「EWクラス対抗戦 開幕」
「俺は、そそる戦いをしてぇの♡ せいぜい俺を楽しませてくれよ?」
「「……」」
両隣のポジションを陣取っていた、女子二人組は二階堂の気味悪さを感じると、すぐにその場を離れた。
彼の眼は”殺しを楽しんでる眼”
五十嵐や赤城とはまた違う、底がない感覚。
二階堂は金髪の髪を、掻き上げると丁度前にいた五十嵐に拳を放った。
「いて……っ」
「くはっ♡ 結構、ぶっ飛ばしたのに無事かよっ」
五十嵐は寸前で受け身を取り、極力ダメージを減らした。二階堂のパンチの速さはもはや異次元。そんな彼の豪速球に反応できたのだから、大したものである。
「やめなさい」
五十嵐と二階堂の間に、割って入ってきたのは”ミシェル”だった。背中に背負っていた大剣を構えており、素手では敵わない相手らしい。二階堂はやれやれという表情でため息を吐く。
「零組同士の戦いは御法度だったね。それじゃあ……仕方、ないね」
ポキポキ指を鳴らし、気味の悪い笑みを貼り付けていた。時計を一瞥すると、ポケットからスマホを取り出す。画面を何度もなぞり、終始微笑んでいた。
「……二階堂くんは零組だからこれ以上は干渉できないみたいだ。だから、ここからは僕らは弍組だけで話し合おう」
「まず、陣形の確認なんだけど……」
隣からピコピコ音が鳴って、集中出来ない。一体、二階堂は何をしているんだ?
「なぁなぁ、早乙女」
「ん?」
「二階堂、何してんのか気にならね?」
「確かに、気になるな」
こうしている間にも画面を何度もなぞり喜んでいる。
「見てみようぜ……」
一条は息を殺し、そーっと二階堂の画面を覗くために近づく。僕は指で何度かサインして、二階堂の表情の変化をいち早く伝える。
(あと、3歩……。2歩……)
(一歩……!?)
あと少しのとこで、二階堂はスマホをポケットにしまってしまった。しかし、表情に変化はなかった筈だ。表情に出ないタイプなのかもな。
「く、くそぉ……ミッション失敗だ」
「いや、あいつは危険だ。たとえ学校でも変にちょっかい出すと殺されるぞ」
「ひえ……」
一条の表情が曇った。先程はまさに画面を見ようとしていた。もし、完全に勘付かれていたら一条は死んでいただろう。
「……以上だよ」
「随分と練り上げられてるじゃねぇーか!!」
「これなら、勝てる!!」
ぼくらが任務に達していた頃、作戦が伝えられていたのか。みんな、随分と慢心しているけれど本当にそれでいいのか?
僕が疑問に思う中、作戦会議の終了が告げられた。
「生徒諸君、EWを起動してくれ」
起動すると、眩い光に飲み込まれる。
「すげ〜」
東雲の高揚感がヒシヒシと伝わってくる。ここなら、存分に暴れても文句はない。喧嘩好きな生徒にとっては絶好の場なのだ。
「丘があるね……」
おそらくだが、この丘を取ったものがこの合戦の勝利するクラスなのだろう。
「通知がきたよ!!」
福田がみんなに呼びかけ、確認させた。
「『目の前に見える丘。最終日までにあれを取れば貴方達の陣営が勝利する。そしてここには、昔の時代からやってきた村や町があるだろう。食糧はそこから取れ。健闘を祈る』だってさ」
「食糧の略奪は良くないだろ……」
「綺麗事だけで平和は創れない」
「んだよ、早乙女……」
一条。この世界には不条理なことをたくさんある。君はまだ知らないだけ。僕はその不条理に立ち向かうため、世界を創る。僕は君とも一緒に創れたらいいと思っている。
「とにかく、今のBPを各自確認しよう」
五十嵐がそう言うと、一斉にEWのホーム画面を開いてBPを見た。
「この前と同じ、10000だ」
「先生、随分前だけど言ってたもんな。成績決まるまでは10000って」
「10000も有れば22人で……22万BPか〜」
僕らは協力して戦争していくわけだが、20+2(零組の助っ人)を束ねるためのリーダーを決めなければならない。それをどうするか、悩んでいた。22人も指揮官に気を配ると不注意が生じてしまうので後、何人かの指揮官が必要になる。
「……気に入らねぇ」
「?」
「俺ァ、俺の隊だけで戦う」
ここにきて、東雲の暴走。生きるか死ぬかの戦いでこうも私怨を持ち込む奴は早々、いないだろう。
まぁ、それは”この僕の私怨、他ならない”。
「東雲くん!!」
五十嵐が呼び止めるも、東雲は単独で山の方向へ向かう。
「どっか行っちゃいましたね〜、彼」
右京は目を細めて、東雲の行く末を見守っていた。その瞳の奥にはどこか、好奇の色もある。右京の本心が見え隠れているのだろう。
「さて、どうします?」
右京は五十嵐に向き直り、問いかけた。対して五十嵐は、何も答えない。この状況に最大の危機感を感じたのは五十嵐なのだろう。
「……いつまでも悩んではいられないね。今から作戦を実行するよ。皆んな指定の兵科を召喚して。おっと、早乙女くんは東雲くんを追ってほしい。まだ、そんなに遠くには行っていないと思う。もしBPが足りなければ僕のスマホに電話して、必要な分を送るよ」
五十嵐は今、多くの生徒のBPを所有している。たとえ他の生徒が殺されたとしても、損害を減らすため。とは言え、最低でも5000BPは持たせているらしい。
「……分かった」
さて、僕も召喚していこうか。まずはゴブリン100体。ゴブリンは知能が低く、単純な命令を聞くことしか出来ないが歩兵並みに強い。初戦は歩兵の半分で購入することが出来る。
「ゴブリンだ。お前親分。命令頼む」
身長は人間で言う五歳児並みか?
