き、上には“試験場”と書かれた看板があった。


恐る恐る開けてみる。しかし、さすがは威厳のあるドアだ。一筋縄ではいかず、ドアは抵抗をするかのように金切り声をあげていた。


そこで、二人がかりでドアを押してみたら、開いた。


今までドアが体重になってくれたみたいだが、ドアが開いたことで僕は勢い余って、転んでしまった。


床に打ち付けられた時の感覚。いいや、これは床ではない。石だ。ザラザラしていて、どこか陰気な湿り気を持っている。


ドアを開けた先に、何があるのか。辺りを見渡すと、まるで洞窟。いや、洞窟だったのだ。


そして辺りを見渡す途中でふと、気づいてしまった。

先程そこにあったドアは、消えていたのだ。


洞窟の中、水の滴る音が反響する。


暗い、暗い闇の中。だが、かろうじて青い謎の光源で視界を失わずに済んだ。


洞窟の中の空気は湿り気があって、不吉な冷たさが肌を刺激する。


鳥肌が、立っている。


恐怖を感じている。


強い孤独感に耐えきれず、僕は人を探した。


隣にポツンと立っている人影。そいつはメルだった。僕は、とてつもない安心感に包まれ、安堵の息を漏らす。


「ユキ、前見て」


メルの大人と言うには幼く、子供にしては頼れる声が洞窟の中に反響した。


メルはある方向へと指を指していた。メルが指を指す方向へ、首をゆっくりと。そこに何があったとしても受け入れるように心構えをして動かす。


視界の端から出てきたのは、二つの箱。


近くまで行かないと読めない貼り紙が貼ってある。


メルが指したものが、おぞましい生物じゃないことに、ひとまず安心した。


しかし今、気を抜く所ではない。


その瞬間、手に何かがあたった。


生暖かい。


これは、おぞましい生物なのだろう。僕の命はここで果てるのだろうか。僕の人生は、短かった。僕は記憶を失ったみたいだけど、それが幸いして人生への後悔が清々しいほどに、ない。


さあ、僕を食べてくれ。感触のした方へ目を向けると、そこにはオドオドした青い瞳で黒い髪の生物がいた。


ああ、なんだ。メルか。


「ちょっと、怖いから、迷子にならないように、手、つ、繋ご?」


笑いと泣きがどっこいどっこいな顔をしていた。

僕は、メルが人差し指を懸命に握っていたのを、解いて、頑丈に握り返した。


僕達は、足並みを揃えて、丁寧に、そろりそろりと箱に近づく。


僕達が近づいても箱は一切表情を変えなかった。むしろ、存在感が増している。


そして、箱の貼り紙がちょうど読める位置にようやく来た。


左側の箱の貼り紙に書いていたのは、


“ユキの装備”


右側の箱の貼り紙に書いてあったのは、


“メルの装備”


それ以下でもそれ以上でもない淡々とした情報が、僕の精神を揺らがせるのに十分だった。


この箱には何が入ってるんだ?本当に装備だけなのか?


熟考していた。はずだったが、いつの間にか僕は箱へ手を伸ばしていたみたいで、好奇心というやつには逆らうことはできなかったみたいだ。


僕は箱を開ける。


箱が発光して、僕の視界を奪った。


しばらくすると、視界が戻ってきて、体に違和感を感じるようになった。無駄な重さ、体の可動域の制限。


これは装備だ。魔法使いみたいな、装いだ。


それを見たメルは、まだ手を繋ぎながらも手を箱まで伸ばし、一瞬戸惑いながらも箱を開けた。


また視界を奪われて、戻ってきた。


メルの装備は剣士みたいだった。


メルの表情は、何故か、曇りひとつのないまるで、晴れ晴れした空みたいな表情をしていた。


「もう、手繋がなくて大丈夫かい?」


「うん、もう大丈夫。ありがとう」


落ち着きを取り戻した頃、強い振動が体に響く。


ズシン、ズシン。


何かがこっちに来ている。

読んでいただき、ありがとうございます。

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