「EW攻城戦➃」
もっとも、他人を蹴落とそうと意気込む必要性はなく、相手はほぼ自動的に決まるだろう。
謎を解明できたかはともかく、20人の選抜は何とかクリアできたようだ。(騒乱はあったが)
20人が揃った途端、目当ての城が出現し平行線で進んでいた世界は一つの世界線になった。
ゆえに今こうして再開したわけだ。
20人の条件は、利己的に地図を手に入れたか。
言い換えると、地図の交渉で自分だけに優位に持っていけたか、その一つだけ。
結局、ハゴロモセキセイのことは分からなかった。
だが、別の理由でハゴロモセキセイが人を指していることは確信しているそうだ。
クラスメイト内でも鳥類を指していることは明らかだと言う声が多く、福田自身もそう考えている。
しかし、動物はこの世界には存在しない。
この考えから人を指していると推理したのだろう。
俺も時間をいくらか費やして、探索したことがあるが、やはり動物はいなかった。
「いや〜、まさか先生がハゴロモセキセイなんて最初は思いもしなかったよ」
担任が言ったことがキーポイントになる、という事実に気付く。
担任の話した言葉は少なく、分析しやすい状況だった。
クラスの中でも”間違い探し”を得意とする、渡邊明が「生き残り」の反対が利己のキーだということを突き止め、状況と照らし合わせて条件を解明したようだ。
「おい、早乙女……だっけ? 幼児のようにボケッと見てないで、準備しな。まぁ、テメェが役に立つ駒がかしらねぇが」
こいつは東雲朱雀。
優しい顔つきをしている、が毒舌。
程よく鍛えられた肉体からは、身体能力の高さが伺える。
東雲は誰かの下につくことは嫌がる人物だ。
だが、五十嵐の実力は認めており仕方なく従っている。
「よし、皆いくよー」
男子のリーダー格、五十嵐拓哉が声を上げるとクラスメイトは一斉に兵科を購入し、召喚し始める。
だが、僕は違う。
武具を召喚し、それらを身に纏った。
「何……する気?」
溝内は怪訝な表情を浮かべ、俺に尋ねる。
溝内だけではなく周りの反応も同じだ。
「一人で乗り込むのさ」
これは事実だ。
第一、これから俺がしようとしていることは一人で乗り込まなければ意味をなさない”無血開城”だから。
「乗り込む? 一つの城相手に勝てるわけないよ。アンタも一応は戦力なんだから無駄死にしないでよね」
隣で聞いていた右京翼は不気味な笑みを漏らし、「行きなさい。障壁は私がお掃除しましょう」と言った。
この作戦に納得の意を示したらしい。
ここは右京に任せて、交渉するか。
「待てや、ゴラァ!!」
一つの拳が俺の頬に向かって直進してきた。
その拳は褐色で大きい。
黒人ハーフでアフロが特徴的な学生、ウォースー・チャンリーベイだ。
身体能力や学力は平均以上で、比較的優秀な生徒だが、相手にならない。
「……ッッ!?」
学生とは思えないほどの太い二の腕によって、ウォースーは首を締め上げられた。
右京は戦闘経験が豊富な上、類稀な戦闘センスを持った男。
そんな男の絞技が弱い訳がない。
ウォースーの頚椎がギシギシと音を立てて、軋む。
「ぐっ……あぁぁ……かっ」
悲痛な叫び、救助を求める瞳。
だが誰もそれに応えてはやれない。
人は皆、自分が大切だ。
結局は自分さえ良ければ良い。
そんな考えが根底にある以上、おまえを誰も助けない。
その様子を傍観していると、
右京は顎をクイっと上げた。
先に行け、という意味だ。
周囲の生徒は右京のそのパワーに唖然としていて、立ち尽くす。
僕は城門へと足を進めた。