次に神官を10体召喚した。一体120BPなので10体1200BPだ。神官の役割は回復。個体差はあるが5~
15体回復できる。機動力が低いのは難点だが、優秀な手札。使い所を間違えないように気をつけたい。
神官だけは購入制限があるので慎重に使わないとな。
戦闘担当をゴブリンだけに頼ることは避けたい。彼らを洗脳して一時的に強くするのは可能だが長期戦には向いていないだろう。それに機動力は歩兵並み。機動力の高い部隊が僕の部隊と当たれば、瞬く間にほぼ全滅する。ある程度引きつけられる騎馬隊が必要だ。
最後に騎馬武者10騎、2400BPで召喚した。
「殿。我らに何なりとお申し付けを」
「わかった。君たちを頼るよ」
僕は騎馬武者だけでなく、神官、ゴブリンにも目を向ける。
「僕の名は"早乙女獅音"。君たちの"王"だ」
「「「……っあ……ぁぁ……がっ」」」
ゴブリン。単純な脳の作りをしている、君たちだからこそ感情操作の影響を受けやすい。君たちが一番素質あるよ。
神官。君らは脳の作りが殆ど人間と同じようだ。人間のように考え、行動し、感じる種族。
回復術なんて使えるから、悪魔だと恐れられているが見たところ何の変哲もない人だ。
騎馬武者。この種族こそ人間。凸凹な手には馬の鍛錬や弓の鍛錬の軸跡が残っていた。忠誠心は人一倍強くて扱いやすい。
「”さぁ、僕らの部隊も行こうか”」
瞬時に僕の武具と馬を召喚した後、全速力で駆け抜けた。後ろを一度も振り向かずにただ、馬で平原を駆ける。
「ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ……」
騎馬武者は馬を使えるから当然として、神官たちやゴブリンたちもほぼ同速度で走っていた。通常ならあり得ないだろう。ただ、僕は生き物の活性化が出来てしまう。ありとあらゆる感情が手に取るように理解でき、それを活用できる。奴らにそれを見せるだけで。
「スマホが使えて便利だな」
隊列情報や近況確認がこのスマホ一台でできてしまう。そして、今五十嵐部隊から斥候を何人か放ったようだ。情報収集が目的らしい。
「ふふふっ……流石だな」
僕らは元々からここで落ちあう約束をしていた。このスマホの初期状態はクラスメイトとしか連絡を取り合えない仕組みになっているのだが、連絡先を電話アプリの検索ワードに入れることによって他クラスとも連絡を取り合える。しかし、その状態を作る事は少し難しい。他クラスと遭遇する機会が滅多にないからだ。普通は見知らぬ他のクラスに行こうとも思わないだろう。特に零組には。
目の前の男、赤城旬は口角を少し吊り上げていた。
余裕綽々と言った感じだな。
「君の友達は居ないのか?」
「もうすぐ来るだろう。黄道が、ね」
「君は僕を2体1でリンチにする気?」
「ふはははっ……面白いことを言うね、君は。君も仲間を呼んでるはずでしょう?」
やはり気づいていたか。赤城の観察眼は落ちていない。
「早乙女くん、俺を弍組で倒せるかな? 干渉するのは一回だが叩いておくに越した事はないだろう?」
「さぁな」
赤城は未知数だ。質問に答えているうちに裏で何かを初めていてもおかしくはないだろう。
「おっと、来たようだね黄道くんが」
「お待たせしました赤城様。遅れてしまい……」
「良いんだよ。遅れても」
赤城は僕の目の前で黄道を抱きしめた。だが、黄道の目に安堵の色はない。常に怯えている、そんな目をしている。赤城は確かに容赦のない男だが女性に対しては紳士だと聞いている。何か別の理由かもな。
「早乙女くん、もう始めてもいい?」
赤城が目だけをこちらに向けて、確認をとる。東雲はまだ準備中らしいが時間がかかるなら仕方がない。皇色一族相手にどこまで持つかは分からないが、やってみようか。
「いつでもどうぞ」
黄道と赤城はそれぞれ兵科を購入し召喚し始める。常人はここで購入してしまうと、一瞬で死人に成り下がるが彼らは違う。常人とは一線を超えており、努力では手に入れられない瞬発力と頭の回転の速さを持っているのだ。
「対戦するとこの画面が出るのか」
相手の名前とその役割。役割は後からでも変えられるがリスクの高い手続きが必須だ。
その下には打ち取った時のBP量がしるされていた。
「やはり零組は破格……」
二人を一瞥すると、二人揃って何かを待ち構えているようだった。身構えてはおらず依然、堂々とした態度だ。
「何をしている、早乙女。さっさと俺にかかってこい」
そちらの戦闘スタイルを見たかったんだがな。まぁ、仕方がない。
「”君たち、殺れ”」
僕はこの二人を殺す。何を犠牲にしても殺してやろう。物騒だと思うかもしれない。僕もそう思う。どんなに悪人でも傷つけると心が痛む感覚を味わってきた。だが、目の前の二人にはそんな感情が湧いてこない。彼らは僕の敵だからだ。敵は残滅する。何が何でもだ。




