二話「唐桃」
よろしくお願いします。
長らく時間が空いてすみませんでした。
新しい名前か。俺の新しい名前。ところでここはどこなんだ。この気色悪い若い金髪の男は誰なんだ。なぜ俺はここにいる?それに、ここに来る前に俺は何か言われたような気がする。気になって仕方がない。怪しい雰囲気しか醸し出してない金髪の男に聞くのは嫌で仕方ないが、まあ何も知らないよりはマシだ。聞いてみよう。
「質問していいか?」
「かまわないさ、自由に質問してくれ」
「君は誰だ?」
金髪の男は、少しニコッと愛想笑いを見せつけてきた後、ゴホンと咳払いをする。実にムカつく仕草だが、服装と顔がその仕草に説得力を持たせている。しかしムカつく。
「原典教会円卓司教序列第二位、クク・ローマ・ディ=エス・ジョン・セイントブルクだ。みんなからはクク司教と呼ばれているよ」
すごい長い肩書きと名前だな。
「じゃあクク司教、なぜ俺はここにいるんだ?」
「君を異世界から召喚した」
「なぜ俺が?」
「何も君に絞って召喚した訳じゃないさ。たまたま君だった、それだけの話だ」
ていうか異世界とか言ったよな。薄々感じていたのだが、アイツの言い分だとここは異世界なのか?
「ここの世界ってなんだ?」
「随分大きい質問をするね。まあ、君にとっては異世界だ」
「魔法を使えたりするか?」
「君の世界では魔法は使えないらしいね。この世界では魔法を使えるよ」
「質問はもう終わりかい?」
「多分」
護衛みたいな装備を着た男が、クク司教に伝言を伝えた。そうするとクク司教は急いだような素振りをする。
「ちょっと急用ができてね、他に聞きたいことがあったらオジル神父に聞いてくれ」
クク司教はどこかに言ってしまった。最後まで見届けていると誰かが俺の肩をトントンと叩いてきた。
「タニグチ・ユウ。そこに座り込んでいるのもなんだし、案内してやる」
顔に傷があり、眼鏡をかけている。こいつも若い。などと容姿を見ていると早歩きでどっか行こうとしている。こいつは早く済ませたいらしい。ケッ、可愛げのないやつだ。待ってくれよ。
「オジル神父であってる?」
「ああ」
「これからどこに行くんだ?」
「お前の部屋だ。まあ、すぐに行くということはない。寄り道もする」
靴の音が廊下に響く。壁、床、天井は全て石レンガでできており、松明は一定の間隔で設置されている。単調な光景だ。いつまで続くんだろうか。試しに松明を数えて十回を越え、飽きた頃。牢屋みたいな場所があった。
「気にするな」
生臭い匂いがする。形はなんと言えばいいのか分からないが、頑張って伝えるようにすると、落としてクチャッとなったプリンのような感じだ。
「そんなこと言っても、気になるのだが……」
「そうか」
オジル神父は歩みを止めない。まだ案内するところがあるらしい。
足が疲れてきた。そう思っていたらオジル神父は足を止めた。
「お前はアレを知りたがっていたな」
「ああ」
「人の成り果てだ」
……は?
俺は絶句した。息がだんだん荒くなってくる。廊下の奥がなんだが見えなくなってきて、影に恐怖を感じる。
オジル神父は扉を開けた。
「お前の部屋だ」
オジル神父は俺を引っ張って部屋の中へと投げ入れた。
その後にドンッと重い扉の音がした。
最後に見た光は、扉を閉めるまでの僅かな隙間から差し込んでくる松明の弱い光だった。
何も見えない。
この先に何がある?
俺は動こうにも動けない。
動いたらどうなる?
アレみたいになる?
いや、もしかしたら戯言かもしれない。
でもあの匂いは?
でも俺はあの匂いを知っている。
血の匂いだ。
俺はアレの姿を一生懸命思い返す。
アレを思い返しても俺が胸糞悪くなるだけだった。どうして俺をそんなことをしたんだ?
あの時に嗅いだ生臭い匂いが、鮮明に鼻に残るようになった。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
ダメだ、いらない記憶まで、あの匂いのせいで思い返してしまった。
俺はあの記憶を思い出さないように、遠ざけてきたのに。
***
なにか、音が聞こえる。
頭がおかしくなりそうな音だ。もうやめてくれ。頼む、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。
視線を感じる。
誰か俺を見ている。
なんで?
俺の全てが監視されている。
どうして?
「ごめんなさい、俺が悪いんです、俺が、あの時、」
『何をしたって?』
誰かが俺の頬に手を当てている。
懐かしさを感じる。
『優くんは、何もしてない』
『大丈夫だよ』
『悪いのはアイツらだよ』
『もう、忘れてもいいからね』
頬から水が伝わってくる。
何だか、スッキリした
***
喉が渇いた。
***
腹が減った。
***
眠い
***
……
読んでいただきありがとうございます。
プロットを書けばよかったと、今後悔しています。